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根之堅洲戦記  作者: 征止長
歪んだ心
66/112

半身との別れ


「もう一人の方も優秀だな」


イオネラとゼムフェルクが対戦した試合場で、次に戦っている人物を見ながら呟く。

試合は半分ほど消化されたが、印象的な者は多くない。ゼムフェルクが特に目立ったくらいで、数人が目に留まったくらいだ。

その数少ない一人が出て来たが、エリーザによれば、彼女もブルラドで捕虜にされていた者の一人だという。

この世界の女性にしては背が高い。武器も剣しか使わないが、かなりの技量だ。


「はい。レジェーネは一年遅れで騎士になっているはずです。

 ですが、彼女は元から周囲への気遣いも出来ましたし、気の強すぎるゼムフェルクの姉のような存在でしたね」


他にも居ないか気になったが、エリーザは人を覚えるのが得意で、一度会った人間は記憶している。ブルラドで解放した騎士で、ここに参加しているのは2人だけらしい。

明日の総合に参加しているか、この二人ほど力量が無かったか。


あの時の連中。あんな経験をすれば、己の力を過信することなど出来ないだろうな。

レジェーネの方は、元から過信とは無縁だったようだが、それはゼムフェルクが近くに居たからだろうな。

13歳で騎士になったって事は、かなりの才能のはずだが、あんな天才と過ごしていれば、才能があっても自惚れは出来ないだろう。


「だが、ゼムフェルクと言ったな。前に見た時は小柄な印象だったが」


ヴィクトルも覚えていたようだ。エサにされかけていた妹の側で落ち込んでいた小柄な少年。

それが俺達の覚えているゼムフェルクだったが、今見る限りでは、年齢相応の体格になっている。


「そうですね。救出した時は、レジェーネより背も低く、私と変わらないくらいでした。

 ですが、随分と背が伸びた様ですね」


遅めの成長期って事か。しかも成長が急激だ。そうなると半身に選んだ軍馬の事が気になるな。

一度失って、新たに手に入れているはずだが……


「参ったな。アリエラを審査員に混ぜたくなった」


「審査される者が審査するのは流石に反対だが、聞いてみたくはあるな。あそこでウロウロしているし、呼ぶか?」


ヴィクトルが呆れながら呟くが、全面的に同意せざるを得ない。

イオネラの応援をしたいが、イオネラの気を散らさないように、視界に入らないようにしているのだろう。

妙な動きをしていて目立つ事この上ない。


「アリエラの性格なら合格しても、試験の続きは気になったはずです。

 それが、ここにいるという事は、弓騎兵の試験場を追い出されたのでしょうね」


「追い出す理由に、イオネラが使われたか」


残っているだけで気が散る。それだけ影響が強いと判断されたのだろう。

ルウルかエレナ辺りが、イオネラを見て来いと言ったのだろうな。


「それが、ここでも邪魔しているか。優等生な見た目に反して、意外に問題児だな」


「このままでは、参加者の気が散る可能性があるので、連れてきますね」


見かねたエリーザが、立ち上がり、アリエラの元へ向かう。

ヴィクトルは、ここは注目を浴びるから、参加者が気になるのは一緒だと苦笑しているが、イオネラの周囲をウロウロするよりはマシだろう。


「最初のアレで合格とは予想以上だったな」


エリーザに連れてこられ、小さくなっているアリエラをヴィクトルが笑い、エリーザは呆れた表情で見ている。

アリエラに試験結果を聞いたところ、最初に赤備えに乱入させた時点で対応してみせたようだ。


「外すとは思わなかったのか?」


「あ、当たらない時は事前に分かりますから……」


的ではなく、持った人間に当たる事が気にならなかったか確認したら、達人みたいな答えが返ってきたよ。

普通なら刃を潰した程度の矢では、味方に当たりそうだと躊躇する。

だから、次は用意していた模擬専用の矢と的を使ってやらせて、最終的にはアルマに指揮させた弓騎兵に獣を追い込ませて、それを射させる予定だった。

だが、確かにアリエラが近くに居れば気になるのは仕方がないか。下手すれば参加者が戦意喪失しかねない。


「まあ良いさ。それより頼みがある。試合を見て半身が合っていない者がいないか見て欲しい」


赤備え(ウチ)で成長した結果、半身が合わなくなった者が出て来たように、赤備え(ウチ)を目指した結果、半身の成長が追い着かなくなるパターンも考えられる。

そう思って聞いたところ、意外な返答が返ってきた。


「イグニス様に、ヤニス様とルウル様と……」


赤備え(ウチ)の連中じゃねーか」


年初に確認した奴以外にも出てきた。

いや、考えてみれば、入隊してから三か月程度で半身が合わなくなった者が出て来たんだ。

