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根之堅洲戦記  作者: 征止長
幕間 希望の年明け
48/112

リア充(笑)の朝

ようやく方向の修正も終わり、久しぶりの投稿です。

2020/11/5 章管理と一部サブタイトル変更しました。

桜の花は美しい。これに異論がある者は少ないだろうし、俺は桜こそが最も美しい花だと思っている。それに同意の人も少なくないはずだ。

何故、桜が美しいのか? どこが素晴らしいのだろう?


一輪で比べればバラや紫陽花の方が鮮やかな輝きで優る。

否。桜の花は単体での鮮やかさは劣っていても、群れで巨大な樹木を鮮やかに染め上げる輝きがある。


染め上げる群れとしてなら藤の花がある。巨大な樹木ではなく蔦ゆえの計算された配置は、その下を潜ると、別世界にいるような感覚に陥る。

否。計算された配置では無いから良いのだ。あくまで自然のまま。無垢な輝きがそこにある。


桜は開花時期が短いから、何時でも見られない。直ぐに散ってしまう。

否。だからこそ良いのだ。ほんの短い期間の無垢で鮮やかな輝き。

そして、散っていく桜吹雪。あの散りゆく桜吹雪が美しいのだ。


だからと言って、桜の木に正拳突きをするのは許されない。絶対にやってはいけない事だ。

花見の席で軽く酔っていたとは言え、近所の爺ちゃんたちが喜んだからとは言え、桜の木に正拳突きを連打して、咲いている桜を強制的に散らした俺は、後で激しく後悔した。


確かに美しかった。まだ、十分に咲き誇っていない桜だったが、俺の正拳突きで次々と花弁が散っていき、鮮やかで美しい光景を描き出していた。

だが、翌日の光景に胸が痛んだ。周囲には、まだ満開の桜があるのに、その一本だけは、みすぼらしい姿になってしまっていた。


今年の春、いや、今朝で年が明けたから去年か? 激しい後悔に包まれた朝の出来事だ。

それなのに新年早々俺は、酔って記憶を無くしたまま同じ過ちを。

いや、もっと酷い事だ。桜の化身とも言える、無垢で鮮やかで尊い存在を穢してしまったらしい。


「スースー」


目が覚めたら、イオネラが俺の腕枕で寝ていた。

何故、こんなことになってしまったのか?

情けない事に憶えていない。慣れないワインに酔ってしまって記憶が無い。

酔う前までの事を整理してみよう。


王宮に帰り辛かった俺にとって、帰らない言い訳に使っていた、魔族のモルモット4号が、昨日息を引き取った。実験による身体への直接ダメージに加え、周りで死んでいく同族を見る精神的なストレス。更には空腹が重なっての衰弱死である。


最後は、どれくらいで死ぬのかの確認だったので、死んだからといって惜しくは無いが、問題は帰らない理由が無くなったことだ。

うむ。先延ばしにした分、余計に帰り辛い。いっそのこと年が明けてしまえば、切り替えも済んだのだろうが、残念ながら、あの根性無しは、あと一日が持たずに死んだ。


ヴィクトルやトウルグにとっては、年が明ける前に切りが付いて良かったのだろうが、俺は困った。

そんな俺に、救いの手を差し伸べてくれたのが元帥だ。


元帥の家で飲みながら新年を迎えようというお誘いである。

メンバーは、実験に参加していた元帥の配下の内、元帥としてだけでなく、テオフィル家の家臣でもある3名。

その3人は、実験の間も一緒だったので、ある程度は親しく出来るようになっていた。


おまけに、一人はウチの隊員である不愛想で凶暴なロリっ子エレナの兄で、ロートルイと言う。

妹とは違い友好的な紳士で、元帥にとっては甥になるそうだ。立場上は元帥の護衛でもあり、普段から元帥が所有する屋敷に部屋を与えられ暮らしている。

元帥が強すぎるという事もあり、名前だけの護衛と謙遜しているが、見た感じではヴィクトルに匹敵すると思う。そのヴィクトルも勝てる気はしないとの弁。


その関係から、実験チームの中では特に親しくなった。まあ、三日間、あれこれと顔を突き合わせて、魔族の身体を弄るマッドサイエンティストのような生活を続ければ、仲良くなるか、顔も見たくなくなるかの二択だろう。幸い全員と仲良くはなれた。


