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根之堅洲戦記  作者: 征止長
平凡じゃない男、異世界に来る。
11/112

勇者VSハニートラップ

「着替え、お持ちしました」


元気に戻ってきたアリエラの姿に頬が緩む。やはり可愛い。

受け取った服を見ると、甚平のような衣装。そして……


「紐パン?」


「下着ですが?」


紐パンのように、両サイドで結ぶタイプのブリーフ。これが、この世界でのスタンダードらしい。

ちなみに女性も同じだが、面積は女性が少ないらしい。ちなみにイオネラ情報。

まあ、ゴムが無いなら、こうなるのか。


「なるほど、タケル殿には珍しいでしょうね」


「そうなの?」


「ええ。タケル殿は勇者。勇者の世界では1枚の布を腰に巻き付ける下着を着用しているのよ」


「おお! 流石エリーザちゃん。勇者の事に詳しいね」


「ちげーよ!」


褌の事を言ってるのだろう。何ドヤ顔でウソを言いやがる。

隣でバカな!? とか言ってるエリーザを無視して服を再確認。つーか、布の質が良い? 中世って麻布がメインだった気がするんだが、これは麻より柔らかく肌触りも良い。木綿と同じくらい。

また勇者様接待か?


「なあ、これ上等な布じゃ無いだろうな?」


そう思って確認すると、意外にもここで一番普及している布だそうだ。

麻の仲間の繊維の丈夫な植物なんだが、麻と違ってある程度伸びると横になり、放っておくと芋づるみたいな感じに成長する植物。

これを収穫を終えた穀物畑で育て、来年の種まき前に収穫すると次の年の穀物の収穫が上がるそうだ。

すげえな! 休耕期に育つ作物がメイン産業にもなれるって便利すぎる。


連作障害を防ぐために育てる必要があるので、自然に収穫量が多くなり、下着や普段着だけでなく、紙の代わりに使われたりする。ちなみにトイレで使用するのは紙でなく、その植物の中で繊維が短いやつを集めて作ってるそうだ。超便利。マジで最高の植物だ。元の世界に持って帰って、俺の畑で育て……いや、冷静に考えれば需要は無いな。合成繊維には敵わん。


そして、この便利な植物だが、耐久性に難があり、強く引っ張ると裂けることもあるらしい。

だから、彼女たちが着ている軍服や式典用の服は、革や麻のように真っ直ぐ伸びる植物の繊維で作られているそうだ。


「安心した。気兼ねなく使わせてもらうよ」


「で、では、浴場へご案内します!」


「お、おう」


何だ気合の入ったエリーザに、引く思いを感じながら風呂へ向かう。

アリエラ達と離れるのは若干惜しいが、また会う機会もあるだろう。無理に粘って、臭いと嫌われたら終わりだ(自害しそうだ)


「ところで、風呂って、どんな感じなんだ?」


「そ、そうですよね。タケル殿の知っている入浴文化との、違いとか分かりませんよね!」


さっきから気合の入ったエリーザにドン引きだが、言ってることは正しい。

国や時代が違うだけでも、異なる文化は多い。まして、ここは異世界だ。風呂1つでもサウナやシャワーがあるし、石鹸などがどうなっているかも不明。

何も知らない場所に裸で放り込まれると考えれば、少し怖い気もする。


「ご安心を。い、至らぬ面もあると思いますが、私が説明させていただきます。こちらになります」


そうして、扉を開けると温泉や大衆浴場のような脱衣所があった。俺の知ってる脱衣所と違い、鏡やドライヤーは無いが、床は板張りで馴染みやすい空間だった。


「ここに脱いだ服は、お入れ下さい」


「服は全部脱ぐのか?」


「は、はい。お願いします」


入浴は水着で、なんて可能性も考慮したが、やはり全裸らしい。まあ、水着で入る国は、体を綺麗にするというより、娯楽として入浴するものだから、日常的ではないか。

それにしても、お前の目の前で脱げと? いや、郷に入りては郷に従えと言う。ここでは、これが普通なんだろう。変に照れたら変な奴と思われるかもしれない。


そう考え脱ぎ始めると、エリーザも脱ぎ始めた。混浴か!?

