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根之堅洲戦記  作者: 征止長
平凡じゃない男、異世界に来る。
14/112

街中デート←思い込み

「これが移動用の馬か」


「はい。軍馬に比べると速さや力で劣りますが、扱いやすいですよ」


目の前に居る馬は、角も無ければ、毛も堅くない。俺の知っている馬に近いが、サイズは小さい。

というか、意外と毛が長いな。垂れてはいないが密度がある。シベリアンハスキーみたいな毛だ。

軍馬のように格好良くないが、イレーネが可愛いと言うのが分かる。


そのイレーネだが、アリエラが同行するのに自分が居て役に立つかと疑問を感じ始めたので、ヨランダ教官の提案で、ここで別れることになった。

ヨランダ教官が言うには、俺と一緒だと馬の挙動が怪しくなるから、アリエラも俺と自分の馬に集中できるので安全だそうだ。


そう。つまり俺はアリエラと2人で街へと出かけることになったのだ。これは、もうデートと言っても過言ではあるまい。教官、マジで良い人だ。


「タケル様は、乗馬の経験が無いのですか?」


「ああ、祖父の知り合いが、馬を飼っていたから乗せて貰ったことはあるが、まだガキの頃だ」


馬好きの爺さんが、引退馬を奮起して飼っていた。まあ、弱い馬だったし安かったそうだが、田舎の農道を人を乗せずにのんびりと散歩させていたな。俺が祖父の世話になった頃は、もう老齢で間もなく死んだ。

その馬好きの爺さんに色々教わったな。


「では、移動はどのように?」


「バイクか軽トラだが……」


頑張って説明したが、キョトンとして上手く伝わっていなかった。

うん、機械が無い世界で車の事を説明するのは難しい。

そんな訳で馬に乗るコツとかを習うことになった。ちなみに軍馬も同じらしいが、軍馬は魔力を流してやる必要があるらしい。まあ、今は関係ないか。


「基本的に、足で全ての動作を伝えます。手綱は緊急時と思ってください。

 最初に乗ったら、鐙に足を乗せたまま、両足で胴体を挟むように軽く叩くと進み始めて、もう一度同じようにすると止まります。

 そして、足で馬の胴体を絞める力が強いほど早く進みます。方向は足をこう、ぐいぃ~とすれば…」


うん。可愛い。

まあ、ノリ的にはバイクなんかと一緒で曲がる方向に体重を傾ける際に、胴体を絞めつけてやるって感じだな。


「手綱は急に止める時と、方向を変えたい時に言うことを聞かない時だけ、使います。

 それと、絶対にしてはいけないのが手綱を強く持ちすないことです」


「手綱はハンドル、手摺じゃない。だな」


「はんどる?」


最初に馬に乗った時に、馬好きの爺さんが教えてくれた言葉。

怖がって手綱を強く握りしめると、変な力がかかって、馬が方向を変える指示だと勘違いするから、危険だという言葉。ちなみに手摺みたいに落馬から支える機能は無い。逆にびっくりするから危険だ。


祖父に笑われたが、武士や騎士が剣や槍で突撃する際に、手綱を握っているのは落馬しないためだと思っていた。

実際は、調教の甘い馬が、目標に向かうのから逃げないようにするためなのだそうだ。


「では、乗ってみるぞ」


そう宣言して、馬の背に乗る。

う~んガキの頃、初めて乗った時は、馬の背は凄く高かった記憶があるが、そうでもないな。

馬が小さいのと、俺が大きくなった所為だとは分かっているが、少し物足りない気がする。


「タケル様の姿勢、凄く安定していますね。本当に乗ってなかったんですか?」


アリエラが感心したように聞いてくる。だが、乗馬の経験なんて本当にガキの頃に乗っただけで、馬を操った事は無い。


「乗馬は本当に無いんだ。ただ、バランス感覚には自信がある」


祖父の訓練で、一番重視されるのがバランス感覚だった。態勢を崩さない、崩しても直ぐに立て直す。その訓練は最初に取り組んだ。訓練の結果、俺はサッカーボールで玉乗りが出来るし、ボールの上から別のボールへ移動することも出来る。