そして、帰りにくい王宮に戻るか、親しい面子(メンツ)と年越し飲み会。

どちらを選ぶかは明白。喜んで元帥に付いていき、酒宴が始まった。

元帥の息子を紹介され、尊敬の眼差しを浴びて困ったが、良い子なので俺の知る武術を教えてやると約束する。


その後、飲むことになったのだが、困ったことにワインだったのだ。

ビールや日本酒、又は焼酎ならば、そこそこイケる口なのだが、ワインは飲み慣れない。

だが、この世界では穀類でアルコールを作るのは贅沢。山地で栽培している果物から作る果実酒が、アルコールの主流。むしろオンリー。


しかも、魔族の情報が色々集まったおかげで光明が見えたと、全員がハイテンション。

つまり、飲み過ぎた。かなり早い段階で意識が朦朧とした気がする。

直ぐに客室に案内され、そのまま寝たはずだ。


要は俺の犯行は、俺が寝ている間に、何処からかイオネラを攫ってきて、この部屋に連れ込み、事に及んだ。


いや、無理じゃね? いくら俺が変態だと言って、何処にいるか分からないイオネラを攫ってくるなんて無理だろう。

それに、俺はどちらかと言えばアリエラの方が好みだったりする。確かに客観的に見ればイオネラの方が、美少女度が高いだろう。だが、俺の好みは和服が似合う大和撫子の美少女なので、攫うとしたらアリエラの方を……


「失礼します。起きているでしょうか?」


そう考えていたら、そっとドアを開けてアリエラが顔を覗かせる。


アリエラ攫ってたぁ! ハイ! ギルティ! 有罪です!

まさか、寝ている間にアリエラを攫いに行って、それだけでは足りないとイオネラも一緒に。

どんだけ美少女に飢えていたのだろう?


どちらにしても最悪だ。俺は取り返しの付かない事をしてしまったらしい。

無垢な乙女を穢した俺に生きる資格など無い。死のう。だが、死んだ程度でこの悪行が許されると思えない。どうすれば良いんだ? 教えてくれ同志ヴィクトル。お前ならどうする?


「はあ、部屋にいないと思ったら、こんな所で寝ているなんて……その、おはようございます。タケル様」


「あ、ああ、おはよう」


あれ? 何か普通だ。誘拐された女の子の態度じゃない気がする。

それに、冷静に考えれば、寝ている間に何処にいるかも分からない女の子を誘拐するなんて、流石に無理がある。

しかし、それならそれで、何故、アリエラとイオネラが、ここに?


