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根之堅洲戦記  作者: 征止長
生きる意味
107/112

準備はよし


赤備えの編成を少し弄ることにした。

これまでの俺、ヴィクトル、エリーザの3隊に分かれる以外にも別れ方と合流の仕方を考えると、今までの編成では問題があったのだ。

10騎単位での行動には問題は無いが、100騎ずつで10に分かれる。200騎ずつで5つに分かれる。500騎ずつで半数に分かれる。

これを円滑に進めるために、小隊長の昇格と数の調整が必要だった。


「正直、誰でもそうは変わらんな。で、誰にする?」


「ラドーツとイヴァールだな」


ヴィクトルに、そう返事をする。全体での訓練や100騎を率いる模擬戦の結果で、その両名が比較的優秀だった。

候補者は全員が同じレベルの能力と言って良く、二人に関しても飛び抜けてはいないが、ラドーツは実戦で化ける可能性を感じるし、イヴァールは細心なところが目に付いた。


数の調整として、100騎単位の10隊で動けるように、俺の直属150騎には騎兵と弓騎兵の兼用が出来る騎士を50騎追加して、俺とイオネラで100騎ずつ率いるようにした。

それに、100騎を率いる小隊長に、ヴィクトル、エリーザ、リヴルス、イグニス、エレナ、ルクサーラに加え、ラドーツとイヴァールの二名を初期の騎兵から抜擢し、それぞれヴィクトルとエリーザの近くに置いた。


200騎の5隊で動く場合は、俺とイオネラ組、ヴィクトルとラドーツ組、エリーザとイヴァール組、リヴルスとエレナ組、イグニスとルクサーラ組になる。

3隊の場合は、リヴルス組がヴィクトルに、イグニス組がエリーザに合流で数が合わない変則になるが、今までの編成に近いため、一番やりやすい組み合わせでもある。


更に500騎で二つに分かれる場合は、俺がエリーザに、イオネラがヴィクトルの元へ混ざり、それぞれ指揮を執ることになる。

名目上はイオネラでは無く、ヴィクトルが指揮官だが、実際にはイオネラが指揮をするよう、ヴィクトルが動いている。

この組み合わせでの訓練では、イオネラがヴィクトルの補佐を受ける事で、急激に成長していた。


この編成の最大の目的は、俺の槍をヘルヴィスに届けることにある。

如何にして、周囲の魔族を突破し、ヘルヴィスの元へ俺が近付けるかが勝負であり、可能な限り万全な状態でヘルヴィスの前に到着できるかが肝要だ。

その万全な状態の理想は、俺とイオネラが他を気にせず、ヘルヴィスが孤立している事だが、それは流石に無理だろう。


だからこそ、可能な限りそれに近付ける。

それには、赤備えが数を減らさずに竜騎兵の数を減らす事が必要になる。

そのためには、赤備えと竜騎兵だけでなく、周囲のロムニアと魔族の軍の動きも計算に入れなくてはならない。

時には、竜騎兵を無視して、他の部隊の数を減らす事を優先する。


魔族の部隊が壊滅すれば、それだけ他の将軍が率いる部隊が動ける。

特にティビスコス隊の槍衾は、竜騎兵にとって厄介な壁になるので、ティビスコス隊の数を保ったまま竜騎兵以外の部隊を減らせば、赤備えは優位に動ける。


逆に、竜騎兵を諦めたのがロートルイが率いる部隊だ。

アーヴァングが作り上げた槍と剣の変則二刀流を使用する部隊は、ここぞというタイミングで突撃を敢行すれば、魔族の歩兵を叩き潰せるだろう。

そのタイミングの演出を、ブライノフとアルツールの騎兵が担当することになっているが、魔族も竜騎兵以外の騎兵を編成していると、グロース王国から連絡があったので、その対応もしなくてはならない。