その影響か、車はもちろん、船や飛行機に乗っても乗り物酔いしたことは無い。


「それでは、馬のお腹を軽く叩いて、足を締め付けて下さい」


「ああ」


ばらんす? と、首を傾げていたが、何となく察したのか、動かしてみるよう促してくる。

言われた通り、軽く叩いて、足を締め付けると、思った以上のスピードで馬が動き出した。


「し、絞めすぎです。もう少し軽くでお願いします」


「お、おう」


横に並んだアリエラに従い、足を緩めると、段々とペースが落ちてくる。

その後、どれくらいの締め付けで、どの程度のスピードが出るかを確認していく。


「それでは、外へと参りましょう」


アリエラの先導で、南にある正門へと向かう。門に辿り着くまでに方向の変更や速さの調整を覚えていく。


「凄く呑み込みが早いですよ。外に出たら石で作られた道は進まないよう、お気を付けください」


アリエラの言葉に気を良くしながら正門を潜り抜けて、王城の外へと出た。


「おお~」


思わず感嘆の声が零れる。異国情緒あふれる光景に楽しそうな住民の姿。

建物はレンガのような壁で作られている。

石で作られた道は……石畳が店の前、歩道のようなものか。それと中心にも車道位の幅のものがある。

一方の石畳が無い、土の道の方は、同じく車道位の幅で中心の石畳の道を挟むように2本ある。


「どっちを通るんだ?」


「お店は南東ですから、左側を行きましょうか」


「え? 一方通行じゃ無いのか?」


何となく、その配置から車道のように方向が決まっていると思ったのだが、そうでは無いらしい。

単に歩行者の安全を確保するために、中心にも歩行者用のスペースを確保しただけだった。


「反対へ行きたい時は?」


「人が居なければ、そのまま進んでも構いませんが、原則、馬を降りて引く方が望ましいとされます」


その辺りは、人によって変わるらしい。ただ、貴族も住民の事を考えてるアピールの決まりっぽい。

まあ、貴族が支配している社会だ。貴族ファーストになるだろう。と、言うことは、実際に住民を馬で跳ね飛ばしてもお咎めなしかと確認すると、実際にそうらしい。

土の道は、原則、馬で通る人用で、横切っても構わないが、馬に当たって怪我しようが邪魔だと斬られようが文句は言えない。

更に、石畳の上で人を撥ねても、罰則は無いのだが……


「ご安心をタケル様。そのような事になっても、このアリエラが代わりに腹を切るので」


「いや、渡る時は馬を降りる」


そう。罰則は無いのだが、馬に乗れる立場の者が不注意で人を撥ねると言うのは、もの凄く不名誉な事らしい。もう“え? 石畳の上で人にぶつかった? バカじゃね? そんなカスに仕事を任せられんわな”って、感じになる。その本人だけでなく、親戚に至るまでゴミ扱いになるそうだ。

