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根之堅洲戦記  作者: 征止長
生きる意味
112/112

敗北の後


炎に照らされるヘルヴィスの、凄まじいまでの殺気が俺を打つ。

竦みそうな恐怖に、逆に快楽を感じた。

これがヘルヴィスだ。やはり、先の戦闘は自分を抑えていたのだろう。


だが、こうして睨み合っていても無駄だ。

城内では戦闘が続いているようだが、ここから出来ることは無い。

命令を出すことは出来る。大声を出せば、城内へ聞こえるかもしれない。


抵抗を止めた方が犠牲は少ないから、大人しくさせるべきと、冷静な自分が訴える。

最後の一人まで戦って抵抗すれば、魔族は早期に食料が無くなると、冷酷な自分が訴える。

どちらを選んでも大きな犠牲が出る事には変わらないと、冷淡な自分が訴える。


どれも選ぶ気はしなかった。

城内にいる者が自分で選べば良い。俺に決める権利は無い。

今の俺は愚かな敗者なのだから。

もう、ここでやることは無い。


「待て」


踵を返そうとする俺を、ヘルヴィスの声が止めた。

勝ち誇るような性格では無いだろうし、何の用かと視線を上げるが、ヘルヴィスの姿は見えない。

奴の気配は城壁の上から動いていないから、降りてくることは無いだろうが……


「丁寧に扱えよ」


そう言って再び顔を出すと、何かを投げてきた。

人の頭ほどの大きさのソレを、言われた通りに丁寧に受け止める。

いや、まんま、人の頭部だ。それも真っ黒に焼け焦げている。


「食い損なった。良い情報が得られそうだったんだが残念だ」


それで、誰の頭部か。何故、こうなったのかが分かった。

クルージュ将軍は、自ら選んでこうなったんだ。

己が持つ情報を、魔族に渡さないために。

ヘルヴィスは、その勇敢な最期を俺に伝えたかったのだろう。


「礼は言わんぞ」


「当たり前だ。そんなもの必要ない」


それ以上は言葉が出なかった。黙って歩き安綱の背に跨る。

どうやって城を落としたか気になったが、周囲にある投石機を見て理解した。

人の死体では無く、死の化身と言われている奴自身を飛ばしたのだろう。

あれで飛んだら、どんな気分か想像した瞬間、奴も同じように考え実行したと確信してしまった。

妙な気分になるが、思考が似ている奴の事だ。行動は読みやすい。


だが、同時に向こうも俺の思考を読みやすいと思って良いだろう。

それどころか、奴の方が一枚上手だ。

今回の敗戦も、奴は俺の思考を読み切り、カラファト城を手にしている。

油断でも慢心でもない。もっと単純に、軍略でも奴が俺を上回っている。それだけの事実であり、厄介な現実だった。


「王都へ戻る」


無言の旗下に命じ、黙って軍馬を走らせる。

沈黙が痛いが、それは俺だけでは無いだろう。

カラファト城を救援したい。そう思っているだろうが、今の状態では、こちらからの城攻めだ。

あの城の堅牢さを知っている者達からすれば、城を奪い返そうなど軽々しく言えるものでは無かった。


そして、程なくブライノフとアルツールの部隊に合流し、城の陥落を伝えると、覚悟していたらしく、ティビスコス隊と合流すべく、先へと進む。

やがて、ティビスコスとも合流し、全軍に休息を命じ、その間に軽く今後の打ち合わせを行う事にした。


「この辺りかな?」


「いや、もう少し王都よりだろう」


次の戦場について話し合う。

現状では、カラファト城の奪還は不可能だと言って良い。

ヘルヴィスが率いる三万以上の軍が守る堅牢なカラファト城は、鉄壁と言って良いだろう。

だが、ヘルヴィスが守り続けることは無い。奴は必ず出てくる。奴にとって、カラファト城はそのための拠点に過ぎない。


「問題は時期だが?」


「年が明けてからだろうな。暖かくなり、万全の状態で戦う。それが奴の望みだろう」


今の俺の望みが、同時に奴の望みでもある。

そこを読むのは容易い。


「機が熟す。それは分かるはずだ。それまで、全軍は王都周辺に待機してもらう」


「分かった。タケルに従おう」


全員が即座に次の戦闘に頭を切り替えている。

ある意味、負けに対する耐性が付いているのだろう。

このまま、野営しても良いが、寒い中で眠るより、夜を徹して進んだ方が良いと意見が一致した。


「では、王都に帰還しよう。久しぶりの敗残の兵だがな。

 ん? そう言えば、タケルは初めてか?」


「ああ、こんな時はどうすればいい?」


「堂々としていろ。不安を見せるな」


「分かった」


自分の未熟さを嫌という程、見せつけられる。

だが、これが現実だ。自分が矮小な存在であることに目を逸らしても何も得るものは無い。

全てを受け入れて、その上で前へと進むしかないのだから。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




王宮は騒然としていた。

無理もない。戦略を組んだ段階では必勝を予期していたのだろう。

最近は勝ちに慣れていた上に、前回の大勝だ。

だからこそ、戦場を離れたところを希望するなど、振り返れば必死さが足りなかった。


敗戦の謝罪をする俺に対し、陛下は、その件を群臣に指摘し、慢心を諫めて死力を尽くすように命じると、俺に罰を与える訳でもなく、出陣していた騎士には、休養するように指示を出す。

