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目覚め

初投稿です。感想、評価、レビュー、作者が泣いて喜びます。

 暗く湿気た部屋で初老の男が黙々と床に模様を描いている。


 模様の中心ではまだ若い青年が目を閉じて座っている。


 外は黒い絵の具で塗りつぶしたかのようにただただ一面に真っ黒な世界が広がっている。


 そして模様を描く音が止み、男は手をかざし、青年は目を開けた。








「ーーーーーーー」


「ーーーーーーーーーー」


「ーーーーー?」


 うるさい。


「ーーーーーー」


「ーーーーーーー」


 頭上で誰かが会話している。


 何語だろうか聞き覚えがない言語だ。


 体はだるく目も空かない。


 からだの感覚が曖昧で頭も働かない。


 俺は何をしていたんだっけ?


 思い出せない。


 考えていると背中に衝撃が走り、口から自分の物とは思えない声が上がった。


「ーーーーー、ーーーーー」


 俺は産声をあげた。











 あれから数日が経った。


 信じられないことに俺は赤子になっている。


 赤子用の檻のあるベッドに横たわっているのだ。


 もちろんまだ生後数日なので立ち上がることはおろか四つん這いになることもできない。


 暇なので自分の状況を考えるしかなかった。


 この数日だけでもいくつか分かったことがある。


 まず、俺は転生したらしい。


 曖昧だが前世の記憶があるので恐らく間違いない。


 幻術や夢に干渉する魔術の可能性もあるが、辺りに発動中の魔力を感じないので恐らく違うのだろう、俺に知覚できない未知の魔術ならば分からないが、それほどの術式をかけられる覚えがあるほどの身分でもなければ何かに巻き込まれていた訳でもない。


