部隊編成
「ロートルイとヴィクトルの件だが、思わぬ闖入者の所為で台無しになった」
今回の模擬戦の勝者を指揮官にしようと思っていたのだが、ヘルヴィスの横やりの所為で決着が付かなかった。
こういったものは、目に見える形で結論を出さないと、後で不満が出そうだからタチが悪い。
「もう一度やるか?」
ティビスコスも理解しているのだろう。再戦を薦めてくれた。
実際に再戦するとなれば、最大戦力のティビスコス隊が協力しなければ話にならない。
「それも有りかも知れんが、その前に……」
これを聞くのは気が重い。
だが、他の連中にも相談したかった。
俺の個人的な感情が邪魔をして判断が鈍りそうだからだ。
「ロートルイ、お前はアリエラを部下として扱えるか?」
「アリエラ様を?」
「何か問題が?」
「正直に答えろ」
「無理です。あの方は主筋ですから、形だけは配下にしたとしても、絶対に贔屓します」
「正直でよろしい。では、イオネラは?」
こっちが本題。イオネラはアーヴァングの姪として、テオフィル家で成長してきた。
そして、ロートルイはテオフィル家の家臣。
ちなみに、アリエラとファルモスを部下として扱うのは無理だと知っている。
ここで、出来ると言えば、コイツの話は信用できなくなるところだった。
「イオネラ様も難しいですね。
イオネラ様と言うより、イオネラ様の母君が主でしたから」
イオネラがテオフィル家に顔を出すのは、まだシュミット家が健在だった頃から、イオネラの母親、つまりはアーヴァングの妹が連れて来るパターンである。
言うてみれば、イオネラはテオフィル家の姫様が産んだ娘だ。
おまけに、シュミット家が凍結状態になってからは、その母親と一緒にテオフィル家に来たのである。ロートルイとしては敬うべきであろう。
「それに、教育方針が少し特殊だったので」
「特殊?」
「何と言いますか、ある意味、アリエラ様とは疑似夫婦のような育てられ方をしていまして」
アリエラはテオフィル家の姫として、他所へ嫁ぐ身だ。当然花嫁修業をするのだが、イオネラの場合はシュミット家の当主になり、婿を取る、又はアイツが狙っているように、俺、つまりは騎士として優秀な種を貰って来る立場だ。
要するに花嫁修業は必要では無く、むしろ花婿修行? が必要になる。
そのため、アリエラはイオネラを相手に花嫁修業をしていたそうだ。
「あれって、二人の性格の差では無く、育て方だったのか?」
「ああ、イオネラ様の身の回りの世話を、自然に熟していたんじゃないか?」
普段の二人を知るヴィクトルが驚いて反応する。
いや、俺もビックリだけど、逆に凄く納得も出来るぞ。
起こしたり着替えを用意したりと、妙に甲斐甲斐しく世話をしていた。
「それで、イオネラ様が何か?」
「ああ、それなんだが、アイツ、下手すれば俺より指揮官適性がある。1000騎程度なら直ぐにでも指揮が出来るだろう。
俺の個人的武勇を封印した前提で言えば、元帥軍1000を指揮をしてアイツに勝てる自信が無い」
「当然だが俺も無いな。2000以上ならイオネラは持て余すだろうが、それも直ぐに慣れそうな気がする」
「は? タケル殿とヴィクトルより上ですと?」
「そのイオネラという人物は?」
唖然とするロートルイに他の将軍たち、話についていけなくなったフォルケンが質問を入れる。
まあ、知らない人物の話しで盛り上がられたら、確かに困る。
「赤備えに所属している15歳の少女です。俺がヘルヴィスと遣り合っている最中、途中から指揮を執りました」
「まさか、あの動きを、そんな少女が?」
フォルケンは、その時の赤備えの動きを城壁の上から見ていたらしい。
竜騎兵を巧みに誘導し、逆落としを掛けるまでの動きに驚嘆したらしい。
「イオネラを最大限に生かそうとすれば、元帥軍を指揮させる事だと思った。
だが、それにはアイツの土台になる人間がいる」
「例えば、最初はロートルイの下に置いて、途中から指揮官を変更するとか?」
「あまり、外聞は良くないが、最初から指揮官として入れても、あの年齢では受け入れられないだろう」
元帥軍は精鋭中の精鋭だ。
その分、プライドがある。そう簡単に小娘を上官だとは受け入れにくいだろう。
だが、逆に精鋭だからこそ、イオネラと共に戦えば能力を認めるはずだ。認めさえすれば問題は無い。
「私は構いませんが」
「いや、ロートルイだと、最初からイオネラ上げだからな。周囲が不満を持つ。
ヴィクトルは? 指揮権を譲る前提だと気分は良くないだろう。正直に言って良い」
「俺も構わんが、それよりイオネラはお前の側に置いた方が良いと思う。
そもそも指揮能力が高い事は認めるが、俺やロートルイを大きく上回っている訳では無い。
