バイオレンス失態・妻
これは、数多ある3人家族の中のひとつの物語……。
3人家族にはよくある、親と子の戦いは何時終わるのとも知れない、そんな世界……。
このお話は、ある日妻が取り返しのつかない失態を犯す所から始まる……
「……紙がないわ……」
今、トイレの中で便器に座り、両手で頭を抱えながら詰まったような声を出すのは妻。
今しがた用を足したのは、この妻に他ならない。
妻は、無いと分かっているトイレットペーパーを何度も確認する。
「……あの人に替えを頼んでおいたのに……」
妻は愚痴るようにそう言うと、居間で娘の面倒を見ている夫に聞こえるように大声を出す。
「あなたー! 紙が無いのー! 悪いけど持ってきてー!!」
「時間かかるよー!?」
「何でよー!?」
「異世界召喚されてるからー!!」
夫の答に頭を抱える妻……。今度は一体何のバイオレンスアンサーだろうか? 妻は苛立つ心を今一度抑え、再度夫に向かって紙を持ってくるように伝える。
しかし、返ってくる答えはさっきと同じ。
『異世界召喚中』
業を煮やした妻は右手側の壁を力強く叩き、遂には夫を怒鳴り付ける。
「何よさっきから異世界召喚、異世界召喚って! 一体何処の異世界に召喚されたって言うのよ!?」
「……い◯はと◯ぶ」
「地元じゃないのよ!!」
妻が今欲しいのは夫のバイオレンスアンサーじゃない。トイレットペーパーである。だが夫は、そんな妻の気持ちを完全に知り尽くしている感じで、言葉を続ける。
「ジョ◯◯ニ……母さんは僕の事を」
「偉い人に怒られるから止めなさい!!」
「昔々ある所に、グスコ◯ブドリが」
「良いから早く紙を持ってきてよ!!」
妻に叱られた夫は、断腸の想いでバイオレンスアンサーを中断すると、一緒に遊んでいた娘に声をかけ、妻に紙を持っていく。
「紙、持ってきたよ」
「遅いわよ……」
トイレの鍵を開ける妻。夫は少しだけ扉を開け隙間から紙を差し出す。
「はい、新聞紙」
「詰まっちゃうでしょ!?」
「余計黒くなっちゃう?」
「そういうの良いから!!」
夫の繰り返されるバイオレンスアンサーに疲労困憊する妻。素直に謝る夫。
「ごめん、ごめん。こっちの方が良かったね」
「もう……ちゃんとしてよ……」
「はい、リトマス試験紙」
「くっついちゃうわよ!!」
終わりの見えない夫のバイオレンスアンサーに頭を抱えながらも、妻は一言。
「あなたが思っているほど、周りは面白いとは思って無いからね……?」
「うそうそ。ちゃんとトイレットペーパー持ってきたよ」
「最初から出しなさいよ!!」
扉の隙間から差し出された紙を、妻は天の恵みのように受け取り、そしてこう言った。
「フローラルの香り!!」
皆さんは、紙が無くなった時はどうしますか?
自分は諦めます。……駄目じゃん。