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根之堅洲戦記  作者: 征止長
歪んだ心
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不安を見せるな


「残りの問題は、廷臣たちに任せるしか無いが……」


話し合いの結果、俺の隊は火矢を使用しての戦闘訓練で、ティビスコス将軍が盾を使用する部隊を作ることになった。

ブライノフ将軍は間合いを一気に詰めて銃の装填を邪魔する訓練で、アルツール将軍は俺とティビスコス将軍のフォロー。

それらを基本指針として、何か思いついたら元帥に連絡し修正していくことになった。


「カザークが聞く耳を持つとも思えんな」


そして、残りの問題として、カザーク王国へ銃に頼らないように言わねばならないのだが、どうにも難しいらしい。

何でも信仰の問題だから理屈が通じないそうだ。


そもそも、カザークと言う王国は、1000年前に勇者が最初に建国した国で、他は分家だと見なしている。

その考えを補強しているのが、この世界の信仰で、俺の世界の神道に近い。

まあ、神官の衣装が巫女服っぽい見てくれを裏切らず、基本的に自然崇拝のシャーマニズムで、穢れを嫌うなど共通点が多い。


まあ、昔の日本人の考えが、そのまま導入されているみたいで、仏教の教えを導入したけど、肉食はOKな神道と言っても間違っていない。

違いと言えば、不浄なものは徹底排除するが、完全に遠ざける訳でなく不浄の元を管理するやりかただ。


つまり、穢れ(ウイルス)に触れて祟り(病気)にならないように、穢れ、不浄の元である、糞尿や死体を放置しない。穢れを払う水をきれいに保つなど。

糞尿は民家から離れたところに集めて堆肥にする、死体はしっかりと火葬する。これは動物も一緒で、家畜を解体して、処分しきれない物は、一旦火を通して埋葬、もしくは堆肥に混ぜる。

そして、何より清潔にする。井戸はもちろん、川の水でも不要に汚すのは不信心者って訳だ。

それに、戦争中は仕方が無いが、普段は毎日の入浴を欠かさない。

これは単なる習慣ではなく、信仰でそうなっている。


それで、その教えを司っている神様っていうのが、その教えを広めたと思われる1000年前の勇者である。

まあ、神道の神様がそうであるように、お祈りやお参りの度に、神様の名前を唱えたりしない。あくまでシンボルみたいな感じではあるが。


つまり、カザークって国は、神の降臨された国として、妙にプライドが高いようで、だからこそ勇者召喚で最初の勇者召喚の地に選ばれた。いや、選ばせた。

ちなみに言ってみれば、俺たち勇者は、神の再臨って訳なんだが、まあ、アレだ。ガッカリさせたんだな。コレが。


どいつもこいつも、来た早々に変な言動で役立たず。俺にしたって、バカ丸出しで、ここにいるメンバーにとっては、今や飲み友である。神々しさなんて行方不明どころか、見かけた事さえないだろう。

挙句に一番頭が良さそうなディアヴィナ王国の勇者は、最初は家に帰せとヒステリックに叫んでいたそうな。どう見ても唯の小娘である。

信仰が冷めても仕方が無いというものだ。まあ、多くの宗教が近代の現実と向かい合えば破綻が生じるが、そこは上手く気持ちを整理しているように、ここも同様みたいだ。


ただ、その気持ちの整理の仕方が問題で、未だにカザークは勇者の言動を重視している。

そして、国民の誇りの拠り所である勇者が開発した武器が魔族に通じないなど、信仰的にはあってはならない事態である。

おまけに基本的に身分が高いほど信心深いそうで、勇者ヨイショだそうだ。


ロートルイの話だと、流石に多くの騎士、少なくとも下級騎士はカザークの勇者、名和貞之を嫌っているようだが、上はそうでもないらしい。

赤備え(ウチ)で言えば、ヴィクトルとエリーザが俺の言う事を聞けと言えば、他の隊員がいくら不満でも止められないようなもの。だから、カザークを止めることは難しいと言える。