「どうした、アリエラ? タケル殿は、まだ寝ていたか?」


「いえ、起きてはいましたが、イオネラがタケル様の寝所に潜り込んだようで」


「潜り込んだ? そう言えば、帰還した日も抱きついていたが」


そう言って、顔を出すアーヴァング殿。

その後ろから、ロートルイ達も顔を覗かせる。

彼等に俺は、どう見えているのだろう? ダメだ。軽蔑される未来しか思い浮かばん。


「おう、タケル殿、娘と姪と知り合いだったそうだな。昨夜、帰ってきたアリエラに聞いたぞ」


「え? 娘? 姪? 何の事?」


「ああ、やはり知らなかったな。このアリエラが私の娘で、そこで幸せそうに寝ているのが、姪だ。戦死した妹の娘でな。家で預かっている」


そうなの? 何でも昨夜、俺が酔いつぶれた後、年末年始の警備任務を終えたアリエラ達が帰ってきたらしい。

それまで、訓練所で寝泊まりしていたので久しぶりの里帰り? である。

そこで、驚かせようと勇者が寝ていると教えると、既に知り合っていたと聞かされたそうだ。


「それで、イオネラは何を考えている?」


「はい。タケル様の子供を産みたいと言っていたので、そのためかと」


「こ、子供? ま、まだ早いのでは無いか? な、なあ、タケル殿、ままままま、まさか」


ヤバい! 元帥の目が怖い。妹から託された大切な姪を傷つけた罪人を見る目だ。


「落ち着いてください閣下。イオネラ様は服を着用したままです。その様な行為が行われた後には見えません」


え? 言われてみれば確かに。イオネラは服を着ている。俺も上半身は裸だが、下は履いている。

ロートルイが名探偵のように状況を確認し、更に証拠を探すべくアリエラに向かって質問する。 


「アリエラ様、昨夜イオネラ様と一緒に入浴されていましたが、その時から後のイオネラ様のご様子は? 帰宅した直後は今にも倒れそうなほど眠たそうにしておいででした。

タケル様が寝ていると聞いた後は、元気になって入浴に向かわれましたが」


「そうですね。身体を洗った後、湯船に浸かりましたが、直ぐに眠りかけて湯船に沈みそうになっていました。昨日は昼間に眠れなかったそうで、夜間の警備中も危なっかしい状態でしたから。

結局、お風呂から上がった後も、私が支えながら部屋まで送り届けました」


「なるほど。つまりイオネラ様は、入浴後、子供が欲しい、その目的を達成すべく、タケル様の寝室に忍び込んだものの、そこで力尽きたと見るべきでしょう。

 そして、タケル様は酔って熟睡しており、イオネラ様の侵入には気付かず、目が覚めたらイオネラ様が隣で寝ていて戸惑っている。そうなのでは?」


「は、はい。起きたら横にイオネラがいて、何が何だか」


凄いよこの人。とてもエレナの兄とは思えない冷静な頭脳派だ。

しかし、そうか。イオネラとの間には何もなかったんだな。安心したような残念なような。


「そ、そうか。取り乱してすまなかった。許してほしい」


「いえ、大丈夫です。ところで、俺も起きようと思うのですが」


そう言って、イオネラを見る。この喧騒の中でも熟睡したままだ。

ある意味、軍人には向いていないのではないだろうか?


「アリエラ、頼む」


「はい父上、了解です」


アリエラが近づくと、強引にイオネラの身体を引き起こす。

随分と手馴れている。


「ん~?」


「イオネラ、起きなさい。タケル様が困っています」


「タケル様?……そうだ!」


急に起き上がり周囲の確認。キョロキョロした後、俺に気付くと満面の笑顔を見せる。

いや、本気で可愛いんだが、どうしてだろう? 肉食獣が背後に見える。


「タケル様、お願い、子供が欲しいの」


「落ち着きなさい。急に言われてもタケル様も動揺しています。先ずは起きて食事にしましょう。父上、それで良いですか?」


「あ、ああ、正直、もう少し説明が欲しい。いくら何でも行動が唐突に過ぎる」


同感だ。嬉しい気はするが、ここで子作りをするのは俺のポリシーに反する。

俺の少女愛は、純粋かつ崇高なものなのだ。エッチな事は妄想にとどめ、実際には見て楽しむ。ちょっと触れたりして、妄想を促進させる。それが正しい道だ。実行してしまったら、それは人では無い。


