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根之堅洲戦記  作者: 征止長
戦闘狂が率いる部隊
21/112

勇者観察発表会

新章の書きだめが出来ました。一日一話のペースで投下します。


「素晴らしい軍馬を頂いた上、あのような見事な鎧と武器まで、感謝しています」


夕食の席、俺は目の前のロムニア王に感謝を告げる。

3日前、クソジジィの訓練内容が王様の耳に入ったそうで、心配して一緒に食事をと誘われた。

俺としては、ジジィはムカつくが、訓練は厳しいとは思わなかったので、それに関しては問題ない。

それより、王様と一緒に食事をして不作法をする方が心配だったので断ろうと思ったが、それなら、問題があれば指摘してやると言われてしまった。


何でも、勇者に苦情を言える人間なんて王様くらいなので、不作法をしても言いにくい可能性があるらしい。

いや、あのクソジジィの何処に遠慮があると突っ込みたかったが、そう言われては断ることも出来ないので、一緒に食事をするようになった。


ちなみに、これで3日連続である。その間、特にはマナーで指摘されるようなことは無かった。

大きな問題は無いとの事で安心である。ただ、目上の人に勧められた料理を食べなかったり、分けて貰ったのを断るのは礼儀上あまり良くないらしい。

3日間とも王様は、俺に肉を分けてくれた。近所の爺ちゃん婆ちゃんもそうだったが、年寄りは肉を体が受け付けなくなると言って、若いものに与えたがる。


「気に入ってもらえたようで何より。それに昨日も言ったが、軍馬に関してはタケル殿との縁だ。余の力ではない故、気にする必要はない。それにしても、随分と大きな武器だそうだな」


安綱と出会った次の日、依頼していた槍が新しい鎧と一緒に渡された。

槍に関しては、ほぼ、俺の望み通りの出来。しなりが少ないので、刺突での狙いが付けやすい。

そして、十分な長さがあるので、その遠心力で振り回した際の威力がある。


もう1日中、その辺の的にしている鎧や丸太をハイテンションで壊しまくっていた。

ちなみに安綱も御機嫌である。あいつも破壊活動が好きだった。俺が倒した鎧や丸太を踏みつけて大喜びである。


後で、やりすぎだとクソジジィに怒られたがな。

まあ、とにかく良い槍が出来た。早く実戦で使いたいものだ。

王様には槍の感想を告げ、鎧の出来を褒める。


鎧は無駄な装飾など無く、急所は十分にガードしながらも、動きやすい。

それに、脱いでしまうのは多少手間だが、各部にベルトが付いていて、緩めると圧迫が無くなり休養時に血流が抑えられないので十分に疲労が取れる。

それでいて、絞める時は非常に簡単。ベルトを数か所引っ張れば、あっという間に臨戦態勢になる。


「あの鎧は素晴らしいですね。あれなら着けたまま眠れます」


「……それは良かった。あれは、グロース王国が開発したものだ。かの国は武具の改良にも余念がない」


「おお、あのグロース王国ですか」


グロース王国って、西で魔王とやりあっている英雄と称される王子様がいるところだよな。

流石はってところか。何というか、きっと神算鬼謀の持ち主な華麗な王子様なのでろう。俺とは大違いだ。


それにしても、流石は王様と言うか、聞き上手に話し上手。つい、色んなことを喋ってしまう。

祖父の元で田舎で育ったこと、近所の優しい年寄りたち。それに武術の事。

元の世界では農業をやっていたので、薄い農業知識を披露したら、随分と興味を持ったようでかなり突っ込んだ質問をされた。


農業技術の差が半端ではなくあるみたいだからな。

この世界では高級な小麦がバンバン出来るとあれば、マトモな為政者なら興味を持つのも当然か。

ただ、元からポンコツな俺の頭では王様を満足させる知識は無かった。バカだとバレただろう。

そして、今日は元の世界の質問より、この世界の感想を聞いてきた。それは、やっぱり……


「この世界の製鉄技術は素晴らしいですね。

 それに、軍馬の存在。あんな馬は私たちの世界には居ません」


銑鉄技術に関しては、元の世界で使われている石炭を使用する製鉄と、日本で刀を打つときに使うたたら製鉄の話をした。製鉄の専門家では無いので断言できないが、質の良い鉄を作るのはこの世界のやり方の方が優れている気がする。

元の世界での方法は、不純物の調整が困難だが、この世界では腕の良い技術者なら思いのままらしい。


そして、やはり馬。軍馬とは元々は魔物の一種だったらしい。それを最初の勇者達が乗りこなして戦争に使うようになった。

今の軍馬は、その時の魔物を繁殖させたものがベースとなっており、品種改良の末に今の形に落ち着いたそうだ。


と、すれば1000年前の軍事編成は、今と違って騎兵は少なかったってことだな。

その辺りを聞いてみたら、古い話なので詳細は不明だと前置きをしつつも、やはり、軍馬の数はごく少数で、多くは歩兵だったと考えられている。

もしかしたらと思い、もう一つ質問。


「この世界での戦争、魔族が攻めてくる前は、人間同士で争ったと思うのですが、どういった内容でしょうか?」


質問の内容に少し驚いたようだが、ちゃんと説明してくれた。

正に、鎌倉時代までの武士の戦争って感じで、基本は代表者の一騎打ちで勝った方の言うことを聞く。国同士の諍いだと、揉め事の規模に応じて代表者が複数になり勝ち星を競う。それでも納得できなければ、普通に戦争だが、その時も参戦するのは騎士のみ。平民を徴兵することはないそうだ。


