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余話 図書室にて
図書室にて
紫は受付で椅子に座り、読書していた。
今日は藍以外、まだ誰も来ていない。日によってばらつきは大きいが、総じて言えば図書室では閑古鳥が鳴いている。ごく近くに蔵書数県内最多の図書館があるため、本を探す者はそちらへ行く。そして、この図書室には机が無いので、勉強したい者もここには来ない。
一年生の秋まではそれを少し寂しく思っていたが、梨乃と話すようになってからは却って有り難く思うようになった。そして、梨乃と会えなくなってからも、彼女と自分を繋ぐ唯一の絆として、この静謐を愛しく思っている。
その静謐を携帯電話の着信音が破った。普段ならば忌々しく思うところだが、今日は違う。
緊張に震える手で携帯電話を取り、画面を見る。登録されていないアドレスからの電子メイルだ。急いで開き、貪るように読む。そして、
「梨乃センパイ…」
目を閉じ、携帯電話を胸に押し当て、声を出さずに彼女は泣いた。




