第114話 ずるい!〈エルシーナ視点〉
エルシーナ視点になります。
「私に八つ当たりをするな。お前たちの仲が進展しないから……進展したところで同じことだっただろうが」
「意味ないじゃない!」
翌日の朝食後、リアとクラリッサが二人で身体を動かしに行くというので見送り、宿の部屋でセレニアと二人っきりだ。
昨日昼寝から起きたときに見た光景が忘れられない。
ベッドでセレニアがリアの胸を背後から……違うってわかってても胃が締め付けられるような、モヤモヤした感じが消えない。
「別にやましいことをしているわけではない。お互い了承済みだ」
「わかってる、わかってるけどぉ……」
騒いだところでどうにかなるわけでもないし、やめてくれるわけでもない。
わかってるけど、なんか嫌!
「お前そんなに独占欲が強かったか?」
「むぅ……わかんない」
思ってた以上にわたしはリアのことが好きなのかもしれない。
いつも人なんて嫌でも寄って来てたから、自分から好きになったり誘ったりなんてしたことない。
どうしたらいいのかわかんない。
「あれはなかなか手ごわいと思うぞ。今のこの状況も彼女なりの気遣いだからな」
「なんでわたしとセレニアが恋仲なのよ……」
どうやら昨日のわたしの反応が、セレニアを奪われたからだとリアなりに解釈したらしく、何故か宿で二人っきりにされてしまった。
今度ちゃんと否定しておかないと……二人っきりの時がいいかな。みんなが一緒にいる時にする話でもないもんね。
「人間は短命だ。のんびりしているとあっという間に時間は過ぎるぞ」
「わかってるよ……」
直視したくない現実を、セレニアに突っ込まれてしまう。
先延ばしにすればするほど、恋人として過ごせる時間は減っていく。欲しいなら手を伸ばさないといけない。
ただでさえあの子は無茶が過ぎるのだから。
「リアはわたしのこと全然意識してないのかな……」
「どうだろうな。少しずつ探っていくのもいいだろうし、思い切って体当たりして砕け散っても面白い」
「面白いって何」
他人事だと思って!
でも下手に好意を伝えると却って嫌われる可能性があるからなぁ。
焦っちゃダメな相手なんだよね。あー、どうしよう。
まずは共通の話題でも考えないと。共同作業とかでも良いね。誰かと仲良くなる秘訣だと思うの。
「恋愛相談がしたいならクラリッサにしろ。私よりはマシだろう」
確かに恋愛に興味のないセレニアよりはクラリッサの方がいいかな。
クラリッサは恋愛小説も含めいろいろ本を読んでいるし、何か参考になる助言をくれるかもしれない。帰ってきたら聞いてみよう。
ただクラリッサは少し意地悪というか、面白がる傾向があるからなあ……変な助言してきそう。
「いっそお前も魔力回路について勉強してみたらどうだ? 上手くいけば同じ状況になれるぞ」
「…………それもいいなぁ」
「……冗談だったんだがな」
正直、セレニアが羨ましい……。
それから数時間と経たぬうちにリアとクラリッサが帰って来た。どうやらお風呂にも入って来たらしい。
クラリッサまで! リアと二人でお風呂なんて!
「汗かいちゃったからね」
「二人で洗いっこして楽しかったですね」
「他人に髪の毛洗ってもらうのって気持ちが良いんだねぇ」
思わず大きな声でずるい! って叫びそうになったけど、我慢した。両手で顔を覆って我慢した。
クラリッサはわざとやっているの? 違うだろうけど! わかってるよ、おかしいのはわたしの方です!
リアは私と一緒にお風呂には入ってくれない。セレニアとも入ってないみたいだけど。色々理由をつけて断られる。
やましい目で見ている気はないんだよ。純粋に仲間として親睦を深めようとしてるだけだよ?
でもそういうのってわかっちゃうのかな……。嫌われてないよね……?
「それじゃあリア、もういいか?」
「うん、お待たせしてごめんね」
そう言ってリアがおもむろに服を脱ぎだした。あーあーあー! 見たいけど見たくない! 出かけよう!
「クラリッサ、出かけるからついて来て」
「ワタシ今帰って来たところなんですけど」
「別に暇でしょ」
「まあいいですけど」
せっかくだから洗濯機だけでも……なんて言いながらその辺に置いてあった服を集め始めるクラリッサ。できれば急いでほしい。
服を脱いで胸を晒したリアがベッドに座り、背後からセレニアが腕を回す。
お風呂上りだからか、はたまた羞恥心からか、肌がほんのりと赤く染まっている彼女の胸元にセレニアの手が触れて……。
「……んっ」
彼女の艶めかしい声を聞いた瞬間、全身が急激に熱くなるのがわかった。
「そ、外で待ってるからね!」
クラリッサに上擦りながらも声をかけ、すぐさま部屋から出た。
顔は誰にも見られなかったと思う。大丈夫。大丈夫と信じたい。
おそらく次話もエルシーナ視点になります。