「そこは廷臣に任せよう。だが、グロースまであちらに傾かれては困る」


そして、カザークは今回の戦勝を大々的に報じている。中には銃に興味を示している国もあるそうだ。


「あの方が、カザークの言う事を信じるとも思えませんが」


アルツール将軍の言う、あの方、つまりアルスフォルト殿下は、カザークの戦勝に懐疑的らしいが、あちらとしては情報が不足している。どう転ぶかは分かったものでは無い。


「アザカも、そこを気にしていました。可能なら、私とロムニアの騎士が同行して、アルスフォルト殿下に情報を伝えた方が、説得力が増すと言っていましたが」


「それが良いな。陛下に報告してからになるが、こちらからはロートルイを出そう。

 カザークの様子も目にしているし、適任だ」


ロートルイ・コーナートは、武勇だけの猪武者でなく、政治面でも優れているので、グロース王国への使者も務まるだろう。

赤備え(ウチ)にいる妹のエレナと比べると、頭の出来は段違いだ。


「では、これで解散する。面倒なことになったが、逆に考えれば銃を攻略できれば、魔族共の出鼻を挫くことが出来る。そう思って、準備を進めてくれ」


肯定の返事を返し、それぞれの準備をすすめるべく解散すると、会議の部屋を出て、各々の副官と合流する。

俺の副官として、ダニエラが待っていた。


「悪いが使いを頼む。ヴィクトルに訓練後は隊舎へ来て欲しいと伝えてくれ」


訓練後は、隊員は隊舎へ帰ってくるが、ヴィクトルは自分の屋敷へと戻るので、話をするには隊舎へ来てもらった方が早い。

メインの用件を考えればヴィクトルだけでも良いのだが、後で他の連中に説明するより、一度にやってしまった方が手っ取り早い。


「了解です。訓練の終了は早めなくても良いのでしょうか?」


「そこは通常通りで良い。俺もそれに合わせて隊舎へ行く」


エリーザだけは別行動で、元帥の部隊の人達と一緒だが、俺に合わせて再び王宮で寝泊まりすることにしてくれている。

王宮には親しい人もいないので、正直、食事を一緒にしてくれるだけでも有難い。

エリーザには、その時にでも話しておこう。


「隊長はこれから?」


「報告しないと五月蠅い奴がいるから、そこへ行く」


それだけで察したのか、神妙な表情になる。


「では、早く元気になるように、お伝えください」


「分かった。ダニエラが早く、くたばれと言っていたと伝えておく」


「言ってませんし、思ってもいません!」


大声で否定するダニエラをあしらって、隊の元に行かせると、俺は貴族の屋敷街へと向かう。

暫く安綱の背に揺られ、目的の屋敷に到着する。


「これはタケル様、ようこそ御出でくださいました」


「申し訳ありません。バルトーク殿は起きていますか?」


「はい。今日は体調も良いらしく、何時もの部屋にいます。ご案内します」


急な訪問だ。普通なら先に屋敷の主に取り次いで良いか確認をするのだが、それを省略して俺を主の元へ送る。

ある意味、主に無礼ながらも、形式など無視した所作は、この屋敷の主に相応しいとも思える。


案内された部屋に入ると、ジジィが長椅子に座って外を見ており、足元で寝そべっていたタヌキが俺に気付くと、驚いたように起き上がり、距離を取った。


「何だ? まだ、毛皮にしてなかったのか?」


「どうにも面倒でな。それに(なめ)し屋に行くのにも飽きた。何処ぞの馬鹿どもに、散々行かされたせいでな」


こちらを振り向くジジィは、前に見た時よりも更に痩せていた。

酷くなったのは、今年になってからのようだが、病になったのは、俺と出会う前らしい。

閲兵式を前に聞かされた事実は、俺を育ててくれた祖父の最後を嫌でも思い出させた。

