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根之堅洲戦記  作者: 征止長
歪んだ心
72/112

老将が残すもの


布陣を終えて三日。魔族の軍勢は近づいて来ており接敵まで、あと少しの距離だ。

昨夜は10郷(10㎞)先で夜営をしている。既に行軍を開始しており、(じき)に見えてくるだろう。

既にタケルたちは埋伏に入っており、今は自分が連れてきた騎士に斥候をさせている。


「将軍、カザークから使者が」


またか。そう思い、追い返せと言いたくなるが、そうしても同じだろう。

通せと、指示をすると、程なくカザークの廷臣と護衛らしい騎士がやってきた。

大仰な挨拶をすると、何日も聞かされてきたことを繰り返す。


長々と話しているが、要約すると二つだけだ。

一つは、王都まで軍を下げ、籠城に参加しろ。

もう一つは、勇者に会わせろ。


どちらも飲むわけにはいかない。

籠城に参加はありえない。何のためにここで布陣しているのか、詳しくは説明しないし、出来るはずもない。

だが、こちらは勝率を上げるためにやっていると伝えてはいる。


そして、勇者に会わせろは論外だ。向こうに行って何があるか分かったものでは無い。

おそらくは、取り込みを狙っているのだろう。自国の勇者の体たらくに、ようやく気付いて、唯一の勇者らしいタケルを自国に迎えたいのだ。

しかし、既に接敵まで、あと僅かな状況でも言ってきているのだ。タケルの戦力を理解していない。ただ、看板に引かれているだけ。

そんな目の曇った相手にタケルを渡すわけにはいかなかった。


まして、作戦の詳細を知らせる訳にはいかない。森で埋伏しているタケルの元にまで行きかねないが、それを魔族に知られたら、包囲され銃弾の雨を浴びるだろう。


「銃を装備した魔族の力は強大です。勇者殿に何かあってからでは手遅れ。是非とも下がって、王都で籠城を」


「何度も言っているが、籠城より勝ち目の高い方を選んでいる。詳細は言えないが負ける気は無い」


「では、必ず勝てるという保証がありますか?」


「そんな物はない。あるはずが無かろう。(いくさ)だ。何が起きるか分からん」


そんな当たり前の事も分からないのかと、唖然としてしまう。

どうも、カザークの勇者は、戦争は戦う前に決めると豪語していたようだ。

どうしたら、そんな狂った発想になるのか、理解できないし、する気にもなれない。

だが、問題はカザークの高官たちは、その言葉に感化されているのか、やたらと保証だ何だと言ってくる。


「是非とも勇者殿だけでも王に会わせてください。このままでは、私は陛下に会わす顔がありません」


「なら自害しろ」


言った意味が理解できないのか、呆然とした表情で、こちらを見ている。

騎士の方は、無念そうな、だが、仕方が無いというような表情だ。


「会わせる顔が無いなら自害しろ。貴様ら二人とも生きる資格も無い。

 貴様らだけでは無い。この期に及んでタケルと会いたいというカザーク王もだ」


ようやく理解できたのか、顔を真っ赤にして睨みつけるが、文官の迫力など高が知れたものだ。


「いくら何でも非礼ではありませんか?

