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根之堅洲戦記  作者: 征止長
平凡じゃない男、異世界に来る。
12/112

勇者パーティ結成?

タケルが出て行った後、一人湯船に取り残されてから、どれほどの時間が経過したかは分からない。

脱衣所で火照った体を冷ましながら、エリーザは高鳴る心音を宥めようと努めていた。

だが、心を平静にしようと思っても、目に焼き付いたものが忘れられない。


「エリーザちゃん?」


「イ、イオネラ?」


「やっと気付いた。と~こ~ろ~で~、ど・う・で・し・た?」


どうやら、何度か声をかけられていたらしい。だが、それよりも、悪戯な表情に揶揄うような声。心を見透かされるような気がして、思わず視線を逸らす。

夢心地だった気分が、現実に戻ってくる。そうなると、先程までの自分の醜態に頭を抱えたくなる。


「すまないが、もう休ませてもらう。お休み」


「あ~! 教えてくれても良いじゃない」


イオネラの抗議を聞き流して部屋への廊下を進む。

歩きながらも、脳裏に瞼に焼き付いた“アレ”と、自分の行動が蘇り、羞恥と泣きたい衝動に耐えながらも何とか部屋へ辿り着くと、中には同居人であるイレーネとリディア、2人ともいた。


「お帰りなさい。エリーザさま」


「う、うん」


「で、どんな心境の変化かしら?」


心配そうな表情のイレーネに対し、曖昧な態度で返事を返すと、リディアが怒りを隠そうともせずに、問いかける。

主語だけでなく、何もかもを省略した質問の意味を察する。

勇者が召喚されるまでは、勇者への反感で纏まっていた3人だったのだ。年齢も身分も異なるが、勇者への生贄のような立場になる事への反発から同士のような感情を持ち、友情を築いた。

それなのにエリーザは、掌を返したような態度で勇者への案内を買って出た。酷い裏切りと思われても仕方が無いだろう。


「自分の目で見て判断し、行動しただけよ。貴方たちもそうしなさい。私は寝るわ」


そう言い捨てて寝床に潜り込む。心境の変化を説明しようにも上手く出来そうにない。特に今は。

ああは言ったが、自分の行動がおかしい事くらい自覚していた。

何を考えて、いきなり一緒に入浴してしまったのだろう。


自分は容姿に無頓着だと思っていた。美しいと褒められることは多かったが、それを鼻にかけたことは無く、容姿など、その人の価値を決める要素として低く見積もっていた。

だが、本音の部分では、自分の容姿に自信を持ち、自らの裸体を見せれば相手は絶対に喜ぶと考えていたのでは?

何と低俗ではしたない思考だと羞恥に悶える。


タケルは、最初から冷静だった。エリーザが全身を晒しても、何の反応も見せない。

そんなに自分は魅力が無いかと焦り、手を取って自らの胸に押し当てるという、今考えると泣きたくなるような、はしたない行為まで行った。


それでもタケルは、落ち着いたままで冷静さを崩さなかった。

だが、自分の魅力に自信を失いかけた時、確かに反応しているものがあった。あのように膨大したものを見たのは初めてであったが、アレがどうして大きくなるのか知らない程、無知ではない。

ちゃんと興奮していたのだ。おそらく強い自制心で冷静に振舞っていたのだろう。


「ところでエリーザ、あんたヤッたの?」


「してないわよ!」


リディアの問いに真っ赤になって叫ぶ。

あの時は、頭が真っ白になって、何も出来なかったが、今思うと、それで良かったかもしれない。

あのまま勢いで最後まで……もしかすると軽い女だと軽蔑されるかもしれない。

昨今は戦死による男性不足から、家名を残すためにも勢いで妊娠が流行っているが、幸い自分には弟が居て家名存続は大丈夫だ。やはり、こうした行為は時間をかけて距離を縮めて、互いの気持ちを確かめ合ってから行うべきである。出来れば嫁入りしてからが望ましい。


