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根之堅洲戦記  作者: 征止長
戦闘狂が率いる部隊
33/112

兵種変更

「お、逃げ出してきたな」


「はい。(かくま)ってください」


俺が近づいてくると、クルージュ将軍が揶揄う様に話しかけてくれる。

カラファト城で1週間近く一緒に過ごし、今では敬語を使わなくなり、多少の冗談も言い合える関係になった。


「さて、まずは紹介しておこうか」


40歳から50歳半ばと思える3人の将軍の将軍を紹介された。

最年長のティビスコス、如何にも勇猛そうなブライノフ、冷静な雰囲気のアルツール。

3人とも、威厳があるが、何処か人が良さそうな感じだ。


「元帥の事は知っているんだよな」


最後にアーヴァング元帥。この人には、この世界に来た時から世話になっている。


「ええ。世話になっています」


「大したことはしていません。本当に今回は良くやってくれました」


「いえ、そんな事は…」


「おい、待て」


元帥との会話を、クルージュ将軍が呆れた表情で止める。


「なあ、先程も言ったが、タケル殿は堅苦しいのは好まん。少しは砕けろ」


そう。もっと言ってやって。元帥みたいな威圧感がある人から、かしこまった態度で来られると緊張するんだよ。


「だ、だがな……」


「私も、そうしてくれると助かります」


「ほら、タケル殿が、私とか言ってる時点で駄目だな」


「まあ、急に変えろと言われても難しいだろう。タケル殿の隊、今度は王都で暫く過ごすのだろ?」


ティビスコス将軍が、もっともな事を言いつつ、俺の予定を確認してくる。

うん。今度は暫く王都から離れられない。本音を言わせて貰えるなら、直ぐにでも全員で外に出て楽しい野外訓練をやりたいのだが、1つ問題が発生したのだ。


マイヤの精神的なダメージである。

どうやら、マイヤを投げ捨てた男なのだが、モルゲンス家で長い事働いていて、マイヤも良く知っていた人間なのだ。

そんな人物だからこそ、マイヤの母親は娘を託したのだが、結果があれである。


そんな訳で、マイヤは、人間不信になりかけているみたいなんだな。

現状では、ダニエラへの依存症、一歩手前の精神状態。

今、ダニエラを強引に引き剥がせば、精神的に壊れてしまいかねない。

ダニエラを俺の隊から、マイヤの専属護衛に移動する案も出たが、これはこれで、完全な依存症になってしまうので却下した。


一応、カラファト城に居た頃は、マイヤは城壁で見学し、その見える範囲で訓練をやってたのだが、結果として、ダニエラが所属するウチの隊員には、ある程度なら会話も出来るようになり、多少は精神状態の安定も見られるようになった。

そんな訳で、預かり先をライヒシュタインの屋敷にして、マイヤが新しい環境に慣れるまで、暫くはダニエラはエリーザと一緒に訓練後に屋敷に戻る事にした。

ライヒシュタイン家なら、同じ歳になるエリーザの弟もいるし、馴染みやすいと思う。


あれ? そう言えば、エリーザの弟って、身分違いの女の子にガチ惚れしたり、女に容赦しないバトルマニアだった気が? おまけに今日聞いたヴィクトルの話だと……うん。残った弟はマトモな奴だと信じよう。

預かるとなったエリーザだって、多少不安そうな表情をしていただけだ。問題ない。


そんな訳で、残念ながら、暫くは日帰りできる範囲での訓練になる。

よって、追加された新入隊員は、ヴィクトルに任せて、今いる隊員は、新しい兵科を試す予定である。


「弓騎兵、と言ったか?」


「はい。馬上で駆けながら弓を射れないか、やってみようと思います」


攻撃の密度を上げるには、間合いの異なる武器を揃えたいが、剣と薙刀だけでは、限界がある。

更に、もう1段、可能なら2段の後方からの攻撃と言う訳で、弓騎兵を試したい。


「しかし、馬上から弓か……難しいと思うが、タケル殿の世界では、普通にあるのか?」


「普通、とは言えませんが」


騎乗して戦う兵士は、各国に存在するが、騎射と言えば、モンゴル族を代表とする騎馬民族が思い起こされる。一方の西洋の騎士は、弓騎兵は存在しない。

その事から、両手を使う騎射は難易度が高く、幼い頃から馬に乗り、慣れ親しんだ者で無いと騎射は無理だと言う考えがある。


しかしだ、この認識は、騎士が馬上で片手用の武器を使用しているのは、手綱を握り続けなくては落馬すると言う、間違った認識が前提にある気がする。

べ、別に俺が、そう思ってて笑われたとか関係ないからな。

現実に、そう思ってる奴は多い。……はず。多分。


だが、実際のところ、西洋の騎士が何で片手用の武器を使用するかというと、アイツ等は原則として盾を持っているからだ。間違っても手綱を持たないと落馬するからでは無い。手綱では落馬を防げないし、落馬対策ならアメリカ発祥の馬術競技であるロデオにあるように、(くら)に持ち手を付ける。


