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根之堅洲戦記  作者: 征止長
戦闘狂が率いる部隊
41/112

襲撃

ヴァラディヌス城の周辺を探索した結果、廃墟になっていない郷で、ブルラドと言う名の郷が、ヴァラディヌス城の西にあり、更に10kmほど西へ行けば海になる。

そして、何より城壁が破壊されていない。つまりは、中に居るって事だ。

幸いに、西の漁村には船が残っており、避難もしやすいという考えもあって、そこを襲撃場所に決定した。


翌日、日が昇った直後からブルラドの外壁を回り続けた。

早々に城壁にいた見張りは気付いたが、中々出てこないので焦れていたが、ようやく南門に軍勢の気配が集まってきた。


「さて、出てきてくれるみたいだな」


「隊を指揮する長は、人語も喋るし、それなりに頭も働くからな。

 俺たちが東、北、西と回っている間に、南門から出て軍を展開させるつもりだろう」


隣を駆けているヴィクトルに話しながら、郷の4隅にある見張り台にを見ると、それまで2人ずついたのに、今は一人しか残っていなかった。

最小限の人数を残して全軍で出てくるつもりらしい。


「次に南門に来た時は軍勢が待ってるかな?」


「あるいは、更に一周する必要があるか。どちらにしろ、追い払うだけってことはなさそうだ」


ヴィクトルも見張り台を見ながら返事する。

これまでの常識で言えば、100騎を追い払うだけなら、魔族は50体も居れば十分な戦力だ。

だが、見張りまで戦闘に参加させるつもりなら、100体は出てくると考えて良いだろう。


「よし、戦闘態勢に入る」


「分かった。おそらく奴らは…」


「いい。変な先入観は要らない」


この状況から、今度南門へ行った時に待ち受けている、魔族の陣形を予想しようとしたのだろうが、その言葉を打ち消す。

昨日、何度も話し合った事だ。いくつかのパターンは考えたし、対策も考えた。

だが、実戦に入る前の予想は、期待へと成り下がりかねない。最悪のパターンを予想してもダメだ。最悪を予想したつもりが、更に思いもつかなかった最悪が待っているかもしれない。

だから、予想は捨てる。武術の構えで言う無構え。あらゆる状況に対処するため、あえて構えない。


「そうだな。では、俺は後ろへ行く」


「ああ、後でな」


そう言って、ヴィクトルは、予定通り最後尾へ回る。

隊員たちには、命令があるまで攻撃禁止と伝えているし、命令を無視したら、ヴィクトルに斬られると伝えているから、勝手なマネはしないだろう。


西の外壁から、南の外壁へと回ったが、まだ出てきてはいない。

どうやら、思ったより鈍い軍隊らしい。

だが、南門の内側には、更に多くの気配が集まっていた。


再度、東の外壁へと向かい、もう一周し始める。

途中で突撃してくる可能性も考慮したが、やはり無かったようだ。

機動力に劣る魔族の横撃では、大して効果は無い上に、逃げられて終わりだ。

逆に考えれば、逃がす気は無いって事だろう。


東から。北の外壁に回った瞬間に、北東の見張り台から、南へ向かって合図が出された。

今の合図で、南門から魔族が一斉に出撃したのだと思う。いや、これも期待か。あまり考えすぎないようにしよう。途中、北や西の門から出てくる可能性だってある。


そして、そんな事は起きないまま、西の外壁から、南へ回ろうとした際に、魔族の軍勢が南門の外へ出て、北を向いて展開し終えていた。


「予想通りと言えば予想通り。むしろ期待通りだったか。ひねりが無さすぎるな」


敵は横に広がった横陣。縦に5列、横に20列で、包囲しようと言う魂胆が丸見えで、自分たちが突破されるなんて考えは持っていないようだった。

予想し合った敵の行動で、最も可能性が高く、期待していた行動だった。


俺達は郷を背にして、敵の正面に陣を組む。

奴等にとっても、理想的な展開だろう。このまま、郷の中まで押し込んでいきたいはずだ。

敵の中央に少し雰囲気が違う奴がいる。獣の中に混じった知性を感じる獣。あれが、隊長だろう。


「だが、所詮は獣の知恵か」


これだけ都合よく、目の前で対峙する相手を見て不審に思わないようでは、所詮は知恵無き獣と変らない。いや、獣の方が恐怖に敏感な分、手強いくらいだろう。本能や勘よりも知識に頼る人間と同じ欠点を持っているようだ。


「全騎…」


左手を上げる。手の合図は、4列の縦陣。

中2列の弓騎兵を外側の騎兵が挟み込む隊列。

闘気は、それほど高くは無い。恐怖の方が強いような気がする。

それなら良い傾向だ。まずは、恐怖を超えてもらう。


「…突撃!」


敵の中央、魔族の隊長らしき男に向かって一斉に駆ける。

こちらの突撃に、一瞬だけ驚いた表情を見せたが、直ぐに笑みを浮かべて、指示を出している。やはり、アレが隊長で間違い無い。違ったら、それはその時考える。今は、アレを討つ。

