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根之堅洲戦記  作者: 征止長
平凡じゃない男、異世界に来る。
9/112

鍛錬が続きだった

中々、話が進みませんが、もう暫く世界観の説明にお付き合いください。

それと、そろそろ主人公の性癖が出て気持ち悪いかも。


食事が終わったが、何だか落ち着かない。このままでは寝ることも出来そうにない。

久しぶりの白いパンにエリーザは満足げだったが、美少女なら兎も角、17歳(ババァ)の幸せそうな顔を見てても面白くない。

普段なら、何をやって時間を潰すか考え……


「なあ、体を動かす場所は無いか?」


考えてみれば、鍛錬の最中に呼び出されたので、まだ棒術が終わっていなかった。

普段と違う場所なので、何となく旅行先気分だったので自重していたが、これからの事を考えれば、体を動かせる場所は確保しておきたい。


「それなら、明かりもありますし、中庭の訓練場が良いでしょう。今の時間なら騎士見習い達が自己訓練をしているくらいですね」


その事を聞くと、城内にも訓練場があるとの事。中庭が訓練場に改造されているらしい。

武器庫には刃引きから柄のみの訓練用があり、もちろん本物もあるそうだ。

武器庫は訓練場に出る直前の部屋にあるので、立ち寄ってから訓練場に行くことになった。


「長柄の武器は何がある? 槍はあるか?」


「槍? タケル殿が知る武器と、こちらの武器の違いが分からないので、説明は難しいですね。やはり、見てもらった方が早いかと」


目的地に歩きながら質問する。本当に1000年前の武士が、この世界の軍事のベースだとしたら、槍はまだ無く、薙刀がメインで、あるとしたら鉾になるだろう。戟は日本では流行らなかったからな。

まあ、槍と鉾の違いなんて、柄の装着方法とか時代での区分とか幾つかの説があるが、同じと言えば同じ。

そう呼んで広まったら、それが正しいとなる。


そうして、案内された武器庫に入ると、いくつもの武器が並んでいる。

剣や弓もあるが、俺が気になっていたのは長柄の武器。ほとんど薙刀っぽいが、その中で、僅かに両刃の剣が付いている物があり、それを手に取る。


「これは?」


「鉾と呼んでいます。主に民兵が使うくらいで、騎士は使用しませんが?」


手に取ってから違和感に気付く。柄が木製では無い。金属だが、重さはそれ程では無く、刃の部分と柄の部分では装着したというより一体化している感じだ。

もしかすると、この世界の製鉄技術はかなり高いのかもしれない。


制作方法が気にはなったが、断面は平槍の形状。つまり剣と同じだった。

家に伝わっていた三角槍が良かったのだが、この世界には無いらしい。


「これを借りる」


三角槍は諦めて、穂先が一番細い物を選んで訓練場に向かう。

訓練場には、複数の騎士見習いが訓練をしていたのだが、俺はその光景に思わず呟いてしまった。


「ぱらだいす」


10代前半、正に今が旬の少女たちが一所懸命に棒を振り、汗をかいている。

少女たちが発する汗の香りが俺の嗅覚を刺激する。ああ、俺は異世界に呼ばれたと聞いていたが、どうやら天国に居たようだ。


「あれ? エリーザちゃん?」


「ちゃん付けは止せ。ここは城内だぞ」


「えへへ ゴメンね」


そんな中で、こちらに気付いた少女が近づいてくる。エリーザとは親しい仲の様だ。しかも美少女だ。

フワッとした長髪に猫っぽい印象の11か12歳くらいの、これから最も美しくなる年頃の美少女。

俺には分かる。この子は“おませさん”だ。大人ぶりたい女の子。エッチな事に興味津々なタイプだ。


「え~と、この方は、もしかして……」


「菊池武尊と言う。よろしく」


「え?」


合法的なスキンシップを狙って握手しようと右手を出したが、戸惑っている。

そうか、1000年前の武士起源では握手の文化が無いのか。気の利かない芋侍どもが!

どうせならハグやキスの文化を広めておけよ!


