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根之堅洲戦記  作者: 征止長
生きる意味
110/112

空より襲いしもの


矢文で伝えられた情報に、クルージュは首を傾げていた。

城外に出した斥候部隊は、本体の進軍速度の上昇を伝えて来たのだ。

どうやって速度を上げたのか不思議に思ったが、食糧として運んでいた人間を食いつくし、大砲を捨てて身軽になって進軍してきているそうだ。


軽くなれば速度は上がるが、食糧が無ければ城攻めは無理だ。一応は投石機は運んでいるようだが、普通に一日やそこらで落ちる城は無いし、ましてや、カラファト城は地上にある、どの城よりも強固だと自信を持って言える。

一応は進軍中のタケルたちに伝令を出したが、それが途中で阻まれている。指揮官はザルティムらしい。

かなりの数の斥候が討たれている状況だ。

無理をさせても、食糧を与えるだけになる。


「バリスタの点検を怠るな。私は跳ね橋の点検を指揮する」


何とか、それだけを指示して、城壁へと向かった。

昇降は、鎖を巻き上げて行うが、一つだけでは駄目で、二つ同時に回す必要がある。

それは、城壁の上にあるが、別の階段から上がる必要があった。その片方に昇って指示を出す。

指示を出しながら、街道を見下ろした。


南北を繋ぐ街道が、カラファト城の西を通っている。

その街道が正面に見える西門は、カラファト城最大の門で、当然ながら跳ね橋に改造されている。

南に目をやり、二日前に、ここを通ったヘルヴィスの事を思う。今頃はタケルたちと戦闘が始まっているだろう。

次いで北に視線を送る。

最初の予想では3日後に本隊が到着する予想だったが、進軍の速度が変化し、明日にも到着しそうな勢いだ。


「城壁の裏は水も撒いておけ。水は川から汲めよ」


点検をして、少し気になったのが、雨が少ない季節なので、乾燥している事だった。

投石機を使用されて、面倒なのが可燃物を放り投げる事だ。油の入った壺でも投げられたら、激しい炎に包まれる。

消火用の水は十分に用意しているが、事前に湿りがある方が引火は防ぎやすい。


他に問題は無いか。城壁を回り、何度も確認をする。

攻める立場になって、何度も考えるが、どうやっても落ちるはずが無い。そう思えてくる。

思いついても兵糧がなくなるか、内応で内側から開けるか。兵糧は十分にあるし、内応に関しては元々が考えにくい上にアザカの助言に従い、単独行動を禁じている。

欠点と言えば、あまりにも、頑強な防御に油断しそうになる事だ。配下も気を抜きかねない。

それ故に、何度も城壁を回り、配下の気を引き締める。


何の問題も見つからないまま、遂に魔族軍の包囲を受ける。

三万の魔族軍の包囲は確かに圧巻だ。数で言えば、防御側の騎士は10分の1である三千しかいないが、それで十分だった。

民兵だけでなく、避難を拒んだ住民も手伝いを志願してきているが、彼等に頼る必要も無い。

一応は予備戦力として、40万の住民の内、2万が待機している。