だが、明日から顔を合わせ辛いのも事実だ。世話をすると言っても恥ずかしい。

何か一緒に行動する理由を探さなくては、距離を縮めることも出来ないだろう。


「それで、エリーザ様。明日の予定なのですが」


「え? 明日?」


イレーネに明日の予定と言われ、普段であれば上官に業務の終了報告と同時に明日の行動の指令が下されるのだが、全力で忘れていたことを思い出す。

不味い。予定では業務終了している時間だが、報告する時間はとっくに過ぎてしまった。業務時間が延びる場合は事前に報告する義務があるのだが、それすらしていない。職務放棄だと言われても仕方がない行動をしてしまった。


「報告……忘れてた」


「だ、大丈夫だそうですよ。テオフィル元帥は妃殿下から報告は無いと思えと言われたそうです。

 それで、元帥からの通達内容ですが、明日、朝食後には例の件で、我々の紹介と行動の指針を決める話し合いを設けると」


「例の件?」


報告しないで済むのは助かったとか、アナスタシアが何を言ったのか気になることはあるが、それより例の件とは何だろうと首を傾げる。

それに答えたのは、イレーネではなく、仏頂面のリディアだった。


「例の“パーティ”とかいう変な行動の事よ」


そう。元はと言えば、自分たちは勇者のパーティというものになるために集められたのだ。

前までは忌々しい単語だったが、今となっては事情が異なる。パーティとは勇者と行動を共に行動するのだ。

つまり、時間をかけて距離を縮め、互いを知ることが出来る。何と素晴らしい企画ではないか。


「え? 何ニヤニヤしてんの?」


「エリーザ様? 変な笑い声が……」


大丈夫だ時間はある。明日からの事を想像すると、思わず笑い声が漏れてしまうが、止められない。


「何かダメね。コイツ、こんな奴だったの?」


「え、えっと、昔から時々ですが……」





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「パーディ……何ですそれは?」


今後の行動の方針を相談のためと呼ばれた俺が、突然の申し出に戸惑うのも無理はないと思う。

何でも俺のパーティにと、3人の女性を紹介されたのだが、そのパーティとは何なのだろう?

パーティと言えば誕生日パーティやクリスマスパーティを開きます、という風に使うのだが……

英語は苦手だが、前後の文や使用方法から、おそらく“宴会”の英訳だろう。


待て、じゃあ、俺の宴会とは何だ? いや、勇者の宴会が正しいのか? どちらにしても意味が分からん。

いや、今後の方針を相談すると言いつつ、まずは歓迎会を開くという話で、この3人は宴会芸を得意とする芸人か? その中にエリーザが居るのだが、奴は芸人だったのか。うむ、思い返せば昨夜は滑りまくっていたようだが、あれは俺を笑わせようとしていたのか。


しかしだ。まずはエリーザ。自己紹介では、年齢は17歳で職業は騎士。剣と薙刀を得意とし、馬術には凄く自信がある。軍略等は得意ではないらしが、その軍略も実際は悪くないとのアーヴァングのフォローあり。


次に自己紹介したのが不貞腐れた感じのリディア。年齢は20歳で魔導士。得意なものは魔術の研究。何でも今は温度変化をより効率的に少ない魔力でやる研究をしているらしい。苦手なものは運動と、外には出たくないオーラを出している。


最後に紹介したのが、気弱そうでオドオドとしたイレーネ。年齢は15歳で神官。格好は上にローブを羽織っているが、ほとんど巫女である。得意なのは治療魔術。実年齢と言い見た目と言い、俺のストライクゾーンに高めだが入っている。

昨日、アリエラとイオネラに会ってロリ耐性(抗体)を身に付けていなかったら、ドキドキしていただろう。


さて、この自己紹介で、どんな芸を披露するか予想できるだろうか? 

何となく、エリーザはボケで、リディアは突っ込み担当だろうと予想は付くが、イレーネの役割が分からん。突っ込みは苦手そうだし天然ボケか?

いや、落ち着け。考えてみれば自己紹介で職業を言ってるじゃないか! 芸人ちゃうやん!