「握手と言って、友好を示す挨拶だ。こうして互いに手のひらを合わせるんだ」


美少女の手を取って、ちょっと強引に握手をする。

俺の手にすっぽりと包まれる小さな手……素晴らしい。


「って、大きい! えっと、イオネラ・シュミットです」


小っちゃ~い。すべすべ~。やわらか~い……いや、少し硬い。そうか、剣ダコのような感じだ。

うん。これも良い。意外と頑張り屋さんだ。可愛いなぁ~。

そうかぁ、イオネラちゃんって言うんだね。俺の大きな手に驚いてる表情も可愛いなぁ~。


この、すっぽりと包まれる小さな手の感触に何時までも酔いしれたいが、流石に長すぎると不審者に思われる。お巡りさんを呼ばれるような下手なマネはしない。


「邪魔して済まないが、訓練場を少しだけ使わせてもらう。空いている場所は自由に使って良いかな?」


「はい、どうぞ御遠慮なく」


「ありがとう。早速使わせてもらう」


後ろ髪を引かれる思いで、空いてる場所へ移動する。

周囲に美少女が居ると思うと無駄に張り切ってしまいそうになるが、久しぶりの槍の鍛錬だ。気を引き締めよう。

さて、棒術の型の動きだが、槍を使用するので、アレンジを加える。

最初はゆっくり、石突で付く際は牽制の突き方で、穂先で付く際は鋭く。時に石突で付いたら直ぐに穂先に換えて全力で突く。


「こんなものかな」


軽く流して、動きの確認と同時に、武器の感触を体に覚えさせた。

次から全力で動く。イメージする標的は……魔族が良いのだろうが、生憎と見たことが無いので、対峙しかけたエリーザを標的に設定。


「フッ!」


払う。殴る。突く。槍の基本3つの動作でイメージした(エリーザ)を次々に仕留めていく。

良し、ノッテきた! 鋭く空気を切り裂く音が周囲に響く。その音を心地よく感じながら、イメージする戦闘に集中していった





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「……ねえ、エリーザちゃん、あの人、武神の力を使ってないよね?」


「ええ。そもそも武神の力の使い方は、まだ習得していないもの」


「じゃあ、何であんな音がするの?」


唖然とした質問に苦笑してしまう。

先程から鉾が振るわれるたびに、凄まじい風切り音が鳴り響いているのだ。

周囲の訓練をしていた見習の騎士たちも手を止めて、その姿を見ていた。


「……で、まだ習得してないって事は、やっぱりあの人が異世界から来た勇者様? 変わった挨拶だったし」


私は握手をしていない。そんな言葉が口から出かかったが、それを飲み込み首を縦に振る。

別に羨ましくなどない。手を握った位でなんだと言うのか。こっちはお姫様抱っこだ。


「そうよ。彼が我が国が召喚した勇者。本物の勇者よ」


そう声に出して実感した。彼こそが本物の勇者だ。

強さだけでなく、礼節を持ち、飢えた民の事まで思いやれる優しさ。

思い描いていた勇者(りそう)のままに。いや、それ以上の存在。


「ふ~ん。でも、エリーザちゃん、最近は勇者なんて要らない派だったよね?」


「今までは偽物しか知らなかったらよ。でも、あの方は本物よ」


勇者に本物とか偽物があるかは分からない。だが、エリーザにとって、タケルだけが勇者なのだ。

尊敬すべき勇者。それで良い。それが真実だ。

そう言った後、イオネラが含み笑いを浮かべているのに気付いた。


「ほほ~……好きになっちゃった?」


「な! 何をバカな。今日会ったばかりだ。第一、あの方は勇者でだな…」


「騎士言葉になってるよ。エリーザちゃんって分かりやすいよね。私にウソをつくときって騎士の仮面を被って自分を誤魔化すから」


油断した。つい、イオネラの前で気を緩めて、普段の喋り方をしていたのが、動揺して逆に取り繕う騎士(しごと)の喋り方になってしまった。

だが、同時に自覚する。自分がタケルに惹かれている事に。

それでも、今日会ったばかりだというのも事実だし、彼は仕えるべき勇者でもある。浮ついた心で務まるとは思えない。この気持ちには蓋をしよう


「まあ、気持ちは分かるな。武門の家系としては、強い血筋を残したいし、うん。あの人の赤ちゃん産みたいかな」


「貴女には早いわよ! 私が…」


閉じた蓋は、あっさりと外れた。絶対に自分が先だとの思いが強まる。

私が先と最後まで口にするのは自重したが、事実上の恋敵宣言に動揺が収まらない。


「いやね。ほら、シュミット家としては切実なの。エリーザちゃんはロディ君が居るから良いけど、(うち)はホラ。お家断絶は避けたいしね」


「だ、だけど、貴方はまだ12歳でしょ」


「大丈夫よ……もう産めるから」


そう言うイオネラの表情に陰りが見えた。

彼女が子供を産めるようになったのは4か月前。それを祝福してくれるはずだった彼女の母親は出征中で、そのまま戻ってくることは無かった。シュミット家はイオネラだけを残して、誰も居ないのだ。

