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かまいたち

「ここがあの人が言っていた場所みたいね」


 駅から少し離れた裏道に来ていた。


 件の服を切られた女子高生が言うには、駅とコンビニを繋ぐこの道で服を切られたらしい。駅のトイレでは気がつかずにコンビニに入って店員に指摘されて気がついたようだ。


 しかも一ヶ所や二ヶ所ではないため切られた事実よりも気がつかなかった事実の方がショックだったようで、とても不思議そうにしていた。


「何もないな」


 口ではそう言いつつ、一つの異変に気がついていた。


 なんの変哲もないただの電信柱、それとブロック塀との間に揺らぎがある。


 間違いない。かまいたちが、魔物がいる。


 やはり、ついてきて良かった。もし黒木の方を優先していたらこちらには気づけなかっただろう。


 さて、後はそれとなく二人に帰って欲しい所だけど。


「何かおかしいわ」


 紫暮はそう呟くと、険しい顔で辺りを見回す。


「何か変な感じがするのよ、紅音は何か感じない?」


「うーん、特に何も感じないけど」


「お墓の時と同じような何か変な感じ」


 墓地と同じ、魔素を感じ取っているのだろうか。一度経験しているだけに勘が鋭い。違和感の元である歪みに気がつく前にここを離れたい。


「風でも引いてるんじゃないか? 今日はこの辺にして帰ろうよ」


 なるべく自然に言ったつもりだが、紫暮はじっとりとこちらに目を向けるばかりで、何も言わない。


「私も帰った方がいいと思うよ、ここなら休みの日じゃなくてもこれるじゃない」


「紅音がそう言うなら……」


 心の中でガッツポーズをしつつ、一緒に帰路につく。


「じゃあまた明日ね~」


「ああ、また明日、紫暮もまたな」


「また明日調べるわよ」


 何かに感づいているのか紫暮は念を押すように言った、


「あはは、分かってるよ」


 そう言って二人を見送る。門限までまだ時間がある、今から戻れば調査できるだろう。


「明日までに何とかしたいところだけど」


 歪みを眺めながら一人ごちる。電柱と塀の間は人が一人通れるかといった隙間しかなく、墓地のものとは違い封印も為されておらず溢れる魔素も比にならないほどに濃密だ。


 深呼吸をひとつ、魔力を練り上げ魂の欠落が無いことを確認する。


「よし、エインはここで誰かが入らないように見ていてくれ」


「わんっ」


 エインは任せなさいとばかりに尻尾を体に巻き付けるようにして足を揃えてその場に座った。


 何時でも動ける準備をして歪みに足を踏み入れる。




 入ってすぐにぐるりと周囲を見渡す。敵の気配は無い。


 濃い。前世よりはまだまだ薄いもののそれでもこの世界で経験した中では一番である。

 