 信じがたいが転生というのが最もしっくり来る。


 しかし転生であったとしても、前世の記憶に俺の死はない。


 覚えている最後の記憶は魔術学院の自室で翌日の準備をしていた時のものだ。


 俺が認識できない程の一瞬で死んだということも考えがたい、王国の中心部近い学院は王宮の次に安全な場所だ。


 ならば何故転生したのか、俺は死んでしまったのか、疑問は尽きないがこれ以上はどうしようもない、情報不足だ。


 せめて、隣国に転生していることを願うばかりだ。今はろくに耳も聞こえないから言語でどこの国か判断ができない。


 何はともあれ、俺は今赤子で、自身の名前も分からない無力な存在だ、今は流れに身を任せる他ない事だけは確かだ。








「慧杜ーお前が鬼な、20数えたら始めね」


「オーケー、1…2…3……」


 俺が転生してから数年、俺は今幼稚園に通っている。


慶屋(けいや) 慧杜(けいと)』 今世における俺の名前だ、初めは女に転生したのか焦ったものだがそういうわけではないようだった。


『エイン・カットレア』


 今や覚えていても仕方の無い前世の名前だが、確かに今でも俺のアイデンティティーの一部だ。


 この数年で今世の状況が大体分かった。


 俺は地球という惑星の日本という島国の神奈川県という地域に生まれたらしい。


 前世には惑星という概念はなかったし、大地の果ては滝になっていた。


 そのことを数年前に父に訊ねたら笑いながら惑星について説明してくれた。


 地球という名前は聞き覚えがない。


 ここで使われている言語にも全く聞き覚えが無いというのもある。


 異国に転生どころか異世界に転生したのかもしれない。


 異世界という概念は前世にもあったし、異世界への避難を研究している人もいたがそれと今世とは似ても似つかない。


 研究されていた異世界は今世で言うところの天国と同義で誰も信じてはいなかったし、こんなに生々しい世界ではなかった。


 前世と今世の違いと言えば空気中の魔力濃度とそれによるいくつかの物理現象くらいなものだ。


 電化製品には驚いたが、魔道具の一種としてみれば珍しくもなく、そもそも前世の三分の一に当たる時間を今世で過ごしているのでなれてしまった。


 魔力濃度が薄くなったことで魔術はほぼ使えない。多少訓練は続けているものの使う機会は無いだろう、指先からライター程度の火を出したりすることくらいしかできない。


「……18…19…20」


 今世はすごく平和だ、そろそろ6歳になろうかというのに一切の戦闘訓練が行われず、子供は今みたいにのびのびと遊びに興じている。


 世界レベルで見ても今日明日滅びようかということもないし、魔物も存在しない。


 前世の知識が役立つようなことはあまり無いかもしれない。


 ただ、体の動かし方は分かっているので同年代に比べ運動は得意である、それがゆえに隠れ鬼の鬼を押し付けられもするが。


 昨日は雨だったのでまだ水溜まりもあり、走り回るのは気が進まないのだが。


「さて、どこだろうか」


 定番の建物の影、植え込みの茂み、滑り台の裏にはいなかった。


「後は納屋の方か」


 公園を離れ、少し歩けば古めの日本家屋が見えてくる。


 ここは俺の生家で代々神社の管理をしている。付近には公園や川、墓地などもある、今回の隠れ鬼での範囲はこの辺一帯までと決めている。


「紅音見っけ」


 案の定紅音は家の納屋の中に隠れていた。


「隠れ鬼なんだから逃げられるところに隠れなよ」


「いいもん、どうせ慧ちゃんから逃げても無理だし」


 じゃあ鬼にするなよ、と言いたいが俺を指名したのは彼女ではなくもう一人の方である。


「ここいろんなものがあるのね、私日本刀なんて初めて見たよ」


 見れば彼女の後ろには彼女が手慰みに開けたと思われる箱がいくつかある。


「日本刀?、何それ」


「知らないの?、昔の人が使ってた武器なんだって。ほら、こんなもの振り回してるんだから昔の人はすごいね」


「本当だ、すごいな見た目の割りに重いし何か曲がってる」


 この世界の武器らしいそれは黒く輝く鞘に納められた曲がった剣だ、前世では剣と言えば真っ直ぐなものだったので鞘ごと曲がっているこれは意味が分からない。


「綺麗だな、ぴかぴかだ」


「本当ね戦うためのものとは思えないわ」


「そうだな…って人の家勝手に漁るなよ、片付けんの面倒じゃないか」


「慧ちゃんだってノリノリで見てたじゃない、そういえば他にもお札とか色々あったわよ、さすが神社ねロマン溢れるわ」


「紅音だって家は寺なんだから色々あるだろう?」


 紅音の家は由緒正しいお寺だ。同じ幼稚園で親の生業が似ているのですぐに仲良くなれたのだ。


「身近なものに神秘性なんて感じないわよ」


 そりゃそうか、俺だってゲームをしていても魔法に対する憧れなんかはない。俺にとって魔法とは生きるための術であり戦うための武器だったのだから。


「それに、袈裟よりも巫女服の方が可愛いじゃない」


「俺は袈裟も悪くないと思うけど」


 そんな風に話していると唐突に後ろから甲高い声で非難される。


「あー!いた!、もー何で探しに来ないのー」


「わ、悪い紫暮、すっかり忘れてたよ」


「隠れ鬼の最中に一人だけ放置するとかもはやいじめだよ?全く、せっかくいいところ見つけてたのにー」


 間延びした声で捲し立てるのは芝崎(しばさき)紫暮(しぐれ)、今回の隠れ鬼の発案者で何かと俺をライバル視している。


 紅音と紫暮とは幼稚園が同じで家が近いこともあり、よく一緒に遊んでいる。


 なんとかなだめすかして許してもらうと、しげしげと刀を見つめる。


「それ本物? 触ったら危ないよ、早くしまいなよ」


「ああ、そうだな…」


 早くしまっておけば良かったと、言われた瞬間に後悔した。母が紫暮の背後から俺の手元の刀を見て般若の様相を呈しているのだ。恐らく納屋に入る紫暮を見かけ不思議に思ったのだろう。


