第109話 戻ってきた平穏
前に移動したときは丸一日の道程だったけど、夜にはアシュミードにたどり着けた。
馬車を魔物から守りながら進んでいたころと比べちゃダメだね。
「瘴気がない……呼吸が楽……素晴らしい……」
新鮮な空気! 砦にいた頃に比べたら身体が随分と楽になった。結局街に着くまで抱えられたままだったけど。
「元気になった?」
「なったなった。今なら空も飛べそう」
「これ以上変なことしないでください」
「これ以上とは」
クラリッサの中の私は一体どんなイメージなのか。
行動するたびに何か仕出かす問題児みたいに言いおって。否定できなくて泣ける。
「あ、そうだ、足治せない?」
足が痛いと伝えると、何故もっと早く言わないのかと怒られる。ごめんて。抱えられてたからいいかなって思ったのよ。
「そういう、自分を蔑ろにするところを改めてほしいのに……」
「ご、ごめんなさい」
またもやエルフ三人から呆れられてしまう。
まだ行動を共にして数ヶ月程度しか経っていないのに、私の株が下がりすぎている気がする。
でもこれが自分を蔑ろにしていることに含まれるとなると、結構難しい。
具体的に何がどうダメなのか、私と彼女たちの中で認識の違いがありそうだよね。
そこをどうにか……できるのかな?
なんだか自信が無くなってきたよ。
ひとまずクラリッサに回復魔法をかけてもらったし、街にも無事に帰って来られたので、ずっとしたかったことがようやくできる。
「お風呂!」
身体が動かなかったから、砦でシャワーを浴びて来られなかったのだ。はやくさっぱりしたい。
エルフ三人は砦でシャワーを浴びて来たという。ずるい。
元はと言えばケガをした私が悪いと言われればそうなんだけども。
「まずは宿だろう」
セレニアに苦笑いされながら言われた。ごもっともなので、すぐに宿を取りに向かった。
しかし、今この街は人がかなり多い。今までお世話になっていた宿は満室、どこもかしこも満室。
結局ちょっとお高めの宿になっちゃったけど、そこの四人部屋が空いていたのでそこに泊まることに。
まあ、いい部屋だし、個人風呂もあるし、いいんじゃないですかね。お金にも余裕はあるしね。
お腹もすいているけど、まずは個人風呂を使わせてもらった。
今まで拭う程度にしか綺麗にできなかった身体が洗い流されていく。お風呂がこの世界にあって本当によかった。
ハチミツを使って保湿もバッチリ。ぴかぴかになりました。
「たまにリアから甘い匂いがするけど、何してるの?」
「ああ、髪にハチミツを塗るとね、髪がしっとりするんだよ。匂いはそれだね」
彼女たちと一緒にいる時間も増えてきたけど、ハチミツでの保湿は私が一人でお風呂に入った時だけ行うようにしているので、今まで話していなかった。
匂いがキツイかなぁって思ったので一人の時の方がいいだろうと。
いつか聞かれる時が来るかなとは思っていた。別に隠すほどのことでもないのでちゃんと話したけど。
そしたら三人が大層驚いた顔をしていた。そんなに驚く?
「髪が綺麗だなーとは思ってたけど、ハチミツかぁ」
「ふむ、今度試してみるか」
「毎日やっているんですか?」
「いや、一週間に一回くらいかな」
毎日やったからといって痛むなんてことはないだろうから、その辺りは個人で好きにしてくれればいいと思う。
私は予算なんかも含めて週一で十分かなと。
「肌に合う合わないとかあるかもしれないから、気を付けてね」
すぐにでもハチミツを買いに行きそうなエルフたちに注意だけしておいた。
エルフでも人間でも、美容に対する意識は共通なのかね。
本当は椿油が欲しいんだけど……売ってないのよね。椿が存在していないのか、希少品で市場に出回らないのか。
それとも貴族御用達のお店なら置いてあったりするのかな。ほしいなぁ。
最悪自分で椿を探して実から油を搾るようだけど、面倒くさそうなので油にしたものが売っててほしい。
他の大陸に行ったときにも探そう。
食事をとったら気分が悪くなる、なんてこともなく、すっかり体調は良くなった。健康体って素晴らしい。
二度と闇魔法も瘴気も浴びたくない。
食事を終えたらさっさと就寝。やることや話すことはあるけど、もう夜も遅い。そういうのは明日でいい。
ベッドに横になるのは別に久々でもなんでもないのに、不思議とリラックスしながら眠りにつけた。
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