「銃兵が見えます。それと、後方で攻城兵器を組んでいます」


「なるほど、アザカ殿の言われていた通りのものらしいな」


組み立てている攻城兵器は、アザカの説明に合ったトレビュシェットと言われる投石機のようだ。

設置場所自体は、十分にバリスタの射程範囲内だ。


「問題は、何を飛ばしてくるかだな」


「組み立てを邪魔しますか?」


「そうだな。組み立てを止めるのは無理だろうが、通常の矢を放って、攻撃の感覚を掴もう」


見た感じ、投石機の素材自体は、簡単に燃えるようなものでは無いようだ。

火矢を使っても、ただ警戒されるだけだろう。

それより、魔族が用意しているものが気になった。もし、火薬の類を飛ばそうとしているなら、それを火矢で狙った方が効果的だ。


「明るい内に、何を飛ばそうとしているか確認する」


すでに、バリスタによる矢の攻撃が始まった。矢に当たって、吹き飛ばされている魔族もいるが、気の防御のため、死に至ることは無いようだ。

魔族はバリスタの攻撃に動揺は見えるが、それでも作業を続けている。

組み立ては進み、飛ばす弾らしいものも準備している。見た所、巨大な石しか見えない。

日は傾き、夕日になっている。時期に闇に包まれるだろう。そうなっては、何を飛ばすか不明だった。


「厄介そうなものは見当たらないな」


「魔族の連中、そこまで考えていないのでは?」


「油断はするな。何が飛んできても対応できる準備はしておけ。

 あるいは、投石機以外の方法で来るかもしれん」


銃を装備している魔族もいる。狙撃にも注意する必要があるが、銃を構える者は見えない。

投石機の周囲も、変わったものは見えない。

聞いた中で、最も嫌な攻撃だと思ったのが人の遺体だった。それが投げられたら直ぐに焼く準備はしている。


「来ます! 石だと思いますが」


配下の声に、そちらを見ると南側の投石機が組みあがり、そこから石が飛ばされる。

大きな音を立てて、城壁にぶつかる。一瞬だけ肝が冷えたが、城壁に異常は無い。

その後、組み立てられた投石機から、石が飛ばされるが、城壁に損傷を与える程の攻撃は出ていない。


「火矢を使用しますか?」


「いや、この程度の威力なら問題ない。好きなだけ撃たせて良い。

 それに、時期に日も暮れる。奴らが火器を使用するなら、火が点いていない方が見やすいだろう」


今日は新月だ。星明りだけなら、投石機の周囲に火を点けたものがあれば直ぐに気付く。

そこを狙って火矢を放てばいい。

効果の薄い状態で放って、火矢を警戒されるよりも、可能な限り効果的な状況で撃って、損害を与えたかった。


調整をしたのか、城壁を超えるものも出て来た。

流石に頭上を飛んでいくのは気分が良くは無いが、慣れなばどうという事も無い。

城壁の内側の建物に当たり、損害が出るが、元より想定内だ。クルージュの背後にある建物は兵舎だが、投石機の攻撃を想定し、今は兵が休む場所は別に移してある。そのため、壊されても問題は無かった。他にも壊されている建物はあるが、現状では問題は発生していない。