 血の気が引き、体温が低下していくような錯覚を覚えながらいそいそと刀を鞘に納め箱に戻す。


「さて、何か納得できる言い訳はあるのかしら?」


 母が怒りを圧し殺した声でそう問うと、今更ながらに母の存在に気づいたのか紅音はサッと顔を青くし、やましいところがないはずの紫暮もどこか不味いところを見られたと言う顔をしている。


 こういう時は素直に謝るにかぎる。


「ごめんなさい」


 母の説教は数十分に及び、以後刃物には触れないことを約束させられ、納屋には鍵がかけられることになった。


「もー、とばっちりで私も怒られちゃったじゃん。しかももう帰る時間だし。」


 紫暮がそう口を尖らせるので紅音は申し訳なさそうに言った。


「ごめんねぇ、私のせいで」


「いいわよ、気にしてないわ。怒られたことよりもよっぽど放置されたことが堪えたわ」


「悪かったって、そう引きずるなよ。これからは忘れないようにするから」


 正直隠れ鬼が面倒だったとか大人げないことは言えないので素直に謝るしかないし、正直本当に忘れていたので少し申し訳ない。


「当たり前よ!じゃあ私達は帰るわね、行こう紅音」


「おう、またな」


「また明日ねー」


 二人に手を振り、家に入ったところで五時を知らせる鐘が鳴った。夕飯までまだ時間があるようなので魔力の訓練でもしようか。


 この世界では魔法や魔術の区別はついていないが、前世でははっきりと区別されていた。


 曰く、魔力が従う法則を魔法、魔法に則り魔力を導き操るのが魔導、魔導により動かした魔力を消費して物理現象を引き起こすのが魔術である。


 つまり、一般的にこの世界でいう魔法とは前世での定義上は魔術である。


 では、魔力とは何か、魔力とは空気中に遍在する魔素に己の魂を結合させたものだと言われている。この、魔素に魂を結合させることを一般に魔力を練ると呼ばれている。


 つまり、高エネルギーな魔素に魂を込めることで意のままにエネルギーを繰ることができるのだ。


 例えば、火を点けたいのならば、魔力を練りそのエネルギーを熱と可燃ガスに変換すればよい。変換するガスの種類によっては必要な魔力量も大きく異なるので、普通は火に拘らず直接熱エネルギーをぶつけることの方が多いし簡単だ。


 しかし、前世において誰もがこのようなことを一々考えて魔術を使っていたわけではない。


 実現可能かつ想像さえできていれば魔力効率は悪いものの魔術は発動できる。なぜかは未だ判明していない。


 さて、ではこの世界ではどうかと言えば、そもそもの魔素濃度が至極薄いためにろくな魔術が発動できないのが現状だ。


 それでも、こうして少しでも魔力を練っておかないと魔力や魔素を感じる感覚が鈍るので日に数分は魔力を練り、軽い身体強化に充てている。


「ふう、ここで必要になるとは思えないけど、やらないと落ち着かないのはどうしようもないな」


 そう一人ごちて時計を見れば五時半、六時には夕飯なのでそれまでは本でも読んでいよう。


「ここの娯楽は本当に豊富だな、今でも信じられない」


 児童書のようなものは前世には数冊しか存在しない。どれも字を覚えるためだけのもので、世界自体にそんな余裕はなかったのだ。


 こちらではどの本も新鮮で興味深い。本屋には学術書のコーナーもあったのでいつかは読んでみたいものだ。もちろん、この世界の常識を先に身に付けなければならないが。


 こちらの本で常識を身に付けようとすれば痛い目を見ることは先日思い知った。


 本の多くはフィクションであり、実際のそれとは違うのだ。SFを読んで、こちらでは瞬間移動や時空移動が簡単にできるのかと思えば、それは創作だと笑われてしまったし、猫が主人公の本の中で猫が字を覚え、前書きにあたかも猫自身が書いたかのように描かれているので、知恵持つ生物が他にも居るのかなどと感心すれば両親は明言せずに微笑ましげにこちらを見るのでまた察するものである。


