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根之堅洲戦記  作者: 征止長
戦闘狂が率いる部隊
44/112

帰還後の御褒美

「ヴィクトル、先行して元帥へ報告を頼めるか」


ブルラドでは、あの後は何事も無く、翌朝を迎え、カラファト城に連絡を入れて魔族を運ぶ荷車を借りると、休むことなく王都へと真っ直ぐに向かった。

王都の直轄領に入った時点で、ヴィクトルに今回の事を連絡しに行かせることにした。


「いや、冷静に考えたら拙いよな。偶然の遭遇なら兎も角、勝手に郷を攻撃とか、全体の作戦に影響が出るんじゃね?」


「お前な今更だぞ。だが、気にするな。本当に拙かったら俺もバルトーク殿も反対している。

 それに残念ながら、全体の作戦も何もあったものじゃない。

 前回の敗戦の立て直しで精一杯だからな。全体の方針など、攻めてきたら全力で守る位しか無い」


「いや、それ最悪じゃね? 完全に敗戦国の行動だぞ」


「実際にそうですからね。タケル殿の活躍で忘れそうになりますが、誰しも心の中では勝利を見い出せてはいませんでした。目の前の傷を取り繕うのに精一杯でしたから」


「その割には勇者の召喚に反対してたな」


「タケル殿が予想外過ぎただけです。それに、投げやりになっていた方に言われたくはありません」


「妬いて八つ当たりする奴にも言われたくはない」


「お前等、ケンカすんなよ」


良くわからんが、偶にヴィクトルとエリーザは険悪になる。

名門のプライド辺りが衝突するのだろうか?


「じゃあ、俺は行くぞ。門兵には伝えておくから、王都へ入ったら、ゆっくり移動してくれ。

 あまり急がれても元帥が間に合わん」


「ああ、分かった。このまま速歩(はやあし)(馬にとってのジョギングペースの速度)で向かう。

 また王都でな」


「ああ」


ヴィクトルは10騎を率いて、駈足(かけあし)(馬にとってマラソンペース。速歩の5割増しの速度)で去って行く。予定では俺達より一時間くらいは早く王都へ到着するだろう。

のんびりと進もうと思っていたら、ジジィが馬を寄せてきた。何か言いたいことがあるのだろうか。


「ヴィクトルは、ああ言ったがが、今後は勝手に郷を攻撃するなんて事は避ける事じゃ」


「ああ、勝手な事はしないさ。一応、軍紀が大事だって事くらいは理解している」


「そう言う問題ではない。ワシが恐れるのは奴を刺激する事じゃ」


「奴? ヘルヴィスか?」


「ああ、聞いたと思うが、前回の奴は、このロムニアに手強い奴がいると勘違いした結果、攻めてきた。

 おそらく奴にとっては、強敵は自分を楽しませる存在よ。奴がヌシの事を知れば、喜々として首を取りに来るやもしれん」


「正直、今は嫌だな。会った訳では無いが、現状で勝てる気がしない」


その強さに興味があるし、今すぐにでも戦いたい気はするが、これは戦争だ。戦う前に勝てる算段を付けなければ戦う資格は無い。


「ならば、暫くは大人しくしておれ」


「分かってるさ。今は訓練に精を出そう。まあ、すでに手遅れって可能性もあるがな。

 その時はその時だ。戦って無理なら逃げる。それも無理なら死ぬだけさ」


すでに、郷を落とした事実は変わらない。その件で奴が、どう行動するか見当もつかない以上は、深く考えても仕方がない。

一応は、国として攻めてきた場合の迎撃態勢は、常に作られているし、それに参加するだけだ。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





久しぶりに王都へ戻ってきた。今回は北門から、こっそりと入ったが、門を守る騎士から、熱烈な歓迎を受けてしまった。

いや、喜んでくれるのは嬉しいが、少し面倒くさい。

笑顔でやり過ごし、門を通り王都へ入ると、出発した時に進んだ道を戻る。


「そう言えば、お前らは新しい兵舎になる筈なんだよな? 引っ越しはどうするんだ?」


「はい。出発前に荷物は纏めておきましたから、新しい兵舎の食堂に運び込まれている筈です。

 後は各自で部屋へ運びますが、手は十分にありますから、大変なものではありません」


アルマに聞いてみると、そう大変では無いようだ。隊の移動は慣れている上に連携が取れる集団だ。

丸一日もかからないと自信をもって答える。


兵舎は、俺の世界で言う寮と社宅の中間と言う感じだった。一階に食堂や風呂トイレなどがあり、指揮官クラスの広めの部屋がある。2階から3階まである個室は狭いが文句は言えない。