「その、タケル殿はパーティを御存知ないので?」


「え、ええ。申し訳ありませんが説明をしてもらうと助かります」


「それが、我々もよくは分からないのです」


可笑しな返答に首を傾げると、アーヴァングは困ったように説明を始める。

何でも、1番目と2番目に召喚された勇者が要求した行動で、異性の騎士と魔導士と神官を1人ずつ集め、近くの山中や森で魔物を倒しているそうだ。

その後、どうせ要求されるならと、先に準備しておくと、次から召喚された勇者も受け入れていたようだ。

どうやら、俺だけが疑問に思ってるようだ。あれ? パーティって常識なの?


「そして、襲ってくる魔物を倒して“レベル上げ”をするそうです」


「え? 山中で襲ってくる魔物を倒すと言いますが、魔物って、どんな生き物なのですか? 獣とどう違うのです?」


「魔力を持つ獣の総称で、通常の獣と比べ能力も高いです。同じ大きさなら獣が魔物に勝つことは不可能で、同じ猫型で比較すれば、この程度の大きさの魔物が、この位の獣と互角の戦いになります。更に凶暴な種が圧倒的に多いですね」


そう言いながら、手を動かす。つまり、家猫のサイズの魔物がトラやライオンと互角になるらしい。

そして、凶暴で人を襲うことも多いと。


「では、人しか襲わないとか、都市に入ってくることは?」


「いえ。それは無いです。こちらが向こうの縄張りに入らない限り襲ってくることは、まずありません」


「ですよね、つまり強いだけで普通の獣ですよね」


都市がある時点で変な話だと思った。俺も狩りをやっていたが、基本的に獣は人を避ける。

何故か? それは生物として人間こそが食物連鎖の頂点であり、熊やライオンであっても、人の前では負けて縄張りを奪われて滅ぼされたか、人間から逃げ延びた生き残りでしかない。

その前提があってこそ、人は都市のような文明を築けたのだ。人間より強い生物、特に人間を食糧とするなら、都市のようなものは、その生物にとってエサ箱に過ぎない。

現に過去、そして現在進行形で行われているのがそれだ。魔族は都市や村(エサ箱)に向かってくる。


魔物が人間より強く、餌とするなら山中などには住まない。縄張りとは身の安全を確保し、エサが豊富な場所だ。人間より強ければエサの多い都市や村の周りで暮らし、腹が減ればエサ箱の中からエサを食う。仮にエサが襲ってくれば返り討ちにすれば良いのだ。

誰も好き好んで食われるために都市や村(エサ箱)を作り、そこで生活しようとは思わないだろう。


しかし、実際は凶暴な獣にとって、人間は近付きたくない、獣を超える怪物であり、遭遇して襲うのも、身を守る為というケースがほとんどだ。

近年は、かつて楽しみながら獣を殺していた人間(かいぶつ)も、すっかり甘くなったために、その恐怖を忘れ住宅街へ出没する熊のような獣も出てきてはいるが、その身に刻まれた本能のためか、休息は人間(かいぶつ)の目が届かない場所へと消える。


つまり、魔物だろうが何だろうが、人間を避けた場所に生活圏があると言うことは、人間を避ける生き物だってことだ。普通に襲ってくる場面に遭遇するケースは非常に少ない。獣に襲われ死亡した事件というのも、山に入った人間の総数からいえば、ほんの僅かなものだ。


それにレベルアップ。何のレベルを上げると言うのか? いくら狩りを熟したところで、狩りが上手くなるだけだ。魔族との戦いに何の影響があると言うのだろう?


「あの、それで魔王を倒せるなら、猟師に依頼した方が良いのでは?」


「え、ええ。我々の中からも同様の意見が出ました」


「で、ですよね」


ソイツとは気が合いそうだ。だが、勇者は全員、その行動に疑問を持っていないのだろうか?