 確かに援軍として来られたこと、感謝はしておりますが、一将軍ごときが我が王に自害しろなど。国としての問題ですぞ」


「それがどうした。愚か極まりない王など、死んだ方が良いから死ね。それが国のためだ」


「それは我が国に対する…」


「どう受け取ろうが構わん。好きにしろ。だから、これ以上は邪魔をするな。早く消えろ」


「承知しました」


なおも言い募ろうとする文官を騎士が遮る。

悲痛な顔をしている。流石に武官であれば、この状況を察せるようだ。


「邪魔をするな!」


しかし、廷臣の男は、護衛の騎士を怒鳴りつけて、自分の意を通そうとしている。

流石に面倒だ。太刀を抜いて廷臣の男に刃を向ける。


「そろそろ限界だ。敵は目前に来ている。これ以上は実力行使しかないな。

 どうにも、カザークと言う国は戦を知らぬらしいから、邪魔をする前に消えて貰うとするか」


顔を蒼白にする廷臣が、助けを求めるように騎士を見る。

騎士は深々と頭を下げて、ティビスコスに頭を下げた。


「私は王宮に戻り、必ず王の前で自害いたします。どうか、それでお許しを」


「貴様一人の命で済むか?」


「我が王は確かに問題があります。されど王太子殿下は異なります」


カザークの王は、ロムニア国王のフェインより、少し年上だったはず。王太子も40歳を超えている。

本来なら王位を譲っていても良いはずだが、そうでないという事は王と王太子は上手くいっていないのだろう。

騎士の悲痛な目は、王太子を援護して欲しいと言っているように見えた。


「貴様の名前は?」


「カルサヴィナと申します」


「覚えておこう。戦が無事に終わったら、その王太子に挨拶に向かうよう、タケルには伝える」


「ありがとうございます」


安堵した顔で廷臣を引きずって出て行く。

文官と武官の衝突は、どの国でもあることだ。金食い虫で何も生み出さない軍は、内政を重視する者には疎まれる。

だが、有事を考えれば軍は無くてはならない。その調整を何処で均衡を取るかが国のありようだ。

グロースは武官が優勢であるが、王子のフォートバーズが武に特化した兄を立てつつ上手く調整している。


一方のカザークは文官の力が大きい国だ。30年前から魔族と戦争はしているが、カザークの国土が魔族と領土が接したのはロムニアと同じく6年前から。

王国の方針として、それ以前から援軍に積極的だったロムニアは、領土が接してからは魔族に危険視されたのか、カザークよりも苛烈な攻撃にさらされた。

その結果、カザークは安穏と過ごしていたとも言える。


カザーク国王の怠慢ではあるが、国王だけでなく周囲も変わらないのだろう。先程の使者もそうだが、カザークの上層部は年寄りが多いのだ。

ティビスコス自身がそうであるが、成長期を戦争と無縁に過ごしていた。

ティビスコスが彼等と違うのは、自ら軍人の道を望んで歩んだからだろう。


そう考えれば、ロムニアは王に恵まれた。

カザークの王太子も40代なら、見込みがある。世代さえ変わればなんとかなるだろう。その切っ掛けとなるなら、カルサヴィナという若者の命も無駄では無いだろう。


だが、今はそんな事を考えている場では無い。

ティビスコスは、カザークの使者の事を頭から追いやり、魔族との戦闘に頭を切り替える。


これまで、魔族との戦闘は、如何に守るかだった。

だが、それは同時にティビスコスという武人を、戦争とは如何にして守るかと言う防御の軍人にしてしまった。

タケルと出会い、魔族を殲滅すると自然に口にする男に触発され、攻撃に気を向けたが、長年の染み付いた戦い方を変えることは出来ないでいた。


元が攻撃的なアーヴァングやブライノフは当然、柔軟なアルツールも変化していったが、ティビスコスには付いていけない。

変わるには齢をとり過ぎていた。もう50歳を超えている。


そんな時に、銃への対策として、海軍からの協力の話があった。

これまでにない、歩兵を中心とした部隊。だが、突き詰めると防御を優先している部隊だ。

海軍を率いるアドミナの案では欠点があったし、そこを自分が補えると思った。


編成した歩兵と言うのは性に合った。

新しいようでいて古い自分に合っている。

盾と槍で分担して協力し合う。個人の技量より、どれだけ気持ちを合わせられるか。


成長して行く部隊が楽しかった。古い者でも何かが出来る。

この戦には、同じく、いや、自分以上の老将であるバルトークが従軍している。

バルトークは、この戦で死のうとしている。それは痛いほどに伝わった。


タケルの直属の部隊は、進軍の間も正気を疑うような訓練をしていた。

