表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国営会社『黒葬』~秘密結社は暗躍し、世界の闇を『処理』する~  作者: ゆにろく
Ⅱ 南極古代都市『アトランティス』編
53/171

第48話 とある死刑囚(1)

 福田 かおる

 多重人格者、死刑囚。


 中学生の頃、福田はとてもおとなしく気の弱い性格だった。

 福田はその性格と家が比較的貧しかったことからいじめの対象になっていた。しかし、彼は自分の家を憎んだことはない。母も父も好きだった。

 いじめられているのは自分の内気な性格が原因であると考え、暴力をふるわれようともしょうがないと、福田は諦めていた。


 だが、そんな彼にはいじめられる現状よりも深刻な悩みがあった。

 夢だ。

 毎日のように悪夢をみる。


 自分と同じ顔をした少年が現れ、福田を追っかけ回す。その顔はそっくりなのだが、笑い方が悪魔のようで不気味でしかたがなかった。

 朝が来て目が覚めるまで、その少年から逃げ続ける。


 福田は一度だけその少年に話しかけたことがある。


「なんで、ぼ、僕を追っかけ回すんだよ!」


 ――出せ!


「……え?」


 ――俺を出せ!


 会話にならなかったのは覚えていた。




 ある日、登校中に猫を見つけた。

 その猫は捨て猫だったのか人懐っこく福田が触っても嫌がる態度はみせなかった。昨夜も悪夢をみたので気分が落ち込んでいる福田だったが、その時だけはつらいコトを忘れることができた。


 その日の学校からの帰り道、まだ同じ場所に猫がいた。


 家に帰ってすぐに牛乳とキャットフードを買って、そこへ向かった。


「君は一人ぼっちなんだな」


 福田に友達は一人もいなかった。福田はその猫に「タマ」と名付け、毎日そこへ餌をあげにいく。そういう習慣ができた。


 学校ではいじめを受け、夜は悪夢をみる、そんな毎日を忘れることのできる唯一の時間だった。




 11月6日。


「――福田!」


 タマに餌をやっているとき、急に後ろから声を掛けられた。背筋が凍る。

 声には聞き覚えがあった。同じクラスのいじっめこである。


「なんだ? その猫」


 偶然だったのか、福田が放課後いつもどこかへ行っていることがばれたのか。


「あ、そ、その……」


「おーい! お前らも来いよー」


 いじめっ子は更に仲間を呼んだ。二人のいじめっ子がやってきた。

 自分は殴られたり、蹴られたりするのは良い。


 タマは大声と人に驚いたのか、福田の元から逃げ出した。


「あっ、タマ!」


 タマはいじめっ子の一人に捕まった。


「福田に似て、この猫もきったねぇな!」


 福田は焦った。

 このままだと自分のせいでタマが傷つけられてしまうかもしれない。


 ――なんで自分ばかりこんな目にあうのだろう。

 ――悪いのは全部、こいつらだ。


 考えれば考えるほど頭にきた。


 ―—こんな奴らいなくなってしまえばいいのに。




 福田は目を覚ました(・・・・・・)


「え」


 身体を起こすとそこは自室のベッドだった。


「……夢……?」


 時間を見ると、午前7時。何も変わらない朝。

 しかし、デジタル式の目覚まし時計が示すのは時間だけでない。


「11月7日……?」


 夢じゃない。記憶が飛んでいるのだ。

 11月6日、福田は確かにタマに餌をやり、いじめっ子に絡まれて。そこからが何ひとつ思い出せない。

 とりあえず、学校へ行くため支度をし、朝食をとった。


「……お母さん」


「なにー?」


「……昨日さ、僕いつ帰ってきた?」


「? いつって、5時頃でしょ?」


 猫に餌をやったのはちょうど4時半だったはずだ。絡まれた後、何もなく帰ったということか。


「にしても、昨日は心配したのよー」


「?」



「服が真っ赤に汚れてて、最初は血かと思ったわ」



 ……血?


