第99話 悪魔との戦いⅡ
クラリッサが離れ、セレニアが杖を握り直しながら尋ねてくる。
「リア、行けるか?」
どうやら三人で悪魔に攻撃を仕掛けるようだ。
確かに、いつまでもここで見ているわけにもいかない。さっきの闇魔法には溜めの時間があるようだし、近接戦闘に参加しても問題ないだろう。
「うん、大丈夫。行こう」
エルシーナの目を見ながら頷き、二人で悪魔に接近する。
この数カ月、四人でパーティを組み、幾度となく魔物の群れと交戦をした。
そうなれば自ずと、それぞれの得意なことや役割というものが見えてくる。
私は相手の攻撃を予知し、避けるのが得意。
エルシーナの戦い方は無駄がなく、それでいて一撃が強力。
セレニアは冷静に全体を見て、的確な指示をくれる。
クラリッサはそんな私たちをフォロー、セレニアの安全を守ってくれる。
今は三人だけど、セレニアは他の冒険者が守ってくれるだろうから、そんなに心配していない。
私が相手を翻弄し、エルシーナが隙を突き、セレニアが強力な魔法を叩きこむ。
相手が悪魔であろうと、それは変わらない。
「こっちだ!」
悪魔のヘイトを私に向けるために、剣で攻撃をする。
悪魔が相手じゃ棘がチクチク当たっている程度のものかもしれないけど、嫌がらせをしているだけなので、これでなんとかなるだろう。
その間、他の仲間は目立たないようにしていてくれる。
要は、私の役割は回避盾だ。敵の攻撃を避けきっている間に、エルシーナやセレニアが敵をどうにかしてくれる。
私にピッタリの役割。ゲームみたいにヘイト集めが簡単にできればいいんだけどね。
ここに至るまでにエルフたちに多大な心労をかけたことは申し訳ないとは思うけど、最近では慣れたのか諦めたのか、このパーティの戦闘スタイルはこれが定着した。
「キィイイイイイイイ!!」
悪魔が再び耳障りな鳴き声を上げる。頭に響く、嫌な声だ。
悪魔が私に狙いをつけ始めた。
右手の大振りな叩きつけをバックステップで避ける。
かなり動きが速く、正直目で追うのは難しい。危機察知に頼らないと死ぬ。
すかさず、その地面を割る大きな黒い手の甲に剣を突く。すぐに飛び退くと手が引いていく。
今度は左手の拳が打ち下ろされようとした瞬間、エルシーナが悪魔の右足を一閃。
血しぶきが上がり、悪魔が悲鳴を上げる。
エルシーナの剣術は、はっきり言って父よりも断然上だ。
とことん無駄を削ぎ落し、一撃で相手を葬る美しい必殺の剣。
彼女の戦闘スタイルが、そこに行き着いた経緯を詳しく聞いたことはない。
でも身体強化の魔法しか使えない彼女が、誰よりも強くなるためにたくさん努力した証なのだろうと思っている。
彼女は本当に美しい。今度、彼女に剣を教わってもいいかもしれない。
足を斬られて片膝をついた悪魔のヘイトがエルシーナに向かないよう、攻撃を仕掛ける。
重たい障壁魔法の杖を使って足場を作り、悪魔の頭部まで飛び上がる。
片手に持った剣で、悪魔の顔を斬る。
エルシーナと違って力任せの拙い剣だけど、ダメージにはなった。
誰でも顔を傷つけられたら嫌がる。悪魔は悲鳴を上げながら片手で顔を覆い、逆の手で私を叩き潰そうとしてくる。
身体を落下させながら障壁魔法を使い、迫りくる手を受け流しながら地面へと着地。
「これならどうだ」
そこへセレニアの静かな声が聞こえてくる。彼女の攻撃の合図だ。
セレニアが放った土の槍が、回転しながら悪魔の脇腹辺りに直撃。
肉を抉り血が噴き出している。えぐい。
「よっしゃあ! 任せろ!」
後ろから気合の入った声がかかり、どうやら交代となるようだ。
エルシーナをチラリと見、頷いた彼女が下がっていく。
次パーティの剣士が私の近くに来たのを確認し、私も下がる。
「ふぅ……ひやひやするね」
「こっちのセリフだよ」
エルフたちのところに向かい、ゆっくり呼吸をする。
正直あの悪魔の前に立つがキツイ。
死神を前にしているのかと言いたくなるほど、あれからは死のニオイがする。精神がゴリゴリ削られていく感じ。
そんな心境を吐露したのに、冷たい返事を寄越す美人エルフ。ちょっとくらい労ってくれてもいいと思うの。
「よく避けられるものだ」
「すごいでしょ。自分でもすごいと思う」
危機察知がなかったら絶対避けられないと思う。少なくても今の私だと避けられない。
でも、他の冒険者たちが軒並み避けている……わけでもないけど、避けたり受け流したりしている人がいるから、できないわけじゃないと思う。
もっと経験を積んで成長すれば、危機察知に頼らずとも避けられる日が来るはずだ。
危機察知はオフにできないので、それを確かめられる日が来るかはわからないけど。
もしかしたら危機察知がなければゴブリンの攻撃すら避けられないかもしれない。自分の実力が不安だなぁ。
ついに総合評価が900ptを超えました…!
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