だが、ヘルヴィスを斬れるのは、お前以外だとイオネラだけだろう」
「まあ、ヘルヴィスが俺を無視して、イオネラの攻撃を防いだからな」
周囲がざわついたので、その時の状況を説明しておく。
角を折る隙を作ったのがイオネラだと言うと、全員が理解を示してくれた。
「あの化け物が、お前より警戒したんだ。
少なくとも、素手のお前より、剣を持ったイオネラの方が危険度が高いと判断した。
だが、剣技ではヘルヴィスに届かない。そうなると隙を狙うしか無いが、一番の機会はお前の近くだ」
「俺の攻撃に対応している時が、一番無防備になるか」
「悪いが、俺の側においても、あれ程の機会を作り出すことは出来ない。
それに、お前の副官は事務能力を優先しているし、指揮面での副官として任命しても良いと思うな」
そうだな。実際にあの時はエリーザが万全なら問題なかったが、エリーザがいなかった場合は、レジェーネになってしまう。
頼りになるかと言われれば、少し不安がある。
ゼムフェルクが、高い指揮能力を持ってくれれば良いのだが、アイツの場合は指揮は苦手だと公言しているし、改めようという気も無い。
今までは、俺の手伝いだけしか視野に入れていなかったが、俺が死んだ場合の事を考えれば、イオネラがいてくれた方が良いな。
「それに、あれがザルティムだと思うが、あんなのがいるなら、俺も赤備えにいた残った方が良いだろう。
これは自惚れか?」
「いや、その方が助かる。
竜騎兵の全貌は見えなかったが、ヘルヴィスだけに気を付けていれば良いってものではなさそうだ」
「ザルティムを見たのですか?」
尋問に参加し、ザルティムという名前に強い印象を抱いていた鮮花が反応する。
あの時も、ザルティムの事を口にした魔族は強い畏怖を抱いていた。ヘルヴィスほどでは無いが、魔族にとっては、大きい存在だということを感じさせる態度だ。
「紹介された訳では無いから、多分、だけどな。
明らかに別格がいた。ああ、それと言い忘れていたが、ヘルヴィスと、そのザルティムは武神の力を使える」
「おまけに、単なる武勇自慢って訳では無さそうな雰囲気だったな。
替えの騎竜を用意した機動力に、ヘルヴィスとは異なる感じの指揮官」
改めて、竜騎兵の戦闘力を考えると、赤備えと元帥軍の連携は難しそうだ。
下手すれば、付いて行くだけで限界という状況になりかねない。
「ヘルヴィスに対応しようとした訓練をしていたことも見破られたと思う。
ロディアとファルモスを俺が鍛えたって見抜いたくらいだしな。
次は奴等も俺に対応できる訓練をしてくるだろう」
俺が仮想ヘルヴィスを演じたように、ヘルヴィスも仮想タケルを演じることが出来る。
こちらのアドバンテージが消えてしまった。
まあ、アイツ等の換え馬作戦を知れたことは大きいので、悪い事ばかりではない。
「それに、朗報もある。ヘルヴィスの加護は騎竜にまでは届いていない」
そう言って、ティビスコスを見ると、緊張しつつも闘争心を漲らせる。
竜騎兵の突撃を食い止めるには、ティビスコスの歩兵による槍衾が有効だと思える。
魔族では無く、騎竜を倒す。その後、騎竜から落ちた奴をタコ殴り。
「よく分かりましたな」
「赤備えには、観察好きな弓騎兵がいますので」
フォルケンの感心した口調に、俺も本心では同意だった。
例によって、トウルグが発見したんだが、騎竜には矢が刺さったらしい。
ただ、頑丈な獣の特性を持っており、それなりに厚い皮膚とタフさを備えている。
おまけに、魔物に分類されるため、獣の上位種。熊よりも頑丈と予想される。
要するに、弓矢では効果が低い。数本が刺さったところで平気で走り続ける。
「騎士の攻撃では、騎乗している魔族が邪魔するので、騎竜を狙うのは難しい。それに弓矢だと致命傷を与えにくい。
だが、槍なら騎乗している魔族の間合いの外から攻撃出来る」
「そうだな。ただ、現状だと正面からは良いが、横からの攻撃に弱い。
訓練で色々と試すが、助言を欲しいな」
「俺で良ければいくらでも。それに、敵の主力も歩兵だ。ティビスコスを中心とした戦闘になる。
ブライノフとアルツールも歩兵を活かす戦闘をしてもらうことになる。同時に、補給を絶つために動いてもらう事もあるので、そのつもりで。
ロートルイは、その攻撃力を活かすため、独自に動け。戦況を見極めることが重要だと思え」
これまでと様相が異なる戦闘となるだろう。
歩兵を中心に衝突し、騎兵による攪乱を行う、ある意味ではオーソドックスな戦闘になるはずだ。
だが、全員がイメージをし難いのも事実。今後は模擬戦を含めた訓練に取り組むことが決定された。
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あの後は、鮮花が狼煙台の設置に加え、最前線となるであろうカラファト城の強化をしたいと申し入れて来た。
