対策会議
「銃というのは分からんが、魔族が飛び道具を手に入れた事実はキツイな」
潰れた弾丸を指で突つきながら、アルツール将軍が、険しい表情で呟く。
一度、ディアヴィナ王国に帰還して、再度、ロムニアに来訪したジュリアが伝えた結城鮮花の予測は、俺達の気を滅入らせるのに十分な効果があった。
戦場跡から発見した弾丸と、血痕が無かった事実から、魔族に銃が通用しなかったことは予想できたが、まさか、魔族が銃を既に知っているのは予想外だった。おまけに作っている最中の可能性が高い。
俺にとって、魔族は知能が低い印象のため甘く見ていたのかもしれない。
確かに大半の兵は知能が低いが、魔族の隊長格は、人とそうは変わらない知能を持っている事を聞いていたし、実際に見た時に、それを感じさせた。
更に、奴らはそれなりの装備を使用している。以上の事から、予想する事は出来ていた。
魔族は、捕らえた人間に装備を作らさせていると。
以前、見たはずだ。あの繁殖させようと言う試み。奴らは人間の事を知っていると。
脅迫や懐柔、どんな手を使っているかは不明だが、鍛冶を出来る人間に、それなりの物を作らせている。
奴等が使用している革鎧は、一見には騎士の鎧に比べ劣る印象だが、そもそも奴らは気の防御があるから、鎧には高い防御力を求めてはいない。
動きやすさを重視し、気を擦り抜けるダメージ、例えば進軍中の障害物などから皮膚を守るための物と考えれば納得がいく。言って見れば、持ちにくい物を掴む時の保護手袋や、登山で着用する頑丈な服の代わりなのだろう。
そこに捕らえた勇者による俺達の世界の知識が加わってしまった。
捕らえられた勇者が、どれだけ魔族に協力的かは分からないが、少なくとも銃の知識を与えている。
しかも、俺なんかと違って、妙な知識がある奴等が多いらしい。
その典型が火薬の配合だ。俺は知らないし、歴史の授業なんかで習う事もあるそうなので、硫黄、硝石、木炭が必要という事までは知っていても、配合比率までは知らない人間の方が圧倒的に多いそうだ。
だが、この世界に来た勇者の条件から考えて、中世で使用できる技術の知識は、常識では考えられないくらい高いと考えて良いらしい。
銃だけでなく、大砲やカタパルトといった攻城兵器も使用されると考えて良いそうだ。
つまり、これまで人間が戦争で優位に立っていた部分が、高い確率で逆転される。
人類を救うために召喚した勇者によって、人類が脅かされている。何とも皮肉な話だ。
「タケル、銃に対しての戦い方は思いつくか?」
元帥の質問に、俺は正直に首を横に振った。
何故なら、情報が少なすぎるが、最悪を考えれば手も足も出ない。
「正直に言うが、魔族に協力している勇者の知識が、どれほどのものか分からん。
例えば、ディアヴィナの勇者が魔族に全面協力しているとあればお手上げだ。手も足も出ん」
俺と元帥、三将軍が集まっている会議に同席しているジュリアを見ながらそう言う。
何でも、結城鮮花は雷管で発射される銃、しかも、化学薬品で作る火薬も作成できるらしい。
そいつが、その気なら、幕末に行われたと言う近代兵器に槍で立ち向かって蹂躙された光景を再現できるだろう。
「いえ、アザカの話では、そこまでの物を作れる勇者はいない可能性が高いようです。
仮にアザカ並みの知識があれば、魔物狩り、例のレベルアップを始める前に拳銃と言う携帯に優れた銃を作成するはずだと」
彼女の予想では、それだけの知識があれば、先ずは作りたくなるそうだ。
それだけの知識を学んでも、元の世界では作ることは出来ない。作れる環境にないし、仮に作ったら逮捕である。
だから、作れる世界に来たら、先ずは作りたくなるのが人間の性という奴らしい。
「では、ディアヴィナ王国の勇者は作ったのかな?」
ティビスコス将軍が珍しく鋭い視線を向けながら、ジュリアに問う。
事の重大性から、普段の温厚さを出す余裕が無くなっているみたいだ。
「……アザカは、最初は元の世界に戻りたいとしか考えていませんでした。
そして、今は、我々に協力するために研究を始めましたが、銃は作る前に没になっています。