じゃあ、行けるか……





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




バルトークは、国王に呼ばれて向かうと、そこには国王フェインだけでなく、元帥のアーヴァングと30半ばの女性の廷臣がいた。

廷臣の名前を覚えてはいないが、見覚えはある顔だった。


「遅くなりました。申し訳ございません」


「良い。急に呼び出した、此方に非がある。先ずは紹介しておこう」


「ヴィオレッタ・アタナスと言います。此度、ディアヴィナ王国への使者の任を受けました」


それで、呼び出された理由は分かった。予想はしてたので、驚きはしない。

国王のタケルの人となりの分析が終了したのだ。


「おおよそは、バルトークが予想しておったように、争いを好む性質であろう。

 凶暴な獣。しかも知恵があるので厄介よな」


「知恵ですか……」


あまり物事を考えるようには見えなかったが、フェインが言うのであれば、その認識を改める必要がありそうだ。


「争いごと限定ではあるようだがな。話してみて多少、驚いた。自身の生業である農作業では、あまり考えてはおらん。聞いたことで覚えていればやる。と、言ったところであろう。興味が無いのだな。

 だが、争いごとに関しては必要以上に考える。何故、そうなるのか、どうすれば良いか。絶えず考える。そんな気性と見た」


「その、もしかしたら危険な方なのでは?」


ヴィオレッタが心配そうに質問する。

その心配はあった。単なる乱暴者では困るどころの話ではない。


「それに関しては、タケル殿の祖父に感謝だな。良くぞ、あのような獣を調教したものだ」


「け、獣とは」


「すまぬ。失言であったかの。だが、そうも言いたくなる。アーヴァングとヴィオレッタは戦争がない状態を覚えておらぬだろうが、バルトークは分かるな?」


「はい。今は全員が獣になるよう教育されていますが、平穏な時代では、生まれつきの獣が、その身を持て余しておりました」


「全く、下手をすれば、民衆に牙を向きかねん輩がおったな。だが、その者らとタケル殿では決定的に異なる事がある。その違いは、正に調教と言った方が正しい」


獰猛な猟犬が、獲物とされた動物以外は襲わないよう調教されたのと同じく、タケルは狩って良い相手と駄目な相手の認識を植え付けられている。

彼の世界で言う善良な市民は狩ってはダメな生き物で、その市民に害をなす生き物は人間を含めて狩っても良い。そんな調教が施されている。


「全てを駄目と言っては、納得できなかったのだろう。故に、狩っても良い獲物を教えられた。

 そして、狩るための技術も仕込まれた。だが、幸か不幸か、そのような獲物は、簡単に出会えるものでは無かったらしいな」


「よく耐えられたものですな」


「その辺りも上手く、調教されておる。いや、鎖で繋いだと言うが正しいか」


タケルの周囲には、彼を可愛がり、同時に頼る老人が多くいたそうだ。

その老人たちの存在がタケルを縛った。自分が過ちを犯せば、迷惑をかけることになる。

その認識が、衝動を抑えるのに多大な影響を与えたと考えられる。


「その鎖を疎ましく思いながらも、同時に愛しいと思っていた。故に引き千切ることは出来なかった。

 だから、この世界に召喚されたという理由があるので、鎖が無くなり解放感を抱いているようだな」


「では、今の状態は危険なのでは?」


「今は大丈夫だ。目の前のエサに夢中になっておる。つまり、武神の力を使って強くなる歓びと、魔族という幾ら殺しても咎められることのない相手と戦える歓びでな。ある意味では気が楽になった。やはり無理やり戦わせるは忍びない」


だが、今のタケルが鎖に繋がれていないことは確かなことだ。出来るだけ早く、代わりの鎖を用意しなければ、何をやらかすか分からない危険は付きまとう。


「それで、問題の魔王の存在ですが?」


「タケル殿の発言は正しいと思う。仮にあちらの世界に、この世界の魔王と同質の存在が居れば、タケル殿は喜々として戦うし、既に滅んでいたなら嘆くであろう。そして、この世界に居ると聞けば喜ぶ。