そうなったら、親類の顔を潰さないよう腹を切ると言うのが暗黙のルールで、上級国民に甘くない世界だった。


ただ、この馬という生き物は、石畳の上を歩きたがらないので、どんな下手が乗っても、指示が無い限り、石畳の上には行かないらしい。

そんな訳で、安心して土の道を進んでいく。速さは駆け足で、馬にとってはジョギング程度の速さだが、人が全力で走る位のスピードはある。

このペースにも直ぐに慣れてきた、折角なのでアリエラと会話を楽しもう。


「アリエラの弓は凄かったな。あの距離であれだけ的に当たるなんて」


「は、はあ、お恥ずかしい限りです」


俺は褒めたつもりだったが、アリエラは情けない表情で俯いた。

あれ? 何か地雷だったか? 分からんが、誤解だったら解いておきたい。それには素直に聞くのが良いだろう。


「素直に凄いと褒めたつもりだったんだが、気に障ったら謝る。

 俺の世界では、強い武士は弓の名手って事なんだが、ここでは違うのか?」


「そうだったのですか? 申し訳ありませんでした」


そう言ってから、事情を説明してくれる。

この世界での戦い方は、馬上で剣や薙刀を振るっての斬撃が騎士の仕事で、弓は平民階級の武器と見なされているそうだ。


だからこそ武士は弓でなく剣や薙刀の稽古を主にしなければならないのだが、腕が悪いと武神の力の術の基本となる弓の稽古をやらされる。

更に武士が実戦で弓を使う唯一の機会と言えるのが、籠城での守戦。野戦で勝てなかった場合の出番である。

つまり、弓が上手い=弱いと言われるそうだ。


「お気になさらずに。実際に私は弱いと言われて間違っていませんから。

 ですが、諦める気はありません。父上の娘として恥ずかしくない騎士になって見せます」


「そうか。俺も負けないよう頑張るとしよう」


気丈に振舞う彼女に、下手な慰めは止めておこう。

それに、正直に言えば、アリエラが戦場に出るのは気が重い。騎士になれないなら、それに越したことはない。

それにしても、父親を尊敬しているようだが、どんな人か聞いてみるか……いかん。聞いたら既に死んでいますなんて答えが返ってくる可能性がある。別の話題にしよう。


「それで、訓練はどのような内容なんだ?」


俺も、これから訓練に入る予定だし、参考までに聞いておく。

基本的に甲冑を付けて馬に乗ったまま、剣や薙刀を模した棒で殴りあうのが多いようだ。

実戦的と言えばそうだが、相手が人間では無いのに良いのだろうか?

まあ、相手も人型だし大丈夫か。


「ここが鍛冶屋です」


楽しい時間は過ぎるのが早いと言うが、アリエラと2人の時間は、稲妻のような速度で過ぎ去っていく。

目的地に到着してしまい、楽しい時間が終了を告げた。

いや、帰りもあるから、まだ半分も行ってない。鍛冶屋デートを楽しもう。


「これが鍛冶屋?」


建物に入った俺の第一声がそれだった。

鍛冶屋のイメージと言えば、金床で剣を叩いている音と、汗が噴き出るような熱気なのだが、ここには、両方ともない。

外と変わらない気温に、いくつかの武具を飾ってある展示室のような部屋。


「いらっしゃいませ」


若い、職人っぽくない男が現れた。

営業担当って訳でもなさそうだが、やはり職人らしくはない。

その男に、アリエラが昨夜の発注の件で確認したいことがあると伝えると、別室から一人の男性が現れた。彼も職人には見えず、どちらかと言えば学者っぽい。


「王室から急ぎの注文と言われ、発注書の寸法を見た時は、何の冗談だと思いましたが」


俺を見て苦笑を浮かべる。何でもサイズが大きすぎて、後で間違いだったと言われると思っていたそうだ。

まあ、これだけでも来た甲斐はあったのかもしれない。

物を作る際に、役に立つかと疑問に思いながら作るのと、着る人間を想像して作るのではモチベーションの差が段違いだ。


折角だから工房を見せて貰ったのだが、この世界の鍛冶は変わっていると言うか……

魔術で物質を熱したり混ぜ合わせたりしながら作るそうだ。

炭などの可燃物なしで、どんどん形が変わっていく。職人というより魔術師…錬金術師って奴っぽい。

しかし、考えようによっては叩かなくていいなら、三角槍も作れるだろう。頼んでみるか。


「あの、武器の制作を頼みたいのですが」


「はい。どのような?」


口頭で説明していると、途中から紙を持って……と、思ったら布だった。紙は無いらしく、それに記入するらしい。言われた通り、それに詳細を記していく。途中で、横から覗き始めたアリエラの頭を撫でたい衝動に耐えながら書き上げると、職人改め錬金術師のおっさんは首を傾げる。


