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聞き込み

エタラナイ、エタラナイ。

 カーテンから刺す光に目を覚ます。


 ぐぐっと伸びをしてベッドの横を見るとクッションの上でエインが丸まって寝ている。


 エインは魔物だが、食事も排泄も睡眠もする。


 魔物には他の生物と同様に食事や排泄、睡眠が必要な種とそういったものが必要ない種がいる。その違いは魔力効率にある。必要なエネルギーを魔力で賄うのである。そうすると勿論、魔力は足りなくなっていく。


 つまりは、足りない魔力を自分で補えるほど強大な魔石を持つ魔物は睡眠などを必要としないのだ。


 エインは俺の魔石からできているので、余らせるほどの魔力は持っていないため、あの領域ほどに魔素の濃くないここでは1分も元の姿を維持できないだろう。

 

 付け加えるなら、俺の魔石からできているだけあって使用する魔術が肉体強化のみなので、そもそもの魔力効率も悪い。


 肉体強化は明確な原理のイメージが難しく、魔術としての難易度自体もさることながら、その魔力効率はとても悪い。


 仮に紫暮を助けに行ったときに肉体強化をしていなければ、その分の魔力で水球を出し、人魂は簡単に倒すことができただろう。


 質量あるものを産み出すには多くの魔力を消費するが、それでも身体強化よりはコストがかからない。


 さらに、使用後の魂の回収効率も良い。身体強化が体の内外で散発的に魔力が消費されるのに対し、物質を生成する魔術は自身の魔力が支配する領域内の指定した場所で魔力が消費される。そのため散った魂は依然として魔力の支配する領域にあるのでそのまま魔力と混ぜて回収できるのである。


 とはいえ、あの時点では敵の詳細が分かっていなかった以上速さを重視したことは間違いだとは思っていないが。

 

 エインを撫でながらぼんやりと黒木について考えていた。正確には黒木について分かっていることを。


 まず、性別年齢素顔は不明。何かを警戒して全て隠していたのだ。仮にあそこが黒木の秘密基地だとして、あそこまで俺を警戒した理由は何だろうか。


 顔などを隠すということは対人間を想定した警戒であり、普通は顔が知られている相手への警戒だ。魔物相手に素性を隠す意義は無い。


 つまり、黒木はあの秘密基地に黒木を知る何者かが来ることを警戒していたのではないだろうか。


 そうならば俺を見て警戒するのも納得がいく。


 俺のような子供があの領域に一人で入り込むとは思えなかったのだろう。


 つまりは保護者の存在を危惧したわけだ。


 実際、俺が魔術を使って見せて、それが黒木の未知のものだと分かった時点で警戒を解いていた。


 仮に、ここまでの想定が正しいとして黒木が誰を、何故警戒していたのだろうか。


 これ以上は流石に推理はできない。


 あの領域に見られたくないものがあった、あの領域自体が黒木達化物狩りにとって禁術だったとか何とでも考えられる。

 

 昨日の感じからいっても黒木が極悪人とは思えない。


 前世のことを隠すとしても知識についてはそこまで隠しだてしなくても良いように思える。


 まぁ、黒木のことはとりあえず置いておくとしよう。日曜日までにはまだ時間がある。着替えて幼稚園に行くとしよう。


 


 いつものようにバスに乗り、紅音の横に腰かけると紅音が話しかけてくる。


「おはよう、慧ちゃん。昨日あのあと紅音ちゃんと色々調べたんだ~」


「そうだったんだ、何かおもしろい話はあった?」


「ふふふ~、紫暮ちゃんが来てから話すよ~」


 ふにゃりとした笑顔を浮かべ間延びした声で得意気に胸を張っている。


 何かおもしろい怪談話を見つけてきたようだ。


 もったいぶるということは珍しい話なのだろう。


 黒木と接触できた今、怪談を調査する必要性は薄くなってしまったが仕方がない。


「おっはよう~」


 紫暮が機嫌良く定位置に座り、身を乗り出す。


「かまいたちが出るらしいわ!」


「かまいたち? 怪談はもういいのか」


 いたち、というからには動物の一種なのだろうが昨日の今日でもう別の遊びに心変わりでもしたのだろうか? 


「かまいたちは立派な妖怪よ、知らない? 気づかないうち切り傷があるのはかまいたちの仕業なんだって」


「そんな妖怪がいるのか」


 無論、実際にいるわけではないだろうが面白いことを考えるものである。


 恐らくは気がつかないような薄い切り傷に理由を付けただけだろう。


「それが近くででるらしいのよ」


「昨日紫暮ちゃんと聞いて回ったんだけどね、近くの駅あるでしょ? あそこで出るらしいよ」


「高校生のお姉さんが言ってたの、駅の帰り道で気がついたら制服が切られていることがあるって」

 