エリーザは弟のロディアが残されている分、この国の騎士ではマシな方だ。

そんな境遇を振り払うように笑顔に戻ると、エリーザに抱き着いてくる。


「お嫁に行きたいエリーザちゃんの邪魔はしないから。5,6人産ませて貰えれば我慢するから」


「どれだけ産む気よ」


発言の内容に呆れて見せるが、一時期の落ち込み方を覚えているだけに、強がりを言えるだけでも良い。まして、今のように明るく振舞えるのは良い事なのだと思う。

そして、自分には彼女を慰めることが出来なかったのだと罪悪感を覚える。


「イオネラ。エリーザ様に対して無礼です。いくら貴女にとってエリーザ様が従姉とは言え、ここは家ではありませんよ」


「あれ? アリエラちゃんも来たの」


「ええ。鉾を振り回す音が、射場まで聞こえてきましたから」


その声にエリーザは内心で安堵する。母を失って落ち込むイオネラを支えた、もう1人の従姉。イオネラにとって、エリーザは父親方の従姉で、アリエラは母親方の従姉だった。

同年で一緒に住んでいるので、イオネラの扱いは自分より長けている。


「アリエラは射場に居たの? 貴女の場合、弓はあまり訓練の必要は無いと思うけど?」


「アリエラちゃんは、さっき、私がボコボコにしたから、拗ねて現実逃避してたの」


「ち、違います! 少し気分転換してただけです! さあ、勝負の続きを!」


そう興奮するアリエラだが、勝負になるとは思えなかった。

イオネラは長柄の武器を使わせれば、エリーザでもハッとするほどの天性の動きを見せる。実力だけで見れば、今からでも十分に騎士として通用する。


彼女が騎士になれない理由は、彼女が戦死すれば、名家であるシュミット家が途絶えるので、後回しにされたためだ。

シュミット家が途絶えれば、それに仕える多くの貴族が混乱する。


対して、アリエラの場合は弓の腕なら国内でも屈指の腕であり、馬の扱いに至っては天才でエリーザ自身も含めて、彼女より優れている騎手を知らない程の腕。

だが、剣も薙刀も平凡以下だった。剣も薙刀も使えない騎兵など恐れることはない。ならばと騎士の道を諦めさせるには、彼女の騎手としての能力は惜しい。

はっきり言って、扱いが難しい。彼女の父親の苦悩が窺える。


「まあ、まあ、アリエラちゃんも勇者様の見学しよ。凄いよね」


「……やはり、あの方は勇者様だったのですね。父上は勇者に期待はしていないと漏らしていましたが」


「やっぱり……あの方は」


やはり、彼女の父親も期待していなかったでは無いかと、内心で毒づく。

だが、結果的に彼の言う賭けに勝ったのだとも思い、文句を言うのは断念する。


そして、タケルの動きを注視する。流れるような動きで、鋭い攻撃を繰り返す。その視線の先には敵なる魔族を想見しているのだろう。容赦ない一撃が次々と加えられる。

その動きと飛び散る汗は、まるで美しい舞のようにエリーザには感じられた。


「凄い汗だね……ねえねえエリーザちゃん。この後、お風呂に誘えば? それで背中を流して裸のお付き合いで一気に最後まで」


「イ、イオネラ! 何をいってるのです!」


「いや、だって凄く汗かいているし、お風呂に誘ったら喜ぶかなぁって。ちなみに全裸で」


「あのですね。あれだけ汗をかいてるんだから、まずは飲み水を用意しようという発想が無いんですか?」


「……言われてみれば確かに。喉も乾いてるよね。アリエラちゃん賢い」


「凄く嬉しくない褒め方です。エリーザ様、飲み水の用意をしませんか?」


「ん? エリーザちゃん?」


アリエラとイオネラが何か会話していたが、何を言ってるのか聞いていなかった。

お風呂で背中を流す。恥ずかしい気はするが、自分は勇者に仕える立場に任命されているのだ。

その自分が背中を流す。不自然だろうか? いや、全く問題ない。むしろ正しい行為だ。その任務を全うしようではないか。


「何かエリーザちゃん、変な事考えてるっぽいし、お水は、こっちで準備したが良いかも」


「え? 変な事って、それはそれで問題がある気がしますが」


「大丈夫だよ。所詮はエリーザちゃんだし、面白いことするだけだから」


「わ、分かりました。いえ、分かりませんが、気にしない事にします。私は飲み水の準備をしてきます」


「よろしく~」


タケルは意外と決まりや作法を気にする。お風呂の使い方を説明すると言えば、一緒に入浴すると言っても、拒絶はしないだろう。ならば、混浴は可能だ。逆に一緒に入らなければ、タケルが今後困る事になる。

つまり、勇者の従者として正しい行為をするのだ。何ら躊躇う理由は無い。

問題は、どう切り出すかだが……

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― 新着の感想 ―
[一言] めちゃくちゃ面白かったです。こういう血と汗と砂埃舞うような戦記ものの話が大好きなのでこれからの展開を妄想しつつこれからも読ませていただきます。筋肉!is!パワー!!
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