会議に使っている部屋へと案内され、今後の事について話し合う。


「直ぐに来ると思うか?」


「いえ、寒い内は動かないと思います。魔族は平気でも人間はそうではありません。

 今攻めても、我々は籠城するしかありませんが、それはヘルヴィスが望む形では無いでしょう」


陛下の質問に即答する。

食糧は確保できたが、ヘルヴィスは全軍での、しかも全力での戦闘を望んでいるはずだ。

そんな奴にとって、籠城戦は望みでは無い。


「ならば、年明けか」


「陛下、こうなっては負けた際のことも考えるべきでしょう」


ダランベール宰相が重々しく口を開く。

負けた場合か。ティビスコスが反論しかけるが、それを止めた。


「落ち着け。それぞれの立場だ。俺達は勝つつもりだが、保険をかけようとするなら、それを止める理由は無い。

 俺達は、無駄なことをしたと後悔させてやれば良い」


「分かった。元帥と宰相の顔を立てる」


ティビスコスも分かってはいる。だが、ここで反論しないで大人しく聞いていれば、周囲に勝てないと認めていると思われるので、あえて反論しただけだ。

俺達は黙って文官のやりとりを、適当に聞き流す。

要するに、陛下を始めとする王族には、避難するように要求し、その避難先を何処にするかの相談だった。


「余は動かん」


だが、それに対して、陛下は避難はしないと宣言した。

あくまで、ロムニア軍は王都手前で迎撃し、魔族を追い払う姿勢を示す。

確かに、王が逃げたら王都はパニックに陥るだろうし、民衆は逃げ切れるかと言えば難しい。

南方は、すでに受け入れ先が一杯なのだ。


「が、万が一を考え、孫たちはアナスタシアとメトジティア城へと非難させる」


なるほどね。俺達が負けた時点でロムニアという国は終わりだ。

南へ逃れても、やがては食い滅ぼされるだろうから、海軍を持つヴィクトルの実家に預けるか。

フェイン陛下は国と心中して、孫は国外へと逃がして復興の可能性を残すつもりだな。

そんな話を聞きながら、ようやく迎撃に関しての話が始まる。


「王都からは、補給を滞らせないようにしてもらいたい。

 それが可能な範囲で、出来るだけ離れた場所で戦いたい」


こちらの要望は、補給が途絶えない事だけだ。

近くで戦うのは嫌だろうから、それが可能なら好きなだけ離れてやる。

俺の意見に、反論は無く、戦場の設定が進められていく。


それも決定すると会議を解散し、鮮花に話したいことがあったので別室へと移動した。

正式な会議では無く、俺達は王宮住まいのため、寝るまでの時間つぶしの面もあるので、同じく王宮に宿泊しているエリーザも一緒に戦闘を振り返る。


「申し訳ありません。私のしたことが裏目に出ました」


鮮花が申し訳なさそうに謝る。

彼女に言わせれば、カラファト城の強化も、狼煙の設置も魔族に利したと考えているようだ。

だが、それは結果論に過ぎない。


「それに関しては俺よりヘルヴィスの将器が上だった。それだけだ。

 奴は、その全てを利用し、俺は使いこなせなかった。それ以上でも以下でもない」


「ですが、私の行動は相手を十分に考えていませんでした。

 どちらも相手に利用されることを念頭には置いていません。ただ、自分たちの利便性を追求しただけに過ぎません。

 これでは他国の勇者と同類と言われても反論できません」


「だが、決断したのは俺だ。その責任は奪わないでくれ」


参ったな。鮮花がこんな調子だと、話したい事を話せなくなってしまう。

鮮花の後悔は俺が背負うべき事だ。鮮花は献策をする立場であり、その成否を判断するのは俺の立場だ。

今回の敗戦は、要は俺が鮮花の献策を使いこなせなかったから負けた。

だからこそ、鮮花にはその能力を発揮できる人物の下で働いてほしいと思ったのだが。


「騒々しいですね」


重い空気に、どう切り出すか悩んでいる中、その空気を変えたかったのか、エリーザがドアを見ながら口を開く。

確かに敗戦での騒動とは別のようだ。負けに関しての話は、その内容から大声では話さないが、明らかに大声を上げている者がいるようだ。


「少し気になるな。見てきてくれるか?」


エリーザに依頼すると、承知したと外へ出る。

残された俺と鮮花は、何があったのかと適当な雑談をしながら、空気を変えようとする。

この部屋は王宮の中でも中心部。俺や鮮花の部屋に近く。同時に王族の私室にも近い。

そのため、騒動は避難に関する件ではないかと、鮮花は予想する。

しばらくすると、エリーザが戻ってきて、困った表情を浮かべながら口を開く。


「どうやら、エレオノーレ姫殿下のようです。

 その、タケル殿からも何か言ってくれないかと頼まれたのですが」


鮮花の予想通り、第一王女のエレオノーレが、避難に反対して騒いでいるらしい。

それを伝えた王宮勤めの者に頼まれ、エリーザも困惑していた。

正直、意外だった。二人の王女とは、あまり接したことは無いが、印象は二人とも良く出来た娘。

言い換えれば、親や祖父の言いなりの子供と言う感じだったが、祖父の決定に逆らおうとしているみたいだ。


「まあ、責任は俺にある。口添えくらいならするさ」


俺は苦笑しながら、席を立つ。

騒動の発端は俺の敗戦だ。口添えくらいならやってやろう。

まあ、愛くるしい、お姫様の美貌で目を保養して、いささか落ち込んだ気分を癒そうという気持ちも無いではないが。







終わりまであと一息で、プロットも出来ているのに文章に出来ない。

これがスランプって奴か?

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