クルージュが指示を出すまでも無く、各部隊長が指示を出し対応している。


「城壁に近寄れ。頭の上に落ちたら助からんぞ」


「一度来たら、次が来るまで時間がある。その間に飛んできたものを確認しろ」


ただの石を飛ばして、本当にこの城を落とせると思っているのか。

飛ばしているものが気になった。

やがて、その報告が来る。周囲は既に暗くなっていた。


「報告します。飛ばしているのは石で間違いありません。

 ただ、非常に大きく、重さは人が二人分くらいはあるようです」


「全てか?」


「はい。全て同じ大きさのものです」


何か気になった。

ただ石を飛ばすなら、そこまで揃えなくても良いと思うが、逆に同じ重さにすれば、同じ場所に攻撃を重ねることが出来る。


「何故、城壁を狙わん?」


同じ個所に攻撃出来るなら、城壁を狙うべきだろう。

何度も攻撃を重ねれば、流石に砕ける可能性がある。

だが、その攻撃も何時の間にか止んでいた。


「流石に疲れが出たか」


城を包囲している魔族は、想定より速い速度で駆けてきている。

それが、食事をすることも無く、投石機を組み立て攻撃をしていたのだ。

疲労で動きが止まっても不思議ではない。

それに、既に日は落ち周囲は星明りのみだ。投石機の攻撃も難しいだろう。


「攻撃は落ち着いたようです。今の内にお休みになられては?」


「私は良い。それより、警戒は続けろ」


高ぶっているのか、睡魔は訪れない。

配下も、侵攻が始まった時から、交代で休むようにしているので、今更指示を出すことも無い。

今もバリスタを何時でも撃てるよう待機しているし、堀に侵入すれば気付くように明かりで照らして、見張っている者もいる。


改めて魔族を見るが、寝ている者は見当たらない。

暗くてハッキリとは見えないが、横になっている兵がいるようには見えない。

ジッと見ていると、大量の騎竜と思われる足音が聞こえてきた。


「南より、軍勢が来ました。おそらく竜騎兵かと」


「ああ、気付いてる」


暗闇で見えにくいが、騎兵の集団が合流すると、魔族軍に動きが出てくる。

直ぐにクルージュの頭上を先程のように石が飛んでいく。

同じことの繰り返しかと思ったが、次に飛んできたのは、今までのものより大きなものだった。

思わず、しゃがみ込む。その頭上を、同じように大きなものが飛んでいく。


「待て」


そう口にするが、何かは分からない。ただ違和感。

飛んできたものは、今までよりも大きなものだった。

その大きさなら、飛距離は落ちるはずだ。それが、同じように飛んで行った。

慌てて後ろを見る。


壊れた兵舎から人が出て来た。

いや、違う。人では無い。人より大きい。大きい。魔族だ。なるほど、人の二倍ほどの重さだろう。

そして、二体の魔族の内の一体、その魔族は片方しか角が無かった。


「ヘルヴィス?」


声に出した瞬間、二体の魔族が駆けだす。

途中で別れるが、目的地は悩むまでも無く、二つある跳ね橋の昇降機だ。

ヘルヴィスが、自分がいる方へ向かっている。


「迎撃しろ!」


そう指示を出したが、止められるはずもない。

竜騎兵で駆けている時と変わらず、遮る騎士を一太刀で薙ぎ払いながら突き進んでくる。

階段を駆け上がり、城壁の上まで到着しても、その速度は落ちることなく、クルージュの方へ向かって来る。


「せめて一太刀」


クルージュが太刀を抜こうとした時、更に速度が上がる。慌てて抜いたが、太刀を持っていない。

いや、右手は太刀の柄を握っている。ただ、右手を肘から斬り落とされていて、柄を握ったまま右手が揺れている。


「クルージュだな」


ヘルヴィスがそう言うと、足を払われる。

立ち上がろうと足掻く前に、両足と左腕を踏み潰された。

思わず痛みに悲鳴を上げるが、ヘルヴィスは自分を無視して昇降機に辿り着いた。


「ザルティム、そちらは?」


「到着しました。ヘルヴィス様は左に回してください。それで橋が降ります」


淀みなくヘルヴィスが昇降機を動かす。

何故、知っているのだ。疑問に思ったが、それは直ぐに分かった。

出していた伝令はカラファト城の騎士なのだ。跳ね橋の事を知っている者が、何人もいる。

その脳を喰い、正確な知識を得たのだ。


同時に、自分の置かれた状況を悟った。

命を奪うことなく、切断された右腕以外の四肢を砕かれた。

しかも、自分をクルージュだと知っている。後で脳を食う気なのだ。


自分の持つ情報は、王都の将軍に引けを取らない。

それが狙いだ。断じて渡すわけにはいかない。

舌を噛み切っても直ぐには死ねない。おそらく治療をされて終わりだ。


身体を引きずり、バリスタの火矢を立てている方へ向かう。

それに気付いたヘルヴィスが冷めた目で見ている。

それで良い。今の自分の動きは、見っとも無く逃げているようにしか見えないだろう。


火矢に近付くと強引に立ち上がって倒れこむようにしてぶつかる。

一緒に倒れた火矢が割れ、油まみれになった。

これで良い。


「渡すものか」


城は奪われる。それに関しては遺憾だが諦めるしかない。

だが、情報までは渡さない。

発火の術を唱えると、全身が炎に包まれた。


熱い。痛みを超える熱さ。

叫び声を上げそうになるが、ぐっと堪える。

その苦しさを視線に込めてヘルヴィスを睨んだ。

傷みと、熱と、怒りと、憎しみと、哀しみと、その全てを込めて睨み続ける。

命尽きる、その瞬間まで、ただ、睨み続けた。





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