ただ、隊を率いるのが、俺は宮殿で、他の者は屋敷持ちなので、アルマに隊員の管理を任せることになった。男女一緒の建物になるので、補佐としてトウルグが入り、相談してもらう事になっている。


「俺も兵舎で暮らしたいな。王宮って何か緊張するし、最近帰って無いから顔を出し辛いし」


「家出した子供みたいな事言わないで下さい。それに隊長が来ると、私達は良くても、周りが困りますよ。

 あの勇者が兵舎で暮らしているのに、って、無理をする人たちが出ますし、隊長と違って兵舎で過ごされると困る方たちもいますから」


「ん? 我が儘だったり贅沢な奴はいないだろ?」


「悪い方では無くても威圧感が強いんですよ。隊長は普段は話しやすいんですが、そうでない方もいます。

 筆頭は元帥ですね。お優しい方ですが黙ってても威厳が強いんです」


それって、暗に俺には威厳が無いって言ってるよね。

まあ、良いけどさ。


「まあ、思ったより引っ越しは楽そうだけど、やることはあるだろうし、ヴィクトルが戻ってきたら解散するか。引取りの人員くらいは出すだろ?」


魔族の引き取りの人員を連れてきてくれれば、コイツ等はやる事も無いだろ。

まあ、出来ればトウルグは欲しいが、今日くらいは休ませたい。


「そうしてくれれば助かりますが、良いんですか?」


「ヴィクトルが変な依頼をされてなければ、もう仕事も無いだろう。残り三日しか無いが、年が変わるまでは自主訓練って名目で休んで良い」


「それだと隊長とは来年まで会えないんですか?」


そう口を挿んできたのはルウルだった。

何だ? コイツに限って俺に合えなくて寂しいとか、もっと訓練を続けたいとか、そんな殊勝な事を考えるはずがない。何を企んでるんだ?


