第111話 ようやく目的へ
ギルドでの用事も済み、この街に滞在する理由はもうなくなった。ひとまず宿へと向かって歩く。
「並んだけど、すぐにまた差がついちゃうなぁ」
やっとCランクになったのに。これで四人でCランクパーティって言えるようになったのになぁ。
「仕方ないさ。これでも私たちはCランクとして長いからな」
「そうなの?」
「ワタシたちもそれなりに生きてますからね」
そう言いながらエルフ三人が溜息を吐いた。年齢の話は嫌なのかな。
みんな見た目年齢だけで言えば普通に二十代前半なんだけどね。でも中身は結構長生きなのかもしれない。さすがに年齢を聞くことはしてないけど。
「エルフって何年生きるの?」
「寿命だけで言えば千年二千年、もっと生きる人もいるよ」
その言い方だと千年程度誤差の範囲みたいな感じするけど。
そんなに長生きして楽しいのかね?
私も生きようと思えばそれくらい生きられるけど、想像つかないなぁ。そんなに長生きしたいとは思えないし。
「ちなみに一万年以上生きるとハイエルフになってさらに寿命が延びる」
「ハイエルフって実在するの?」
「そう言われてるけどね」
そういう存在がいる、というおとぎ話みたいな本を読んだことがあるけど、本当にいるのか怪しいね。
エルフたちも見たことないっていうし、やっぱりおとぎ話かな。
「そんなに長生きだなんて、大変だね」
「人間種は短命だから長寿に憧れるものが多いが、リアは違うんだな」
セレニアの言う、長寿に憧れる人っていうのは今の生活が充実している人だと思う。悪い貴族とかが手を出しそうなイメージがあるけど。
目の前に長寿の秘薬があっても私なら手を出さないだろうな。誰かに置いて行かれるくらいなら置いていく方がよっぽどマシだもの。
今世の私は不老不死だけれど、長生きする気なんてこれっぽっちもない。
「長生きしたいとは思わないなぁ」
「……無茶をしていい理由にはならないからね」
「はーい」
なんでかエルシーナからお小言を貰ったけど、守る気は全然無いのである。
私にとって、それは理由になるから。
昼食を購入してから宿に戻って来た。お腹を満たしながら今後について再度話し合う。
「船に乗れるなら乗りたいところだが、そこまで慌てて移動する必要もないな」
それもそうだ。別に南大陸の方が長期滞在に向いてそうだから行くだけで、あそこじゃなきゃいけないというわけじゃない。
一番の目的はこの腕の分析をすることだし。
「じゃあもう少しここに滞在する?」
「お金には余裕あるけど、この宿高いからあんまり長居できないんじゃない?」
ここ良い宿だからね、その分お高い。
ベッドのある寝室だけでなく、他にもいくつか部屋がある。
お風呂も洗濯機も個人で使えるし、ここに繋がる廊下は私たち以外誰も通らないようになっているから、うっかり裸でドアを開けたところで問題もない。
ここに一カ月二カ月……快適だけど、ちょっと厳しいかな。
「安宿に移動するにしても、この街はまだ冒険者でいっぱいですからねえ」
元々他が空いていなかったからここに泊まっているんだし、結局のところ現状維持のままどうすることもできない。
もう少しすれば移動する冒険者も出てくるだろうから、それまではここにいるしかないね。
とりあえず一週間ほどここで様子を見ることになった。
半月でもよかったんだけど、あんまり長居すると安宿が嫌になりそうだからほどほどにしよう、という意見が出たのでそうすることに。
そうと決まれば早速……と言わんばかりに、セレニアがこちらを向く。
「ではリア。腕を出してくれ」
「はいはい」
ついにお待ちかね。この腕の魔力回路の分析に入りますよ。
机に向かって横並びで座り、待ちきれない様子のセレニアに左腕を晒して好きにさせる。
左手をセレニアの両手が包み、真剣な表情で見つめている。
うん、想像してたよりも恥ずかしいねこれ。
「そういえば、これが何の魔法なのかちゃんと聞いてなかったな」
「ああ、これね。爆弾を生成する魔法だよ」
「ばっ……」
手を見ていたセレニアがバッと勢いよく顔を上げた。
そういえばこの世界って爆弾とかあるのかな。
気が付けば少し離れた位置にいた二人も驚いた表情でこちらを見ていた。
「この世界、爆弾ってある?」
「……あるにはある。戦闘用ではなく、炭鉱などで使う作業用らしいが。基本的には魔法の方が主体だ」
実際に炭鉱で爆弾って使うんだねぇ。
それなら火薬とかもあるのかな。銃とかはどうなんだろう。謎が多いね。
魔法があると、そういう火器類ってあまり作られないイメージがあるな。
「……気になっていたんだが」
「ん?」
「普通、深いケガなどを負った場合、身体に刻まれた魔力回路が歪んでしまうことがある」
「え」
「初めて会った時、君の手はボロボロだった。いろいろ勝手が違うとは思うが、あの状態なら魔力回路が歪んで魔法が発動できなくてもおかしくないのだが」
何それ知らない。
でも確かに、この手のひらまで魔力回路が刻まれているなら、皮や肉が吹き飛んだ時点でその辺りに刻まれていた魔力回路も吹き飛んでいるのが普通だろう。
そう、普通なんだ。でもこれは普通の魔力回路じゃない。
女神様お手製の魔力回路が、四肢が吹っ飛んだくらいで使えなくなるとは思えない。
遠隔操作で刻めるんだもの。それはもう便利なものでしょう。
いやさすがに四肢が吹き飛んだら無理かな。少しくらいなら大丈夫でしょう。
単純に手のひらが吹き飛んだくらいじゃ影響がないだけかもしれないけど。
「……私のは特別性だからねぇ。あんまり気にしなくていいと思う。というか、聞かれてもわかんない」
「そうか。では、足はどうだ?」
「あ!」
そういえば、両足溶けてたじゃない。でもたぶん使えるよね? まだ試してなかったな。
脚の魔力回路に魔力を流してみる。うん、問題なく使えるわ。どうなってんだろうね。
もしかして魔力回路だけ自己再生とかしてんのかな……怖っ。
「使えますねぇ……」
ぼそりと呟くと、三人から訝し気な目で見られる。そんな目で見られても、説明できない。
「いやー……ホント、この辺の話はできないのよね。ごめんなさい」
「まあ、いいさ。誰にでも秘密の一つや二つあるだろう。再度刻むためにガリナまで戻る必要があるかと思っただけだ」
この魔力回路を刻んだ魔術士がガリナにいると思われているのかな。そりゃあそうよね。
神殿に行けば会える……会話ができるとは思えんだろうよ。
「ガリナにいるわけでもないし、大丈夫だよ」
「……そうか」
セレニアは再度左手を握り魔力回路の分析を始める。
なんかもう、いろいろ諦められた気がする。他二人も、追及するのは諦めたようだ。あの二人はあんまり魔力回路について詳しくないからだろうけど。
私も腕の分析やろうかな。
セレニアの邪魔をしないように逆方向から調べよう。
出口から進めてるのはセレニアの方だけど、手のひらから進めていけばそうなるのは仕方ない。
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