「服が切られているのに気づかなかったのか」


「そうみたい、だからかまいたちの仕業じゃないかって思ったのよ」


 服が切られているのは自然のものではないだろう。もしかすると本当に魔術か何かが関与しているかもしれない。


「でも、駅は少し遠いだろう」


「だから今度の日曜日に調べにいきましょう!」


「あ~、土曜日にしないか」


日曜日は黒木のところに行かないといけない。


「土曜日は紅音が予定あるんだって、慧杜は日曜日に何かあるの?」


「用事って程でもないんだが」


 まぁ、黒木の方は来週でも構わないし、もしかしたら平日のどこかで会えるかもしれないか。


 それに、俺の居ないところで万が一が起きてしまったら怖い。


「分かった、今週の日曜日な」




 それから数日、何度か墓場に顔を出してみたが黒木がいる様子は無かった。


 「参ったな」


 領域の入り口に腰掛け、一人つぶやく。


 ついに、明日が日曜日である。


 書き置きだけでも残しておくとしよう。


 筆記用具なんてものは持ってきていないので、領域の入り口の地面に書くとしよう。


 魔力を込めて地面を圧し固める。


 固まったことを確認して地面の魔力を抜く。


 落ちていた木の枝に魔力を込めて固めた地面を削っていく。


 魔力の込められていないものはその材質に関わらず、魔力の込められているものに敵わない。魔力の込められていない金属に魔力を込めた木の枝を叩きつければ用意に砕くことができる。


 実際は自然物にも多少の魔力が籠っているものだが、魔素の少ないこの世界では無視できる範囲である。


 かまいたちを調べにいくこと、来週また来ることを書き、領域を出る。


 


 そして日曜日の午後、念のためにエインを連れて公園に行くと二人とも先に来ていたようで、ジャングルジムの上に腰かけていた。


「あ~、その子がエインちゃん?」


「結構ちっちゃいのね」


 ジャングルジムから降りた二人がエインを撫で回す。


 エインは俺の使い魔だが、命令の無いところでは普通の犬と変わらない。今も撫でられて尻尾をゆらゆらと振っている。


「動物は霊感あるっていうから連れてきたんだ」


 と、いうカバーストーリーである。


「じゃあ、行こっか」


「出発~」


 撫でるのを止めた紫暮がそう言うと、エインを抱き上げた紅音が続く。




「えへへ~、可愛いねぇ」


 公園を出てしばらく、エインを抱えた紅音はずっとによによしている。


 横目でその様子を眺めていると、横から声をかけられる。


「ねえ」


 声をかけてきた紫暮は目を合わせずに神妙そうに少し考え込むと、真剣な目でこちらを睨むように見る。


「覚えてないって、あれ嘘でしょ」


 やはり、無理がある言い訳だったか。


 何も言わないでいると紫暮が続けてしゃべる。


「慧杜が倒れちゃったから慌てててさ,お母さん達には本当の事言っちゃったけど、本当は内緒にしなきゃいけなかったんじゃないのかなって、慧杜がとぼけたときに思ったの。ほら、漫画とかだと周りには内緒って定番じゃない?」


「それなら何で証明してやるー、なんて思ったの?」


「それは,だって,ねぇ?」


 紫暮は口をとがらせて目をそらす.


「気になったから! それだけよ」


 何を怒っているのか分からないが、キッと睨み付けてくる。


 それに、興味本意で危険に首を突っ込まれてはたまったものではない。いつも俺が助けてあげられる訳ではないのだ。


「あんな目にあったのにか?」


「大丈夫よ,人気がないとこには行かないし」


 そう言ったきり紫暮はずんずんと道を進んでいく。


 一体何だったんだ、俺の嘘を指摘したかっただけか?


 一人首をかしげていると、エインを抱えた紅音がちょこちょこと走り寄ってくる。


「どしたの?」


「いや、なんでもないよ」


「喧嘩したらダメだよ?」


「喧嘩って訳じゃあないんだけどな……」


 一方的に詰られたようなものだ。


「ほら、こないだの事があったからあまり危ないことしたら駄目だろう?って言ったら怒っちまったんだよ」


 かいつまんでそう言えば、紅音はなんとも微妙な顔で苦笑した。


「同い年に説教されて大人しく聞ける子はいないんじゃないかな」


 そういうものなのだろうか?




「さあ、着いたわよ!」


 駅に着くと、紫暮は機嫌を直したようで胸を張って宣言すると俺たちの方へ向き直る。


「とりあえず聞き込みから始めましょう! 捜査の基本は足だってテレビでもいってたわ!」


「聞き込みったって誰に?」


「それはもちろん高校生っぽい人に聞いてみるのよ!」


 なんともまあ適当な……


 第一どこの高校かすら分からない上に今日は休日で制服を着ているわけでもない。


「それじゃあ始めましょう!」


 三人揃って聞き込みを始めること30分、大体の人は苦笑いでかまいたちの仕業じゃあないよ、と言う。


「かまいたちじゃ無いなら何なのよ!」


「それは誰も教えてくれなかったねぇ~」


 一向に情報が集まらない現状に、というよりは煮えきらない返答に紫暮は苛立っていた。


 俺としては飽きてきたのでそろそろ引き上げて黒木のもとに向かいたいのだが……


「こうなったらとことんよ! 誰かが教えてくれるまで粘るんだから!」


 どうやらそういうわけにもいかないようである。


 憤懣やる方ない紫暮の肩を紅音がゆさぶる。


「ねぇ、あれ服切られたって言ってた人じゃない?」


 指差す先に目をやれば、コーヒー片手に歩いている高校生が三人居た。

 




イメージとして、総魔力量=魂量=MPで、魂の回収効率=自然回復量みたいな感じ。


次回はナルベクハヤクアゲマス。

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