アレの元へ向かう、最適なルートを見つける。その弱いラインと言うべきものが何となく見えるので、そこを目指す。


アレの指示なのか、横陣が、鶴翼の陣のように両端が前、中央が下がるようになっていくが、遅い。遅すぎる。

俺は、下がり始めた中央に飛びつき、雄叫(おたけ)びを上げながら、槍を横薙ぎに払うと、一振りで先頭に居る3体の魔族が吹き飛んだ。

目の前で味方を吹き飛ばされて、隊長が驚きの表情を浮かべる。


更に横薙ぎで、隊長の前に居る魔族を全て吹き飛ばす。

ここに至って恐怖の表情を浮かべる。腰も引けている。つまらん奴だ。隊長格は強いと聞いていたが、何だ、この下らん奴は。拍子抜けも良いところだ。

これ以上、その(ツラ)を見たくない。


顔面目掛けて突きを撃つと、顔面が吹き飛んだ。直ぐに引き、2撃目を胴体に突き刺して、高々と持ち上げて、周囲に見えるようにしながら、敵の部隊を突き抜けて、後方に回り込む。

ウチの隊の雰囲気は動揺が強い。恐怖は無くなっているが、まだ早い。


混乱する魔族軍に向かって再突撃をかける。

槍に刺さったままの首の無い魔族の隊長の身体を重りにして、メイスのように振り回す。

残念ながら効果は薄い。重さはあっても、直ぐに潰れて取れてしまった。


だが、魔族の表情が恐怖に歪むのが分かる。それまでのエサを見る目が、捕食者を見る目に変わった。

それで良い。それが正しい認識だ。俺が狩る者で、お前らは狩られる側だ。

お前等には、その程度の価値しか無い。


ようやく背後から、闘気が満ちてきた。隊員たちの恐怖が消え、戦いたい意思が湧いてくる。

だが、足りない。その闘気を抑え、敵を睨め。どうやって倒すか。どうやって攻撃を防ぐか。どうやって殺すか。考え続けろ。


横陣だった敵を、横から貫く。

およそ20列。だが、逃げ腰の敵など槍と軍馬で蹴散らしながら進める。

進む。更に闘気が満ちてくる。

もっとだ。もっと戦いたいと願え。


進む。闘気が溢れそうになる。

もっとだ。狂え。敵を殺したいと願え。


進む。敵陣を切り抜け、再度の突撃に備え、陣を整える。

すでに、闘気は破裂しそうなほどだ。獲物を前にした猟犬のように、狂おしいほどの意思が伝わる。

早く狩らせろと、音も無く吠えている。

良い感じだ。その想いを叶えてやる。目の前に居るのは、恐るべき人類の敵では無い。お前等が狩る獲物だ。


「全騎、攻撃を許可する!」


背後から、雄叫び、獣の咆哮。

それに押されるように敵陣に突撃。蹴散らしながら、敵を蹂躙していく。

再び突き抜けた後は、俺が単騎で暴れていた時とは比べ物にならない損害を与えていた。

今の突撃で、30体は片付けた。味方の死骸も見当たらない。


もう一度、敵の密度が一番高い場所へ向かって突撃する。

突き抜けた後は、混乱し、敗走すらままならない敵の群。


「追撃編成。これより残敵の殲滅開始」


ヴィクトルとエリーザに、それぞれ騎兵を30騎、弓騎兵を20騎ずつ預け、俺はジジィと残りの弓騎兵9騎を率いて、ブルラドの城門へと向かう。

途中、郷の中へ入ろうとしていた3体を討ち払い、郷の中へと入る。


「ジジィ、全員を率いて南西の見張り台の奴を討て」


「貴様は?」


「残り全部」


そう言い捨てて、南東の見張り台へ向かう。建物の中に居るなら生け捕りを狙うが、見張り台の奴は、近くの郷や城へと合図を送る可能性がある。故に、何かする前に殺す。

見張り台は、約3メートルの高さ。馬上の俺の高さは、地面から肩までで約2メートル。足を狙えば十分な高さだが…


「安綱、跳べ!」


俺の半身が名前を呼ばれると、見張り台へ向かって跳躍する。

地面から2メートルは飛んだだろう。一振りで見張り台の魔物を倒すと、安綱は壁を蹴って向きを北へと変える。

本当に最高の名馬だ。お前が居ればこの程度の高さの敵を討つのに時間のロスは無い。


南東の見張り台から、北東の見張り台へ一気に進む。

途中にある東門にも居ると思っていたが、門が開かないように潰されているだけで、見張りを置いてはいないようだ。

そのまま通り過ぎ、同じように安綱の跳躍に合わせて、北東の見張りを倒す。


「こっちには居たか」


続いて北西の見張り台へ向かったが、途中の北門には見張りの魔族が2体残っていた。

幸い、北西の見張り台の魔族は、呆然としていて、何か合図のような物を送る気配はない。本当に弛んだ軍隊である。

だったら、ここは、多少はロスするが、殺さずに動けなくなるようしよう。