 それ程の戦闘狂である。そのタケル殿が存在を知らないとなれば、居ないと考えるが道理であろうよ」


「では、ディアヴィナ王国での任は?」


「それは、行ってもらいたい。向こうの勇者の情報は、やはり知りたいし、他の勇者の思惑もな」


「承知しました。あちらにタケル殿の情報は、どの程度開示しますか?」


「別に隠す必要はない。必要とあらば、知る限りの事を話しても良い」


その辺りは、会話の中で披露していくしかないだろう。相手が情報を出し渋れば、こちらの情報をちらつかせる。どの道、バルトークには関係のない事だ。


「それで、バルトークよ、タケル殿の戦力は、どうだ?」


「既に私では勝てません。あと3日もあれば元帥ですら手に負えんでしょうな」


「それ程か?」


「それも、今すぐ実戦に出て、生き残れば、魔族の将軍たちと互角に遣り合えるようになる。そう思っています。奴に不足しているのは実戦ですからな」


その発言に、流石にフェイン国王とヴィオレッタも絶句した。

魔族の1兵士は知恵はなく、暴れるだけだが、それでも王国最強であるアーヴァングと互角なのだ。

隊長格だと、兵士3人分と言われ、将軍になると隊長格が5人と同等と目されている。


「ただ、このままでは個人の蛮勇でしかありません。部隊を指揮して、それ以上の力を得られるよう尽くします」


「部隊とは、どの程度の規模を想定しているのだ?」


「まずは、50騎の隊長から始めさせます。それに慣れ、より多くを指揮できると見れば、増やしていく予定です」


「ふむ。エリーザなら50騎程度なら指揮は出来るか。補佐はエリーザを使うのであろう?」


「副長は2名。1人はエリーザで、もう1人ヴィクトルを選んでます」


「……ヴィクトルか」


「はい。本来なら今頃は将軍になっていても不思議はない才能の持ち主です。それが、5年前の敗戦で父親を失った辺りから、精彩を欠いてます。奴が目を覚ましてくれれば……」


そこまで言った後、フェインとヴィオレッタの様子が変わったことに気付いた。

まるで、聞きたくない話題に触れたような。


「それで、精彩を欠いた理由は聞いているか?」


「いいえ。そこまでは聞いてはいません」


「その件を聞くのを禁ずる」


「承知しました」


即答した。別に忠誠心からではない。下らない事を聞きたいと思わなかっただけだ。

父親が死んだからと言って、ああも変わるとは思ってなかったが、大方、宮中のゴタゴタに巻き込まれたのであろう。

だが、ある意味ではやりやすくなった。


「ヴィクトルにはタケルの補佐をさせます。それで目を覚まさん様なら奴を強くする贄になってもらいます」





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





ヴィクトルは、命令された勇者が指揮する部隊の選定を行っていた。どんな人物を集めるか、勇者の部隊となれば精鋭が望ましい気がするが、精鋭であれば前線で激しい戦闘に参加しなくては、不満が出るだろう。

確かに、勇者が武神の力を得れば強くなりそうだったが、魔族との戦闘では多少腕が立とうと意味は無い。


それに経験を積むには、最初から前線に出すより、先ずは経験を積んでからの方が良いだろう。

召喚された日のアーヴァングとのやり取りを見ても、年上には敬意をもって接するようだった。それなら、指揮をするのにも、熟練の騎士に命令を出すより、年下の若い騎士が相手の方が命令を出しやすいはずだ。

ならば、勇者より若い騎士にしよう。


魔族との戦闘では、基本的に5人で1小隊をなし、1人の魔族を討つという戦法だ。

小隊で、横陣を編成していることの多い魔族を、端から剥がして包囲攻撃する。


4か月前の戦争で多くの騎士を失ったので、急遽、騎士になった者が居る。

ある程度の経験がある者を10名選んで、10小隊を集める。40名が碌に実戦を経験していない新人だが構わないだろう。

騎士の総名簿を眺めながら、選出を進める。あまり重要な地位に居る者では、引き抜きに抵抗され、軋轢を生む可能性があるので、引き抜いても問題が無い者から選ぶ。


「面白みのない集め方をしたのぉ」


そうして作成した名簿を見たバルトークの第一声がそれだった。

面白さを求めていたのか。そんな事を言い返しても無駄だろう。何も言わずに次の言葉を待つ。


「まあ、良かろう。三日後、この者達には北門に集結させろ。遠征用装備だ」


「遠征用? 遠方で訓練を?」


「さあ? 場所は決めてないらしいぞ。今の時期に、急な部隊配属では隊舎が困ると話したんじゃが……」


その言葉ぶりから、この決定は勇者の判断だと分かったが、彼が何を考えているかまでは分からない。

確かに部隊の移動は、12月に入ってから行われるが、今は10月。少数なら兎も角、50名分の兵舎を開けるのは難しい。

だが、次のバルトークの楽し気に話す言葉で分かったことがある。


「そうしたら、あ奴 “じゃあ、年内は野宿だな” そう言いおった」


10月に入れば、ほぼ魔族の侵攻は無い。何故なら、寒くなってくると、兵糧の人間が凍え死ぬ事が多いので、寒い間の侵攻は控えるのだ。そんな時期に野営で訓練しようと言っている。


つまり、あの勇者は狂ってる。







マッチョって、異常に寒さに強いからタチが悪い。

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