一年も経過すれば、増えることもあるか。


「リヴルスは?」


成長と言う面では、リヴルスが筆頭株だ。アイツの軍馬はダメになっていないのか不思議に思った。

だが、騎士の成長が急激でも、それに合わせられない軍馬が多いわけではないとの事。


「リヴルス様の軍馬は、半身に合わせて成長しています。本当に相性が良い場合は、一緒に成長するものですよ。

 安綱はタケル様同様に最初から規格外ですが、ヴィクトル様とエリーザ様はそうですよね」


半身とは文字通り、一緒に成長するものだから、本来は合わなくなることは無いらしい。

リヴルスが、どれだけ急激に成長しようと、それに合わせて成長するもので、成長に追い付けないのは、最初から、僅かなズレがあったという事だ。


しかし、本当に合った半身を選ぼうにも、すぐ目の前に居るパターンもあれば、世界中から広い範囲で長い時間をかけても見つからないケースもある。

見習いから騎士になる場合に探すケースは、言ってみれば集団見合いのようなものだ。

相性が良い相手が、そこにいるかは絶対ではない。狭い王都の馬場で探すのだ。むしろ完璧な相手など居ない可能性の方が高い。


故に、普通は何処かで妥協するのだが、夫婦間の例で考えても妥協した結果、上手くいく事も多い。

むしろ完璧を求めても、そんな相手は最初から存在しなかったという落ちの方が多いだろう。

その辺りの捉え方が、元帥のように半身は自分で探した方が良い相手に恵まれる派と、アリエラのように助言を受けてもマイナスにはならない派の言い分の違いになる。

言い換えれば、直接選ばれたことでの軍馬の奮起に期待するか、アリエラの助言を受けて少しでも良い相手に巡り合った方が良いか。


そう考えると半身とは、夫に合わせる貞淑な妻のようなものだ。

騎士の成長に合わせて成長しようとするが、どうしても付いていけなくなる事もある。それがイグニス達の今の状況らしい。


「ただ、イオネラに勝った方は直ぐに替えた方が良いと思います。

 あの子は、何時の間にか馬場から居なくなっていたので、どうしたのかと思ったら……」


ゼムフェルクの事だ。元々アイツの軍馬が気になったのだが、予想通り軍馬が合っていないようだ。

ただ、予想以上に駄馬だったらしい。


「何で、そんな駄馬を選んだんだ?」


「だ、駄馬って訳では無いですよ。ただ、ちょっと怠け者と言うか、争いが苦手と言うか」


「それを駄馬と言うのだろ?」


ヴィクトル、アリエラに容赦が無いな。美少女だぞ。普通は優しくするものだろ。

だが、言いたい気持ちも分からないでは無い。

ゼムフェルクの軍馬は、非常にコストパフォーマンスが悪いようだ。


軍馬は魔力を流しながら意思を伝えるが、意思、つまり要求の内容によって必要とする魔力が増減する。

走るだけなら魔力の消費は少ないが、戦闘時のステップでは多くの魔力を消費するタイプ。これが多数派だ。

魔力を糧にすることで、普通の馬とは比較にならない程の速度とスタミナを発揮する。


また、多くは無いが、軍馬によっては、ただ走るより、戦闘時のステップの方が必要魔力が少ない奴もいる。

ちなみに俺の安綱は基本的に魔力バカ食いだが、あらゆる要求に応える能力がある。


そして、問題のゼムフェルクの軍馬だが、普段の魔力量も多く要求し、かつ、戦闘時は更に必要とする。

働きたくないくせに魔力は欲しがるから、騎士が半身を選ぶ際に近付くと必ず目の前に現れる。俺の時も堂々と前に立っていたらしい。いや、こんな軍馬は誰も欲しくないだろう。


そんな馬だ。この先どうなるかアリエラも心配していたのだが、何時の間にか居なくなっていたので、余計に心配していたらしい。それが、真実は今年の最初にゼムフェルクが半身に選んでいたって訳だ。

普段なら、半身を選ぶ時期では無いので、いなくなった理由が謎だったらしい。


「駄馬なら処分される事もあるのか?」


「処分された例は今までありません。それに血統は良い筈なので、お嫁さんを探してもらえるはずです。

 み、見つかればですが」


あまりモテないようだ。だが、血統は良いのか。

そういうのあるんだな。


「まあ良いさ。それよりゼムフェルク以外にも半身が合っていない奴がいないか確認してくれ。

 途中で元帥と連絡を取り合うから、その時に替えるように許可を貰う」


「分かりました」


その後、アリエラの観察によれば、直ぐに替えた方が良いのはゼムフェルクくらいで、他は要観察程度らしい。

何でも今替えても、今後の成長次第で、また替えなくてはならない可能性がある。

そう何度も替えると軍馬も不信感を抱くそうだ。マジで嫁みたいな生き物だな。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




