ロムニアという国を見て
ようやく、ティビスコス将軍の率いる部隊が、王都の近くまで到着したので、合流をはたした。
ライドルス城からは俺とリヴルスが率いる200騎余りに、カラファト城からヴィクトルの300騎。
そして、エルネスク城からエリーザの500騎が集結する。
「久しぶりだな、ティビスコス将軍。長旅お疲れさん」
「ああ、だが、ゆっくりした移動だ。逆に楽しめたぞ。
それより、そっちは大変だったそうだな。聞いた時は耳を疑ったな。それで、どんな人物だ?」
鮮花の事は、すでに耳に入っているようだ。
別に大変だったわけでは無いが、周りから見れば大事に感じるか。
鮮花は、昨日の内に、俺が王都まで送り届け、陛下と顔合わせをしている。
それにしても、鮮花の人物像か……
「絶対に怒らせるな。あの女と戦うくらいなら、グロースと戦う。少なくともアルスフォルト殿下は戦争をしてくれるが、鮮花は戦争はしない。やるなら殺戮をする。そんな女だ。俺とは相性が悪すぎる」
「随分な言い草だな。そんな嫌な女なのか?」
「いや、良い奴だよ。気さくだし、頭が良いから話題も面白くて豊富。話していて飽きない。
それに、イオネラやルウルと仲良くなった。そう言えば、どんな人間か分かるだろ?」
イオネラは、領地に帰還したものの、直ぐに飽きたらしく、王都へ向かったが、そこでも退屈したそうで、トウルグをアルツールに差し出した後は、ルウルを連れてライドルス城へ来た。
こちらと激しい訓練中だったので、ルウルは悲鳴を上げたが、イオネラは涼しい顔で訓練を楽しんでいた。
本気でタフな少女である。ジジィが半分呆れていたくらいだしな。
おまけに物怖じしない性格と、強い好奇心は、鮮花と相性が良かったようで、異世界語を覚えると言って、すっかり懐いてしまった。
物覚えも良いので、ジュリアを超えるのも遠くないと言われている。
だが、ティビスコスは、俺の返答が意外だったようだ。不思議そうな表情をしている。
「それなら、お前が怯えるような事は無いと思うが?」
「いや、怖いぞ。前にも、鮮花を敵に回せば勝てないと言ったと思うが、詳細はまたの機会に説明するが、魔術師として予想以上だった。
おまけに、俺の世界で銃は、比較的に安全な殺戮兵器だ。だが、あの女は、俺の世界でもドン引きするような兵器を作れる」
「最悪だな。お前の世界も、それを作れる女も」
「否定しないよ。まあ、他所の勇者と違って、自重を知っているから安心だが、妙な刺激はしない方が良い。
それに、どうも観察されている感じがしてな。全てを見透かされた。そんな気がする」
俺と普通に会話をしている感じだったが、何処か尋問みたいな感じがしていた。
陛下との会話でも、色々と知られてしまったが、それは後になって陛下の口から謝罪と共に聞かされたから分かった事だが、鮮花はそこまで巧妙では無い。
鮮花のトークは懸命に情報を引き出そうとしている事が察せられる。まあ、百戦錬磨の国王と比較するのも可哀想だが、鮮花の場合は陛下以上に知識、言ってみればデータが豊富な分、俺自身が気付いていない深層心理を知られた気がする。
「そう言えば、他所の勇者、カザークの勇者だが、魔族の補給隊にいたそうで、死んでいたそうだ」
「あの爆発でか?」
俺が射ようとして、結局はジジィがやった。
あの爆発なら、何人かは死んだだろうから、そこに勇者がいても不思議ではない。
「まあ、爆発が原因ではあるが、爆発では怪我で済んでいたようだ。
普通に治療を受けていれば死にはしなかった」
「普通に治療? 治療を拒否されたとか?」
「いや、治癒は神官の仕事だぞ。勇者と知れば、それが、どんな奴でも優先して治療するさ。
だが、一緒にいた民兵が複数、勇者より自分を優先したため、神官は勇者の存在に気付かなかったらしい。
まあ、怪我をしたのも勇者のせいだと言っていたそうだ」
「浅ましいな。まあ、民兵ならそんなものか」
平民と貴族は違う。
元の世界では、貴族と言えば身分を笠に着た嫌な人間と描かれることが多いが、中世では平民の方が碌でもない人間が多い。