な、なるほど。日本でも江戸時代までは混浴が普通だった。今のように男女別になったのは、幕末になって日本に来た西洋人が「ニッポンノブンカ、オカシイデース。ダンジョハベツベツニスルベキデース」と言われて、西洋の技術と文化を模倣中だった日本は、その意見を受け入れて男湯女湯を分けることにしたそうだ。

ここは、平安武士がベースで黒船は来ていない。ならば、混浴が普通なのは道理だ。


そして、混浴の作法は照れてはならない。ジロジロとエロい目で見るのも禁止だ。

フッ、容易いな。エリーザ(ババァ)をエロい目で見る理由はない。安心だ。


「さて、脱いだぞ」


「そ、それではニャカに案内します」


噛んだな。おまけに全力で恥ずかしがってるじゃねーか。変な奴だな。

それにしても綺麗な体をしている。胸の脂肪は大きく形も良い。ウエストは細く尻も大きすぎず綺麗な形。

一般的には高評価だろう。写真を撮って売ったら高く売れそうだ。

まあ、俺にとっては、どうでも良いのだが。


そうして、案内された浴室だが、こちらも温泉風。木で出来た大きな風呂があり、周囲にはシャワーの代わりに細い長い木組みに湯が満たされている。


「まず、こちらで体を洗います」


「これは?」


そこには、白濁した液体とヘチマのような物体。

確認すると予想はしていたが、石鹸と体を洗うスポンジ代わりだった。

石鹸があると言うことは脂分が多い植物があるのだろう。


聞いてみたら、やはりオリーブと似た特徴の植物だった。穀物は難しい山地でも栽培できるので、昔、灯油(ともしび油)のために大量に木が植えられた。だが、魔力を使った水晶による明かりが普及したため価値が暴落。その使い道を考えた結果の1つが、石鹸だったそうだ。リンスみたいなものまである。

やはり、光源を手に入れただけで、随分と油の価値が変わる。


「それでは、背中を流しますね」


「ん? ああ、頼む」


どうやら、2人で入ったら片方が背中を流すようだ。ヘチマのようなスポンジでは、体が硬いと背中に届かないから理にかなっている。

細長い木組みからお湯を小さなおけで掬い、背中を流す。洗い方は普通だった。これなら問題ない。


「次は俺が流すで良いのか?」


「い、いえ! 私は大丈夫です」


「そうか」


予想が外れた。男女差か、身分差か。互いに洗うでは無いようだ。

髪の毛と前は自分で洗う。問題行動は起こしていないと思うが、エリーザが挙動不審で信用できない。


「では、湯船に入ります」


「ああ、入浴で気にかけるのは、湯船に入る前に体を洗う以外にあるか?」


「そ、それほど多くありません。人が多い時は長湯を避けるなどありますが……」


湯船に浸かりながら、気を付けることを確認。

それにしても、異世界で湯船に入れるとは日本文化万歳か。何でも、1000年前の勇者は温泉を好んでいたらしい。

その結果、子孫や現地の人も風呂好きになった。最初は五右衛門風呂みたいな下から火をかける風呂を作り、魔法技術が上がってからは、お湯を簡単に作れるようになって、今の状態になったそうだ。


湯加減も良い。良いじゃないか異世界。今のところ大きな不満は無い。

それどころか、元の世界ではお目にかかれないような美少女にも出会えた。


「タケル殿、お願いがあるのですが」


お前じゃねーよ。美少女との出会いに感謝していたタイミングで声をかけられて、思わず突っ込みかけた。


「何だ?」


「お、御手を触らせてほしいのですが」


「手?」


何でも、俺の手に興味があるらしい。まあ、普通には無いサイズだからな。珍しいのは分かる。

しかしだ。今日の俺の右手はアリエラ成分とイオネラ成分が入っているので、他人には触らせたくない。

あの感触を無くしたくはないが、断るのは何だから左手を差し出す。


「あ、ありがとうございます」


エリーザは俺の手を取ると、形を確かめるように触ってくる。

何故、そんな事をするのか不思議に思っていると、手がエリーザの(脂肪の塊)に触れた。

き、気持ち悪い物体に触れさせおって、殴るぞ。


「し、失礼しました」


頬を染め、恥ずかしそうに俯く。

何だろう? 妙にグイグイ来てる気がする。俺で無かったら喜ぶんだろうが……はっ!

