ディアヴィナ王国の勇者(前篇)
ディアヴィナ王国の勇者の話で前後編あります。
注意!
前篇は、胸糞な回想があります。その上、この世界の魔法の説明と知識チートが難しいって話。
大して面白くも無いので、設定マニアでもなければ流し読み推奨。すぐに後編も投稿します。
「魔術で起こしている光ですが、光という現象を直接発動させることはありません。魔術を使用した際に起きる発光現象ですが、まず、この世にある物質は、高温になると必ず光る性質があります」
「ですが、お湯は水より明るくありませんよ?」
「はい。その通りです。まあ、光そのものを説明するとなると、粒子説と波動説まで説明する必要があるので、ここでは止めておきましょう。
ですが、この場合の高温になってからの発光、人間の目で確認できる温度とは、火になって初めて分かる位の明かりなのです。
そうですね、少し質問しますが、火とは何かわかりますか?」
「え? 火ですか? 熱くて明るくて……言葉では上手く説明できませんね」
「そうですね。おそらく、私たちの世界の者でも火が何かと言われて答えられる人は少ないでしょう。
それで、火の正体ですが現象です。可燃物が高温になる事で空気中の酸素と結合し、その際に発生する熱と光を放出する現象の事を言います」
可燃物=C、酸素=Oと表記する。
「これは、私たちの世界で使われる原子を表す表記の中の一部です。そして、この原子が合わさって物質になります。私達の身体も、衣類も、部屋に置かれている物も、全ては物質であり、この原子が集まり作られています」
流石に理解できないのか、首を傾げる。元となる知識もない15歳の少女では仕方が無いだろう。
だが、人体の構成を理解する必要はないだろう。
「この原子は、単独では安定しないので、何かと合わさろうとします。その合わさる力を結合と言います。
そして、結合は物質によって合わさる力が異なります。この炭素同士、酸素同士が合わさる力より、炭素と酸素の合わさる力の方が強いのです」
C-C、O-O、O-C-O と記す。
「このC同士の結びつきとO同士の結びつきより、O-C-Oの結びつきの方が強い。逆に言えば、弱い力で結びつくことが出来ます。
では、強い力が弱い力で結びつくことが出来た結果、その余った力がどうなると思います?」
「え~と、消えると思います」
「何処へ消えますか?」
「え?……わかりません」
「力とは消えることはありません。熱となって放出されます。この放出された熱が高い温度になるため、光となり、火と言う現象になります。
この世界の魔術とは基本的に物質に干渉を行うものです。物質に干渉して熱を発生させることは出来ますが、火を発生させることが出来ないのはそのためです。逆に強く物質に干渉して熱を加えると燃えるのは先程の現象が起きるからです」
「干渉と現象ですか」
「はい。魔術を使う際は何らかの現象を起こすために使用します。ですが、魔術で現象は起こせません。干渉するだけです。その現象を起こすのに、どの様な干渉を行えば良いのか、それが魔術の研究です」
「なるほど……分かったとは言い難いですが、アザカが短期間で凄い魔術を使えるようになった理由は分かった気がします。色んな現象が、どうして起きるのか知っているからですね?」
「その通りです。まあ、私が発見したわけでは無いのでズルですね」
そう言って笑って見せると、でも凄いと感動してくれる。満面の笑みで見つめてくる。
この笑顔に何度救われただろう。
「ですが、基本的な魔術は、私たちの世界で言う物理法則で説明が出来ますが、それから逸脱するものも存在します。例えば、勇者召喚の儀式は私達の世界では不可能です」
「ですが、その仕組みは解き明かしましたよね?」
「ええ。それでも、いくつかは不明な点があります。特に人の心の部分は、私たちの科学では解き明かされていません」
だが、逆に言えば、より深い知識の探求が出来る可能性を示していた。
現状では不可能と考えられる魔族への勝利。諦めるには早すぎる。
そこで、部屋がノックされ、勉強の時間が終了したことを彼女の侍女が伝えてくる。
「アザカ、また勉強を教えてくださいね」
「何時でも構いませんよ。ロヴィーサ姫殿下」
笑顔で部屋を出るロヴィーサに手を振った。
この笑顔を守るためなら、何だってやってみせる。
王女の勉強を見ていた部屋から移動し、魔術の研究塔へと移動する。
そこには、自分の研究室が出来ていた。
「お帰りなさい、アザカ様」
同じく研究塔で働くペニッラが声をかけてきた。笑顔で挨拶を返すと、自分の研究用の椅子へと座る。