全試合が終わったところで解散となり、控室から出て伸びをする。

ようやくレジェーネは試合の内容を隣のゼムフェルクと話す事が出来、自分が負けたイオネラにゼムフェルクが勝った事や全勝だったことを聞いた。


「全勝おめでとう。流石ね」


「レジェーネも一敗だけだ。それに選定基準は勝利数ではなく内容らしいからな。まだ、分からないよ」


昔のゼムフェルクだったら、誇らしげな顔をして当然だと言っただろう。

その変化を頼もしいと思いつつも寂しいと感じてしまう。


「でも、私が負けた子にゼムフェルクは勝っているし、私は不安だよ」


「あの子は仕方がない。エリーザさんを思い出させる。手が痺れたよ。

 長期戦に持ち込まれたら俺も負けたと思うな」


「でも、短期戦で決められたら意味が無いですよ」


その声に振り向くと、最後に戦い、敗北した相手だった。

イオネラ・シュミット。13歳なら自分が騎士になった齢だが、それでも彼女の方が強かった。

そんな彼女は、自分を負かした相手であるゼムフェルクに対しても敵愾心を見せずに、友好的な態度だ。


「マイヤちゃんも安心だね。ゼムフェルク君やレジェーネちゃんみたいな騎士がいてくれて」


「マイヤ様とお知合いですか?」


「エリーザさんと従妹ですよね」


貴族間の関係に無知な質問をしたゼムフェルクが、これ以上、何か言う前に会話に割り込んだ。

マイヤがライヒシュタイン家の屋敷に世話になっているなら、従妹のシュミット家の当主が知らない訳がない。


「その通り。でも、敬語は不要ですよぉ」


のんびりした喋り方は戦闘中とは大違いだが、関係は予想通り、既に知り合っているそうだ。

しかも、マイヤと赤備えの隊員の仲など、知らない事も教えてくれた。

中貴族で、しかも騎士に受勲されると同時に当主になるはずだが、親しみやすい少女で、直ぐに打ち解けてしまう。

マイヤは随分と人脈を広げているようだが、良い影響を与えてくれそうな人がいて嬉しく思う。

しかも、一族でたった一人の生き残りなら、マイヤと同じだ。良い見本にもなるだろう。


しばらく話していると、イオネラが自分たちの後方に手を振り始めた。誰か知り合いが来たのだろうと思い、後ろを振り向いて硬直してしまう。


「何でアリエラちゃんが、ここにいるんですか? ずっと気になってたんですけど?」


「優秀過ぎてリヴルスに追い出されたらしい。無理だという前提の試験で合格してしまった」


勇者が近付いて来て、イオネラと親しく声を交わす。

連れてきている少女は、試合場で見かけ、途中から勇者と、その両腕と言える二人の側で小さくなっていた少女だ。何者か気になっていたが、弓騎兵の受講者でイオネラの友人らしい。


「で、ゼムフェルク」


「は、はい!」


唐突に名前を呼ばれて、ゼムフェルクが裏返った声で返事をする。

だが、仕方がない。自分たちにとって救世主であり、主君をも救い出した恩人。

そんな相手に声をかけられ、しかも、名前を呼ばれたのだ。


「そう、緊張するな。何も取って食おうと言う訳じゃ無い。

 お前が選んだ軍馬は、今のお前には合っていないから替えた方が良い。

 元帥に許可は得た。明日の朝に馬場に言って新しい半身を選べ。このアリエラが待機している」


それだけ言うと、背中を向けて去ってしまう。

離れると緊張から解放され、大きく息を吐いた。


「は、半身を替えるのか?」


そう呟くと、アリエラと呼ばれた少女がゼムフェルクの使っている軍馬の事を説明してくれる。

足首だけが濃い灰色をした白い軍馬は、一緒にいて、あまり良い軍馬では無いと思っていたが、想像以上に悪かったようだ。

だが、ゼムフェルクは暗い表情をしている。


「あの……迷惑だったでしょうか?」


「いや、コイツがダメな奴だってことくらい、気付いていた。

 でも、コイツは俺を見てくれたんだ。俺なんかを」


あれ以来、自信を失っていた。それが特に酷い時に得た軍馬だ。

その軍馬の思惑は兎も角、ゼムフェルクが騎士として立ち直る切っ掛けを与えてくれたのは間違いが無かった。

半身を愛おしそうに眺める。


「では、なおの事、替えるべきです。その子は臆病で戦いには向きません。

 ゼムフェルク様が戦場に赴くのなら、その子は望まぬ場所に行かなくてはならないのですから」


「そうだよな。でも、新しい軍馬を見に行くのは明日で良いのだろう?」


「はい。今日はその子と、いてあげて下さい」


「うん。そうするよ」


明日の予定を話した後、アリエラが離れると、ゼムフェルクは、これまでの事を思い出しているのか、軍馬の首筋に手を置き、目と閉じた。

その姿が妙に大人びていて、またも寂しい気分に襲われるのだった。


誤字報告ありがとうございます。

修正しました。


普通の誤字だけでなく、和製英語の指摘までして頂き、本当に助かります。

あまりの多さにビックリしましたが、これからも見捨てずにお願いします。


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