「あの、確認なのですが、以前に11人召喚されたそうですが、誰も疑問に思わなかったのですか?」


「それは……正直に申し上げます。1人だけ、行動していない者がいるようです」


言い辛そうに話を始めるアーヴァング氏。それを言っちゃうのと、俺のパーティ(仮)メンバーが、驚いた表情をしている。

要するに、こんな世界で戦えだなんて嫌だと言う普通の奴が居るようだ。

だが、驚くには値しない。マトモな奴なら正しい反応だろうし、逆に少ないくらいだ。


それに、その事実を伝える事に抵抗があったことも納得だ。

だが、それでも伝えてくれたことに感謝する。

それに俺に関しては問題ない。俺は既に誓ったのだ。この世界を救う手伝いをすると。


だが、問題はやはり、俺以外の勇者で戦う意思があるものは、みんなパーティを結成したことだ。

俺の知らない事実。何か理由があるはずだ。

頭が悪いとは思っていたが、ここまでとは……ん? 待てよ?


召喚された勇者は12人。その内、戦いたくないと言ったのは1人だけ? 少なすぎないか?

俺が言うのも何だが、命のやり取りに、こんなに抵抗が薄いものなのだろうか?

日本人全体で考えれば異常な数値だが、召喚される条件に“マトモじゃない”人間があれば?

それに、俺は前に召喚された勇者の言動を聞いた時、誰を思い出した?


「まさか……日本にもあるのか?」


「タケル殿?」


話しかけてきたアーヴァング氏を手で制す。悪いが今は自分の考えに集中したい。

俺は勇者の言動を聞いた際に、かつてのDQNだった同級生を思い出した。

奴が出来るのは、ヤの付く仕事くらいしか無いだろうと思っていたが、もう一つある。

いや、日本には無いと思っていたのだが……


「自衛隊にもあるのか……アメリカ海兵隊のような組織が」


海兵隊の荒くれ者。映画なんかでたまに聞くフレーズだが、聞いた話だと海兵隊は元犯罪者なんかが在籍しているらしい。それに犯罪者が刑期を減らす手段として海兵隊に入隊するなんて話も聞いたことが在る。

そして、実際のドンパチで役に立つのは、命の尊さを説く善人より、そんな荒くれ者だ。


日本では全体的に命を重いと考える。そのため、殺し合いには向かない人間が増えているが、それでも一定数は出てくるのだ。

働かない働きアリが出るように、社会秩序に逆らいたがるあぶれ物がどんな時代にも居る。

普通に生きていれば害悪にしかならない、そんな社会の鼻つまみに仕事を与え、有事に役立てようとする考えが出たとして不思議はない。

だが、日本では海兵隊程大規模な組織は必要ないだろう。それに山中でのレンジャーのような行動。だとすれば……


「おそらく、これまで召喚された勇者は、日本で秘密裏に結成された特殊部隊の兵士だと思います」


「いえ、違うと思いますよ」


黙れエリーザ(ボケ担当)! 俺の名推理にケチをつけるな。

いや、今のは奴なりのボケかもしれん。だったらリディア(突っ込み)は仕事をしてほしいものだ。


「特殊部隊とは?」


「破壊活動の鎮圧や潜入工作を主とする少数の部隊です」


「そのようなものが……」


「ええ。そして、彼らの行動から推測して、目的はおそらく、魔王の暗殺」


「いや、あの人には絶対無理だと思います」


だから、エリーザ(ボケ担当)は口を出すな。つーか、リディア(突っ込み)は仕事をしないだけでなくリディアに同意とばかり頷いてやがる。


「しかし、そうなると、私には無理ですね。特殊部隊どころか普通の軍隊の訓練も受けていません」


悔しいが、召喚された勇者の中で俺が一番ショボい奴だったようだ。申し訳ない気持ちで一杯だ。

だが、やれることはやらねば。アリエラのような少女まで努力しているのだから。


「手数をかけて申し訳ないのですが、パーティというのは私では役に立てそうにありません」


「うむ。そうですか……」


アーヴァング氏が困った表情を浮かべる。

まあ、最初の予定では、このまま何をするか考える的な態度で、情報を集めようと思っていたのだが、今は違う。すでに決めていた。戦うと。

だが、俺には体力はあっても戦争の経験はない。そんな俺に相応しい仕事は唯一つ。


「ですから、私を一兵卒として雇っていただけませんか? どのような仕事でも厭いません」


パーティが集まりって意味だと最近知りました。


誤字報告ありがとうございます。

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