第90話 少女と強者
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深夜2時。
春奈が待ち始めてからおよそ8時間。
とうとうその時が来た。眠気はイッキに吹っ飛んだ。
春奈はブランコに座ったまま、口を開く。
「こんばんは……。『極夜の魔術団』でしょ? あんた」
「あぁ。……意外だな、一人か?」
「そ、一人」
春奈の前に現れたのは外人の男。最初に会った二人とは違う。
年齢は30代くらいで、随分雰囲気がある。
なんかわかる。多分、強い。
――そう、うまくはいかないか。
強そうなやつが来たということは警戒されているということ。
それでもやらなきゃならない。
「ここで待っていたということは、俺達に用があるんだろう? なんだ」
「……話しにくい。あれ出してよ。結界みたいなやつ」
「……いいだろう」
男は札を数枚ばら撒くと、「『皆既食』起動」と呟いた。
「話を続けろ」
「……私は今、『黒葬』で働いてんだけどさ、そっちに寝返りたいんだよね」
春奈の座るブランコは少しだけ揺れていて、耳障りな音を立てる。
「……」
「どうすれば、仲間に入れてくれる?」
「……そうだな、『黒葬』の誰か一人を殺して来い。そうすれば認めよう」
「そっか」
春奈は、ゆっくりとブランコから立ち上がる。
「やっぱり、そういうのが『証拠』になるんだろうね」
「あぁ、説得力があるからな。付け足すと、できれば戦闘員が良い」
「へぇ」
「……強ければ、なお良いだろうな」
男は静かにそう言葉を続けた。
ブランコは春奈が立ち上がったことで、不安定になりふらふらと動く。
「……ところでさ、あんた強い?」
ブランコは春奈の足に当たってピタリと止まった。
「ああ」
「じゃ、……『証拠』には持ってこいってことだ」
福田との戦いから、10時間。魔力はほとんど回復した。
とはいえ、怪我は完治していない。
だが。
「――今日、ここでお前らとの因縁は断ち切る」
私の居場所は『黒葬』だ。
「良いのか? 不意を付かなくて」
「……最初からわかってた癖に。顔に出やすいんだよ、私」
息を吸う。
腹部が激痛が走る。
痛みをこらえ、構えた。
◆
現在、『極夜の魔術団』は二つ目の『陣』の生成に取り掛かっていた。
「シャルハットさん。ここと、あともう一ヶ所の『陣』の生成が終わったらどこへ行くんですか?」
「本命の儀式をしに行くんです」
「本命ですか?」
「そう。『陣』で集めた魔力を全て収束させて大魔術を起動するんです」
「大魔術……ですか。それで世界が変わると」
「……正直どうなんでしょうね。世界が変わるかどうかは私にはわかりません」
シャルハットは儀式を行う魔術師達を見ながらそうつぶやいた。どこか興味なさげなのは気のせいだろうか。
「その大魔術で無差別に人が死んだり、都市が丸々壊滅したりとかは……、それだと怖いんですけど」
「安心してください。だーれも死にゃしませんよ。むしろ……」
◆
オーストラリア上空。
燈太は飛行機で深い眠りについていた。
――この時、彼から『UE』が放出されていることに、誰も気づくことはなかった。
【『アトランティス』調査隊、帰還まであと8時間】
燈太の『UE』放出に誰も気づかないのはハイド(現象課長)が破壊されたのと、そもそもオーストラリア上空の『UE』観測は誰もしていないからです。




