第106話 どうしたらいいの
三人からの説教をしばらく黙って聞いておく。
ちなみに私たち以外にもこの部屋には人がいるのである。救護室だからね。なので怒ってはいるけど、割と声は抑えめだ。
「ごめんなさい」
そのうち向こうも落ち着いて来たのか言葉が途切れて来たので、とりあえず謝っておくことにした。
「リアはもう少し、自分を大事にできないの?」
エルシーナが眉を寄せながら問うてくる。
難しいなぁ。
私の人生は二度目だからね、そこまで生にしがみつかなくてもいいかなって思っている部分があるのは、正直否定できない。
生きているのは楽しい。この世界で生きるのは楽しい。
でも言うなら、この生は女神様がくれたボーナスステージみたいなもので。いつ終わってもいいくらいの軽いものだと思っているから。
何より、長生きする気が私にはほとんど無くて。
死にに行かないと、死ねないんだもの、この身体は。
「私はたぶん、また同じことをすると思う」
この命をかければ救えるものがあるなら、きっとまた私は同じことをするだろう。
昔見た漫画の女の子のような勇気が、今の私にもあると思えて。
それでなんだか、自分がすごい人間になったような気分になるんだ。
女神様に愛されていたとしても、私自身は矮小で特別なことなんて何もない、ただの小娘だ。
そんな私でも、命をかけるだけで物語の主人公になれるような気がしてしまう。
いらないものを使う、それだけなんだよ。
「ごめんなさい」
それで近しい人達に迷惑ばかりかけるんだから、私はどうしようもないほどの屑だと思う。
あんまり長いこと誰かと一緒に過ごすのは、やめたほうがいいかもしれない。
「……もういいよ」
溜息と、諦めを感じさせるエルシーナの声色に身体が微かに震える。
自分で選んだくせに、いざ見放されると怖くなるなんて、なんて現金な性格なんだろう。とことん屑だなぁ。
すると何故か、ベッドの脇に立っていたエルシーナが膝をつきながら近づいてくる。
「でも、これだけは覚えておいてね」
仰向けに寝ている私の顔の真上まで来た彼女が、自身の視界を遮る長い髪の束を耳にかけながら、続ける。
「わたし、リアが死んだら泣くからね」
「え」
「もうわんわん泣いて、助けられなかったことに後悔して、心に傷を負ったまま一生リアのこと忘れないから」
「な、何言って」
「本気だから、忘れないで」
そう言ったエルシーナは、真剣な表情でありながら目が潤んでて。そのせいで、言われた言葉に嘘がないんだと思い知らされた。
「エ、エルシーナ」
なんて返事をしたらいいのかわからないまま名前を呼んだけど、彼女はもう私から離れてベッドに腰かけていた。
私に背を向けているから、今彼女がどんな表情をしているのかわからない。
私、私は……。
彼女を傷つけてまで、ヒーローごっこがしたかったのだろうか。
違う、違う、はずだ。誰にも傷ついてほしくなんてない。私以外の、誰にも。
でもここで、二度と無茶などしないと約束できるか? 否、それは無理だろう。
また同じように危険に突っ込んで、自分を傷つけながら何かを為そうとする。
自分の命など消耗品でしかないと、使い潰していく。
でもそれでは、私が傷つくと悲しむという彼女を救えない。
私は、どうしたらいいんだろう。