そして、もう一つの誤解、弓騎兵は最強の兵科という誤解がある。

弓騎兵の代名詞とも言えるモンゴル帝国が、史上最大の版図を獲得したため、弓騎兵が中世で最強の兵科と思われているが、モンゴル軍には弓騎兵以外に、同じくらいの数の重装騎兵も存在する。西洋の重装騎兵に比べれば軽装だが、弓を持たずに、盾と短槍を装備した部隊が弓騎兵の援護の元に突撃をするのだ。

工作隊や輜重隊を除いて、モンゴル軍の野戦戦闘は、この重装騎兵と弓騎兵の組み合わせで戦ってきた。


しかし、歩兵に例えれば、重装備の槍兵と軽装の弓兵と考えれば、珍しいどころか、基本的な組み合わせだ。

何故、そうなのかと言えば、射撃兵は弓だろうが銃だろうが、散発的な狙撃ではダメージが低いので、効果を出すには大量に配備する必要があり、同時に射撃のみでは盾や塹壕に隠れるなど弾切れを待つ戦法が取られるので、近接武器を持った兵による突撃が必要だからだ。


この組み合わせは近代まで不動であり、遠距離射撃の武器が弓から銃になっても続き、近代になって銃剣が誕生して、やっと2種の兵科が統合された。

戦争が射撃のみの遠距離戦で決着するようになるには、更に時間を必要とし、弾丸を湯水のように使い、引きこもる敵を建物ごと破壊できる兵器が産まれた近年になってのことである。

逆に言えば、連射機能を持つ射撃兵器と、引きこもる敵を討てる兵器が無い環境では、バランスの良い近接兵科と射撃兵科を揃える必要がある。


そして、中世の西洋では歩兵が中心であり、騎兵は貴族のみに許された兵科である。

そして、貴族は平民に比べれば、当然ながら数は少なく、貴族を多めに配した編成にしたところで、多くても全軍の2割程度。

この数が少ない騎馬は、効果的に使うべきで、弓兵なら歩兵でも代用できるが、歩兵では不可能な、騎馬の突進力を利用した突撃に使用される。


一方のモンゴル軍は、一兵卒に至るまで、全軍が騎兵である。

つまり、モンゴル軍は弓騎兵があるから強いのではなく、弓兵まで馬に乗っているから強かったと言った方が正しいだろう。

侵略された中華や中東、西洋の諸国は騎兵は突撃用にすら全数回せず、とても弓兵にまで回す余裕はない。


これは、騎射を使う農耕民族の兵、武士の存在と、その武士の戦闘の変移でも裏付けされる。

元寇までの戦いでは、騎馬に乗った武士が主力であり兵力は何人ではなく、何騎と数えられていた。この頃までは騎射が主な攻撃手段であるが、南北朝の頃から、足軽が誕生して歩兵が主力になると、兵力は何人と記すようになり、少数の騎馬は突撃や伝令に回され、騎射は見られなくなった。