ペニッラは、召喚された時から鮮花の世話を手伝っていた。いわゆるパーティを組むことを考えて選ばれた少女だった。後から聞いた話では女性が召喚されて安堵したと笑っていた。
アザカと同様で、アウトドアには向かない運動神経の持ち主である。
ロヴィーサだけではない。ペニッラも、この世界で出会った人々を守りたい。そのために研究をする。魔族を倒し、この世界の脅威を排除する。
結城鮮花は、世間で言う理系女子という奴だった。
身体を動かすことは苦手で、読書を好むが、物語より知識欲を満たすものを好んだ。
服で着飾るよりも、服がどうして出来るかに興味が行く。
容姿は悪くなかったが、そんな性格だ。自然と学生生活ではカースト下位に位置し、出来る友人と言えばサブカルチャーを趣味とする者たちだ。
そのため、サブカルチャーへの造詣は深いが、趣味だったかと言えば首を傾げる。
むしろ、友人が感動するような内容に、心の中で突っ込みを入れていた。
その所為か、東京の大学へ進学すると、地元の友人とは連絡を取らない様になっていった。
特別に好きだった訳でもないサブカルチャーと距離を置き、相変わらず身体を動かすのは苦手。結果として、新しい友人が出来なかった。それでも、都会の生活は1人でも問題が無かった。好きな勉強だけして、将来は研究の職種を選ぶ。そう考えていた。
だが、やはり寂しかったのだろう。
少し優しくしてくれたバイト先の同僚。軽薄な感じで本来なら苦手なタイプだった。
しかし、自分の事を気にかけてくれる。それが嬉しくて、何度か食事に誘われて、やがて身体をかさねた。遊び慣れた男の動きは、初めて異性を知った初心な自分を狂わせた。
その頃は、彼とは運命の出会いなどと愚かなことを考えていた。
彼にとって、自分は遊びだった。
最初から計画していたとは思えない。だが、予想以上に従順だったので、欲が出たのだと思う。
始めはスマホで行為後の写真を取られるだけだった。やがて動画になり、本格的なカメラになった。
そして、脅迫。
バラまれたく無かったら。そう言われて何も断ることが出来なくなった。
他の男に抱かれ、更に行為をカメラに収められ、自分を縛る鎖が大きくなった。
自分の痴態を知られたくなくて、更なる痴態を晒していく。泥沼だった。
だが、逃げようは無かった。その頃の自分を支配していたのは恐怖と快楽。
冷静な思考は砕かれていた。
そんな状況で、転機が訪れた。あの時は転機とも気付かなかったが。
その日も、指示された場所へと向かっていた。
今日は、どのような行為を要求されるのか、相手は何人か、恐怖に怯えながら向かっていた。
そして、気付いたら、このディアヴィナ王国へと召喚されていた。
召喚され、最初に思ったのは、愚かにも、“遅刻してしまう”だった。
早く向かわなくてはならない。その強迫観念だけが心を支配していた。
自分が勇者? 笑わせるな!
魔王を倒せ? 冗談ではない!
必死に宥めようとするディアヴィナの人間が疎ましかった。
王など知らない。貴族なんか怖くない。だから帰せと叫んだ。
早く帰らなくてはいけない。それだけを考えていた。
それなのに、帰る方法は無いと言う。
認められる訳が無かった。勝手に呼び出して好きな事を言って。
許せない。この国の人々を、この世界の人々を憎んだ。
その憎悪を受け止めるのが辛かったのだろう。
今まで、何かと世話をしようとしていた人々が離れていった。
接触は必要最小限。腫物を触るような扱い。
そんな中、1人だけ行動をしようとした者が居た。
勝手に呼び出したことに心からの罪悪感を持っていた。許してほしいと謝った。
だが、謝られたからといって許せるわけが無い。要求は元の世界に戻せ。それだけだ。
そして、その人物、この国の王女であるロヴィーサは、自分が勇者召喚の儀式を調べて、元に戻る方法を探すと言って、本気で研究を始めた。
だが、勇者召喚の儀式は多くの魔導士と神官が共同で研究して編み出した大魔術。一国の王女に解けるはずが無かった。
何時までも進展しない現状に苛立ち、鮮花はロヴィーサが研究する書物を奪い、自ら研究を始めた。
文字も分からない。魔術の基礎も分からない。それでも帰らなくてはいけない。その一心で研究を始める。
やがて、この世界の文字が古い日本の文字と似ていることに気付いた。
それだけでない。独自の進化をしているが、根っ子に古い日本の文化を感じた。
そして、魔術の基礎と陰陽道の類似を発見。研究は進んだ。いや、没頭した。
早く帰りたいと言う焦りは少なくなっていた。元々、研究の類が好きなのだ。新しい発見は心が躍る。
いつの間にか、手段が目的になっていた。帰るための研究は、研究のための研究と化していた。
そして、辿り着いた。勇者召喚の儀式を解き明かした。
