〜安寧の日々よ永遠なれ〜
佐々木亮太、35歳、
契約社員。
異世界転生したので隠居します。
***
とある異世界、のどかな山の麓。
「よいしょっ、と。
うーん……これぐらいでいっか」
積み上げられた薪を見て、俺はふう、とため息をついた。
持っていた斧を庭の納屋に片付けにいく。
芝の鮮やかな緑が目に眩しい。
季節は初夏だろう――たぶん。
俺が異世界に来て、村人との交流を無難に済ませたあと、この空き家を見つけたのはつい先日のことだ。
風通しが良さそう。檜の良い香りがする。ちょうどいい広さ。……少しボロい。
ここを改修して自宅にしようと決めた。
「さて、昨日の畑作りの続きやるかー」
昨日草を抜いておいた土を耕す。
納屋にあったクワをもぞもぞ動かして耕す。
クワなんて使ったことないし。慣れてないのは仕方ない。
もぞもぞ。もぞもぞ。
なんとなしに、昔のことを思い出す。
思えば、子どもの頃から集団内での立ち回りが苦手で。
だーれも来ない山奥で静かに隠居したいなぁ、なんて、中学生の頃から思ってたな。
もぞもぞ。もぞもぞ。……ガツッ。
あ、石に当たっちゃった。大きそう。
ごそごそ。ごそごそ。
のどかに暮らす夢が叶ったんだきっと。
神様が叶えてくれたんだ。
……まぁ無宗教なんだけど。
ごそごそ。ごそごそ。
なかなか石取れないなぁ。深く埋まっちゃってるなぁ、これ。
ごそごそ。……ん?
ふと顔を上げると、白くてふわふわした小動物が、目をまん丸にしてこちらを見ていた。
たぶん犬。ポメラニアンぽい。でも耳は狐みたいに広くて大きい。
向こうも俺に気付いたばかりでびっくりしているようだ。
「お〜〜、可愛いな、おいでおいでー」
「きゃんっ」
逃げられた。
そういえば俺、猫とか犬によく逃げられてたわ。悲しい。
「………」
でも俺の存在が気になるのか、ちょっと離れた木の陰からこちらを見ている。
俺は静かに動いて、軒先にあった干し肉(村人に時計と交換してもらった)を掴み、ポメラニアン(?)の視線の先で揺らした。
「ほれほれ、干し肉だよ〜〜」
「………」
「美味しいよ〜たぶん。まだ俺食べてないけど」
「そんな怪しいもの渡そうとしないでください」
それは、明らかにポメラニアン(?)から聞こえた。
「キャァァァシャベッタァァアアアアア」
ポメラニアン(?)は俺をまっすぐ睨みつけながら、ゆっくりと近付いてきた。
つづく