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リセエンヌ  作者: 松本龍介
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余話 教室にて

余話 教室にて


 「鈴木くん」放課後、帰り支度をしている鈴木の席に、女子生徒がやってきた。(なか)(がわ)(みどり)()、席は窓際の前から三番目、斉藤と洞の後ろだ。藍より僅かに背が高く、藍ほどではないが細身で、薄茶色の髪を肩甲骨に垂らしている。美人とまでは言えないが、いつもにこやかで可愛らしい印象だ。そして、一番の特徴は、膝上十七、八センチの辺りまで白い脚の見える、短いスカートだ。恐らくはスカートの上の方を巻いて丈を詰めているのであろう。この学級でスカートを短くしているのは今のところ彼女だけなので、かなり目立っている。

 鈴木は一瞬その脚に目を遣り、

 「中川。もしかして参加!?」

 「うん。わたしシーパス持ってるし」シーズンパスの略である。その年のホームゲーム通し券だ。

 「マジか! じゃあ頼みがあんだけど!」

 「先行入場で席取りでしょ。いいよ、いつも通りだし」松本山雅に限らず、多くのクラブがファンクラブ会員やシーズンパス所持者の先行入場という制度を採っている。

 「話(はえ)え! よろしく! 集合時間とかは改めて」

 「うん。鈴木くんも持ってるんだよね?」

 「当然! ほかにもホルダーいねえかな」

 「多い方が確率上がるよね」松本山雅では先行入場の順番を抽選で決めるという方式を採用しているため、人数が多ければ多いほど若い番号を引く可能性が上がるのである。無論、その番号で一度に入れる人数には制限が設けられているが。

 「おう! 明日みんなに聞いてみるわ」

 「うん。それがいいね。じゃ」

 「ありがとな、中川!」教室から出ようとする背中に鈴木が呼び掛け、中川は振り向いてにっこり笑ってから廊下に出た。

 鈴木も、鞄の蓋を閉じて教室を後にした。


 一方その頃、河内席にはいつもの四人が集まっていた。

 「中川さんもアルウィン行くんかな?」鈴木の席に向かう背中を見て山田が言う。アルウィンとは松本平広域運動公園総合球技場の愛称で、松本市のほぼ南端に位置する。松本山雅のホームゲームが開催される球技場であり、試合当日となるとキックオフ数時間前から多くのファン、サポーターが詰めかける。

 「じゃね? 女子もけっこう来るだろ、この企画」と洞。

 「だろうな」

 「そうなん? サッカーやろ?」河内の印象では、女性ファンがキャーキャー言う類の競技ではない。

 「山雅はファン層広いんだ。女子の割合も他所(よそ)より高い」

 「ふーん。広いて年齢層が?」

 「おう! 上は100から下は0歳児までだからな!」

 「それはないやろ」

 「百は盛りすぎだけど、八十後半は実際にいるぞ。僕の近所の御夫婦、八十八と七だけど、ほとんど毎試合行ってる。しかも軽トラで」

 「元気やな!」

 「農作業で足腰鍛えられてるんだろうな。さらに言うと、毎年最新のオーセンティック着てる」

 「オーセンティックって何?」

 「選手が来てるのと同じユニフォーム」

 「すごいな!」

 「そうか? 歳のこと別にしたら、そんな人いっぱいいんぞ」

 「孫連れて来る人とか、三世代で来る人とかな」

 「下はゼロ歳どころか生まれる前から来てるもんな」

 「チャントが胎教」

 「チャントって何?」

 「応援する時の掛け声って言うか歌。野球でもあんだろ」

 「あー。妊娠中でも行くんや、すごいな」

 「(とき)(どき)見るよな、そういう人も」

 「見るな」

 「そんなとこ僕が行って大丈夫かいな」

 「大丈夫! 誰にでも初めてはあんだろ」

 「オレらと一緒に行くし」

 「敢えて言うなら緑色の服で行くのが望ましいけどな」松本山雅の色は緑である。無論、山の緑から取ったのであろう。

 「そうな。洋、緑の服持ってる?」

 「あれへんわー。(みんな)持ってんのん?」

 「持ってる」「持ってる」洞と斎藤が声を合わせ、

 「俺ユニ2枚持ってるから貸してやるよ!」山田が得意気に言うと、

 「うん、頼むわ」河内も頷いた。

 「ところで話は変わるんだが」

 「うん」「おう」「おう」

 「ナポレオン知ってるか? トランプの」

 「知らん」「知らん」「知らん」

 「ちょっとルールが複雑なんだが、面白いんだ。説明するからやってみようぜ」斎藤が鞄からトランプを取り出し、四人の長い放課後が始まった。

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