「これでは斬ることは難しいのでは?」


「斬るのではなく、刺したり殴るための武器です」


「ふむ。この平面部分の溝は?」


「血抜きの溝です。太刀には掘らないんですか?」


刀の中には刀身に沿って、溝を掘っているものがある。効果のほどは分からないが、刺した時に溝から血が抜けるので、圧力が下がり抜けやすくなるそうだ。

それを聞いた錬金術師は興味深そうにしている。


「それは面白いですね。試してみます。それで、この槍と言うのはどれくらいの長さにします」


「全体で俺の身長の倍。穂先と柄の比率は図面通りでお願いします」


「……長すぎません?」


アリエラも不思議そうに覗き込むが大丈夫だと押し切り、制作を頼んだ。

よし。これで、念願の武器が手に入る。

機嫌を良くした俺はアリエラと仲良く帰路につく。


ん? 考えてみれば一兵士になりたいと言う俺の希望が叶えば、当然訓練から入るんだよな。

って、事はだよ。騎士見習いと一緒に学ぶのが妥当と言う物ではないだろうか?

それは、つまりだな。アリエラ達とキャッキャウフフの学園生活みたいなものが始まるのではないだろうか?

き、期待して良いかな? 良いよね?





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





「ヨランダです。入ります」


「御苦労。掛けたまえ」


日が沈んだ後、アーヴァングは呼び出した人物を自分の前に座らせた。

勇者の提案に関して、他者の意見を聞きたかったのだ。指導に関しての専門家であるし、幸いにも彼女は、その勇者と会ったと聞いた。


「単刀直入に聞こう。勇者を騎士見習いの訓練に参加させることは可能か?」


「は? 何を…」


この聞き方では、流石に戸惑うかと苦笑する。

他言無用と前置きをした後、アーヴァングは順を追って今朝の会話を説明する。勇者は予定していたパーティではなく、兵士として参加を希望している。

だが、仮にも勇者を一兵士として扱う訳にもいかないので最低でも騎士、出来れば部隊長にはしたい。


「私が見たところ、立派な騎士になれると思うが、何分、経験も知識もない。

 だから、彼に学ぶ場所を与えたいと思うのだが、貴女はどう思う?」


「なるほど……では、私の方も先ずは単刀直入に結論から。

 あの男を騎士見習いに? 無理ですね。悪い冗談です」


「まさか、軍人としての資質が?」


「いいえ、逆です。あれ程、資質に恵まれた男は見たことがありません。天才どころか、怪物と言っても良いでしょう。ゲオルゲが可愛く思えます」


ライヒシュタイン家の神童と謳われた少年を上回るという評価。

そして、初めて聞くタケルの行動。いくつかの武具を破壊し、軍馬を引き付ける魔力。

明らかに常人では無い。軍人となれば必ずや優秀な実績を残すだろう。


「私が乗っていた軍馬が私を振り落としてでも彼に擦り寄ろうとしました。お嬢さんが居なければ、私の面目は丸潰れでしたよ」


「では、何故、見習の訓練に参加させるのに反対する?」


「格が違いすぎます。訓練生の中にはゲオルゲ程では無いにしても、才あるものも居ます。ですが、タケル殿の存在は、あの子たちの自信を打ち砕くでしょう。

 ゲオルゲの時は最年少の子供の前で情けない姿を晒したくない意地がありましたが、タケル殿は年長です。託しても問題ないのです。

 目に見えますよ。あっと言う間にあの子たちを追い越し、届かない高みに立つ姿が。元帥なら耐えられますか?」


「……今なら」


そうだ。現実を知った今なら、自分より遥かに強い者が現れても、受け止められる。

だが、訓練生では受け止める事は無理だろう。いや、受け止めてはならないのだ。


「あの子たちは、大なり小なり、我こそは世界を救うと信じて訓練に励んでいます」


「ああ。私もそうだった」


そう考えていたからこそ、厳しい訓練も耐えられた。

最初から事実を知っていれば、諦めていたかもしれない。


「ゲオルゲが戦死したと聞いた時、あの子たちの中には折れそうになった子も居るのですよ。

 不謹慎な言い方かもしれませんが、殿下を守ろうとしたという理由がなければ、早々に“事実”を知って、諦める子が多く出たでしょうね」


「“事実”か……ゲオルゲのような才ある騎士であっても、魔族の弱兵に劣る」