 周囲に薄めた魔力を撒くことで周囲を探る。


「なるほど」


 墓地と同様に入口付近の様相を繋ぎ会わせた道が碁盤の目のように続いている。広さはそれほどないようで、一方向にまっすぐに探れば領域の端が見つけられた。


「上から見た方が早そうだな」


 足に魔力を集中させて屋根より少し高いくらいに飛び上がるとすぐに怪しい箇所を発見する。その一角だけ他とは違い、壊れた車とタイヤ痕があるのだ。


 方角を覚え、着地する。今ので相手にも見つかった可能性がある、一層の注意を払うべきだろう。


 歩を進めながら、領域に入ってから使用した魔力に用いた魂を回収し、魔力を練り直す。


 近づくにつれて気配が濃くなっていき、策敵の必要もなくなる。


 穏やかだった心臓はその速度を上げ、思考がクリアになる。


 体が戦闘態勢に移行しているのだ。


 手を開閉して最後の調整を終えると、思い切り踏み込んで曲がり角を抜け、壊れた車を蹴りあげる。


 紫暮達と探していていたかまいたち、その正体は身の丈を越える鎌を携えた人型の魔物だった。


「かまいたちというより死神じゃないか」


 全身を覆い隠す黒衣もその印象をより補強する。


 まずは牽制、拾っておいた石を全力で投げつける。


 投じた石の結末を待たずに跳躍し、蹴りあげていた車に両足をあてがい思い切り蹴りつける。


 身を翻し着地、重心を低く保って土煙で見えない相手の出方を伺う。


 これで倒せているのならば楽なのだが。


 土煙が揺らめき、数瞬遅れて鎌が飛び出す。


 やはり、強いな。薄くなった土煙に目を向ければ二つに切断された車の残骸が見える。奇襲の甲斐なくお互い無傷での対面となってしまったが、見た目どおりの鎌使いではないことは分かる。あの鎌で車を両断するのは刃渡りからみて不可能だ。間違いなく魔術によるものだろう。一方で身体能力はそれほど驚異でもない。続く二撃目、三撃目を見てから避けられるくらいである。属性色の強い人魂や、黒木とは違い今の生身のままでも十分に相手になる。


「問題はリーチか」


 肉体強化しているとはいえ所詮は幼児。リーチの短さは如何ともしがたい。対して相手は長物だ、このままでは避けることしかできない。


 前世の学園の遠攻科や近攻科ならこういう時もすぐに他の術式構築ができたのだろうが、俺は支援科専攻だったのでそういった芸当はできない、できなくなってしまった。


 回避を続けながら考えを巡らせる。今もっとも有効な魔術は何だ?


 目眩まし? 有効打を与えうるほどの隙を産み出せるとは思えない。

 

 弾丸系? 連射ならば効果はあるだろうが避けながらの術式は俺には難しい。


 広範囲? 俺も無事では済まないだろうが一番手早い。


 あまり時間をかけてはいられない。


 両手に練り上げた魔力を集中させる。


 相手の降り下ろしを回避したところで左手を向けて魔力を放出。


 散らした魔力で火炎の魔術を発動する。


 火が消えるのを待たずに右手の指先に全力の強化を施して相手の首を狙う。


 防御に寄せていた鎌の柄ごと相手の首をつかむが、手の小ささが災いし逃げられてしまった。けど、

 

「こっちも身を削ったんだ、只では終わらせないよ」

 

 握った柄に魔力を流し込む。


 相手の魔力の上から僅かに流し込めた魔力で皹を作り、身体強化を施した指で握りしめる。


「いただき。うん、丁度良いサイズだな」


 へし折った鎌の刃部を奪った。バランスは悪いが長さ的にはピッタリだ。


 武器を失った相手は折れた棒を片手に持ちかえ、振り上げる。


「悪いがそれは見えてる」


 危なげなく避け、奪った鎌を振るう。


「使いづらいな、やっぱり」


 振るった鎌は刃が当たることはなく、棒部分で相手を打ちすえるのが精々だった。


 リーチの差は埋まった。相手の攻撃は避けられる。残すは初手の車を切った魔術だが、魔術は己の魔力が支配する領域でしか発動はできない。相手の魔力の動きさえ見ていれば発動のタイミングをつかむことは容易い。


「ここまで来れば後は単なる作業だな」


 片手持ちになったことで相手の攻撃間隔は短くなったが、それだけだ。避けて、振るう。その繰り返し。


 魔物は魔力を基に構成されている。見た目や身体機能が如何に一般生物とかけ離れていようと、その中身には同様に臓物が入っているし、主要臓器を破壊すれば活動は鈍る。しかし、それだけでは死なない。エインを作るときに使用したように、魔物には核となる魔石がある。それを破壊しない限りは、周囲の魔力を吸収して回復し続けるのだ。


「まあ、こんなに薄ければ大した回復もできないみたいだけどな」


 足を斬り、体勢を崩したところに貫手を入れる。核を掴んで引き抜けばそれで終わりだ。


 核を引き抜かれ、その体が魔素へと還っていくのを確認して一息つく。


「ふぅ、思ったよりも大きいな」


 引き抜いた魔石は、相手の強さに見合わない大きさのものだった。


「魔素の濃度のせいかな、ともかく処理しないと」


 魔石の処理は簡単だ。魂の残滓に魔素が結合したものなのだから大元の魂を取り込むだけで良い。


「っ!!」


 いつものように魂を取り込んだ、それだけのはずなのに。


 割れるような痛みが走る、体の内側から破裂しそうな錯覚すら覚える。その正体について考えることもできずに俺は意識を手放した。



次回はn日後!

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