第37話 白金一味と魔術団(2)
「……役に立つのかい? あの殺人鬼たちは」
極夜の魔術団『暁の6』ハールトは尋ねた。
「さあ。使ってみないことにはわかりませんよ」
『黄昏の2』シャルハットはそう答えた。
『極夜の魔術団』はある儀式を行うために日本に来ている。その儀式を行うため魔術団きっての優秀な魔術師12人が集められた。その魔術師は二つの部隊にわかれている。『暁』部隊と『黄昏』部隊である。
『暁』部隊は儀式の準備など、実行を担当する。
『黄昏』部隊はその儀式の邪魔者を排除するため、いわば魔術を使う戦闘部隊である。
予定ではこの12名に加え、その補助などを行う魔術師100名ほどで儀式を進める予定だった。しかし、現在日本には『暁』『黄昏』部隊を含め合計20名、つまり手駒が想定の1割ほどしか確保できていないのだ。
そのうえ、儀式の準備も当初の予定よりかなり遅れている。
なぜか。
1つ目はNYでテロを実行した魔術師達が全員殺害、または拘束されていること。テロ実行グループには日本で補助する100名の中にいるはずだった魔術師が多くいた。
2つ目は極夜の魔術団を邪魔する組織『黒葬』の監視が異常なほど厳しいこと。極夜の魔術団が日本に来ていると知られて以来、まともに動くことができない。
3つ目は世界にある魔術団の支部が何者かにより壊滅させられていること。これは現在進行形であり、『黒葬』が絡んでいるとみて間違いない。これにより、人員増強も不可能となった。
儀式をするのに必要な『黄昏』部隊『暁』部隊は欠けていない以上、儀式自体を行うことはできる。致命的なダメ―ジでないとはいえ、かなり想定を狂わされていた。
「……そういえば、彼らが『黒葬』を知っていたのは以外でしたね」
殺人鬼三人を引き込んだのはこちらの手駒が少なすぎたためだ。密告の心配がなく、殺しに躊躇のないという条件に彼らはピッタリである。
その彼らが『黒葬』を知っていたのは偶然だった。
曰く、『黒葬』に知人が殺されたとのことだが、あまり悲しそうでないあたり頭のねじが飛んでいるのだろう。
「だね。ま、名前しか知らなかった訳だしあんま進展はないけど」
「そうでもないですよ。いつまでも『黒スーツの組織』なんて言い方じゃ疲れます」
「それもそっか」
「ところで……」
現在、『極夜の魔術団』は一つの作戦を実行しようとしている。
「『黒葬』本社強襲作戦の準備はできていますか?」
「当たり前だよ。いつでも乗り込める。でも時期は見なきゃね」
「もちろん」
「『暁の1』の占いだと三日後が良いとでてる」
『暁の1』は微量な魔力で占いを行うことができる。その分、精度が悪くはなるが、酷く外れることはない。ちなみに、この占いによって『黒葬』を待ち伏せし、忍者の男を殺害することに成功した。
「了解しました。監視は続けてくださいね」
「あぁ」
「では一度失礼します。作戦の件は他の隊員にも伝えておきます」
「よろしく」
シャルハットはそう言い部屋から出ていった。
一人取り残されたハールトは伸びをした。
「今頃何してるかなぁ、あの嬢ちゃん」
――彼女は気づいていないだろう。
ハールトが使える魔術に『砕け散る器』というものがある。
魔術とは、世界のあらゆる自然から放たれるエネルギーを体内に『魔力』として蓄え、操る技だ。
魔術師はそのエネルギーを体内に貯める受け皿、『器』を作る修行を何年もかけて行う。『器』に貯まったエネルギーは体内で魔力へ変わる。あとは『詠唱』によって魔力を他のエネルギーへと変換する、それが魔術なのだ。
その『器』を他人に与えるのがハールトの『砕け散る器』である。これを使い三人の殺人鬼、そして、少女へと分配した。
受け取った4人は詠唱を用いないため、魔術師のように色々なことをできるわけではないが、魔力を飛ばしたりという極シンプルなことはできる。
殺人鬼三人は現在、魔力を外部に漏らさない結界を張った部屋に住まわせ、盗聴器である程度彼らの行動を把握している。
一方、少女は完全に泳がしていた。
それはなぜか。
魔力を変換したり、体内から魔力放出した時に『黒葬』は飛んでくる。
つまり、現在科学で解明できない未知のエネルギーをセンサーで探しているわけだ。日本では生まれつき超能力を持った人間――魔術師は『魔術内包者』と呼ぶ――が誕生することがある。その人間を『黒葬』は探しているのではないか、と『極夜の魔術団』は推測した。
実際、NYテロを行った魔術師が一人残らず捕まった以上、『黒葬』に『魔術内包者』が存在しないということ考えられない。大規模な爆撃ならともかく、現代兵器を持った治安維持組織に魔術師が殲滅されることはまずありえないからだ。
『黒葬』が『魔術内包者』を利用、または保護する組織である可能性は非常に高い。『黒葬』は『砕け散る器』で『器』を与えた少女を、『魔術内包者』だと誤認するだろう。
少女には魔術、魔力といった言葉は一つ足りとも聞かせていない。
重ねて、彼女には「能力をもらった」ことは言うなと忠告した。彼女は強い復讐心を持っている。それに手を貸したのだ。彼女が相当な間抜けであったり、頭がイカレていなければ、そのことは『黒葬』には伝わらない。
仮に伝わったとしても、『極夜の魔術団』とは結びつかない。
『魔術内包者』だと考え、『黒葬』が保護した少女。
それは極夜の魔術団の垂らした釣糸に他ならない。
『砕け散る器』で『器』を与えた者の居場所は正確にわかる。
少女は知らず知らずのうちに『黒葬』本社の場所を突き止めてくれたというわけだ。まあ、復讐できたかは知らないが、ギブ&テイクというやつだ。
もちろん、少女のいる場所が『黒葬』の本社でない可能性もある。しかし、『黒葬』と関りがあるのは間違いない。本社でないならそこで情報を集めれば良いだけのこと。
「『黒葬』を潰すのも時間の問題かなぁ」
奇襲作戦まであと三日。
Q、魔力を抑えなくても、殺人鬼組の部屋に貼られている結界の中で占いとかすれば良いんじゃない?
A、殺人鬼組のいる部屋に貼られた結界や「エクリプス」の中では、外部へ干渉する魔術の行使はできません。儀式も同様。占いは外界と深くつながるので結界内ではできず、しぶしぶ弱魔力で占いをやってます。
「エクリプス」と違い殺人鬼組の部屋に貼られた結界では電子機器使用OKです(盗聴器の例)