 そうして本を読んでいると電話が鳴り、間をおいて夕食の支度をしていた母がでた。


 どことなく不穏な感じがする。電話口の母を見れば困惑した様子で返答していて、その後不安を孕んだ焦燥の顔を見せる。


 少々気になったので、本を閉じ電話を終えるのを待っていると母から声がかかる。


「ねえ、紫暮ちゃん帰るとき何か言ってた?」


「いや、いつも通り、また明日ねって紅音と一緒に帰ったはずだけど」


「まだ帰ってないらしいのよ、紅音ちゃん家にも聞いたら忘れ物を取りに戻るって途中で別れたらしいの」


 え、声にならない声しか口に出ない。母が何か口を動かしているのが見えるが耳も頭も受け付けない。


 この世界は平和なはずだ。魔物もいないのに。まさか、人間が人間を傷つけるというのか。テレビで目にしたことはあれど現実味のなかった事象を思い出すと顔が青ざめる。


 落ち着くんだ、そう自分に言い聞かせ必死に頭を働かせる。忘れ物を取りに行くと言っていたか。


 いや、今日は紫暮は家に上がっていないのだから何処に取りに戻ると言うんだ?


 思い出せ、今日会ったときと、別れた時、何か紫暮に変化はあったか?


 そこまで考えが及んだときすべての思考がひとつの結論を導く。


 鞄だ。場所は、


「隠れ鬼の最中に一人だけ放置するとかもはやいじめだよ?全く、()()()()()()()()()()()()()()のにー」


 隠れた先で鞄を置いてきたのか。あの紫暮がいいところと評するのだ闇雲に探して見つかるものとも思えない。母に伝えようとふと見れば、あれから数分経過していて机には夕飯が並び母は居なかった。


 そういえば、さっき探しにいくから先に食べていてといっていたような気もする。


 探しにいかなければ。手早く身支度を揃え、机に出ていた肉用ナイフを袖に入れる。


 刃は付いていないものの魔力を込めれば十分に実用に足る。魔力の有無は存在としての格の違いに直結する。


 隠れ鬼で探していないところでかつ、隠れるのに絶好の場所。


 墓地か。


 直感的にそう思った。遮蔽物も多く、見つかれば走って逃げられる。まさに()()()()()だ。


 前世の感覚では信じられないが、夜は墓場で運動会という歌もある、感覚の相違だろう。


 墓地にたどり着くと、今世ではあり得ないはずの懐かしい感覚に一層の警戒を深める。


「なぜ、こんなに魔素濃度が高いんだ、前はこんなんじゃなかったのに」


 一人ごちて魔力を練り、辺りを探れば空間の歪みを察知できた。


 まさかな。と思いながらも歪みの前に行けば子供の足跡がある。


 最悪だ、空間に干渉できるほどの高位の魔物ならば今の俺では到底太刀打ちできない。かといって魔術もろくに使えない周囲の大人にどうにかできるはずもない。



 結局選択肢など無いのだ。



 早くなる鼓動に意識を向けながら呼吸を整える。よし、行こう。


 逃げるだけなら今の俺でもできる、その自負があった。


 ここで、助けにいかなければ後悔することは間違いない。


 これでも、補助の魔術ではトップクラスだったのだ。そう鼓舞しながら歪みに足を踏み入れると、さらに魔素濃度が濃くなる…が、


 おかしい、高位の魔物がいるにしては濃度が薄すぎるのだ。もちろん外よりは濃いのだが、前世のそれと比べればまだまだである。


 多少の希望は見えてきたか。


 紫暮がここに来たのは恐らく40分ほど前だ、領域の広さからいってもそう遠くには行っていないだろう。

 

 魔術による索敵にもひっかからない。


 魔物もいないことだけが幸いだが、範囲外にいる可能性は否めない。




 歪みの中は現実を綺麗に反映したものでは無いようで、地面は乾いている。


 足跡を辿るのは無理か。


 考えろ、俺が紫暮ならこんな得たいの知れない場所に放り込まれてどこに向かう?