彼女は、我々騎士の能力を高く評価しています。我々の攻撃が効かない魔族に銃が通用するとは最初から思っていませんでした」
「最初の間は?」
発言前の躊躇いをアルツール将軍は見逃さなかった。何かを隠しているだろうと問い詰める姿勢を隠していない。
だが、意外な援軍が出て来た。この中で、一番気が短いはずのブライノフ将軍だ。
「落ち着けよ。ジュリア殿は敵では無いぞ。それにディアヴィナ王国の勇者もな」
「そうは言うが、捨て置けない事態だ。お前は随分と冷静だが、どれ程の事か分かっているのか?」
「アルツール、確かに俺は、お前ほど頭が良くない。だから最初からお手上げだ。この中で一番、頭が悪い俺が悩んで、どうにかなる問題では無いだろ。
だがな、だからこそ分かる事もある。ディアヴィナ王国の勇者は、お前より頭が良いぞ。そんな奴が今の状況を楽観している筈が無いだろ。お前より焦っているかもな。いや、そんな下らん思考は通り過ぎたか」
全員が押し黙った。そうだな。確かに問題は大きいが、焦っても意味はない。
目的を見失うな。魔族と戦い勝つ。そこがゴールだ。
確かにゴールへの障害が増えたが、その障害の情報を事前に知ることが出来た。
「そうだな。申し訳ない。ジュリア殿。許してほしい」
素直に頭を下げるアルツール将軍に、今度はジュリアが慌てる。
「い、いえ、こちらこそ、上手く言う事が出来ずに、最初に言い訳めいたことを言いました。
その、誤解しないで頂きたいのですが、間違いなくアザカは、銃を作っていませんでした。
ですが、今回の事で、目にしないと対策も考えようが無いだろうと、私が戻った後に作り、預けたのです。それを持ちこんだので……」
なるほど、銃を作らなかったのに、今回、持ってきたものだから、実は作っていただろうと言われると思って、言葉を濁したって訳か。
「そうか。実物があるなら、是非、見せて欲しい。この中では、タケルとブライノフしか目にしている者はいないからな」
元帥の一言で、ジュリアは席を外し、暫くして戻ってくる。その手には布で包まれた長い棒の様な物が握られている。
「これになります」
そう言って、包みを取ると、中からは良く見る火縄銃と、ほとんど同じものだ。
「俺が見た奴、カザークが使っていたのは、この辺が、もう少し長かったぞ」
グリップの部分を指差しながら、ブライノフ将軍が指摘する。
確か、ストックっていう奴だったか。脇に当てる部分がカザーク製にはあった。
「アザカの予想では、魔族が使用するのは、この形になるそうです。私もカザークの銃の形状は説明しましたが、それを聞いたアザカは、カザークの勇者を阿呆の一言で切り捨てています。典型的な無知な転生チートの話を読んだだけで、作成時に使用者の意見を聞いていないと。タケル殿は知っていると思いますが、本来の火縄銃は、こういう形ですよね?」
「そうだ。カザークが使っていたのは、もう少し後の時代で使用されていた形だ。
だが、そっちの方が狙いが付けやすいんじゃないか?」
「鎧を着けていなければ……です。肩に当てる部分は、鎧を着用しなければ問題無いのですが、鎧を着用していると、上手く当てることが出来ません。固定が悪くなるので、逆に狙いが付けにくくなるそうです。
確かに、ここに顔を当てると目の前で爆発するのですが、それを我慢すれば問題はなく、発射後に銃口が上に撥ねても、命中率の影響は少ないようです」
「上に撥ねる?」
「構えて貰えますか? 銃は発射の際に、こう力が加わるようです」
カザークで銃が使われるところを見ていたブライノフ将軍が言われた通りに銃を構える。
ジュリアは、そのまま銃口を抑えると、銃口はグリップより上にあるので、持っている手を支点に跳ね上がるように上を向く。
「このように上を向きますが、弾が発射された時の衝撃ですし、上に向くころには既に発射を終えているので、弾が上に飛んでいくことは無いそうです」
「なるほどな。残念だが欠点にはならんか」
「はい。アザカが何より重要だと言うのが、先にも話した火縄が付いているか否か。これはアザカが作った遠見の道具です」
そう言って、銃と一緒に持ってきた袋から、望遠鏡を取り出す。