そして、この世界では武士っぽいノリなんだが、騎射は行われていない。

これは、魔族との戦争中は軍馬の数が少なかったので、騎兵に弓を装備させる余裕はなかったからと思える。

しかも、魔族との戦いに勝利した後、時代が流れると自然に領地争いが起こるが、基本的にこの世界の王族は、最初の勇者の子孫なので、基本的に親戚なのだ。

そのため、西洋の騎士や武士と同じく、殲滅戦を避けて、一騎打ちで勝敗を決める文化が出来た。

結果として、戦争と言うより身内の喧嘩に近い方法で、争いを収めてきたため、戦争の認識が甘い。

その甘さが、射撃武器を忌避する要因になってる気がする。


「少なくとも、この世界の騎士は、馬上では両手で太刀や薙刀を振り回します。弓を使うのは無理では無いと思います」


今の日本でも流鏑馬が残っている。世界を見渡せばスポーツ感覚で騎射をやる者もいる。簡単では無いが、不可能ではない。

単純に乗馬スキルだけで見れば、この世界の方が半身という、元の世界から見れば反則と言える人馬一体感を出している。


「だが、馬上で射ても真っ直ぐは飛ばない気がするがな」


「そこは、技術が要ります。問題は、騎乗中の揺れと、その技術の習得ですね。

 方法は俺からも助言しますが、自分に合ったやり方で構いません」


ここで使っているのは、外観は和弓だから騎射の射方も弓術のをやってみようと思う。

というか、モンゴル族の射方なんか知らない。

問題は、材質が違うのに弓返りが出来るかだが、出来なかったら弓返しでやってみても良い。

弓道からすれば邪道でも関係ない。目的は戦争に勝つことだ。美しい射が目的では無い。


「兎に角、味方に当てずに、敵に当たれば良い。敵を殺せなくても良い。殺す手助けにさえなれば良い」


「なるほどな。確かにそうだ」


「それに、詳細をここで説明するのは難しいのですが、弓自体の形状に関しても、考えがあります。

 ただ、出来ないなら諦めます。今は欲が出ていますが、弓騎兵を作るのが目的ではありません。

 目的は、魔族を滅ぼす事ですから。弓騎兵に固執する気はありません」


そう考えれば、マイヤの存在も悪い事では無い。

彼女が、ライヒシュタイン家の生活に慣れるまでの期間は、弓騎兵のお試し期間と考えれば良いのだ。


そこで、元帥たちがポカンとしているのに気付いた。

何か不味い事をしたか? もしかしたら、上手くいくかどうかも分からないのに、弓と矢筒を準備させたのは金の無駄と思ったか? まあ、確かに少数だけ作らせるという手もあるが、それだと……


「魔族を滅ぼすか」


元帥が苦笑しながら呟く。他の将軍も苦笑していた。

その肩を叩き、ティビスコス将軍が笑いながら、少し声を大きくする。


「いや、そうだ。その通りだぞ。タケル殿。我々の目的は魔族共の殲滅だ。

 弓騎兵が、それに役立てれば良い。ダメなら別の方法を探れば良い。そう言えば、アルツール、矢に関して面白い事を言ってたな」


「ああ、タケル殿がくれた情報にあった“気”というのが気になったんだが、どう考えても魔力が影響してると思う。

 それなら、(やじり)を、殺傷力を重視せず、魔力に影響を与えるものに変えるのは、どうかと考えたんだ」


前から魔族に対して弓矢の攻撃が役に立つかどうかの議論があったそうだ。

効果がない派の考えは、弓矢の攻撃で魔族が倒れるのは稀で、嫌がらせにしかなっていない。

効果がある派の考えは、嫌がっているからにはダメージを受けているはずだ。


だが、俺の情報により、魔族の頑丈さの秘密は気が影響しており、その魔族が纏っている気は、一定の攻撃を与えると消え、時間と共に元に戻る事が分かった。

この事から、アルツール将軍は、魔族が弓矢の攻撃を嫌がっているのは、気が消えて無防備になるのを怖がっていると考えたようだ。


「問題は、それを消すのに適した物が何かなんだが。予想では魔石のような魔力を吸収するか、逆に魔力を含んだ物体なんだ。

 だが、残念ながら試すのが難しい。そう簡単に魔族を捕らえることは出来ないからな。仮に捕らえたとして、タケル殿のように気を見ることが出来なければ、効果の確認も曖昧なものになる」


「なるほどな……実は報告していない事があってな」


クルージュ将軍が、俺に視線を送る。

どうした? 


「その、直接、見ないと信じないと思って、伏せていたが、タケル殿は魔族と同様の気を纏うことが出来る。先程、訓練の話をしてた時も言葉を濁したがな。タケル殿には、私の攻撃は効かないぞ」


え? それ黙ってたの? 

まあ、言われてみれば、見ないと信じないというのも分かるけどさ。

ただね。アルツール将軍が、凄く熱い視線を送ってるんですが。


「落ち着けよアルツール。要はタケル殿に、どの様なものが影響を受けるかを確認してもらえば良いのだろ?」


「そ、そうだな。済まないが協力してほしいのだが?」


マッドっぽい視線を送っていたアルツール将軍将軍をティビスコス将軍が嗜めてくれる。

流石は年長者である。元帥とブライノフ将軍も参加して、色んな材質を集めて、試そうと言う流れになってきた。

効果がありそうなものを言い合ったり、効果はあっても材料集めが大変な奴は却下したり、更には戦闘での使い方を考えたりで、短い時間だが、元帥や今日初めて会話をした将軍たちとも、話し合っている間に距離が縮まってきた気がする。


訓練中も思ったが、戦いの話をしていると親しくなれる。

やはり、俺は軍の生活と言うのが好きなようだ。









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