余話 教室にて
余話 教室にて
「『河内君、さっきはどうも』って何!?」扉が閉まるや否や訊問が開始された。係官は洞大介、河内の左斜め後ろに席を占める生徒だ。
「城山公園行きたいけど教科書重いなあ言うてたから、ロッカーに入れて戻って来たらーて言うただけやけど」
「なんで河内君だったの?」
「教室に僕らしか居れへんかった」
「何そのステキなシチュエーション!?」
「河内君どんなカラクリ使った!?」二人目の係官、山田雅史が加わる。山田の席は河内のすぐ後ろだ。
「たまたまやって。礼した後僕ら先生に呼ばれたやん。その間にみんな出て行ったから」
「いいなあ!」
「そもそも何で河内君指名された!?」納得しかかった洞の後を山田が継いだ。
「そんなん僕も分かれへんわ。入学式の後にちょう話しただけやもん」
「何で?」
「ここで外見てたら二人で入ってきて話しかけられてん」
「そこも何で河内君だけ!?」
「僕しか居れへんかった」
「うわ、俺も教室来ればよかった!」
「ウラヤマしー!!」
「ちょう話しただけやで」
「どんだけ話したかは問題じゃないんだよ!」
「じゃあ何が問題なん」
「河内君しかいなかったとこだよ!」
「オレが教室来てたら副委員長オレだったんじゃないの!?」
「そうなん違う?」
「それはどうかな」それまで黙って訊問を眺めていた斉藤臣が口を開いた。斉藤は河内の隣に座る。
「洞君が教室に来てても、河内君もいたわけだから、洞君が声を掛けられていたとは限らないよね。いやむしろ、二人いたら挨拶だけで終わった可能性大だったのではないかな」芝居がかった話し口で論を展開する。
「うーわ、そういうこと言う!?」
「仮定法過去は不毛だよ」
「分かってるけどもしも遊びくらいさせろよ!」
「洞君は、カワイ子ちゃんと仲良くなりたい訳だよね」斉藤は洞の抗議を完全に無視した。
「そうだけど、もうちょっと言い方あんだろ」
「当面は相生さん」また流した。
「うちのクラスで一番かわいいじゃん、なあ」洞に同意を求められ、
「うん。しかも多分ノーメイクだろ」山田も賛意を示した。
「マジか。相当だな」
「ということなら、現状かなりいい位置にいるんじゃないかな」
「?」「どういうこと?」
「相生さんに一番近い位置にいるのは河内君だ。それは間違いない。君たちはそれを見て羨ましいと言っているわけだけど」斉藤は言葉を切り、仏頂面の河内、期待に目を輝かせる洞に山田、と三人を順に眺めた。ここも芝居がかっている。
「その河内君に一番近いのは誰か」
「おお~」洞と山田が声を合わせた。
「僕思っ切し踏み台やん」河内は仏頂面を崩さないが、無理も無かろう。
「河内君からそれとなく相生さんに売り込んでもらう」河内の抗議も無視した。
「ナイス臣君!」「すげーよ臣君!」全然凄くないし、ナイスですらない案だが、気分が盛り上がると目が曇るのはよく有ることだ。
「そんな訳で、我々の楽しい学校生活は、河内君、君の双肩にかかっている」斉藤は河内の両肩に掌を置いた。
「そうだ河内君!」
「頼むぞ河内君!」
「そんなん言われても僕うまいこと喋られへんで」
「ていうか、『我々』!?」山田が気付いた。
「当然僕もそこに入る」
「臣君カタブツかと思ったらムッツリか」洞の言葉に、
「もう少し言い方があるだろう」
「何でもええけど、僕何も約束はせえへんからな」努力はするつもりだということか。
「いやいや期待してますよ~」山田が茶目っ気たっぷりに言い、河内も思わず笑った。
「話もまとまったところで帰るかな」斉藤が鞄を取り、全員が倣った。
「河内君山賊焼食べたことある?」後ろの扉から廊下に出た山田が訊く。
「まだないねん」河内も後に続き、
「よっしゃ、今度食べに行こうぜ」洞が扉を閉めた。




