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根之堅洲戦記  作者: 征止長
生きる意味
102/112

戦略変更


「まず、初めに状況を説明しておく」


閲兵式が終わると、軍の主要メンバーを集めて会議をする事にした。

ティビスコス、ブライノフ、アルツールの三将軍に、クルージュを始めとした各地の地方軍の将軍。

更に軍を支える仕事をしている文官と、普段は参加しないヴィクトルとロートルイ。そして、鮮花も参加している。

それに、グロース王国から来ているフォルケン将軍もゲストとして招待した。


戻ってきた後は、国民の目も耳もあるので、道化を演じた。

魔王と互角以上に戦い、ヘルヴィスは逃げ去った形にしたが、この参加者には正確な状況、つまり真実を話す。

俺は単に遊ばれたという現実。これには期待をしていたのか、文官がショックを浮かべている。

だが、軍人は、思ったより驚いてはいないようだ。


「つまりは、ヘルヴィスを討つ機会は十分にある。そう言う事ですな」


「いや、フォルケン将軍。申し訳ないが、奴はその気にさえなれば俺を討つことが出来た。

 武器を手にすることが簡単に出来たのにしなかった。

 どう考えても負けです」


「否。ヘルヴィスが遊ぶのは、何時もの事です。

 私が知る限り、最もヘルヴィスを討てる可能性が高かったと思います。

 同時に、ヘルヴィスの首に最も近い人物は、間違いなくタケル殿だと思います」


「フォルケン殿が言うならそうなのだろうな。

 悪いが落ち込んでいる余裕は無いぞ」


フォルケンは、それでも俺にヘルヴィスを討つ機会があること認め、それにティビスコスが追従する。

確かに、この中で一番ヘルヴィスに詳しいのが、グロースから来たフォルケンだ。

それにティビスコスが言うように落ち込んでいる暇は無い。


「じゃあ、話を進める。奴は去り際に言った。

 長城が完成したら直ぐに来ると。ブラフ…偽りの可能性があるが、俺は本気で言ったと思っている。

 それに関しての意見を聞きたい」


「来るだろうな」


「同感です」


軍人は全員が、ブラフの可能性は無いとの判断だ。

来ると言ったら来る。それに来ると考えて、こちらも構えた方が良いだろう。

ただ、成り行きを見守っている文官と違い、鮮花は何か別の考えがありそうだった。


「鮮花は、どう思う?」


「私としては、本当に直ぐに来るのかと思います。ヘルヴィスがブラフを言ったという問題では無く、実現性の問題です。

 ヘルヴィスは現状として、グロース軍の対応に追われています。西側の長城までは、領土を諦めるとしても、長城の完成までは、おそらく長城の西側で防御の体勢を取りつつ、兵の訓練に当てます。

 そうなると、長城の完成までは西側に滞在しなければならない。つまり、夏の終わり、早くても6月か7月までは移動を開始できません」


そう言って、壁に貼ってある大陸の地図に目を送る。

それで、何を言いたいかが分かった。移動距離と時間の問題だ。


「ロムニアへの到着は年内は無いか」


「予想では、移動の開始は7月になるので、過去の魔族の移動速度から見て年内は来れないと思います。

 これは、領内での移動、補給を移動先で手に入れられる前提です」


「だが、進軍速度は上がっていると思うな。

 歩兵の基本は走る事だ。訓練をしているなら、前とは違うと考えて良いだろう。

 鍛えた歩兵なら一日で20郷(20km)はいける」


「それでも、到着は冬になります。敵地侵攻となると兵糧が持たないでしょう」

 それなら、冬の間に移動をすると思いますが、どうにも」


「だな。直ぐに来る。その言葉を額面通りに受け止めて良いのか」


「ヘルヴィスは意表を突くというか、何を考えているか読めません」


鮮花が悩んでいる理由が分かった気がする。

ヘルヴィスがロムニアを攻めるのは決定事項だ。間違いがない。

ただ、その時期が不明だった。理論的に考えれば来年の春以降だ。

しかし、何となく不安になる。今年中に来そうな気がする。


「その、疑問なのですが、ヘルヴィスは本当にロムニア攻めを優先するのでしょうか?

