余話 居間にて
余話 居間にて
夕食後、青井夫妻はいつも通り居間で座っていた。今夜碧の親から電話が来ると夕食前に娘から聞き、晩酌も中止して待っているのである。その娘は、台所で夕食の後片付けをしている。
聞いたのはそれだけではない。松江旅行に相生夫妻も参加の意向。さらに高辻家からラブとアスラン、相生家からはクロも参加の可能性大。明日碧を含む級友四人が来るという話も聞いているが、それは当面大きな話ではない。
「車二台かしらね」
「ペット可のレンタカーはほとんどないからなあ」
「娘チームと親チームね」
「でもそれだと高辻さんがずっと運転になるぞ」
「あ、そうか。じゃあ梨乃さんが休んでる間は私が運転するわ」
「それが」いいな、と言おうとしたのだろうが、その時電話が鳴った。
電話機は朱美のすぐ傍に持ってきてある。朱美はすぐに受話器を取り、
「もしもし、青井です」
「……」
「いえ、いえこちらこそ、いつも娘がお世話になっております。先日もお邪魔させて頂いたそうで」
「……」
「クロちゃんがすごく可愛くて、撫で心地もすごくよかったと喜んでおりました」
「……」
「はい、はい、御一緒できましたら」
「……」
「あ、そうなんですか、梨乃さんも。それはよかった。ではまずは日程から」
「……」
「はい、はい、そうですね。家も近いことですし。はい、よろしければそちらへ伺いまして」
「……」
「いえいえ、そちらへ。クロちゃんも見てみたいと思っておりますので」
「……」
「そうですね、日時はまた改めて」
「……」
「ええ、私も専業主婦です」
「……」
「では月曜朝十時に。はい、はい、では替わります。あなた」朱美が受話器を差し出し、
「ああ」夫は膝立ちでそちらへ寄る。
「相生さん。向こうも旦那さんに替わるって」
「ああ」
「お電話替わりました、藍の父親の巌です。娘がお世話になっております」
「……」
「はい、先程娘から。楽しみにしております」
「……」
「はい、そのようですね」
「……」
「いいですね」
「……」
「は、明日?」
「……」
「いえ、予定はありませんので大丈夫ですが」
「……」
「はい、はい、では明日夕方六時、松本駅改札で」
「……」
「あー、では私は白のポロシャツに茶色のチノパンで」
「……」
「いえ、こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「……」
「はい、では明日。失礼いたします」
「……」
巌は受話器を置いた。
「相生さんと会うの?」
「ああ。すごい人だな。会ったこともないのに飲みに行こうと」
「へえ。営業職なのかしらね」
「かもな」
「じゃ明日は晩ごはんいらない?」
「どれくらい出てるか分からんから、軽いものだけ残しといてくれないか」
「うん、分かった」
「君も奥さんと会うんだろう?」
「ええ。月曜にね。……怒涛の急展開に私たちまで巻き込まれたわね」
「碧ちゃんというのはすごい子だな」
「そうね。足向けて寝れないわね」




