第105話 結構頑張ったはずなのに
ここから主人公視点に戻ります。
「あつい……」
身体が熱い、息が苦しい、汗のせいで全身が気持ち悪い。頭がぼんやりして思考が上手く働いてくれない。
何より身体が鉛のように重い。熱でも出したのだろうか。
額を触ると濡れタオルが置かれている。
どうやら今まで眠っていたようだ。
起き上がろうと身体を起こしたけれど、めまいがして再度倒れこむ。
その時に、すぐ横で人が寝ていることに気が付いた。
「えっ……」
すごいびっくりした。誰かと思ったが、エルシーナのようだ。彼女がこちらを向きながら眠っている。
何が起きているのかと思い、起き上がれないままだけどエルシーナを起こさないように周りを見回す。
ここはキャンプ地の砦かな。そこにある救護室のベッドに二人で寝かされているらしい。
もしかして彼女も具合が悪いのかと心配したが、どうやら寝ているだけみたいだ。
他にも置かれているベッドがこの部屋にはあるし、いびきのようなものも、呻き声のようなものも聞こえる。他にも人がたくさん寝かされているようだ。
私の額の濡れタオルは、彼女が乗せてくれたのかもしれない。また迷惑をかけてしまった。
外はまだ真っ暗なようだけど、月明かりが窓から入り込んで室内が少しだけ明るい。
おかげで灯りのない部屋でも隣で眠るエルシーナの顔がよく見える。可愛い。
「寝顔可愛い……」
エルシーナは美人だ。私が今まで出会った中で誰よりも綺麗な人。そばにいられるだけで毎日が幸福に彩られている。
彼女の顔にかかった綺麗な金髪に触れる。土や返り血などで汚れているだろうけど、それはみんな同じだ。
でも、何故だか彼女の髪は触りたくなる。汚れていようが、何をしていようが、綺麗に感じる。
髪の束を耳にかけると、少し自分の手が彼女の頬に触れる。ひんやりとして冷たい……いや、私の手が熱いのか。
何故かわからないけれど、私の体温が高くなっている。
汗のせいで服が張り付いているけど、身体が重すぎて拭う気にもならない。
寝るまでに何があったのか、ぼんやりとした頭では思い出せない。
体温の高さを認識すると、途端に冷たいものが欲しくなる。濡れタオルはすでにぬるくなっていて、これでは物足りない。
他にないかと探し、ふと目の前にいるエルシーナに目がいった。
そうして彼女の体温の低さを思い出し、身をよじりながら……彼女の身体に寄り添い、腕を回す。
ひんやりとした体温が心地よくて、そのまま眠りについた。
「仲が良くて何よりだな」
「怪我人相手に何してるんですか」
「何もしてないもん! 一緒に寝てただけだもん!」
「ん……」
声が聞こえて目が覚める。何か騒いでいるようだけど、何を言っていたかは聞き取れなかった。
「あ! り、リア、起きた? 大丈夫?」
ベッドの縁に座っているエルシーナが慌てたように声をかけてくる。
どうやらベッドに眠っていて、その周りにエルフ三人がいるようだ。
上体を起こそうとした途端にめまいがして再度ベッドに倒れこむ。
「まだ起き上がらない方がいいよ」
そう言いながらエルシーナが私の額に手のひらを当てる。ひんやりして気持ちが良い。
ひんやり……あれ、何か忘れてるような……。
「まだちょっと体温高いね。昨日よりはマシだけど」
昨日……? なんだっけ……。
ここに至るまでの経緯をぼんやりとする頭でどうにか思い出す。
ああ、そうだ、確か悪魔の攻撃を障壁で防いで……あ!
「キャンプ地どうなった!?」
そうだ、寝ている場合じゃない! あれからどうなった!?
懲りもせず飛び起きるように上体を起こしてしまい、めまいを通り越して吐き気を催してきた。
「うぇ……」
「落ち着いて。ここがそうだよ。見てわかる通り、無事」
エルシーナに背中をさすられながら周りを見渡すと、確かにキャンプ地だ。
ここは砦の中の救護室だろう。どうやら私のしたことは無駄にはならなかったようだ。
「三人も無事?」
「無事ですよ。リアさんが一番重傷です」
「ご、ごめんなさい」
クラリッサの言葉に棘がある気がする。心当たりがあり過ぎて謝罪しかできん。
どうやらあの後、気絶した私をここまで運んで回復士に診せてくれたらしい。また迷惑をかけてしまった。
「助けてくれてありがとうございました。うっ」
上体を起こしたまま頭を下げてお礼を言う。そのせいでまた吐き気が戻ってくる。
なんでこんなに気持ち悪いの。
「もういいから、ほら、横になって」
ベッドにもう一度寝かされ、その状態のまま――
「それはそれとして、なんであんな無茶したの!」
エルシーナの説教が始まり、
「危なくなったら戻ってくると言いましたよね」
クラリッサのお小言が始まり、
「君が気絶した後どれだけ大変だったか、ちゃんと理解しているのか?」
セレニアが諭すように言いきかせてきた。
重傷患者を囲ってエルフ三人が説教をする図が出来上がった。
もう少し労わってくれてもいいんじゃないかな……なんて言ったら余計に怒られそうなので、黙って聞くのに徹する。
反省はしているけど、後悔はしていないので、もう二度としないでという約束は守れそうにない。
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