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第29話 ドロップアウトガール(1)

 月野春奈、16歳。


「――春奈ァ!」


「……っ!」


 今は(・・)叔父の家で暮らしている。


「テメェ、しっかり掃除しとけっつったろ!!!」


 頬を腫らし、自室へ戻る。


「……くそったれ」


 何もかもアイツのせいだ。


「みんな死ねば良い」


 なぜ私ばかりこんな目に合うのか、そう春奈は思った。


「……お母さん、お父さん」


 春奈の両親は彼女を残し、先月亡くなったばかりだった。

 唐突な別れ。

 その死因が事故や病気だったのなら私はまだ楽だったのかもしれない、そう思う。

 両親は殺されたのだ。


 それから春奈の日常は一変した。

 家ではストレスのはけ口にしているのか、暴力をふるう叔父。

 家の外、つまり高校生活はどうか。クラスメイトや友人の見る目が明らかに変わった。皆に悪意はない。ただ、春奈を見る目、接する態度に同情が混じっていた。それが酷く不快だったのだ。

 まるで自分だけ仲間外れにされたような。


 どこにも春奈の居場所はなかった。


 唐突に日常を奪った男は死刑が決まったという。


「……だからなんだよ」


 なぜ、そいつは今ものうのうと生きているのだろう。死刑囚は死刑が執行されるまでにかなりの期間があるのだという。それがどうしても許せない。


 今すぐ殺せ。

 明日にでも殺せ。


 なぜ両親は唐突に殺されたのに犯人は唐突に殺されないのか。

 春奈のぶつけたい想いと、ぶつけたい相手が明確にいるのにその手は届かない。

 叔父にされたことが霞むほどに、犯人が憎い。

 この気持ちはあと何年続くのだろう。あと何年苦しい思いをするのだろう。いつ救われるのだろう。


 ◆


 高校からの帰り道。


「――お嬢さん、ちょっといいかな?」


 二人の男が春奈に話しかけてきた。


「……はい?」


 面識はない。絶対に知らない人間なのは確実だ。

 なぜなら、どうみても外人だからである。春奈の人間関係はグローバルなものではなかった。


「今暇かな?」


「……急いでるんで」


 ……ナンパだろうか。

 春奈は特別、顔が良いわけでも発育が良いわけでもない。怪しい勧誘に決まっている。仮にもし、良かったとしても学生服を着たどう見ても子供の春奈にナンパする大人がロクな奴であるわけがない。


「――殺したいやつがいるんじゃない?」


 その言葉に足を止めてしまった。


「……何それ」


 男のうちの一人が春奈に近づく。危険を感じ身を引こうとした。


「両手の間を見とけ」


 そう言った直後、男の両手の間からボンと何かがはじける音がした。よくみると何かが浮いている。


「火の玉……?」


「僕達は超能力者なんだ。君に力を貸してあげようか?」


「……火の玉で?」


「まさか! 少々力を使うと面倒でね、あまり街中で見せたくないんだ」


 男は何かをぶつぶつと唱え、


「『皆既食エクリプス』起動」


 次の瞬間、二人いた男のうち一人が消えた。


「!?」


「言ったでしょ? 超能力者だって」


 春奈は突然の出来事に慌てた。

 男は手のひらを振るった。強い風が顔の横を吹き抜けていった。

 男は「後ろをみてみろ」と言うように首を軽く動かした。


「僕は君にこういう超能力を授けることができる」


 後ろのブロック塀に大きな穴が開いていた。


「……これを私ができるようになるの?」


「あぁ。君には素質があるんだ」


 こんな規格外の力が使えれば……。


「どうする?」


 男は手を差し伸べた。


「……やる」


 春奈は手を取った。


「そうこなくちゃ」


「?!」


 触れた手から何か、言葉では表せないような力を感じる。


「手を振ってごらん。力は君の意志に答えるはずだよ」


 力の使い方はなんとなく理解できていた。

 春奈はブロック塀に向かい手を振るう。すると、何か手のひらから飛ぶような感覚があった。目に見えぬ謎の飛翔物はブロックに当たり、いともたやすくそれを破壊した。


「……凄い」


「だろう?」


「……これ、あんたに何のメリットがあるの?」


 こんな超常的な力を誰ともしれない女子高生に渡すなんて正直どうかしている。そして、この男の口ぶりでは春奈が人を殺したいことを知っている。


「人助けだよ」


 何か裏があるのかもしれない。そうは思った。ただ、


「ありがとう」


 今はそんなことどうだって良い。

 少なくとも、この男に春奈は助けられた。現状を打開する力をくれたのだから。


「あぁ、言い忘れてた。約束が二つある」


「約束?」


「一つ目は、このこと、そして、僕たちの事を誰にも言わないこと。二つ目は、この能力をむやみやたら使わないこと」


「むやみやたら?」


「そう。今、僕達のいる空間なら問題ない。でも、この空間を出たら使えるのは本当に使いたいときにすべきだ」


「なんで?」


「使えばわかる。鼻の良いやつ(・・・・・・)がいるのさ」


「?」


「ま、練習とかしないでぶっつけ本番で使うことをお勧めするよ」


「わかった」


「じゃ、この空間を消そう。うまく使えることを願ってる」


 そういうと男は何かをつぶやき、消えたもう一人の男が出現した。それだけでなく、人の声や車が走る音も聞こえてくる。さっきまで私はどこにいたんだろう、と春奈は思った。


「検討を祈る」


 今出現したばかりの男が肩にポンと手を置き、二人は春奈の後ろを歩いて行った。


「……ふぅ」


 彼女は決意した。

 復讐を敢行することを。

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