病気には詳しくないが、話を聞く限り癌だと思う。こうなると俺に出来る事なんて、何もない。少しでも気が楽になるように明るく振舞うだけ。


「俺が近づいているのに気付かないなんて、もう野生では生きていけないな」


俺を警戒して部屋の隅で怯えるタヌキを見る。

弓騎兵の最初の訓練で捕まえたタヌキだった。毛皮にするように渡したのに、何故かジジィは屋敷へ連れて帰り、そのまま飼いだしたらしい。


性格は俺の知っているタヌキに近いらしく、群れを作るより相方を選んで一緒にいることを望むようで、屋敷の中でもジジィ以外には懐かないようだ。

まあ、俺の世界のタヌキと違って、排他性は低いようで屋敷の召使までは警戒しない。


「それで、何があった?」


「ああ、多分、暫く王都を離れることになるから」


今日の会議の内容も含めて、最近あった事をジジィに報告する。

時々、質問をはさみながら俺の話を聞き終えると、深くため息を吐いた。


「まあ、火矢の訓練で海軍の所に行くのは悪くない」


「そうか。安心した」


「何じゃ? 不安だったのか?」


「生憎、誰かさんに鼻っ柱を折られたのが尾を引いていてな」


「あれは、お前たちがバカ過ぎただけじゃ」


閲兵式の翌日、ジジィの屋敷に結果を教えに言った時、俺とヴィクトルは勘違いを指摘された。

俺達は隊の損傷を、油断や狂気に飲まれた結果と考えていたが、ジジィは討たれた面子の名前を聞くと、軍馬の能力が低い者だから、馬のスタミナ切れだと指摘した。


俺の安綱は別格だし、ヴィクトルの半身も王国でトップクラスの名馬だ。

速さだけでなく、スタミナもある。現にヴィクトルはクルージュ将軍のカラファト城から、王都へ戻る際にクルージュ将軍の伝令と同行している。


伝令は通常、換え馬を用意している。半身では無いため、意思の疎通は十分とは言えないし、戦闘には適しない性格の馬が多いが、移動だけなら問題ない。

そんな換え馬を用意している相手に、換え馬無しで平然とついて行く名馬だ。


その所為か、戦闘でのスタミナ切れと言う発想が無かった。

おまけに戦闘では、重圧がある。格闘技の試合で短時間が多いのは、全身を動かすからだけでなく、一瞬でも気を抜けばやられるという精神状態が、よりスタミナを消耗させる。


閲兵式で討たれた者は、軍馬の質が良くなかったようだ。

性格や、元の体力が低く、集団突撃によるプレッシャーと疾駆の連続でスタミナが切れ、動きが鈍った。

その隙をブライノフ将軍の旗下は見逃してくれなかったって事だ。

これが実戦だったらと思うとゾッとする。


今回は訓練だったが、その訓練で問題が表面化したにも関わらず、俺は気付かなかったのだ。

情けないにも程がある。

結局はジジィの指示に従い、アリエラに見て貰ったところ、半身が合っていない者が半数以上いた。


あまり無い事なのだが、若い騎士が急激に力を付けると、軍馬の成長が追い着かなくなることがあるらしい。

こうなると、人馬の間に齟齬が生じ、能力を発揮できない。結果として軍馬は無理をして動くので、余計にスタミナを消耗するようだ。


対策は感情を抑え、新たな軍馬を選ぶこと。誰だって半身と分かれるのは嫌だが、無理に合わせていると互いに不幸な結末を迎えることになる。

こうして、半身を変えた者や、軍馬を鍛えなおす方向で訓練をすることになった。

ちなみに成績が悪い者は、アリエラの特別講習を受けることになった。要は馬糞の掃除から始まる馬とのコミュニケーション強化である。


それでも、全ての軍馬が安綱みたいになれるわけがない。

今後は、闇雲な突撃は禁止し、馬のスタミナを考慮して、弾数の限られた武器を使うような感覚で戦う必要が出て来た。

もう、考えることが多過ぎである。


その所為か、ついジジィに頼ろうとしてしまう。