「全員を集めろ。新しい編成での訓練を本格化する」





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






それら諸々のことを考えながら訓練しつつも、いい加減に次の戦場を決めなければならない。

そろそろ、長城も完成しただろうし、移動を開始しているかもしれない。

狼煙台の設置は完了したから、侵攻があれば直ぐに分かるが、何処まで引き込むかが問題になる。

それを決定すべく、俺、鮮花、アルツールと、三人の将軍とで会議をした。


「戟を扱う魔族と、直接やりあった訳ではないから、断言は出来ないが、歩兵同士では片方が圧倒して簡単に崩れるという事は無いと思う。

 だが、気の防御がある分、奴らが有利なのは違いない。弓の支援込みでだ。ジワジワト我々の方が削られるな」


「そこは、騎兵の援護で奴らの陣形を崩して対応するしか無い。

 問題はヘルヴィスの竜騎兵と、増産された騎竜部隊だな」


「騎竜部隊が、直接ティビスコス隊に当たってくれば、そう問題では無い。

 槍衾の頑丈さは想像以上だ。ほぼ足を止められる。まあ、竜騎兵は計算外だ。あれはタケルに任せるしかない。

 問題は、敵の騎竜部隊が、こちらの騎兵を殺しに来た場合だな」


「魔族の騎竜部隊は、多く見積もっても5000以下だ。

 それに対し、我が方はそれが三部隊ある。最悪、一つがぶつかりながら牽制で、残りの二部隊で歩兵の攻撃だな。幸いな事に地方軍が協力して魔族の補給路を断つ動きが出来そうだし、優位には立てる」


「可能なら、騎竜部隊には俺かアルツールが当たって、ロートルイは歩兵の陣形破壊が良いだろう」


さて、鮮花の戦場を何処にします? の質問に対して、ああだこうだとハッキリしない会話が始まった理由を言うとだな……


「つまりは、一気に崩れることは多分ない。でも、断言は出来ない。で良いですね?」


全員が一斉に頷く。

鮮花の奴、俺達が言い難い事を知りながら、一刀両断しやがった。

でも、見栄を張っても意味は無い。正直に話そう。


「絶対とは言えんが潰走は無い。そもそも先が無いからな。ここで負ければ立て直しは不可能だって事は全員が理解している。

 かといって、思いっきり引き込むのも怖いというのが本音だ。これは理屈じゃない」


次の戦場の選定だが。候補は三つある。

その一。前回の戦闘でグラールスを討った場所。カラファト城より北へ5㎞ほど行った場所だ。

その二。カラファト城そのものを戦場とする。ちなみに俺達本隊はカラファト城の外で野戦をする。

その三。王都まで引き込む。カラファト城までは、およそ200㎞の距離がある。


今回の作戦の前提に、敵の補給を絶つというものがある。

補給線は、地方軍が合計で一万近く集まって、ヘルヴィスの本体が過ぎ去った後、ロムニアの北西部。最近までは魔属領だった地域に展開することで、完全に抑えてしまう作戦だ。


地方軍は北西にある城で待機。現在は棄却されて復旧もままならない状態だが、軍を休めることは出来る。

そこより更に北西にある最初の狼煙台にヘルヴィスが到着した時点で、東へ移動する。

普通に後退するなら、南東だが、地方軍の行き先は真東のカザーク領だ。すでにカザークとは話が付いており、そこで、ヘルヴィスが通過するまで待機。兵糧の支援も受けることが出来る。


通過後は、戻ってから補給部隊が来るのを待ち構えながら、ヘルヴィスが通過した後に狼煙台が壊れていたら復旧する。

魔族がどれだけ戻って来るかは分からないから、情報は集め続ける。地方軍と本体との間にはヘルヴィスがいるから、直接の伝令は難しくなる。時間をかけてライヒシュタイン領からカザークを経由するルートを使用するか、討たれる覚悟の決死の伝令を出すしかない。

地方軍としては、緊張は強いられるが、何も起こらない可能性は十分にある。


ヘルヴィスの本体が進んできても、途中は最近まで魔族領だった無人の地域だ。

すでに捕らえられていた人は全員を南へ連れ去っている。かなり大変だったが……文官が。

その結果、魔族は途中で食糧が無くなり、食糧を得るためには戻るか進むかの選択を強いられる訳だが、撤退するなら、当然こちらは追撃で有利に進む。グロース相手にはヘルヴィスが殿軍(しんがり)をしたそうだが、それをしたら、赤備え(俺達)がヘルヴィスの相手をして、残りはティビスコスの指揮で追撃を続ける。

