第11話 王都観光
お目当ての図書館と学校にはもう行ったので、残り時間は普通に観光をすることになった。もちろん父が固く手を掴んで離さないので、自由行動などは微塵もとれないけど。
大通りを父と二人で歩く。無駄遣いはできないけど、何か珍しいものがあれば見てみたい。
「そうだ、お母さんにお土産買わなきゃ」
「そうだね。何なら喜んでくれるかな」
ガリナの自宅にいる母を思い出す。せっかくなら普段から使えるものがいい。仕事中はどんな姿か知らないので、家の中で使えるもの……調理器具? エプロン? それとも服?
「お母さんいつも髪留め使ってるよね。あれはどう?」
母がいつも家事をするときは髪をまとめているのを思い出す。それなりに古い物のようだったから、いいかもしれない。
「髪留めか……」
呟いた父の声色が明るく感じ、顔を覗き込むと照れたように微笑んでいた。
「どうしたの?」
「ああいや……今お母さんが使ってる髪留めな、昔僕が贈ったものなんだ」
あーはいはい、惚気ですね。私の両親はとっても仲がいいです。
あれお父さんからの贈り物だったのか。新しいものを送ったとして、使ってくれるかな?
「じゃあ他のにする?」
「いや、あれも随分古いものだし……せっかくだ、新しい物を渡そう。リアと二人で選んだものなら、大事に使ってくれるさ」
そうかな? 優しい母のことだから、使ってくれるかも。それに新しいのを送っても、今使っている古い髪留めも大事に保管していてくれるだろう。
夕方に宿へ戻るまで王都を散策し、母に似合う可愛らしいリボンをお買い上げした。喜んでくれるといいな。
二日目。王都はあまりにも広いので、一日で全てを見るのは当然無理。そして二日で見るのも無理。
今日も王都の観光に出歩いていたら、大通りなのに突然人が少なくなった。少なくなった、というよりこの辺りを早足で通り過ぎているようだ。どうしたのかと辺りを見回す。
すると、身なりのいい子供が一人でキョロキョロと辺りを見回していた。年は私より下だろう、五歳前後の男の子だ。高そうな服をギュッと掴みながら、ソワソワと落ち着かない様子を見せる。
瞬時にあれが原因かと思い至る。この辺りにいる人達の多くは平民だから、みんな避けているのだろう。
この国には貴族がいる。当然、王都にもいる。身なりのいい恰好や立ち振る舞いが一般人のそれと違うというのがなんとなくわかるので、そういった人物には近づかないようにと両親に言い含められている。
貴族なんて面倒ごとのニオイしかしないから私も近寄りたくない。関わったが最期、絞り取られて捨てられるんだきっと。
そしてそれは将来美男子にでもなりそうな迷子のお坊ちゃんも例外ではない。関わりたくない。
周りに倣い、私たちも素早く通過しようとして――突然服を掴まれた。
「えっと……」
歩道の幅はそれなりに広いし、周りの人が素早く移動しているとはいえこの人の多さだ。お坊ちゃんの横を通過しなければいけないし、ましてや走るわけにもいかない。
「ぐすっ」
私の背が低いせいで目が合ってしまったのは私が悪い……のだろうか。見てたから目があったんだな。私が悪いです。
でも突然服を掴んでくるとは思わないでしょう。
服を掴まれて立ち止まり、そのせいで手を繋いでいた父の足も止まる。その瞬間から私たちからも距離を取り始める周りの人達の精錬された動きは、一体どこで培ったものなんでしょうね。
「助けてお父さん」
どうしたらいいのかわからないので、父に助けを求める。父は状況を察し、お坊ちゃんを見る。正しくは服を掴んでいる手を。
「娘に触るなんて1000年早い!!」
「ひっ」
「お母さん助けて……」
あまりの状況に、ここにはいない母を呼ぶくらいには混乱してた。
ひとまず父の足を蹴って正気に戻す。戻ったと信じる。そしてお坊ちゃんと向き合う。
「あー、あー……迷子かな?」
「ぐす……うん」
「誰かと一緒だった?」
「ぐす……ひっくおねえちゃ……」
どなたか知りませんが子供のことはちゃんと見ててください……。
この世界に迷子センターはありませんか。泣いてる子供は苦手なんです。助けてください。
「どうしようお父さん」
「下手に関わるべきじゃないけど、これはもうしょうがないね。どこかにこの子を探している保護者がいるだろう。探してあげるしかない。もう少し行けば騎士の待機所があるからそこに行ってみよう」
正気に戻った父が諦めたように告げるのを見て、やはりこの子は貴族かその辺りに匹敵する商家の出なのかと確信する。
やっちゃったなあ。これからは貴族は視界に入れない。見えてもすぐに視界から消す。オーケー覚えた。
でもこれだけ人がいるんだから、そのうち騎士の人が来るんじゃないかなぁ。いや、この子がウロウロしていた可能性もあるのか。泣いてるから聞いても答えてくれないだろうけど。
「歩いてきた道にはそれらしき人はいなかったし、向こうに進んでみようか」
そう言って父に右手を引かれる。私の左手はグズってるお坊ちゃんが掴んでいる。
大丈夫かなこれ。誘拐犯扱いされないかな。
「そういえば名前を聞いていなかったね。お名前を聞かせてくれるかい? 僕はジェームズ」
「私はリアだよ」
「……ディルク」
父と目を合わせず私の陰に隠れながらぽそりと呟いたお坊ちゃん。さっき父が怒鳴ったから父に対して少しおびえているように思える。
仕方ない、ここで印象を良くしておかないと、後が怖い。父みたいな過保護なご両親でないことを祈るばかりだ。
彼の目線の辺りまで屈み、安心させるように微笑みかける。
「……もう少しで会えるから、がんばろ?」
「う、うん」
何故か左手を掴む力が強くなった。でも泣き止んだみたいだし、一安心かな。
ちょっと顔が赤くなってるのは恥ずかしかったのかもしれない。まあ子供とはいえ男の子だし、女に慰められるのは嫌だったのかも。
男と手を繋ぐのは好きじゃないんだけど……子供だし、ここで振り解くほど冷酷ではないよ、私は。我慢してやろう。
騎士の待機所まで特に会話もなく進む。
今のところこの子を知っている人物らしき人には会っていない。本当に探してるのかね。もしかして探されてないなんてことないよね。
それよりも困ったことがある。
――ぞくり
さっきから危機察知がバンバン反応してる。これが私に向けられたものなのか、手を繋いでいるこの子に向けられたものなのか、はたまた父に向けてなのか、今の私では判断ができない。
しかし振り返るのも怖い。父がいるから滅多なことはないと信じたいけど。
それにここは人通りの多い場所だ。襲われるなんてことはないだろう。でもそれなら、どこで、誰が襲われるのかな。
このお坊ちゃんを離した後、この子が襲われでもしたら私たちに罪が被せられることはあるのだろうか。
その場合……もう今日中に王都を出るべきかな。無実の罪だけは被りたくない。貴族に関係することなら尚更だ。