「いや、そんな不審者を見る目をしないで下さいよ。エレナが相談があるみたいなんですよ」


エレナ? 戦い足りないってやつか。どうにも血の気が多いチビッ子だとは思っていたが、もっと魔族の死体を積み上げたいですとか言いたいんだろうな。

もう少し笑顔が増えないと、俺は喜ばないぞ。まず、その無愛想を何とかしろ。


「凄く、酷い事を考えてそうな顔をしてるけど、まあ、武器の相談です。

 これだと届かない事がある」


ああ、薙刀の間合いだと二列目の時に太刀より短いくらいだからな。

薙刀は、槍と違って刃の部分が広く作られているから、重量が増えて長くすると使いにくい。


「あ、それ俺も思いました。正直言えば、隊長の槍って武器に興味があります」


イグニスや、他にも槍に興味を持った者がいるようだ。

集団突撃で刺突は使いにくいが、興味があるなら触らせるか。


「じゃあ、俺のを貸しとく。これだと長すぎるだろうが、どれくらいの長さが良いのか参考にはなるだろ」


「良いんですか?」


イグニスに槍を渡すと驚かれたが、別に消耗品としか考えていないので構わない。

ちなみに予備も作らせている。今回は訓練だけのつもりだったから持ってきてはいないが、俺みたいに乱暴に振り回して武器が壊れないと考えるのは無理があるだろう。


「まあ、武器に関しては俺も考えておくし、お前等も要望があるなら言え。全て叶えるとは言えんが、遠慮して力が発揮できないよりはいい」


「はい。みんなで相談したいと思います」


「まあ、暫く余裕はあるし、交流を兼ねて話し合え。

 じゃあ、あまり進んでも新しい兵舎から離れたら面倒だし、兵舎の近くで……あれ? 新しい兵舎って何処だ?」


「私達も知りませんよ。荷は見習の子たちが運んでくれる手筈になっていましたから、元帥へ帰還の報告する際に、知っている方がいると思っているので気にしませんでした」


「見習い? じゃあ、見習の子なら知ってるか」


「そうですね。馬場までは進みましょう。軍馬を世話してる子がいるはずです」


そう言えば、最後にアリエラと会ったのが馬場でだったな。イオネラに至っては、その前。

二人がいた場合は声をかける理由が出来たな。良い提案だぞアルマ。誉めてやろう。

だが、三か月くらい会っていないが、忘れられていないかな? いや、流石にそれはないだろう。


「あ、あの辺りに見習いの子たちがいますね」


確かに、ぽつぽつと小柄な人がいる。アリエラは? イオネラは?

探してみるとフワッとした髪形を発見。間違いない。


「お~い、イオネラぁ~」


馬から降りながら声をかける。間違いない。イオネラだ。相変わらず綺麗な顔立ちの美少女っぷりである。

あれ? キョトンとしてる。もしかして忘れた? 不審者に声をかけられたと警戒してる?

そう思っていると、走ってこちらに向かってきた。何だ?


「タケル様だぁ」


そして、走ってきた勢いのままに抱き着いてきた。

これだよ。明るく無垢な行動。これが良いんだよ。いくら全裸でも死んだ目をしてたらアカン。

それにしても鎧が邪魔だ。せっかくのイオネラの感触が味わえない。まったく、グロース王国が考案した鎧らしいが、美少女が抱きついてきたらパージ出来るくらいの機能は付けておけ。そんなんだから、魔族に勝てないんだよ。


