第104話 焦っても仕方ない <エルシーナ視点>
ここまでエルシーナ視点です。
次話からリア視点に戻ります。
回復士たちがリアの両足を、見た目は綺麗に治してくれた。内部まで治ったのかな。
でも、未だに意識は戻っていない。
「おそらく足はもう大丈夫でしょう。ただ、闇魔法の毒素は不幸なことに瘴気と相性がいいのです。ここにいる以上、気分が全快するのは難しいでしょう」
回復士が汗をぬぐいながらそう告げる。
浄化の杖で毒素はほとんど取り除けたけれど、一度体内に入り込んだ毒素を完全に取り除くことは難しい。
時間経過と共に体外に排出されていくけれど、瘴気に身体を晒してしまうと、毒素は瘴気を吸い込んで人体をさらに蝕んでいく。
下手すると衰弱してしまうそうなので、なるべく早く瘴気のない場所まで移動をした方がいいそうだ。
リアの表情に青白さはなくなったけど、苦しそうにしているのに変わりはない。体温が上がり、汗をかいている。呼吸も辛そうだ。
「ここはまだ瘴気が濃い。休ませるなら街まで戻った方がいいだろう」
わたしの足も治療してもらい、回復士たちにお礼をしてから、今後について話し合う。といっても、セレニアの言う意見以外に選択肢はないんだけどね。
すぐに街に戻ることにして、馬車を手配してもらおうとギルド職員がいる場所にセレニアとクラリッサを送り出したが――
「馬車がない?」
「混乱した冒険者や臨時職員なんかが我先にと馬車に飛び乗ったようだ。馬車も馬も残っていない」
「最悪、抱えて走る必要があるかもしれませんね」
大物の魔物が出現したとの情報がキャンプ地に入ったのが数時間前。
それを聞いた者は「約束が違う!」と大騒ぎし、すぐに街まで引き返した者が全体の半分ほど。
その人達が馬車を使って行ってしまったそうだ。マトモな冒険者は残ったままらしいけど。
確かに、今回の活性化は魔物の増加だと知らされていた。
Dランク以下の冒険者は魔物自体が大した強さではないならばと思い、参加したはずだ。Cランクが強制徴収だったのも同様だ。
数には数をぶつける。魔物を掃討するために集まったのであって、決して大物の魔物と戦うために集まったわけじゃない。
それはわかる、気持ちはわかるんだけど――
「こんなときに……」
リアをチラリと見る。息が荒く、汗もかいている。体温も未だに上昇している。暑そうなのに、瘴気のせいで顔色が悪い。
さっきから汗を拭いたり濡れタオルで身体を冷やしたりしているけど、できれば街の宿屋でちゃんと休ませてあげたい。担いで走ったりして大丈夫だろうか。
この子がこんなケガをしたのは、そんなやつらのためなのに……。
「しばらくすれば街からまた馬車が来るはずだが……」
街まで丸一日かかる。ここから街まで伝令を出しても、その後すぐに馬車が出るかわからない。
少なくても馬車を待ってから街まで向かえば数日はかかる。
「どうしよう。待ってる方がいいの?」
「そうだな……ひとまず、今日はここで休むしかない。私たちも疲れている。この状態での移動は論外だ」
「それはそうだけど……」
さっきまで戦い続けていたんだから、わたしたちだって相当疲労が溜まっている。
体力の少ないセレニアは、すぐにでも休みたいと言わんばかりに疲れた顔をしている。
でも、リアをこのままここに寝かせておいて大丈夫なのかな。
「ここに残っている冒険者も今から街に戻る人は少ないでしょう。皆さん疲れていますし、護衛を頼むのも難しいかと」
確かにクラリッサの言う通りだ。もうすぐ日が暮れる。
魔物の数が減ってきているとは言え、夜間に好んで移動したがる人はいない。
どうすることもできないまま、今日は休むことになった。毒素や瘴気が悪影響を与えているからすぐに移動したいけど、それでわたしたちが倒れてしまえば意味がない。
ごめんね、リア。
その後キャンプ地にいる人達に大物の魔物の討伐が完了したこと、活性化が静まってきていることなどが説明された。
大物の魔物が討伐されてからしばらくの後、『魔物の海』から通常通りの量の魔物が発生していることが確認されたので、活性化が静まったとおおよそ判断してもいいだろうとのことだった。
ここでの長い長い戦いが、ようやく終わった瞬間だった。
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