そうして、場所を移動し、食事をしながら説明タイム。

何だろう? まるで家族会議である。食卓に出されているのは、新年という事で貴重な白いパンが出されている。だというのに、凄まじい緊張感だ。


「う、うむ。まあ、武家の娘として正しい判断ではあるか」


そうして、イオネラの説明を聞いたのだが、どこの世界にも無駄に性知識がある子供というのはいるらしい。

子供を産むには、アレを10か月前にヤル必要があるとイオネラに吹き込んだ者がいるそうだ。

だが、考え方を変えれば、今から仕込めば年内に出産が可能である。


「今年中に産めば、来年騎士になってもシュミット家は安泰だよねぇ」


そう。イオネラは実力的には騎士になってもおかしくないそうなのだ。

何と言っても、ウチにいる弓騎兵組はダニエラ、ナディアら、去年の半ばまで見習いに居た者が大半で、ヤニス、ルウルのように去年の頭に騎士になった者が残りを占める。

で、その連中は見習い卒業前にイオネラにボコられていたのだ。


流石にリヴルス達、騎兵組のトップには勝てないようだが、アイツ等と良い勝負をするのは事実。

少なくともヴィクトルが、才があると言って集めた60騎の新隊員に混ざって違和感がない能力があるらしい。


それが、騎士になれないのはシュミット家の事を考慮しての事。イオネラが死ねばシュミット家は断絶で、残された領地をどうするかで、もめてしまう。

実際に、領主の一族が絶え、もめているところもあるようで、王家としては出来るだけ避けたいそうだ。


そこで、イオネラは今年中に産んでシュミット家を守り、来年は全力で魔族と戦うと意気込んでいるのだ。

元帥が言うように武家の娘としては正しいように思えてしまう。


「タケル様、私が相手ではダメですか?」


悲しそうに見てくるイオネラ。

そんな事は無い! むしろ……もう良いんじゃね? この世界は結婚に年齢制限とか無いロリコンに優しい世界だ。ポリシーなんて捨てても良いよね。


そもそも、俺はロリに対する了見が狭すぎる気がする。

ロリビッチとか、ロリ巨乳とか、合法ロリとかは全て邪道。正統派しか認めないなんて心が狭いと言われても否定は出来ない。

こう画像とかで見て、これはダメだと思っていたが、この際……


「ダメだ」


その言葉にイオネラが泣きそうな顔をする。

だが、ダメなものはダメなのだ。

子供が欲しいって、アレだよ。妊娠するんだよ。

この小さい身体で妊婦さんのボテ腹。そういったものに興奮する奴もいるようだが、俺にそんな性癖は断じてない。あんなの見ても、ただ痛々しいだけだ。


「子供が欲しいと言うが、イオネラの身体では負担が大きすぎる」


俺の浅い知識を披露して、幼い身体での出産は危険だという事を説明する。この世界は魔術での治療があるようだが、出産に役に立つような気はしない。

イオネラは納得していないようだが、思わぬ方向から援護が来た。


「ああ、そう言えば」


「何か知っているのか?」


「も、申し訳ありません」


そう口にしたのは、屋敷にいる召使さんだった。

本来なら主の客の会話に割り込むようなことは許されないが、つい口を滑らせてしまったようだ。

だが、アーヴァング氏は、この事態を打開したかったのか、無礼を咎めることなく先を促す。


「は、はい。私が聞いたことなのですが」


年配の召使さんも、俺の知識を肯定する。この世界では結婚や出産に年齢制限は無いので、イオネラみたいな幼い少女が子供を産むことがあるそうだ。実にケシカラン。

だが、やはりと言うか、難産の末に死産や産褥で母子の何方か、或いは共に死亡するケースを耳にするそうだ。


召使いさんが言うには、あまり幼いと一応は経験則で良くないっぽいという曖昧な話だったが、俺の浅い知識は、その補強がなされたようで、彼女もイオネラの年齢でに出産は危険だという意見に賛成した。


「じゃあ、大きくなったら、タケル様の子供を産んで良い?」


大きくなったらダメだ! 小さい子が好きなんだ!

……などと言える訳がなく、曖昧に頷こうと思ったが、イオネラの剣幕に押されて、大きくなったらと約束してしまった。

え~と、俺、イオネラと結婚するの? いや、嫁にしなくても良いと言われても、遊びは良くないよね?


だが、問題はそれだけでは無い。俺が大きくなったイオネラに興奮できるのか?

色んな問題が山積みになったまま、先送りにして朝食を取ることになった。

正直、味がしないのですが?

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