 先にグロース王国を攻める可能性もあると思いますが」


そんな中、文官が疑問を投げかける。

まあ、彼の中では、ヘルヴィスの首に一番近いと言う俺は、ヘルヴィスにとって危険人物。

俺より安全と思われるグロースを先に叩くと考えるのは一見間違ってはいない。


「残念だが、それは無いな。アルスフォルト殿下が東西から攻めることを望んだのと逆で、ヘルヴィスとしては二方面作戦は避けたい。

 どちらかを先に潰す必要がある」


「それでしたら」


「ヘルヴィスからしたら、アルスフォルト殿下より、武尊さんの首の方が取りやすいのですよ。

 まあ、自分が取られる危険はありますが、ハイリスクハイリターンです」


「危険は大きいが、見返りも大きいって意味だ。アルスフォルト殿下は後方で指揮を執るが、俺は直接ヘルヴィスの首を取りに行くからな」


鮮花が何時ものように、元の世界の言葉を使ったので意味を伝え、同時に補足も入れる。

流石にヘルヴィスから見たら、どちらが首を取りやすいか分かったようだ。


「では、ヘルヴィスは、ロムニアを、正確には武尊さんを潰したい。それも出来るだけに早急に。

 そう考えている事を前提に、戦略を立て直すで良いのでしょうか?」


「そうだな。以前の予定では旧領の奪還だったが、どう思う?」


鮮花が黙ったので、全員を見渡す。

鮮花が黙ったのは、旧領の奪還に反対なのだろう。

部外者としての視点と、ロムニアの騎士としての考えは違う筈だ。


「奪還はしたい。だが、それで負けては元も子もない」


「そうだな。アザカ殿は何か考えがあるようだが?」


鮮花の態度で、旧領の奪還に反対している事を察したのだろう。

ブライノフとアルツールがアザカの考えを聞きたがっていた。


「それでは正直に言います。

 旧領を奪還するより、ヘルヴィスを引き寄せる方が討つ機会が増えると思います」


「確かに慣れた地形の方が戦いやすいが」


「それだけで無く、補給線を伸ばします。

 旧領の奪還はしませんが、開放して捕らえられている人を救出します。

 そうすれば、敵は食糧が手に入りませんし、武器も本国から取り寄せる必要が出ます」


「だが、捕らえられている人の人数が分らん。その分の食糧が」


旧領で生活していた人が全員生きていたとすれば、その人数は膨大になる。

とても、残りの領地で生産される食糧では賄いきれない。


「屯田、カザーク領、それで何とかならないでしょうか?」


「屯田?」


「軍人に開墾をさせる事です。今回の場合は、各領地で耕作している作物の管理になりますね。

 魔族のやり口から言って、捕らえられている人が食べる手のかからない作物を植えているはずです。

 地方軍にお願いしたいのですが?」


「出来ると思う」


「いや、クルージュ将軍のカラファト城は前線になるだろうから、我々で分担しよう」


クルージュ将軍が前向きに考えたようだが、南方の領地をまとめる将軍たちが名乗りを上げてきた。

戦後の領地分配を目論んでいるのかもしれないが、やる気があるのは結構だ。


「カザークにも魔族を追い払ってやると言えば、食糧の提供くらいは望めると思いますが?」


「そうですね。交渉は出来ます。これは担当が違うので確証はありませんが出来ると思います。

 それに、ヘルヴィスがタケル殿を狙っていると言えば、神殿が後押しをしてくれるでしょう。

 神殿としては、ロムニアに居を構えたがっていますし」


カザークと交渉するのは文官の仕事になるが、俺の名前を出せば神殿が動いてくれる。

基本的に政治力は無いが、権威だけはある。

おまけに、カザークの王都目前まで魔族が迫ってきた今、神殿は引っ越しを言い出している状況らしい。

勇者がアレだったカザークとしては、ここで神殿にまで去られたら、本気で国内から荒れかねない。

そんな訳で、カザークの件も大丈夫そうだ。


「それと、魔族軍の動きを早急に知るために、狼煙(のろし)台を設置したいと思います」


鮮花が狼煙の事を説明する。

色の異なる煙を上げて、何かあった際に直ぐに伝わる合図を送る。

戦国時代に使われていた狼煙の材料では、はっきりした色にはならないが、鮮花の手にかかれば見間違うようなことが無い色の付いた煙を何種類か用意出来るそうだ。


「それが可能なら、ありがたいな。本当に」


クルージュが、苦笑しながら漏らす。

閲兵式の閉会の最中に、カラファト城の留守を預かる騎士から、ヘルヴィスの襲来を伝える伝令があったのだ。

もう、完全に手遅れである。

だが、替えの騎竜を用意している竜騎兵なら、余程発見が早くない限りは、伝令より速く移動が出来る。