 もちろん来た道を戻り帰ろうとするだろう、しかし歪みが見えなかったらこの空間の中で家に向かうかもしれない。


 紫暮はいつも紅音と帰るために墓地の近くを通らないが、家から紫暮の家までの直線最短距離はこの墓地を通る。


 だとすれば、この歪みからおよそ北西に向かった可能性が高い。


 もちろん、この空間では端がどのようになっているかは術者でないので分からないが恐らくは壁、そうでないなら他端に接続されているはずだ。


 今ごろは紫暮もこの異常に気づいているはずだが、そこからどんな行動にでるかまでは分からない。


 最悪無作為に走り回ることもあり得るのだ。


 行き違いにならないことを祈りながら、最大限走力を強化する。


 しばらく走ると、何者かの足音を耳がとらえる。


 よかった、まだ無事だったか。悪い予想ばかりが頭をよぎっていたが、どうやらまだ走るくらいの元気があるようだ。


 しかし、ただ走っているとは思えない、何かに追いかけられているのか。足音の反響から鬼ごっこをするときのように縦横無尽に走り回っていることがわかる。


 追いかけている側の足音がしないあたり、相手は浮遊型の魔物だろう、急がないと。


 ようやく追い付いた紫暮を見れば、もう声を出す元気もないようで、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔のまま走っている。


 辺りに魔物がいないようなのでなんとか振りきったことがうかがえる。


「紫暮!無事か!?」


 横から声をかけてやると紫暮はこちらを見て、安堵のあまり顔を崩して泣きながらうなずいた。


 本人は懸命に足を動かしているが、全然進めていない。


「追いかけられてるんだろ、大丈夫だ。とりあえず止まって息を整えろ」


 力なくうなずと、紫暮はその場に崩れ落ちるように座った。


 歪みの場所まで紫暮の足では十数分かかることだろう、索敵圏内に敵はいないので多少休む時間はある。


「何に追いかけられている?」


 少し落ち着いてきた紫暮にそう問えば、息も絶え絶え答える。


「わ、わかんないよ。何か幽霊みたいなやつ」


 やはりレイスか。


 レイスは墓場に出る一般的な魔物だ。死者の砕けた魂が魔素と結合することで現れる魔物だが、それゆえに至極弱い。前世では日々、墓守りが倒している。


 身体強化に魔力を使ったため、残り魔力は少なく、魂の残量からいっても練り直すことはできない。それでもレイス程度ならば余裕で倒すことができる。


「なら、大丈夫だ。神社の息子たる俺に任せろ」


「う、うん」


 俺の軽口に乗るだけの余裕は無いようで、息を整えつつ周囲を見渡している。


「そろそろ行こう、帰り道はこっちだ」


「ねぇ、ここってなんなの?」


「ただの墓場だ。でも遊んで良い場所じゃない、死者の眠りを妨げちゃいけない」


「そっか、罰が当たったんだ。あたし」


 そう言って紫暮は涙ぐみながら後をついてくる。


 少々脅かしすぎただろうか。しかし、今回は例外にしても魔素や魔物なんてのはこの世界で見かけないものだ。下手に広めるべき知識ではないだろう。


 数分も歩けば紫暮も落ち着いたようで、ぽつりぽつりと話始める。


「鞄をね、取りに戻っただけだったんだけど、帰ろうとしたらどこまで行ってもお墓で、後ろから幽霊も追いかけてきて、私怖くて必死で走り続けて、慧杜が助けに来てくれて良かった」


「紫暮のお母さんから電話があったんだ、心配してたぞ」


「そだね、早く帰って謝らないと」


「怖かったんだよ、逃げたのに先回りしてくるの」


 恐怖をまぎらわすためだろう、いつもより饒舌に、とりとめもないことを話し続ける。集中できないので正直やめてほしいが、こんな幼子がいくら俺がいるとはいえこの状況で一応の落ち着きを見せているだけ上等だろう。




 実戦から離れて久しいからか、あるいは紫暮を見つけて安堵したためか。()()に気がついたのはもう手遅れになってからだった。


囲まれている。




あらすじを見て、現代文明に驚く異世界人を期待したならごめんなさい。それがメインではないです。


次話は予約投稿しています。是非ご覧ください。

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