「久しぶりだなイオネラ」


ネコみたいに頭を擦り付けてくるので、折角だから頭を撫でてやる。この状態だ。多少のスキンシップは問題あるまい。

髪の毛フワフワだなぁ~。柔らかいなぁ~。守りたくなる保護欲が湧いてくる。

そうしていると急に顔を上げて……


「タケル様、臭い」


よし、腹を切ろう。

風呂に入る余裕が無かったなど言い訳にすぎん。少女を不快にさせた罪は万死に値する。俺に生きる資格など無い。

ヴィクトルが戻ったら、介錯を頼もう。同志ヴィクトル(ロリコン仲間)なら、俺の罪も、俺が少女に臭いと言われた嘆きも理解した上で、この首を叩き落してくれるはずだ。


「でも、嫌いな匂いじゃないなぁ」


そう言って再び頭を擦り付けてくる。

すまないが同志ヴィクトル、切腹は中止だ。俺には、この子を守る使命がある。おいそれと死ぬわけにはいかんのだ。


「イオネラ、無礼だぞ」


エリーザがイオネラを嗜めるが、下がっていろ。空気読め。


「エリーザちゃんも久しぶり。で、進展はあった?」


「な、なにを」


「まあ、ある訳ないよねぇ、所詮はエリーザちゃんだし、変な行動してただけで」


「所詮とか言うな!」


ああ、エリーザの変な行動は公認だったんだな。むしろ病気? 凄く納得した。

コラ、エリーザは近付くな。距離を取れ。あまり近付くとイオネラに病気が移るだろうが。

だが、苦笑しながら仲裁したのはアルマだった。


「イオネラ、あまりエリーザを揶揄うな。その内、泣くから」


「は~い。アルマちゃんも久しぶり」


「ああ、久しぶりだな」


「ん? アルマも知っているのか?」


「はい。訓練所でエリーザと一緒だった時期に、屋敷へ案内されたことがありました。その時にイオネラも遊びに来ていて、従妹だと紹介されました」


「でも、アルマちゃんだけでなく、この隊の人たちって、知らない人の方が少ないかなぁ。みんな元気そうで良かった」


ウチの隊員の顔を見ながら、懐かしそうに呟く。

まあ、集まってるのは、モンスター小僧こと、ゲオルゲ・ライヒシュタインと訓練所で一緒だった面子だ。

ゲオルゲと同期のイオネラは、最初にヴィクトルが小隊長にと集めた9名以外は訓練所で最低でも一年は過ごしている。

その中ではトウルグが、イオネラの家に仕える騎士だから、顔合わせはしてるらしいし、ルウルは訓練所で一緒の上に仕える騎士の家。

それだけ知ってる連中の集まりのため、イオネラの自由な行動にも驚いた様子はない。


「で、今まで何処に行ってたんですか? タケル様の隊の人が訓練から帰ってこないからって、引っ越しの荷物を私たちが運んだんですよ」


「おお、それだ。その引っ越し先を聞きたかった…」


その時、何か重いものが落ちる音が聞こえた。

振り向くと、荷台に積んでいた魔族が落ち、逃げようとしていた。

だが、拘束具が解かれているのは腕だけだったので、うつ伏せで匍匐前進で逃げようとしている。


「手の指の拘束が切れてるな。それにしても、足の拘束を外さないで逃げ出そうとするとは……」


「想像以上に頭が悪いな。またボコるか? それとも見せしめに殺してしまうか?」


そんな状況にも関わらず、我が隊の連中は落ち着いている。一定の距離を置き、()る気満々で、武器を構えて俺の命令を待っている。

まあ、殺すのは勿体ない。さくっと拘束しなおそうと思ったら、俺の腕に強い抵抗を感じた。イオネラが怯えて俺の腕にしがみ付いている。


「……魔族? あれが?」


よし死刑。殺してしまおう。

イオネラを怯えさせた以上は、死を持って償ってもらおう。


「予備はある。殺していいぞ」


「落ち着かんか、この戯けが」


後ろから頭を叩かれた。

このクソジジィ、そんな呆れた表情で見るな。


「血の気の多い小僧共が。で、どうじゃ? 何やら気にしておるようじゃが?」


ジジィが問いかけたのはトウルグにだった。

トウルグは手に何かを持ち、荷台の中を確認している。


「拘束の紐が少しですが溶けています。これも気の影響でしょうか? このままだと全部、拘束を引き千切るでしょう。今の内に拘束しなおす事を進言します。

 あ、これ以上、離れられると面倒なので、コイツは押さえますね」


そう言いながら、逃げようとしている魔族の背中を踏みつける。

この人、凄く優秀なんですけど。俺より隊長に向いてない?


「ほれ、命令を待っとるぞ」


「ああ、荷台の中身の拘束をし直せ。上から重ねても良い」


俺が指示すると、隊員が一斉に荷台に群がり、手早く拘束をしていく。

その間、踏みつけ係をイグニスに変わってもらったトウルグが近づいてきた。


「これです」


そう言って、魔族を拘束していた紐を渡してくる。

確かに、溶けたようになっている。ただの力任せに引き千切った訳ではなく、溶けて弱くなったところを引き千切ったのだろう。


「面白いな。また、良い土産が出来た」


「そうでしょうか? 役に立つ情報かは分からないと思いますが?」


「情報を生かせるか生かせないかは、受け取った者の責任だ。これが生かせないなら、受け手の元帥やアルツール将軍が悪い」


「トウルグ君、凄い人だったんだ」


イオネラが感動したように呟く。騎士になった途端に、シュミット家の当主になる身として、将来の有望な家臣に感動しているようだ。


「ありがとうございます。イオネラ様。ですが、全て隊長の指導によるものです」


「でも、凄いと思うよぉ。あと、様は止めてくれると嬉しいな」


「申し訳ありませんイオネラ様。性分なもので直せそうにありません。如何様な処分でもお受けします。

 それと、非礼を承知で言わせていただきますが、非常事態では隊長の腕を放して頂けますか。この方こそ、ここでの最高戦力です。イオネラ様の行為は、味方の最高戦力の足止めに他なりません」


