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国営会社『黒葬』~秘密結社は暗躍し、世界の闇を『処理』する~  作者: ゆにろく
Ⅱ 南極古代都市『アトランティス』編
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第49話 とある死刑囚(2)

 その夜、福田は夢を見た。


「お前がやったんだな!」


 夢で会った自分と同じ顔の悪魔を問い詰める。

 悪魔は笑っていた。


 ――ああ、そうさ。でもこうして欲しかったんだろ?


「た、確かにあのいじっめこは嫌いだったさ! でも殺すこと……。そ、それにタマだって! あれは怯えてただけだ!」


 悪魔は絶えず笑っていた。


「な、何がおかしいん――」


 ――知るか。


「な……!」


 ――俺の知ったことじゃない。ただ暴れたいだけなんだよ。


「な、なんで……」


 ――なんで? そこに理由はない。お前をいじめていた奴らと同じさ。理由なんかない。ただそうしたいんだ。


「や、やめてよ……、もう人が怪我をするのはみたくない……!」


 ――知るか。


「……どうしたら、やめてくれる……?」


 ――俺はお前が生み出したもう一人の『お前』だ。自分で考えたらどうだ? まあやめるつもりなんてないけどな。


「……」


 ――ックック……。お前の身体を乗っ取る日は遠くないかもな。




 11月9日。

 福田は目を覚ました。


 その日、福田は学校へ行かなかった。


「考えなくちゃ……考えなくちゃ……」


 悪魔は多分、福田の心の『弱さ』をきっかけに『表』にでてくる。

 どうしようもないくらい怒ったり、絶望したり、そういった時だ。

 一度目はいじめっ子の怒り、今までにないくらい暴力的な気持ちになった。

 二度目はタマの裏切りに悲しくなって……。


「……いや」


 確かに二度目も弱弱しい気持ちにはなったものの、「今までにないくらい」、そういったレベルの悲しさではなかった。


「もしかして……」


 悪魔は「お前の身体を乗っ取る日は遠くない」と言っていた。

 一度悪魔を出したことで、もしかすると、考えたくもないことだが……


 ――無意識的に僕は、あの悪魔のことを望んでしまっているのかもしれない。


 そうは思いたくない。しかし、いじめっ子にやり返せたときはうれしかった。もちろん殺すのはやりすぎだと理解している。それでも……。


 ――俺はお前が生み出したもう一人の『お前』だ。


『多重人格』という言葉をドラマで聞いたことがある。自分の感情を抑え込むような生き方をしていたせいで、あのような人格が生まれてしまったのかもしれない。

 全ては自分の性格によるもの。


 次は些細な感情でも乗っ取られてしまうかもしれない。

 福田は自分の弱さを悔しく思った。


「……」


 悪魔に身体を渡せば他人や身近な人を傷付けてしまうだろう。

 福田は台所へ向かった。


「こうすれば……」


 包丁を握った。

 刃を手首に当てる。


「……うぅ……」


 気づくと涙があふれ、包丁を手から落としてしまっていた。

 もちろん、死ぬのが怖いという気持ちはある。

 しかし、何よりも嫌だったのは、大切な、大好きな両親に悲しい想いをさせることだ。両親は貧しい想いをしながら、必死に福田を育ててくれた。その息子が自殺したとなれば……。


「なんで、なんで、僕はこうなんだ……」


 ふらふらと歩き自室に戻る。

 自室には大きな鏡があった。


「……もっと、くよくよしない自分になれたら」


 福田は鏡をみながらそうつぶやいた。

 全ては自分の性格のせいだ。あの悪魔を生み出すだけにとどまらず、負けてしまいそうな自分の性格。

 どうしようもない無力感が込み上げる。

 自分の性格がもっと積極的で、もっと明るくて、もっと……。

 そうすれば、悪魔に苦しめられることもない。悪魔に乗っ取られることもない。

 自分を変えたい。

 変わりたい(・・・・・)




「――あぁ、そうだ」




 福田は鏡をジッとみつめた。


「……そういう自分を作ろう」


 ――違う人格を。

 自分じゃない自分を。


「僕はくよくよしたことなんてない。僕はくよくよしたことなんてない。僕はくよくよしたことなんてない。僕はくよくよしたことなんてない。僕はくよくよしたことなんてない。僕はくよくよしたことなん――」




 その夜、夢にでてくる同じ顔の少年は1人増えていた。


 ――やぁ、初めまして、薫。僕のことは、そうだなぁ、『陽気』とでも呼んでくれ。


 福田は理解した。やはり、自分はこういう体質(・・)なのだと。別の『自分』を作れてしまう。


 ――……てめぇ、何やった?


 悪魔はその日、笑ってはいなかった。


「悪魔。僕は君に身体を渡すくらいなら、別の『自分』に渡してやるさ」


 今の福田の心の弱さでは、すぐに悪魔に乗っ取られてしまうだろう。

 故に福田よりも強い心を持った人格に、主導権を渡してしまえば良い。



 ――……1人増やしたくらいで、俺を止められると思ったら大間違いだ。



 11月10日。

 福田は『陽気』に身体を渡した。

 その間の福田は眠るような感覚だった。


 夜になり、福田は目を覚ます。いつもの夢の空間だ。すぐそこには『陽気』がいた。


「大丈夫だった?」


 ――あぁ、問題ない。普段通り生活できたと思うよ。薫も、『表』に出たくなったら言ってくれ。……それより、問題はあいつ(・・・)だ。


『陽気』の指さす先には悪魔がいた。

 悪魔は笑うどころか、血走った目でこちらをみている。


「ひっ……」


『陽気』は福田と違って、強い心を持っている。今日一日、乗っ取れる隙が全くなかったのだろう。


 ――殺してやる!


 悪魔へ向かって走ってきた。

『陽気』と福田は逃げた。

 未だ夢の中で悪魔に捕まったものはないものの、捕まればどうなるか予想は付く。

 多分、殺される(・・・・)




 この日から『自分』とのいたちごっこが始まった。

 悪魔じぶん 対 自分。


 残念なことに『陽気』は3日後には捕まり、殺され、人格は消えてしまった。

 多分夢の中でのパワーバランスは古くから存在している順になっている。福田、その次に悪魔、一番弱いのが新たに作った人格といった感じだ。


 その後も福田は人格を新たに作り続け、悪魔はそれを夢で殺し続けた。

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