その場合は、ティビスコス隊も軍馬に乗っての追撃だ。簡単には逃がさない。途中で飢えが限界に来て壊滅させることも可能だ。


撤退せずに進む場合、魔族が食糧を得る方法は、兵数を割いてから、魔族領から食料を運ぶ方法がある。

だが、これは各個撃破のチャンスである。地方軍も一万はいるから、1000体以下の少数を向かわせたところで全滅しかねない。仮に数を増やして突破したとしても、その場合は食糧を運んで戻ってくることろを襲えば良い。

この場合は食糧の人間を襲う事も覚悟している。

これを繰り返してくれれば、魔族の兵数は段々と減ってくる上に食料が手に入らず壊滅する。


もう一つの食糧を得る方法が、前にあるロムニア領を襲う事だ。

つまりは、カラファト城。

ちなみに、ここを攻めろと言われたら、俺達なら無理だと拒否する。

堀にある橋を全て撤去して、跳ね橋を降ろさない限りは空を飛ぶか、堀を沈んで這い上がるしかない。

そして、のろのろと這い上がって来る敵には、鮮花特性の薬品攻めが待っている。

薬品と言っても風邪に効くやつではなく、希フッ酸を始めとする有害物質である。


ここを落とすには、大砲で全ての壁を破壊することで、上からの攻撃を出来なくするか、投石器から燃焼物質でも放り込んで城内を焼き尽くすか。

どちらにしても、途中でバリスタによる巨大火矢が待ち受けている。


だから、戦場としては、王都まで引き込んだ方が、絶対に優位に戦える。

何故なら、俺達のいる目の前で悠長に城攻めをさせる気は無いので、王都に対して城攻めは不可能。

無理に攻めても、攻城準備をしている相手に野戦をしかければ圧倒的に優位に立てる。

おまけに、向こうは食糧が無いのに、こちらは王都から簡単に補給を受けることが出来る。


上手く行けば、兵の半数を割いてカラファト城を攻めるかもしれない。王都までの距離は歩兵なら移動だけで10日くらいはかかる。そこから落ちない城を攻めるのだ。

その間に、俺達は減った魔族軍を相手にすれば良い。各個撃破の的だろう。


だが、やはり王都まで引き込むのは、怖いというのが心情である。

こういうのは理屈じゃない。

ちなみに文官は、その一である前回の戦場を薦めている。何でもグラールスを討った場所で縁起が良いそうだが、普通に目の前に来られるのが嫌なだけだろう。


「前回の戦場でも良いが、この作戦は一つ間違えれば、敵を追い詰め過ぎて思わぬ力を発揮させかねない。

 エサの場所としては、最悪になりかねない」


魔族としては、俺達を突破すれば人間の城(エサ箱)があるという状態だ。

そこで高い士気を保った状態で突っ込んでくるのは、嫌でも前のグラールスを思い出させる。


「では、カラファト城周辺ですね。

 空腹状態で、エサが後ろにある。そんな状態で戦うとしますか」


「それで良いと思う」


俺達がカラファト城を背にするのではなく、魔族がカラファト城を背後に背負う。

そんな形で戦えば、奴らは気が散るだろう。

普通の城でさえ、そんな状態なら何時、城から打って出て来るか分からない。


「では、その方向で周囲に伝達をしておきます。

 おそらく、一度は陛下に説明する必要があると思いますが」


陛下だけでなく、重臣たちに、会議室で作戦の説明をして根回しをした後に、謁見の間で全員の前で話すことになるだろう。

この辺りは儀式のようなものだし、作戦の粗は重臣たちが潰してくれるだろう。


「分かっている。まあ、俺だけでは不安だから、鮮花とティビスコスには頼る事にする」


これで問題が無いはずだ。

だが、妙に不安がある。この不安が何処から来るのか?

上手く説明する事か。それとも作戦自体に不安があるのか、モヤモヤとした感じが晴れないでいた。





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