袋の中身は、匂いから火薬だと思っていたが、意外なものが出て来た。望遠鏡まで作るって、どんな頭してるんだよ。
全員が確認しているが、遠くが見える道具に驚いている。
「これで、戦う前に火縄の確認をして欲しいとの事です。
火縄銃なら、雨に弱いので、そこを狙って攻撃する事が可能だそうです。それに雨でなくても火蓋にも火薬を注ぐ必要があるので、次の発射までに時間がかかるとも。
ですが、火縄が付いていなかった場合……」
ジュリアが言い淀む。理由は見当がつく。この先は口にしたくないのだろう。
ここは俺が言った方が良いか。
「勝ち目はないな。先にも言ったが、戦いにはならない。何処かへ逃げるしか無いな」
俺の言葉に、全員が驚いた表情をする。戦闘狂認知されている俺が言ったことで、真実味が増したのだろう。
だが、ジュリアは俺が代わりに言ったことで少し安心した表情を見せると、決して絶望的な状況では無い事を伝える。
「ですが、先程も申し上げたように、火縄で無いのなら、普段から携帯が可能な武器になります。
それなら作らない筈が無い。カザークで硝石を集めている情報を手にしてから、我が国では情報網を駆使して、それを作った者がいないか探し出しました。結果として、銃を作った者がいない事は、確認が取れています」
「驚かせないでくれ。寿命が縮んだぞ」
俺を非難するようにティビスコス将軍が睨むが、俺は肩をすくめるだけで流した。
だって、さっきも言ったじゃん。ディアヴィナ王国の勇者が敵にいたら勝てないって。それ火縄じゃ無ければ勝てないって意味だぞ。
「アザカも、相手が火縄銃を使用する前提で、対策を進めています。
最悪を想定すれば、大陸を出ることを想定して船を作った方が良いとも考えた様ですが、可能性が低い事や出来るだけ危ないものを作りたくはないと言って、火縄銃を無力化させる作戦を立てています」
「大陸を出る?」
「はい。詳しくは言いませんでしたが、陸上戦では勝てなくなるから、大陸を出るしか無いと」
「無理だろう。それだけの船を用意出来るはずも無いし、行き先も限られている」
だが、1000年前は、そうやって逃れた人が、周囲の島に散ったんだろうな。
そして、おそらくだが、結城鮮花という奴は、その先に別の大陸がある可能性も考えているんだろう。
それについて、どう考えているかは分からないが、俺としてはヨーロッパが大航海時代でやらかした事に良い印象は持っていない。
自分が、その引き金を引く可能性を考えれば、躊躇もしてしまう。
「それと、その件そのものではありませんが、海上戦についての考えも改める必要があります。
これまでは、海上は人類のものでした。仮に魔族が船に乗っても恐れる必要は無いと」
「魔族は造船技術も航海技術も無いが、それを作る可能性があると?」
「はい。更に海軍は火矢で敵船を焼き払う戦法が取られますが、今後は撃ち合いになると。
ですから時間もありません。奴らが、船の技術を手にする前に勝利して、魔族を殲滅……は無理にしても、今の勢力を崩し、最低でも山脈に押し込めてしまいたいと考えているようです」
「また、難題だな」
一応は、魔族が航海技術を持つ危険については、前々から考えられていて、ヴィクトルの母親なんかは、人生の大半を船の上で過ごし、それを警戒しているらしい。
ただ、これまでは仮に魔族が船を使って移動してきても、海上で火矢を使って船を焼き払えば溺死させられると考えていたが、敵船に大砲が積まれているとなれば、難易度が飛躍的に跳ね上がる。
「どちらにせよ、海の防御に当たっている者には、連絡しておく必要があるな」
「ちょうど良い。俺が行く。ヴィクトルと弓騎兵を全員、いや、赤備えを全員連れて、ヴィクトルの実家に行ってくる。
帰りは何時になるか分からないが、向こうについて3日以内には、帰りの期日を決めて連絡する」
「何をする気だ?」
「海上戦の火矢、油なんかも使うと思うが、その技術を習いに行く。
結城鮮花の言葉を信じよう。相手が火縄銃なら、持っている火薬ごと吹き飛ばしてやればいい。
相手は火縄銃を装備した部隊。言ってみれば、火気厳禁ってやつだ。そこで盛大に火遊びをしてやる」