学の差だろう。言ってみれば、元の世界では全員が貴族レベルの教育を受けている。
元の世界での教育を無視するDQNが、中世の平民レベルと言って良い。
「ああ、軍人では無い。手伝いだからな。多くを望むことが間違いだ。
そんな訳で、随分と苦しみながら死んだと予想される」
同情は起きなかった。好き勝手にやろうとして出来なかった。それだけの存在だ。
カザークの戦死者の責任の一端は、間違いなく奴にあるし、後の事を考えずに、ろくでもない知識を広めようとした。
ある意味では自業自得だろう。
「そう言えば、奴のしでかした事で思い出したが、鮮花が気になる事を言っていた」
俺は鮮花が言った、魔族が、どうやって銃の知識を手に入れたか、の話をティビスコスにした。
それを聞いたティビスコスも、頭を悩ませている。
「確かに不自然だ。それに言われてみれば、どうやって調べたのかと、感心するほど人間の事に、詳しすぎるところがある」
「ああ、それで鮮花の希望は知識のある魔族の確保だ。
俺も興味があるし、取り押さえることが可能ならやりたいが…」
「お前の隊では難しいだろうな。アーヴァング達と話をしよう。適任は私の隊だと思うが」
赤備えは移動し続けることで力を発揮する部隊だから、捕獲は戦闘が終わってしまった後にしか出来ない。
この前の戦闘後も、知恵のある奴は残っていなかったし、俺達では捕獲は無理と考えて良い。
「戻ったら、集まって話すことがあるだろうから、いっその事、鮮花に参加させるか」
「悪くないな。彼女の知恵を借りる事もあるかも知れん。
それに、どんな人間か知るには、戦の話をするのが一番だ。私達はな」
「そう言う事だ」
鮮花は俺の事を知ろうとした。
だったら、俺もやつのことを知ろうとしても悪くは無いだろう。
戦の話に巻き込む。奴の知識も知れるし、奴の考えを知れる。
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見事なものだ。中庭で行われている戦勝祝いの会場の中から、鮮花はロムニア王を見ていた。
鮮花の感覚では、公園と呼ぶに相応しい広さの中庭には、カザークから凱旋した、一万の騎士と同じ数の弓兵。そして、赤備えが祝われる側として参加している。
一方の祝う側には、この国の中貴族を主に、将軍や廷臣が。更に手伝いに駆り出された、普段はここで訓練をしている騎士見習い。
そして、何と言っても二人の孫を連れて歩く国王自身。
会場は休憩用の椅子はあるが、基本的に立食で自由に動き回れる。
そこを、国王が次期国王となる孫娘を連れて歩いているのだが、そこで凱旋した兵に感謝の言葉を全員に送っているのだ。
帰還した下級騎士は感動し、平民の弓兵は夢を見ているような表情をする。
彼等にとって、国王と言えば、普段は雲の上の存在だ。実感など無いが、それが優しく声をかけ、次に国を背負うことになる幼い少女が、笑顔を振りまいているのだ。
嫌でも忠誠心が上がるだろう。
鮮花は、戦勝祝いに参加をすることになったが、今日の主役はあくまで帰還した兵だという事で、ディアヴィナの勇者である、自分の紹介はしないという事になっている。
良い配慮だと思う。もし、ここで自分を紹介したら、一気に主役は自分になるだろうが、鮮花は来ただけである。戦って勝った彼ら以上の注目を浴びるのは間違っている。
人の心の機微を大事にする優秀な王だ。称賛に値する。
改めて周囲を観察するが、戦闘に参加した騎士と民兵は親しくし、それを見ている見習いにも影響を与えている。
見習とは言え貴族だ。今後は彼らが指揮をする事だってあるだろう。
その関係を学ばせることも出来ている。
「アザカ様、ホラ、逆ハー、逆ハー。おまけに極上のショタですよ」
ロムニア王の行動に感心していると、イオネラが見習いらしき少年二人を引き連れ、やってきた。
余計な単語を教えてしまったと軽く後悔したが、確かに二人とも綺麗な顔立ちをした少年だ。
特に金髪の少年は、元の世界に連れて行けば顔だけで生活できそうなくらいだ。