いや、マジで凄いな。このイオネラのペースに動じてない。

流石はパペルと二人で真面目の両翼と言われているだけはある。

だが、イオネラは離れなくても良い。このまま抱きついているように。


「あ~う~、ルウルちゃん」


「あ、無理だから。いくらイオネラの未来の側近ルウル様でも、トウルグさんの性格をどうにか出来るほど優秀ではないから。諦めて(うやま)れなさい」


コイツは別の方向で凄いな。と、言うより酷い。普通は直属の仕える家系には遠慮する。

例えば、エリーザの事をウチの隊員は、エリーザ副長か、エリーザさんと呼ぶのが殆どだが、ライヒシュタインの家臣であるイグニスは頑なに様で呼ぶ。

しかし、これが普通。そうしないと、家族にも迷惑がかかる可能性があり、家を重んじる文化なので、そこは身に染みているのだ。


まあ、見た感じでは、イオネラには適した二人だと思う。

片や気楽に話せながら無理なものは無理と言い、片や悪い事をすれば叱ることも出来る真面目な家臣。

シュミット家って悲惨だと聞いていたが、そう悪い事ばかりでは無いようだ。


「タケル殿、ヴィクトル殿が来ます。元帥も一緒の様です」


ヴィクトルが、元帥の他、数人の騎士を連れてこちらに向かっていた。

予想通り、土産の受け渡しはここで出来そうだから、隊員たちは帰らせて良いだろう。


「また、随分と派手なことをしたな」


アーヴァング殿が苦笑しながら話しかけてくる。一瞬、俺にしがみ付いているイオネラを見たが、気にした様子も無いようだ。

いや、派手の内容は美少女に抱き着かれていることか? いや流石にそれは無いか。


「そこは、まあ、土産があるって事で大目に見て下さい」


「私達、軍人にとっては嬉しい土産だし、我が国にとっても全体的に良い事尽くめだ。

 ただ、廷臣どもの慌てようと言ったら無いぞ。年が変わるまで三日しかないのに、三千の住民を何処に受け入れるか騒いでいる」


だ、だよね。全体の作戦の問題もあるけど、そういった内政にも関わってくるんだよな。

やはり、襲撃前に連絡して許可を受けるべきだった。


だが、これで益々、帰り辛くなった。王宮に行けば廷臣と顔を合わせる機会もあるし、素直に文句を言ってくれるなら受け入れるが、そんな事はしないだろうな。

俺のせいで、忙しく走り回る人を見るのは忍びない。


「それで、その子は?」


ヴィクトルがイオネラに興味を持ったようだ。流石は同志。イオネラの魅力に逆らえなかったようだ。

まあ、既に俺に抱き着いているし、羨ましいだろうが諦めて貰おう。


「隊長が、我々の兵舎の移動の事を気遣ってくれたんです」


そこにアルマの援護射撃。俺にイオネラが抱きついてることの正当性をフォローしてくれた。

道中の経緯を説明してくれる。つまり、一点の曇りもない正当なハグだ。

まあ、あまり悔しがるなよ。


「なるほど、確かに早めに済ませたいな。今からなら、明るい内に部屋決めと荷物の移動も終えられるだろう。

 元帥、隊員たちは兵舎へ直行で良いでしょうか?」


「隊長が良いと言ってるんだ。問題は無い。案内は丁度いい、騎士見習いイオネラに命ずる」


「了解です。勇者殿の部隊の皆様方を、新しい兵舎へ案内します」


イオネラが俺から離れて、軍人らしく直立して返事する。

おまけに、命令に誤解が無いよう、復唱して返答することで、確認も兼ねた満点の回答だ。

良く出来たと頭を撫でてやりたい。


だが、結果的にイオネラは離れてしまった。

仕方がない。いや、予想外の御褒美タイムだったと思えば、充実した時間だったと言えるだろう。


「よし、兵舎へ行ったら改めて命令があるまで各自自由行動。ヴィクトルはもう暫く付き合え。ジジィは、どうせバックレるだろうから好きにしろ。

 エリーザは一緒に兵舎へ行ってやれ。問題があれば解決。無理なら俺に言ってくれ。その後は自分の家へ戻って良い。マイヤにも今回の事を伝えてやれ」


指示を終えると、俺はヴィクトルと一緒に元帥について行く。

これからのことを考えると、あの死んだ目をした少女の存在は、助かったかもしれない。


「隊長? どうした?」


「いや、気にするな。少し残酷な気分になっただけさ」


ヴィクトルが俺の殺気じみた感情に反応したが、軽く受け流す。

これから行う所業は、相手を悼んではならない。

何処までも残酷に、冷酷に、痛めつけ、身体を切り刻む。そういう作業だ。

そして、奴らを皆殺しにする材料を探そう。





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