第82話 任務の終わり
「託された二つ目の物は、曰く『UE』検出公式の完成形です。この公式であれば、極微量・・・な『UE』であっても検出ができるとのことです……!」
「……よくみせろ」
静馬は燈太の手からメモをほとんど奪う形で取り上げた。公式はメモ一枚では収まりきらず、数ページに及ぶ。それを静馬は凝視し、藤乃は覗き込む形でメモをみる。
「……変数の説明もきちんとありますね。ここまでは既存の……」「この係数はなんだ?」「それは、ここに説明が……」「……なるほどな」
2人はメモをみて議論しつつ、読み解いていく。
「……ハイドだ。課長に回せ、このデータを!」
静馬は携帯端末で写真を撮り、それを送信する。
「静華さん、どうデス?」
「……専門ではないので、確証はないですけど、見た感じ矛盾はなさそうな……」
燈太には正しいのかはわからないが、静馬の様子を見るにやはりあれは。
「今、課長にデータを送った。もしあれが正しければ、今すぐにでも『UE』の検出能力は今までとは比にならんほど強力な物になる!」
ハイドのロボットボディーは破壊されたが、脳に当たる人工知能はここにはないため、もちろん無傷である。連絡を取るのは容易だ。
「えーと、そうなるとどうなるんスかね……?」
空は紅蓮や燈太の近くに来て、小さな声で質問した。
「あー、『超現象保持者』探しは捗るんじゃねぇの?」
紅蓮は、そう言う。燈太の経験では、生物課でツチノコを探すとき大分苦労した。あれが楽になるだろう。いや、それだけではない。
「……あ。例の『極夜の魔術団』を探すのも楽になるんじゃ……?」
「! 確かに……。 そうだ、そうじゃねぇか! 燈太! お前、すげぇもん持ってきたな!」
「そうッスね! ……もう逃がさねぇッスよ」
空は拳を自分の手の平にぶつける。声にも力強さが伺える。
もちろん、今日あった本社の襲撃の件もあるだろうが、空は燈太が『黒葬』に入社した日に鑑心と共に『極夜の魔術団』を追ったものの、逃がしてしまったと聞いた。もし探索精度が上がっていればその結果は変わっていたかもしれない。
『こちら指令部、獅子沢。坂巻の取得した公式をハイドが分析した結果、実用レベルである可能性が非常に高いことが判明した。現在、その公式を組み込んだうえで演算を行っている』
指令部からの通信。やはり、あの公式は本物だった。
皆が様々な反応をするなか、
「……これは、大成果デスね。燈太クン」
幽嶋が燈太の横に来て声をかけた。
「……いえ、皆さんのおかげですよ……。結局、俺はみんなに守ってもらっただけなので」
「そうデスか?」
幽嶋にポンと肩を叩かれる。
「君が勇気をもって、無茶を通したからでショウ? メンバーを決めるときから、そうデス」
「……幽嶋さん」
「私は生物課。命を大切にすることがお仕事デス。本来、無茶はあまりして欲しくはないんデスけどね」
「……それは……、すみません」
謝る燈太に、幽嶋は静かに笑った。
「無茶を無茶にさせないのも私の仕事デス。頼ってもらうのは多いに結構」
幽嶋はそう言い、寝ているネロを起こしにいった。
『演算が完了した。今から試験的に、そちらの検出データを送る。おそらく、微少な『UE』も考慮したものになっているはずだ。ハイドが破壊さらたためリアルタイムなデータではないが、確認してくれ』
獅子沢からの連絡が入った。
もし、公式の導入ができているのであれば、微少な『UE』が検出できているはずだ。その例としてこの『アトランティス』に存在する情報『UE』は微少な『UE』であり、先ほどまで検出できていなかった。
「……上階の建物内部に『UE』を確認。微少な『UE』も検出できている!
この公式は完璧だ……!」
静馬は声を荒げる。
「燈太! よくやった、これは大いなる収穫だ……!」
静馬が珍しく直球で褒める。静馬は研究者であり現象課。燈太には実用的な凄さしかわからないが、研究者にはもっと大きな意味があるのだろう。
静馬はタブレットでまた作業を始めた。
『こちら指令部。皆、ご苦労だった。ひとまず、『アトランティス』調査任務はこれで終了とする。先ほど言った通り、本社は『極夜の魔術団』の強襲があった。こちらの戦力をいち早く強化したい。準備ができ次第、帰還だ』
それを聞き、「了解」と皆が口にした。
藤乃は小さな声で「……恐竜についてもう少し調査したいんですけど……生物課として……」と言ったが、却下された。
――最南の地にて、失われた世界が目を覚ます。そこで得るものは今後の組織をより強靭にするであろう。
無加工の『オリハルコン』。そして、『UE』観測に用いる演算公式の完成形。
これは必ず組織を強靭にするはずだ。
『アトランティス』調査任務は、成功と言えるだろう。
皆が帰る準備をするなか、
「……おかしい」
先ほどの興奮はどこへ行ったやら、タブレットを見ながら静馬がそうつぶやいた。
「……静馬さん? どうしたんですか?」
「これを見ろ」
静馬は燈太にタブレットを見せた。
「これは、『アトランティス』突入前の『UE』観測データだ」
「突入前……。あ!」
「思い出したか?」
突入前、燈太は『共鳴』を引き起こし、大量な『UE』を観測された。それは一体何と『共鳴』したのかいまだ、わからぬまま。
「あの瞬間には課長がいた。故にデータは残っている。そのデータに先ほどの完全公式をあてはめ、微少な『UE』も考慮できるようにした」
そういえば、『アトランティス』人は『共鳴』によってこの『アトランティス』を出現させたと言っていた。となると、時を操る『UE』に関係して……。
「――あの瞬間、『アトランティス』から『UE』は発生していない」
「……え?」
『アトランティス』との『共鳴』ではない、静馬はそう言った。
「……本当に『共鳴』か?」
「は、はい! 確かに『共鳴』だと……、そう……感じました」
「……」
静馬は胡散臭そうにこちらを見た。
「『超現象保持者』はそういう『感覚』に重きを置きすぎる。俺には理解できん」
「でも、確かに……」
「観測されてない物は、観測されてないんだ。知るか」
「すいません……」
確かにあれは『共鳴』だと本能でそうわかった。が、本当にそうかと言われるとわからないし、今日は色々なことがあって鮮明には覚えていない。
思い違いだったのだろうか。
「貴様はまたわけのわからん『UE』を出したことだけは確かだ。気を付けろバカたれめ」
「さっきまでの上機嫌はどこへ……」
「なんだ」
「いえ……」
燈太の能力の謎は未だ解明されぬままであった。
恐竜放置に関してですが、遺跡が発見してから大分時間が経っているにも関わらず、元気いっぱいかつ捕食よりも台座を守ること優先していることから、ひとまず放置していても大丈夫でしょうという指令部の判断です。