分かったぞ! これはいわゆるハニートラップというやつでは!?


考えてみれば、召喚というのをした連中は、俺に魔王討伐をさせたいのだが、俺が断る可能性だってあるのだ。また、逆に積極的になる可能性もある。つまり俺の気分に左右されるわけだ。


では、俺のやる気を左右する方法はどうするか?

俺が、この世界に居る人間を嫌えば、守りたいと言う意識が低下し、その敵である魔王を倒したいと思う気も無くなるだろう。

逆にこの世界にいる人間を好きになれば? それも愛する女性が出来れば、その人を守るためにも魔王を倒すことに積極的になるだろう。


なるほど。つまり、この女は俺を誘惑して、魔王退治に積極的にさせようという魂胆だな。

フン、浅はかな女め。この鋼の精神力を持つ俺にハニートラップなど通じるものか。

まあ、ここは止めるより、無駄な行動をさせて良い気にさせておく方が得策か。誘惑に成功していると思えば警戒も解かれるだろう。


さて、ババァの考え(下らんこと)を考えてても仕方ない。

ゆっくりと風呂を楽しもう。それにしても、この広さは良いな。おそらく他の者も使っているのだろうが……待てよ? 考えてみれば、アリエラ達も使っているのか? だとすればアリエラ達の後に入れば、きっと良い匂いが……いや、考えてみれば混浴だった! つまりは一緒に入る事だって……


「あっ」


「ん?」


エリーザの視線を追うと……ヤバい。アリエラ達との混浴を想像した所為で下半身が反応してしまった。元気になっている。混浴でこれは不味いだろう。


「済まない。先に上がらせてもらう」


「あ、あの……」


「エリーザはゆっくりと入るがいい」


ここは退散するに限る。エリーザを残して俺は湯船から上がり脱衣所へ入る。

うーん、もしかすると誤解されたか? いや、向こうとしては誘惑に成功したと喜んでいるかもしれない。

警戒を解くことを考えれば成功とも言えるだろう。


慣れない下着をはき、部屋着を身に着けてから表に出る。しまった。そう言えば裸足だった。靴は朝になるんだっけ? せっかく風呂に入ったのに速攻で汚れてしまった。

足の裏の汚れは諦めて、大人しく部屋へと戻る。幸い道は分かりやすく迷うことなく部屋へ到着した。


「さて、と」


足の裏が汚れた状態なので、ベッドに横になるのは寝る直前まで自重。食事をした時のテーブルの椅子に座り、改めて頭の中を整理する。

別に、元の世界に強い思い入れは無いので、この世界が嫌でもない。戦うことに対する忌避感も微塵もない。むしろ、歓迎したいほどだ。正直に言えば、ワクワクしている。


だが、これは俺みたいな変人の発想であって、普通の奴なら今の状況は冗談ではないと考えるのではないだろうか。

例えば、俺の親や兄弟なら戦えと言われても困るだろうし、元の世界での学校や仕事を捨てられないだろう。


逆の立場で考えると、平和に暮らしていた人間を呼び出して、自分のために戦わせようと考える。

そう、この世界の人たちは、どう考えてもマトモな発想ではない。

今のところ、出会った人達にはそれほど不快な感情は抱かなかったが、これからもそうだと思うのは早計ではないか?

その内に、態度が変わって、無理なことを言ってきたりする事は、十分に考えられる。


だからこそ、抱き込みのためにハニートラップを仕掛けてきたのではないか?

幸い、俺の鋼の精神力のお蔭で、あのような誘惑に落ちることは無かったが、高いテンションのまま行動すると、思わぬ落とし穴にはまり、気付いた時には抜け出せなくなっている可能性もある。


説明では魔族とは人を食らい、交渉の余地もない相手のようだが、それはエリーザから見た一方的な視点に他ならない。俺は魔族が人を襲っているところを直接この目で見たわけでもないのだ。

やはり、容易にこの世界の人たちを信じるのは危険だ。祖父も言っていた。“お前はバカだから騙されないように気を付けろ”と。

大丈夫だ爺さん。俺は、そんなに迂闊な男ではないさ。


「ん?」


そう考えているとドアがノックされる。こんな時間に何だ? まさか、エリーザのやつハニートラップの続きをやる気か? 鬱陶しい女め。追い出してやる。


「し、失礼します。アリエラです。その、部屋へ入ってもよろしいでしょうか?」


「カギはかかっていない。どうか中へ入ってくれ」


アリエラだと! 何の用だ? まさか、一人で寝るのが寂しいとか?