よく死人が出ないものだと呆れる思いで見ていたが、それ以上にバルトークが付いて行ってるのが信じられない気持ちだった。

それどころか、何かを残そうとしているのか、バルトークが目を付けた者は異常なまでの伸びを見せている。


ゼムフェルクやイオネラは、国内でも屈指の腕前に成長している。

前から指導には定評があったが、今は、己の命を注ぎ込んでいるようにも見える。

バルトークは命を糧に鍛えている。何かを残そうとしている。決して自分には出来ない事だ。


だが、ティビスコスは、残す必要は無い。逆に残さないための戦いだ。

自分が成すのは魔族を殲滅する事。銃と言う忌まわしい武器を貶める事。ただ、それを成せばいい。

この歩兵部隊は、そのための部隊だ。


「将軍、魔族が」


「ああ、私にも見えるよ」


目視で見える場所まで魔族の軍勢が迫ってきた。

グラールスが率いる銃を装備した部隊。

奴を仇と付け狙うアーヴァングには悪いが、ここで倒すつもりでやる。その気持ちを込めて叫んだ。


「総員、戦闘準備! お待ちかねの時間だ! カザークとの違いを見せつけてやれ!」





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





騎竜で斥候を出しながら、進軍を進めた。

右にある森には、危険な魔物が多いと聞いている。実際に何処か嫌な雰囲気を感じさせる。

距離を置き、警戒しながら進んでいると斥候が意外な情報を持ってきた。


「ロムニア軍だと」


前方に待ち構えている軍は、カザークがなけなしの軍を展開したのだと思っていたが、ロムニアの援軍らしい。

援軍が単独で展開しているのに違和感を感じるが、同時に、あの男が来たかと期待してしまう。

進軍が進み、やがてロムニア軍の陣容が見えてきた。


「無いな。それに歩兵だと?」


期待していた旗は無い。軍馬と太刀が意匠された、どこか懐かしさを感じる旗は見当たらなかった。

あの男は来ていないようだが、通常の騎士の部隊では無い。

軍馬はいるが、歩兵のように軍馬を降り、長い武器を携帯している。


何か嫌な感じがする。ここで引き揚げてしまいたいくらいだ。既に戦果は十分すぎるほど挙げている。

だが、現状では止まらない。止められるなら、とうに止めている。

軍と言う生き物は、時に指揮官の手綱を外れてしまうが、今がその状況だった。


簡単に勝ちすぎてしまった。

単なる狩りや虐殺の場でしかなくなると、戦争に対する緊張感は無くなり、軍ではなくなる。

軍の規律の最も重要な目的は、自分の安全を守るためだ。言ってみれば恐怖が規律を守らせる。


だが、今の自軍には恐怖を感じる者はいない。

途中で規律を破った者を何人か処刑したが、効果は薄かった。

これがヘルヴィスなら一睨みで部下をも恐怖させ、規律を守らせることが出来るが、そんな真似は自分には出来ない。いや、他の何者にも不可能な事だ。


「問題は、ロムニア軍の狙いだな」


「奴らがここにいる。それもカザークと別行動ですからね」


配下も危険を感じている。単独で構えているという事は、何かの準備をしていると考えて問題は無いだろう。

それに、陣容がおかしすぎる。見るからに軍馬と兵の数が合わない。

騎士だけの軍なら、数日もあれば、この戦場に到着するが、目の前にいるロムニア軍は歩兵が多い。

そんな軍が、ここへ到着しているという事は、遅くとも最初の衝突時には動き始めなくては間に合わない。


つまり、ロムニアはカザークの惨敗を予測していたという事だ。

それが、戦うためにここにいる。勝てると思っていると考えるのが妥当だろうが、その勝機の根拠が不明だった。

銃を持っているのはカザーク軍だ。グロース軍は加護による防御の存在に気付いたようだし、ロムニアもそれを知り、カザークの銃を破ると予想していたか?

それにしても、どう倒すと予想していたのかが分からない。

単にカザークの弱兵ぶりを読んでいたか? まさか、魔族も銃を持っていると予想したのか?


「止むを得ん。前進開始」


「危険では?」


「危険だからだ。どうにも嫌な感じがする。相手の狙いを早くに知りたい」


「承知しました」


この遠征が始まった直後の圧勝による高揚感は、とうに失せていた。

言いようのない不安が、全身を蝕んでいた。

早く不安の理由を知りたい。そうしないと手遅れになる。

そんな謎の焦燥感に、グラールスは駆られていた。




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