「ここで待て」


安綱に命じて、停止させると、俺は軍馬から飛び降り、魔族の前に着地する。

慌てて攻撃しようとしてきたが、それより速く、両足の甲、正確には足の指先を狙って突きを2回。

神経は、人間と大きく変わらない事は、この前の解体時に学習した。

両足の先端を槍で突き砕かれた激痛で、悲鳴を上げて倒れこむ魔族のコメカミに掌底を放って、脳に衝撃を与えると、一体目の魔族は失神して倒れた。


二体目、踏み込んで攻撃を躱しながら、鳩尾に正拳突き。上体が折れ曲がり下がってきたので一体目と同じく脳に衝撃が入るように掌底で攻撃。倒れる直前に足の甲を突いて、直ぐに動けなくする。

二体の魔族を無力化すると、北西の見張り台へ向かって駆け始める。


「安綱」


途中で追い付いた安綱に飛び乗ると、先の二か所と同じ方法で、北西の魔族を倒すと、南西の見張り台へと向かう。

南西の見張り台に居る魔族は、ジジィ達が向かっていたが、まだ、仕留められてはいない。

だが、弓で攻撃され弱っているようだ。気が薄い。


「後は俺がやる」


安綱の(くら)の上に乗り、跳べる体勢になる。

俺が指示を出さなくても、安綱は先程と同じように跳び、俺は、それに合わせて見張り台の上に飛び乗り、その上に居る魔族の関節を極めて無力化する。


「拘束道具を出せ」


「私が行きます」


下に居る者に声をかけると、ナディアが返事して拘束道具の入った袋を持って見張り台を上がってくる。

魔族を拘束するには、手首を縛るより、ワイヤーのように細い金属を編んだ紐を使って、指を縛る方が良い。

更に、親指同士を縛ったワイヤーの逆側で首を縛る。ただでさえ、細いワイヤーを引き千切ろうとすると指に食い込んで力が入らない上に、首まで締まるので、力で拘束を解くのは不可能な作りだった。


「北門に2体、無力化してある。トウルグ、やれるか?」


「はい。大丈夫だと思います」


見張り台の上で、ナディアが持ってきた拘束具を使って、魔族を拘束しながら、指示を出す。

トウルグは真面目な性格のためか、解体の際も体の構造に興味を持ち、その流れで俺に体術を習い始めた。

指導した感触では、打撃系は今ひとつだが、関節技や投げを主体とした柔術や合気術の才能がある。

今の奴なら、怪我をした魔族を十分に拘束できるはずだ。


「ジジィは手伝ってやれ。トウルグが死にそうになったら、お前が盾になれ」


「やかましい。そうなりそうになったら、仕留めるわい」


下に残っている隊員を引き連れ、ジジィとトウルグが離れていく。

トウルグは真面目過ぎて、無茶をやりかねないが、ジジィが居れば心配ないだろう。

そちらは任せて、外の戦況を確認する。


「もう、終わりそうだな」


ヴィクトルの率いる隊は、逃げる獲物に巨大な蛇が巻き付くように、魔族に絡みついては離れていき、その後には討たれた魔族の死骸が残っている。


エリーザの隊は、牛飼いや羊飼いが家畜を柵に追い込むように、逃げようとする魔族を追い立てては、郷の方向へ追い立てる。

追い立て、集まっては蹴散らし、魔族の数を減らしていく。


エリーザは、どちらかと言えば敵を追い立てることを重視し、ヴィクトルが追い立てられたられた魔族を包むような戦い方で殲滅していってる。


「あ、ヤニスってば、集団の中から射て仕留めましたよ」


「ほう」


ルウルの言葉でヤニスの姿を探すと、エリーザの隊の中心にいながら、冷静に弓を放っている。

だが、ヤニスが仕留めたかどうかなんて分からない。

何しろ、矢が当たると同時に斬撃も次から次へと繰り出されるから、誰が倒したかなんて外から見ていて判断が付かない。

と、言うか、既に死んでる奴まで切り刻んでるんだが。


「あれで、よくヤニスが仕留めたって気付いたな」


「え? そ、それは……あれですよ。ほら、弓騎兵で参考になるのって、ヤニスですから、まあ、偶然ではありますが、見てたって言うか」


「ふむ、良い心がけじゃ無いか。だが、こういう状況では全体を見た方が良いぞ。

 個人の動きは頼めば見れるが、今の状況を訓練で見ることは難しいからな」


「……そ、そうですね」


これだけの乱戦である。訓練では再現することが出来ない状況だ。色々と学べることがある。

そんな良い事を言ってるのに、何故、そんな呆れた目を向けてるんだ?







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