ジジィがいれば、間違っていたら正してくれる安心感がある。走り続けることが出来る。

本当は休ませるべきなのに、相談したり愚痴を言ったり、実に駄目な教え子だ。


「だが、時間が出来たのはありがたいな。聞いた限りだと、グラールスは今年は侵攻はせんだろうて。

 来年、カザークが銃を増やすのを待ち、同時に自軍に銃を装備させる。奴ならそうする」


「元帥たちも同じ意見だ。油断は出来ないが、慌てて準備をするより、しっかりと対策を取る方向で意見がまとまった」


「ならば、それまでには治すとしよう」


時間が経てば病は進行する。来年には戦場に立つどころか、この世にはいないかもしれない。

その不安が顔に出たのか、頭を殴られた。


「何度も言わすな。不安を見せるな。堂々としておれ」


前はジジィに殴られたらムカつくぐらい痛かったのに、今は撫でられたような感触だ。

弱弱しさに泣きたくなる。

それでも、ジジィの言葉は正しい。俺が周囲に不安な態度を見せることは許されない。そんな立場になってしまった。


「違う。単に来年には死んでるだろうから同情しただけだ」


「余計な世話じゃ。残念ながら死なんよ。今年は養生に専念するし死なん。何となく分かる」


「根拠は?」


「何となくだがな。来年の編成は、どうなっておる?」


自信が有り気な態度に、何処か圧倒される。

長く戦場にいた老兵の持つ空気と放つ言葉は、元帥や将軍たちにはない説得力を持っていた。


「隊を分ける。ヴィクトルに副官としてパペル。ヴィクトルの戦死に備えてリヴルスとエレナを付ける。

 エリーザには副官にアルマ。同じ理由でイグニスとルクサーラ。

 それぞれ、400から500騎を指揮させる」


全員が成長しているが、伸びが大きいのが今言った四人。副官と言う補佐の仕事はアルマやパペルが優れているが隊の指揮となると求められる能力が違う。

四名は元から才がある上に、若い分成長が早い。特にリヴルスは既にエリーザに引けを取らないくらいだ。


「そして、俺が直接指揮するのは騎兵を100騎、弓騎兵を50騎、隊の先頭に立つから、今言ったの以外から最精鋭を選び出す。決定しているのは旗手のダニエラと弓騎兵のヤニスだけだな。ヤニスに副官は務まらないからダニエラにやらせている。

 基本的にヴィクトルとエリーザは、俺の指揮する隊が付けた傷を広げる役目になる」


「そうか。じゃあ、ワシはお前の150騎に加わるとしよう」


「何言ってんだよ。もう、戦場は無理だろ」


「戦場で死にたい。いや、死ぬ」


縋るような願望では無い。自分の死に場所を知っているような確かな眼差しで言い切りやがった。

それが望みなら叶えてやるのが正しいのだろうか。それとも、宥めて安静にするよう言い続けるのが正しいのか。

俺には分からないから、誤魔化すように席を立つ。


「俺が率いるのは最精鋭だ。その力が無いなら、生きていたとしても連れて行かないぞ」


「大丈夫だ。次の戦では、最盛期の力を取り戻している気がする」


「勝手に言ってろ。ジジィ抜きで編成するが、次の出陣前にやる気があるなら試してやるよ。

 それまでに病気を治しておけ」


そう言って、屋敷を出る俺の背中に、自信ありげな声が届いた。


「もう一度くらいは、面倒を見てやる。感謝せい」


「うるせえよ」


屋敷の外に出て、安綱の背に跨る。

ジジィが戦場に出れるか悩みながらも、不安だけは見せるなと言う言葉に従い、堂々と胸を張る。

誰かに見られているかもしれない。弱気な態度が許されない立場なのだと自分に言い聞かせ、道を進んだ。



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