そして、元の世界に戻れる方法も見つけた。
そして、勇者として召喚される人物の条件を知ってしまった。
今の生活を拒絶し、異なる世界へ行きたいと、心から強く願っている者。
それが、召喚される人物の条件。元の世界に戻るには、逆の条件、つまり元の世界へ戻りたいと強く願っていなければならない。
元の世界に戻りたいわけがなかった。あの恥辱の日々が耐えられなかったのだ。
地元にいた頃、友人と読んでいたライトノベルや漫画に異世界へ召喚された主人公が活躍する話があった。
平凡な学生が神様に力を与えられ、異世界で好き勝手をする話だ。
そんな事がある訳が無いと笑っていた。
だが、内心で憧れていたのだろう。羨ましかったのだ。
そして、その頃の思い出が胸に残っていた。少ないながらも共に過ごした友人たちの事が好きだった。
それに気づいた時は泣いていた。
驚いたロヴィーサが、優しく抱きしめてくれた。
20歳にもなって、15歳の少女の胸に抱きしめられて泣いた。
情けない。見っとも無い。だが、これが結城鮮花という女だ。
泣きはらした後、ようやく周囲が見えてきた。
ロヴィーサだけでは無かった。多くの人が鮮花のことを心配していた。
国王のアクセルソンには、己の都合で召喚したことを謝罪された。
鮮花が自分の事しか考えないで研究に打ち込んでいた時に、食事を与えてくれた侍女。
研究のための資料を集めてくれた魔術師のエルムフルトとペニッラ。
他にも大勢の人がいた。
鮮花は自分が人間不信になっていた事に気付いた。
あのような事があったのだ。それは仕方が無いと思う。
それでも、この世界の人は違う。何処か善良な人々。この世界が危機だと言うのに、役に立たない鮮花を支えてくれた。
この人々を守りたい。心から願った。
この世界に残りたい意思を告げると、受け入れてくれた。
役に立つか分からない女を、笑って受け入れてくれた。
その恩を返したい。やれることを考えた。
運動は苦手だ。とても戦える気はしない。
ファンタジーの定番である攻撃魔法は、この世界には無い。
この世界の魔術は、原則として物質への干渉だ。原子を振動させて熱を起こすことは出来ても、発火物が無い限り炎は発生しない。
その熱振動も、物体に直接、或いは何かを介して触れる必要があるため、魔族を燃やすには直接触れる必要がある。
おまけに、人体を炭化するまで熱するには時間がかかる。魔族を人体と同様と考えても、戦闘には使えない。
色々考えた結果、魔術師の研究所へ入った。何かのヒントは無いかと考えたのだ。
現代科学を魔術で再現する方法を探した。
だが、再現しようにも、自分の浅い知識では近代科学の一部を再現するのみ。
例えば、単発式のライフル銃であれば作れる。ニトログリセリンやニトロセルロースの構造も分かる。無煙火薬も研究すれば作れる自信はある。
だが、ハンティングで熊を射殺するには、アサルトライフル用の弾丸では威力不足。最低でもバトルライフルや狙撃用に使用するライフル弾が必要とされるが、この世界の騎士の剣の攻撃力は、一撃で容易に熊を葬る。
つまり、この世界の騎士は攻撃力だけで言えば、近代科学で装備された歩兵に決して引けを取らないのだ。
そして、魔族には騎士の攻撃が容易に通じない。
魔族に通じない可能性がある以上、安易に作る訳にはいかない。
銃の存在は人間同士の争いに持ち込んで戦争を悲惨なものにするだけだ。この世界に元の世界の醜さを必要以上に流したくはない。
だったら、歩兵以外の兵器。戦車や戦闘機は作れるか?
素材で躓く。いわゆる兵器のエンジンや装甲材質は軍事機密だ。単なる鉄の塊ではない。
この素材こそが、近代科学の基礎だ。
石器時代、青銅器時代、鉄器時代という区分があるが、現代は合成物質時代と言えるだろう。
大学で研究していた時、ステンレスのトレイを硫酸で溶かしてしまった事がある。100均で買ったものだった。
本来、鉄だけなら熔解するが、ステンレスは硫酸で溶解することはない。
鉄が酸素をはじめとする薬品の構成元素との化学反応を起こすのが溶解だが、ステンレスは鉄が酸素と結びつかないよう最初にニッケルやクロムと結合させた物体だからだ。
それが、何故、解けたかというと、ステンレスに亜鉛の粉末が付いていたのだ。この亜鉛が化学反応を促進して溶解を促した。
だが、今まで使っていた研究用のトレイでは平気だった。
その差がステンレスの品質の差だ。これまで使っていた研究用のトレイは同じ大きさで1万円以上する。
その金額の差は、物質の結びつきの差である。
その差は何処か? 同じく鉄にニッケルとクロムを結び付けたものなのに、その違いは何処にあるのか?
