第103話 ひと段落 <エルシーナ視点>
キャンプ地に着くと、そこは人でごった返していて。
どうやら情報が錯そうしていて混乱状態らしい。でもキャンプ地は無事だ。
リアが守った場所は魔物の攻撃にさらされることなく、その状態を保ったままだ。
「リア、ほら。キャンプ地無事だよ。リアのおかげだね」
足を止めずにそう声をかけるが、リアからの返事はない。彼女の身体は先ほどよりも体温が上がっている。
早く回復士に診せないと危険かも。
「あの! 何があったんでしょうか!」
ギルド職員だと思われる人物がわたしたちを見つけて駆け寄って来たが、正直相手にしている暇はない。
後続に高ランク冒険者たちが来るはずだから、その人達に話を聞くように言い、回復士のいる場所まで急ぐ。
セレニアが息切れしていて、クラリッサも息が荒いが、構っていられない。
わたしももう体力が限界に近い。それに走ったせいで闇魔法が掠った足が痛い。
砦の中に入り、すぐに回復士を見つけリアの治療を頼む。
リアをベッドに寝かせ、ふたりがかりで回復士が治療を行う。その様子を邪魔にならないように、少し離れた位置で見守る。
杖を二本使っているけれど、何か意味があるのだろうか。
「闇魔法にはいろいろ種類があるが、あの魔物が使ったような攻撃系の闇魔法は、当たるとケガだけでなく、人体に悪影響が出るんだ。毒素のようなものだ」
息切れが治まってきたセレニアが、不思議がっているわたしを見て解説してくれた。
人体に悪影響? 大丈夫なの?
「それで、あの杖は片方が通常の回復魔法、もう一つが浄化の杖だ」
なんでも、闇魔法の毒素を消し去ってくれるらしい。よかった……。
闇魔法なんて今まで見たことなかったけど、怖い魔法なんだね。
「闇魔法の杖は補助系統の魔法しか市場に出回らず、攻撃系は危険物として所持が禁じられている」
「へぇー……。さっきわたしも掠ったんだけど、治してもらった方がいい?」
そう言って足を見せる。掠った部分が赤黒くなっているのが見える。
え、こんなにひどくなってたの? あ、自覚したら痛くなってきた。
「治した方がいいな。リアの後に治してもらえ」
「わかった……」
ベッドで治療されているリアを見る。先ほどよりも色は良くなってきている。無事に治ってくれるといいけれど。
「クラリッサ」
リアの治療中、セレニアがクラリッサに話しかける。
「何ですか?」
「止めなかったのか?」
セレニアがリアの方をチラリと見やりながら、クラリッサに尋ねている。
止めなかった?
「戦闘中、リアがお前の方に下がっていったのが見えたからな。闇魔法を受け止める直前だ」
え……?
それってつまり、リアが無茶をする直前までクラリッサと一緒にいたってこと?
確かに、リアがあの闇魔法が発動されたときに後ろに下がっていったのは見えた。
そうしたらクラリッサの所に一緒にいたとしてもおかしくない……というか、高確率で一緒にいたはずじゃ?
「ああ……そうですね。話をしましたよ」
「ちょっと! なんで止めな……!?」
クラリッサの発言に怒りが湧いて、問い詰めようとしたけれど……クラリッサの表情を見て思わず黙ってしまった。
「やめた方が良いとは言いましたけど? いえ、死にますよ、でしたかね」
わたしたちはそれなりに長い付き合いだ。
クラリッサのあの表情が、結構……かなり怒っている時にする表情だということくらい、わかってしまう。
クラリッサはあまり怒らないし、怒ってもあまり表情には出ない人だけど、今回のことには彼女も思うところがあったみたい。
「そ、そっか……」
クラリッサの刺々しい声を聞いていると、なんだか少し頭が冷えて落ち着いてきた。
今ここで、その時のことを悔いたところで意味はない。リアは生きているから、とりあえずは喜んでおこう。
「リアが起きたら説教だな。これは」
「そうですね」
「それはそう」
生きていて本当によかったけど、だからって手放しで褒めることではないのは確か。
わたしたちの説教が彼女に響くといいけど。
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最近投稿が遅くて申し訳ないです。