鮮花の予想では攻城兵器、しかも、大砲も含めて投石機など、この世界には無かった兵器が出てくる。
俺の一存では許可できないので、軍の総意として、カラファト城の改修を申請することになった。
「会議では、ああ言ったが、イオネラの席次は俺の上で良いと思う」
そして、各自の部隊に連絡事項を伝えるために別れたのだが、移動中にヴィクトルが次席の指揮官として、自分では無くイオネラを推してきた。
ヴィクトルは、淡々としたところがあり、自分が死ぬ事も、俺が死ぬ事も、当然の事として受け止めている。
その辺りが、副長として頼りになるし、先程のような場所では、俺の死を前提に詳しい話をするほど、空気が読めない人間では無い。
そして、俺と二人になると、その辺りで遠慮は無くなる。
ヴィクトルの評価では、エリーザは読みの甘さなど欠点もあるが、思いっきりが良いなど指揮官適正は高い。
エリーザが指揮官ヴィクトルが補佐の方が、その逆より強い部隊になるはず。
だが、イオネラはエリーザ以上に適性が高い。
読みの鋭さに、判断の速さ。自然と周りを従えるカリスマのようなものを持っている。
実際に、領主に就任した後、領地に行かなかったり、直ぐに他所へ移動したりと、人によっては、傍若無人と見られる行動を取りながら、全くと言って嫌われていない。それどころか愛嬌とさえ見られている。
これは、異常なまでに凄い事だ。
「指揮官には、良い意味での横暴さが必要だが、エリーザにはそれが足りない。
女性としては良いんだろうが、指揮官としては重大な欠点だ」
指揮官の仕事は、ある意味では配下に死ねと命令する事だ。
部下に気を使いすぎる人間は、出世できないと言うが事実そうだろう。
配下を限界まで酷使することで成果を出す。その上で、酷使した配下に慕われているなら、それは無敵だと言って良い。
「まあ、副長はお前だ。ただ、俺が死んだらイオネラに任せる。それで良いな」
だが、俺が健在な限りは、イオネラの役目は、鋭い剣でしかない。
ヴィクトルほど、そつなく出来るわけでも、エリーザほど政治を含めた複数の能力も無い。
俺が死んだ後は、俺が口出すことも出来ないからな。
そんな感じで、会話をまとめて、赤備えが集まっている隊舎へと到着した。
到着するなり、指揮を放棄していたエリーザと、勝手に指揮を執ったイオネラに、謝罪を受けたが、既に罰は与えたことだから追求はしない。
「では、決定した事を伝達する」
元帥軍はロートルイが指揮官となり、赤備えは独立した動きを考えている事。
動きに関しては、10騎、100騎、更に数百騎と、変幻に動けるよう、これまで以上の訓練を科す事。
それを伝えても嫌そうな顔をする隊員はいなかった。
全員が分かっているのだ。竜騎兵と戦う困難さを。
「それと、俺の直属の副官にイオネラを追加する。これは指揮面に限ってだ。リヴルスとイグニスと同等の立場になる。
同時に、副長はこれまで通りヴィクトル、次いでエリーザだが、俺が死んだ場合は、総隊長にイオネラを任命する。ヴィクトルが健在でもだ。異論は?」
驚いた顔をする者もいたが、特に異論は出なかった。
むしろ、納得している表情をしている者が多い。
「質問があります」
イオネラが手を挙げて言ってくるので先を促す。
流石に荷が重いか。
「ヴィクトル副長は、タケル様が死んだら、全力で逃げる考えだったし、その訓練もしています。
私も、それを踏襲しなくてはならないんですか?」
「いや、そこまでは決めていないが」
「じゃあ、私の判断で良いんですね?」
畏縮するどころか、やる気満々だよ、この娘。
周囲もドン引きである。
「まあ、判断は任せるが、俺が死んだ後だとヘルヴィスは厳しいだろ?」
「はい。現状では遥かに格上ですし、基本的に全力で逃げるつもりです。
ただ、タケル様と戦った後で、ヘルヴィスが無事とも思えません。隙があれば殺ります」
「お、おう。任せる」
強い意志を持った鋭い視線と言葉。怖いな。何処か彼女の雰囲気に周囲が飲まれ始めている。
前から優秀だとは思っていたが、想像以上だ。
だが、突然、何時ものホンワカ系の表情と声に戻ると、とんでもない事を言う。
「ただぁ、やはりそれだとシュミット家が断絶するので、タケル様に死なれると困ります。死なないで下さいねぇ」
「ぜ、善処します」
本当に想像以上にだった。
重くなりかけた隊の雰囲気が柔らかくなり、訓練の内容を相談し始めた。
だが、何処かに影がある。
ヘルヴィスがゲオルゲを思い出させると言っても、そこまで気になるのだろうか?
全員に話を聞いた方が、どうやら良さそうだ。