その詳細は、企業秘密で片付けられる。
中国が製鉄会社を持ち、安い鉄が量産されても。日本の製鉄事業が未だに生き残っている。逆にリーマンショックがあった頃は日本の製鉄会社は受注が多かったのに、中国は作った鉄が売れないで余る現象があったという。世界で必要とされる鉄の品質を中国は満たせなかった。
学生の鮮花の知識は、中国の製鉄会社以下だ。確実に再現できるのは鉄器時代のものまで。
素材の問題で、合成物質時代の物を作るのは無理だろう。
この世界の製鉄技術は高いし、純粋に興味もある。魔族との争いを抜きにすれば、素材の研究に打ち込みたい気もする。
そして、トライ&エラーを繰り返せば、望みの物を作れるかもしれない。
だが、どれだけ時間がかかるか分からない。間に合わなければ意味がない。
それならば、現象の発動。鮮花が知る現象で兵器として使える現象を魔法で再現する。
例えば核分裂。その現象がどうやれば起きるのかを知っている。
そして、それを使った兵器も知っている。
だが、核分裂に適したウランがこの世界で見つかる保証はない。
それに、見つかったとして、どこでどうやって発動させると言うのか?
鮮花が命と引き換えに使用すれば発動できるが、使用後の放射能の問題もある。
核融合なら、放射能の問題は無い。
だが、核融合を起こす現象には、非常に高い圧力が必要だ。
その圧力とは、太陽の重力。木星の重力では足りない。逆に木星が太陽並みに巨大だったら、その重量で核融合を起こし恒星の仲間入りである。
現代の核融合を利用した爆弾では、その圧力を得るために核分裂を利用した爆弾を使用する。
つまり、水爆を爆発させるのは、先に原子爆弾を使うのだ。
要は、放射能問題は解決しない。
ちなみに、キングオブモンスターが水爆実験で放射能汚染したのは、水爆に原爆が使われているためである。
核分裂は論外で、他の方法で圧力が得られるなら、それを直接ぶつければいいのだ。
「あ~、他の異世界転移ものだったら、私ってチート出来るはずなんだけどな」
「それって、他所の勇者が目指してるって奴ですか?」
煮詰まったゆえに漏れた呟きに、魔術師のエルムフルトが反応する。
彼も、ペニッラと同様の立ち位置の男性版。つまりは、女性勇者である鮮花のハーレム要員だ。
だが、鮮花はハーレムには興味が無かった。むしろ異性はノーサンキューである。
「ええ、戦っていれば勝手に強くなる。私達の世界の知識で簡単に物事が解決する。
本当に、そうであれば良かったのだけど」
鮮花はこの世界を守ると決め、周囲の事が見えるようになって気付いた。
自分以外の召喚された勇者は、この世界で定番のゲームやラノベの設定が通じると思っていると。
すでに帰還の方法を探すため、魔術の造詣が深まっていたので、この世界では神や悪魔と言った存在は無いと分かっていた。魔物も特殊なカテゴリーではあるが、生物の一種ではあるし、魔族も魔物と同じようなものだ。
この世界では、神のような主人公に特別な力を与える存在が無いのだ。
その事を王に伝えると、非常に驚かれ、対応にも困っていた。
他国に知らせるべきか否か。迷っている間に時は過ぎ、すでに最後の勇者も召喚されたと言う。
王は、この秘密を、どうやって公表するか、未だに悩んでいるようだ。
現状では、鮮花の周囲にいる一部の人間が知っているだけだ。
「アザカ、いるか?」
部屋に入ってきたのは女性騎士であるジュリアだった。今では親しくなり、同年のため互いに敬語で話さないようになった女性だ。
「どうしたの?」
「ロムニア王国から使者が来てな、勇者と面会を希望している」
「ロムニア?……ああ、最後の勇者の召喚場所か」
「ああ、それで、使者が言うには、他国の勇者の行動で不審だとさ。
もしかしたら、お前と近い奴が召喚されたのかもしれない」