「絵具だったんでしょ? 薫は怪我してなかったもんねぇ」


 美術の授業は昨日なかった。


「それに帰ってからは、やけに無口で心配しちゃった」


「……いってきます」


 昨日のことは一向に思い出せない。




 学校に着くと、いじめっ子の一人、田中が片手にギプスを付けていた。

 いつもは福田を見るやいなや、暴力を加えてくる奴だったが、今日は何もしてこないどころかこちらを見ようともしてこなかった。


「今日、山田君と佐藤君はお休みです」


 山田も佐藤も福田をいじめていた。


「なんでー?」


 クラスの一人が先生に質問を投げる。


「佐藤君は体調不良。山田君は下校中に転んで、頭をぶつけてしまったそうなんです。皆さんも気を付けてくださいね」


「だっせー」


 クラスで笑う者が出る中、片手にギプスを付けた田中だけは笑うどころか青ざめていた。

 今日休みの二人も、田中も昨日タマに餌をやっているときに現れたいじめっ子だ。田中に自分から話しかけるのは嫌だが、昨日の記憶がないのも怖い。

 彼らに聞けば何かを思いだすかもしれない。


「た、田中君」


「ヒィッ!」


 田中は福田に声を掛けられた瞬間、腕を顔の前にだし、自分を守るかのようなポーズをとった。


「も、もういじめない! 昨日のことも話さないっ!」


「え?」


「殺さないでくれ!」


「こ、殺す? ……僕が?」


「お、お前が言ったんだろ! 話したら、絶対殺すって!」


 田中は走り去ってしまった。


 ――昨日、無意識のうちに僕はいじめっ子をやっつけていた……ってこと?


 記憶は一向に思い出せないのは不快だが、いじめっ子を倒すことができたのは良いことだ。とりあえず、もういじめられなくて済むのだから。

 多分、カッとなって殴ってしまったんだろう。

「殺す」なんて田中達に口が裂けても言えないが、彼らがそう言ったというのだからそうなんだろう。

 福田は少し気が晴れた。

 よくよく考えれば昨日は悪夢もみていない。心がとても軽くなった気分だ。


 その夜、夢をみた。

 いつものように福田と同じ顔をした少年は悪魔のように笑っている。

 しかし、いつもと違う点はある。手にべっとりと血がついていた。そして、こちらを追いかけてこない。


 ――出れた。


「え?」


 クツクツと少年は笑っている。


「も、もしかして、君が佐藤君を……?」


 少年は笑ってばかりでその答えを返すことはなかった。



 11月8日。

 目が覚めた。

 夢は不気味であったものの、いつもよりマシであったし、何より記憶がない理由は判明した。夢で会う少年、彼は福田の味方だ。いじめっ子をやっつけてくれた。

 今日夢で会ったらはお礼を言おう。

 いつも逃げてばかりで悪かったと思う。


「今日はなんだか元気ね」


「うん!」


 いじめられることも、悪夢に悩まされることもない。

 平和な日常は彼の元に戻ってきた。




「皆さんにとても残念なお知らせがあります。佐藤君が亡くなりました」


「……え?」


 教室がざわつく。


「どうして……」


 福田は動揺した。


「……親から聞いたんだけどさ佐藤、頭ぶつけた日の夜、倒れて入院してたらしいぜ」


 前の席で話しているひそひそ話が福田の耳にも入った。


 ――佐藤君が死んだ……? それって、僕の……。


 田中は震えながら泣いていた。





 その日の授業は全く頭に入らなかった。


 ―—あ、あれは事故だ……。それに僕がやったわけじゃない……


 下校中、いつもの場所へ立ち寄った。タマがいるところだ。

 なぜか、昨日も、今日の登校時にもタマはいなかった。


 ガサガサと後ろで物音がした。


「あ、タマ! 無事だったんだ――」


「シャー!!」


 タマはこちらを威嚇していた。こんな声をあげているところを今まで見たことない。


「タ、タマ?」


 タマに近寄り手を――。


「痛っ!」


 タマは鋭い爪で福田をひっかいた。手から血が流れる。

 本気でタマは福田を攻撃したのだ。


「どうして……」


 ――タマは僕の友達だと思ってたのに。




「……あれ」


 一瞬、記憶がとんだ気がした。ひっかれた手が痛む。

 しかし、血は止まっていた。


「タマ……?」


 あたりを見渡すと、タマはぐったりと倒れていた。


「!」


 手に、猫の毛が多くついていた。


「うわああああああああああああ!」


 福田はその場から逃げ出した。


 ――違う!


 間違っていた。

 あいつは味方なんかじゃない。


 悪魔だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