「コラコラ、お巡りさんに捕まるから返してきなさい」
「大丈夫。合意だからセーフ」
「それでも年齢的にアウト」
少年二人は、会話の内容が分からず不思議そうな顔をしている。
半ば強引に覚えさせたジュリアと違って、イオネラは積極的に元の世界で使っていた単語を覚えようとしている。
好奇心が強いというのもあるが、武尊に気に入られたいという思いもあるようだ。
彼女は真っ直ぐに武尊に好意を示しており、しかも、領主として次代の種を望んでいる。
この状況で手を出さないとは、武尊は本物の厄介な病気だ。時間が経てば童貞を拗らせて、余計に面倒になるだろう。ロリコンの方が、まだ可愛げがある。
「それでは紹介します。エリーザちゃんの弟、ロディア君と、アリエラちゃんの弟、ファルモス君。両方とも私の従弟です。
それで、この方はアザカ・ユウキ様。大きな声で言えないけどディアヴィナ王国から来た勇者様です」
イオネラは、驚きの声を上げそうになる二人の口を塞ぎ、悪戯が成功して機嫌が良くなる。
鮮花の事は、機密事項とまではいかないが、大袈裟に紹介しないことになっているので、見習の耳には入っていない。
それが、唐突に別の勇者が来たとなれば驚きもするだろう。
「結城鮮花です。他の友人には今日の所は内緒にしてね。
まあ、武尊さんほど凄い勇者じゃないから、自慢にもならないけど」
「そうは言ってますが、タケル様が怖がるくらい危ない人だから、何かあったら、その身を差し出してでも機嫌を取るようにね」
「いや私、ショタコンじゃないからね。差し出されても困るよ」
イオネラとの会話を楽しみながら、聞いてみると、武尊に頼まれてきたようだ。
何でも暇そうにしてるから気になったようだ。
「そう気にしなくても、ボッチの過ごし方は慣れてるのに」
「いやあ、タケル様としては、怖くて放置できないですよ。
私から見たら、両方とも同じくらい危険だけど、親しみやすいから好きな人で済むけど」
「うん。イオネラのそういうとこ、私も好きだよ。ところで、アリエラは知ってるけど、エリーザって、やはり、あの人? もの凄く綺麗な人」
武尊と同行している女性を指差す。エリーザの事は話には聞いているが、まだ会ってはいない。
だが、明らかにそうだろうと思う程、美しい女性だった。
「正解です。その見た目への感動を無くしたくないなら、会話しない事を勧めます。
話すとガッカリすると思いますよ」
「いや、弟の前でそんな」
「あ、大丈夫です。慣れてますから」
屈託なく笑顔で大丈夫だという少年を、複雑な思いで見てしまう。
普段から言われているとなると可哀想な気はするが、姉への嫌悪は無い。むしろ、そんな部分も好きなのかもしれない。
となると、エリーザと言う女性は、あの見た目に加えて、性格も良いらしい。
アレに手を出さない時点で詰んでいるのだと、改めて思ってしまう。
どうも、武尊を人間らしくするのは諦めた方が良さそうだ。
「ところでアリエラは? 今日は武尊さんと一緒じゃないみたいだけど。
それにルウルも見当たらないし」
ライドルス城に居た時は、武尊とアリエラは、ずっと一緒だったが今日は別行動をしているようだ。
それに、イオネラもアリエラと一緒で無い時はルウルがいた。
「アリエラちゃんは、伯父様と一緒にいますよ。元帥の娘として恥ずかしくない、なんてものではない活躍でしたから。
それに、ルウルちゃんはトウルグ君の御機嫌どりを頼んでいます」
「ああ、置いて行ったていう」
「まあ、トウルグ君には悪いと思いますが、私の面倒を見るより、この国のためになりますから」
イオネラなりに色々と考えているらしい。
幼くても、騎士であり領主でもある少女だ。見た目や言動に惑わされてはいけない。
「それで、タケル様から伝言です。明日は朝から軍議を開きたいそうです。
伯父様や将軍方が集まるので、そのつもりでいてくれとの事です」
「分かった。そのために来たんだし望むところよ」
魔族に勝利するには、ロムニアの力を使うしかない。
そう確信した今では、その軍議を待ち遠しいとさえ思えるのだった。