「はい。元帥のように、幾たびの死線を超えて、ようやく魔族の一兵士と対等になる。そんな馬鹿げた実力差を知っては訓練に耐えられませんよ」


魔族との戦いは、冷静に考えれば絶望しか無い。

それでも、戦い続けられるのは、隣で笑い、戦い、散っていった戦友に託されたから。だからこそ足掻き続ける事が出来るのだ。いや、足掻いてしまうようになる。


だが、訓練を受ける騎士見習いは、そんな経験はしていない。させられる訳も無い。

だから若者には夢を見させているのだ。自分たちが世界を救えると、甘い、偽りの夢を。

今、訓練生には娘が居るのだ。その事に、思うことはある。だが、対案などもなく、偽りの夢を与えることに加担している。


「仮に、タケル殿を訓練に参加させたとします。

 その結果、おそらく、良い言葉で言えば、彼に託す。悪く言えば、早々に自分に出来ることなどないと諦めるでしょう。更に、彼が戦死しようものなら、訓練所は崩壊します」


「そうだな。強者は孤高であるべきか……彼には、誰か個人的に指導させるとしよう」


「エリーザなら、パーティとやらに参加させるはずだったのでしょう?

 なら、地位的に空いていますし、何より追い越されるのは経験済みです」


エリーザは、まだ、幼い弟のゲオルゲに敗北するという経験を味わっている。

ヨランダが、それでも折れない心の強さを評価しているのは聞いていた。


「ああ、だが、奴はタケル殿に懸想(けそう)しているようだ。厳しくは出来まい」


「おや? あの娘が色に興味を?」


驚いたように呟く。言われてみれば、彼女が誰かに懸想されることはあっても、逆は今まで無かったことだ。

ただ、問題はそんな事より、彼女が勇者への指導へは向いていないと思えることだ。


「ですが、彼女でも基本程度は教えられるでしょう。弓を使っての魔術の行使と軍馬の動きに慣れる事。

 最初はこれくらいでしょうし」


「では、その後は別の者に代わらせるか」


「私としては、バルトーク殿を推薦します」


「……貴女は勇者殿に含むところが?」


気難しく、口の悪い老騎士を思い浮かべる。

その人物は、アーヴァングが見習の時期に教官を務めていた人物だ。

非常に厳しい人物で、アーヴァングだけでなく、彼に頭が上がらない将軍は幾人もいる。


「まさか。私は立場上、人と言うものを多く見てきました。

 その上で言います。上品に振舞ってますが、タケル殿の本質は野蛮な戦闘狂です。それを必要以上に厚い皮を被って隠しています。

 まずは、その皮を剥がしてしまわない限り、全力は出せません」


そう言われて、召喚されたときの彼の様子を思い出す。

あの時、間違いなく彼は、そこに居る者を殺そうと考えていた。それが出来るか否かは問題ではない。

最初に先ず、そうしようと考えた。混乱した状態で最初に考えたのが、周囲の人間を殺すことだったのだ。


「それに、そんな危険な人物、あの老人以外に面倒を見切れないでしょ。私なんかでは、逆に勇者殿が気を使って全力を出せませんよ」


「……そうだな」


とりあえずは、エリーザに個人指導で基礎を教えさせる。

バルトークには、勇者を見てから行動を決めて貰う。彼に丸投げするようだが、バルトークほど信用できる人間も居ない。


「ところで、アリエラの成長はどうです?」


元帥としてではなく、父親として娘の恩師に質問をする。


「アリエラは優しすぎですね。人を傷つける行為への躊躇が強すぎるので、訓練では、その実力を出し切れていません。

 実戦に出して、魔族を前にすれば化ける可能性もあるのですが、気軽に試すわけにも」


その評価に苦笑しつつも、軍を統べるものとして、娘を戦場に出せない情けなさを感じつつも、父親として娘を戦場へ出さないで済む安堵の気持ちも持ってしまうのだった。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇





城に戻った頃には日が落ちていた。

もう夜だが、アリエラが、もっと一緒に居たいと駄々を捏ねて……


「それでは失礼します」


……なんてこともなく、仕事は終わりと言わんばかりに去っていく。

だ、大丈夫だ。時間はまだある。明日からは一緒に訓練を……



残念ながら、学園物にはなりません。

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