今回は、竜騎兵を見て、慌てながらも伝令を準備して王都へと向かわせたのだが、到着したのは、俺達が一戦交えた後だった。


「我々としても欲しいものですな」


フォルケンも興味を示す。情報の伝達速度が上がれば、準備がしやすい。

実際に旧領の奪還、最北西にある城を奪い、そこに狼煙台を設置すれば、魔族が其処に到着した時点で一日もあれば王都まで情報が届く。

軍馬でも数日かかる距離だ。十分な準備が出来る上に、そこからのスタートで奴らの進軍速度を調べる此処が出来る。


「では、目的は旧領にある城を攻撃だな?」


「いや、話しながら思ったんだが、攻撃の必要があるかな?」


ティビスコスの確認に、首を傾げる。

元々は城攻めを考えていた。が、今となっては必要になるとは思えなかった。

城の数は結構多い。郷も含めれば膨大だ。それを取り返したら管理が無理と思えるほどに。


「なあ、鮮花。旧領の主要な城や郷に魔族を配置すると、全部で何体必要になる?」


「郷の防御は普段は100。最低でも20は必要です。それ以下では防御の体は成しません。

 城は各自で規模が異なりますが、最低でも100体は必要です。

 それらを合計すると、3000以上になりますね」


城を守るには城兵がいなければ意味がない。

そして、防御の高い大規模な城ほど城兵を多数必要とする。


「それ以下だと無駄死にさせるだけです。

 これも少なく見積もってですからね。実際にこの数で守っていたら、簡単に落とせるでしょう」


「今の魔族に3000は少なくない。

 守る城を減らす。城兵の数を減らす。どちらを取っても防御がザルだな。

 俺なら、そんな中途半端な事をするくらいなら城も郷も全部捨てる。

 城も郷も後で取り返せるが、兵はそうはいかない。どちらを取るかは難しい話では無い」


「ですが、城を簡単に放棄するでしょうか?」


「それは貴族の理屈ですね。魔族の理屈ではありません」


城の放棄は軍人としては、絶対に避けたい事だ。

城を枕に討ち死にする。プライドの観点で見れば素敵だが、勝利の観点で見れば時間稼ぎでしかない。

同時に、厄介な問題が立ち上がった事に気付いてしまう。


「早急に小規模の部隊を編成して向かわせる。

 これは地方軍に任せる。総指揮官としてクルージュ将軍。各将軍はクルージュ将軍の指揮下に入ってもらう。

 偵察任務の延長と思ってもらうと良い。交戦の必要は無い。もし、魔族が残っていたら引け」


「承知した。それにしても、偵察の延長で、空き家なら城を取るか。無茶苦茶だな」


クルージュが笑いながら了承する。

他の将軍も何処か呆れた面持ちだ。まあ、気持ちは分かる。

が、実は笑っている余裕は無かったりするのだ。


「出来るだけ早く出陣して欲しいが、俺の予想だと、大変なのは後方支援と受け入れ態勢だ。

 文官と話し合って、部隊分けや日取りを決めてくれ。

 ただ、愚図愚図していると、魔族がいなくなった城から、自分の足で脱出した大量の難民が雪崩れ込んでくる」


「それは……」


「御自身が、魔族の支配下で捕まっていたと想像すれば良いと思いますよ。

 ある日突然見張りの魔族がいなくなった。どうなっているのか分からない。

 普通なら、魔族が戻ってくる前に逃げるでしょう。何処へ向かいます?」


鮮花のフォローで、これまで面倒な仕事が来ると思っていた文官たちは、放置すれば、より面倒な状況になる事を察したようだ。

顔に真剣みが増す。


「王都、ですね。不定期に数もバラバラで来られては、王都が、いや、その前にカラファト城ですか。

 相当の混乱が起こるでしょう」


「元帥、申し訳ありませんが、早急に宰相に伝えたい。

 中座させてもらって宜しいでしょうか?」


「はい。先程も言いましたが、状況は不鮮明ですが、最悪相当の混乱が起きます。

 宰相の元で相談して欲しい。

 俺達は、これから侵攻してくるヘルヴィスへの対策を話し合うが、ヘルヴィス対策は本体で、領地の件はクルージュ将軍に一任する」


「急いだ方が良さそうだな。

 では、我々も編成の相談をしたいので別室に移動する」


「鮮花、狼煙台の件は」


「大丈夫です。こちらは後からの追加案件として組み込めますから、今は残ります」


「頼む」


最悪の想像が外れていれば良いが、ヘルヴィスはそうするだろうと、何故か確信している俺がいる。

だが、俺が手を出しても上手く行く分野では無い。

俺が今やる事は、地方軍の将軍と、ほとんどの文官が外に出て少なくなった人数で、これから来るであろうヘルヴィス対策を話す事だ。


 



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