「申し訳ありません。アシダが出来たので浴室へと向かったのですが、もう上がられていたので」


そう言うと、サンダルと木桶を持ったアリエラが中へ入ってきた。朝まで待つつもりだったが、わざわざ来てくれたのか。感謝します。あと、顔を見れて嬉しいです。


「これがタケル様のアシダになります。普段の生活では、これをお履き下さい」


椅子に座る俺の前に両膝をつき、サンダルを差し出す。どうやら、サンダルをアシダと言うらしい。

それに一緒に持ってきた木桶の中の水には、布が入っており、履く前に足を拭ける親切仕様だ。


「それでは足をお拭きしますね」


「いや、それ位は自分で出来る」


足を拭いてくれるらしいが、流石に気が引ける。

そう言って止めようとしたが、桶の片付けもあるので構わないと押し切られた。

俺は椅子に着座。その前に両ひざをついた美少女。最高のシチュエーションに心臓の鼓動が五月蠅い。


「す、凄く大きいですね」


おいおいおいおい! 今の体勢でその台詞! いかん! 足の事を言っているのは分かるんだが、変な想像をしてしまう。落ち着け俺!

何か話して気持ちを落ち着けよう。


「ところでアリエラは幾つになるんだ?」


「はい。12歳です」


12歳! 背が低いから、もう少し幼く見えるが、数え年なら11歳か。

どちらかは分からんが、この可愛さなら、あと数年は興奮できる(戦える)

あ、戦えるって考えて思い出してしまったが、この娘って、軍人目指してて、もうすぐ戦場に立つかもしれないんだよな。


「そうか、その年齢で戦争か……」


「仕方がありません。誰かが戦わなければなりませんから。私も来年こそは」


そう言って、強い決意を口にする少女に何とも言えない気持ちになる。

普通なら、この年齢で戦争に行くなんて冗談では無いと思うのだが、ここでは当たり前の事なのだろう。

それに魔族との戦争に勝たない限り、家畜になる運命が待ってるのなら、俺だって戦って死ぬ方を選ぶ。


「それにしても、タケル様の足の裏、凄くかたいですね。ゴツゴツしています」


足の裏を拭きながら、感動したように呟く。硬いと言う単語にエロい妄想をしかけた瞬間、大変なことに気付いてしまった。

今現在、アリエラの格好は和服。よって胸襟は広め、さらに、しゃがんで前かがみ。


そう胸のふくらみが! ふくらみが! おそらく胸を張れば、真っ平になる位の微かなふくらみだろう。

だが、今は両手で俺の足を持っているので、その微かな膨らみを、健気にも精一杯集めた状態。

指でツンツン突つきたい!

しかも、もう少しで先端まで見えそうで! あと少し! あと少し!


「はい。終わりました」


「! あ、ああ。ありがとう」


「それでは、下がります。ゆっくりとお休みください」


そう言って、部屋を出ようとするアリエラを視線で追う。

そして、ドアを開けて振り返ったアリエラが笑顔で興奮した口調で告げてくる。


「その、タケル様。今日、タケル様の訓練をされる姿を拝見できて光栄でした!

 正直、他国の勇者の話を聞いて、勇者の力を疑問視する者も多かったのですが、タケル様を見て、タケル様こそ真の勇者だと、皆で話していました! 私たちの国へ来ていただいてありがとうございます!」


アリエラは、一息で言い切ると、恥ずかしそうに部屋から出て行った。

残された俺は、その期待に胸が熱くなるのを感じる。


「そうだな」


俺を深呼吸をして、清浄な空気(アリエラの残り香)を吸い込む。

今、分かった。何故、俺が武術の訓練に打ち込んできたのか。意味のない技術だと悩んだこともあった。産まれる時代を間違えたと嘆いたこともあった。しかし、全てはこの時のため。


「この世界を守って見せる」



まだ、どんな作品かも不明でしょうに、ブックマークや評価、感想ありがとうございます。

とりあえず、20話くらいで、何となく方向も分かってくると思います。そこまでは見捨てずにお付き合いお願います。

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