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第28話 すべては闇の中に

 左空と別れて、車へ戻った燈太は、車内で左空を待っていた。

 車を運転してもらった運転手は車内にいないようだった。コンビニへ行っているのか、お手洗いだろう。

 籠がガシャガシャと音を立てている。中に何もいないように見えるが、そこにはツチノコがいるのだ。


「ん?」


 スマホが鳴っていることに気が付いた。

 『黒葬』指令部からである。


「はい、燈太です」


『こちら指令部、オペレーターの葛城よ』


「葛城さん? どうかしたんですか?」


『今、左空君は近くにいる?』


「左空さん? いないですけど……。どうかしたんですか?」


『左空君の位置情報が掴めないんだけれど』


「え」


 左空は何か気になる事があると言っていた。


『いや、たまにあるのよ? 端末が壊れたとか。紅蓮はしょっちゅう。……でも、左空君はそんな感じじゃないでしょ?』


「えと、何か気になることがあると言ってさっき別れたんですけ――」


 窓に何かが激しくぶつかる音がした。


『燈太君? どうかした?』


 ドアを開けると、手裏剣が落ちていた。


「……手裏剣」


『え?』


「……左空さんの手裏剣が……。手裏剣が飛んできました。血が付いてます……!」


 その手裏剣は赤く濡れていた。

 まだ乾いていない。まだ新しい。


「……ッ、左空さんに何かあったのかもしれないです!」


『! わかったわ! ちょっと待っててね……!』


 ◆


「車が止めてあったのはこっちでしたかね」


 シャルハット達、「極夜の魔術団」はある目的を達成するために現在動いている。テロを起こしたのも、日本へ来たのもそのためだ。

 しかし、それを邪魔するものがいる。黒のスーツを着た日本人たちである。

 テロで収穫はあったもののこちらの戦力を大きく失った。日本で儀式の準備を進めているが、一定量を超える魔力を使うとすっとんでくる――『皆既食エクリプス』の結界内では問題ない――のが問題だ。

 加えて、日本の外にある支部と次々に連絡が取れなくなっているのもこの組織のせいだろう。


 『極夜の魔術団』は、こう結論を出した。

 この組織を早急に潰さねば、儀式は成功しない、と。


 黒スーツの組織は、魔力を感知する何かを所持している。しかし、それは完全ではないようだ。少ない魔力しか使用いない魔術であれば、感知されるまでには至らないらしい。

 その気づかれないようなごく微量の魔力を用い、探索魔術を行った。

 占いに近いものなので、精度はあまりよくない。時間をかけ、いくつかヤマを張っていたところ、遂に接触が成功したのだった。


 車を運転していた男と、忍者、少年。

 三名が今回の殺害対象だ。

 最初に車へ向かい、運転手を殺した。口は堅く何も話さなかった。

 次に忍者である左空。こちらも先ほど殺した。

 左空を拷問する手もあったが、あまり長居はすべきではない。失踪したことが判明し、誰かが来るのは時間の問題だろう。

 今の時点での全面戦争は望まない。相手が未知数であるゆえだ。

 左空に対して一芝居打ったのは、こちらに対して勝ち筋を見せねば、殺しきれなかったからだ。左空の体術は優秀だった。もし、あちらが逃げることのみに徹していればシャルハットにはどうしようもなかった。


 そう、『皆既食エクリプス』には時間制限があるためだ。


 左空にシャルハットを倒さなくてはいけないと、思い込ませる必要があった。そのための芝居だ。嘘で騙すのではなく、多くの事実で隠す。

 事実を言うリスクに関しては、確実に殺せば問題なし。


 残りは少年のみ。

 『皆既食エクリプス』を発動するには対象と自分が6枚の札に囲まれた空間にいる必要がある。そして、その中で対象を認識し、対象から認識されなくてはならない。

 前者の条件は森の至るところに札を貼っているため問題はない。もちろん、発動に使われる6枚の札以外はすべて見えないように細工をしている。

 よって、後者の条件を満たすため、少年の元へ行き、こちらを認識させることができれば、『皆既食エクリプス』を発動することができる。

 少年は車の場所へ戻っているはずだ。

 シャルハットは進む。


「……っ!」


 車が少し見えてきた。

 少年は車から出ている。

 そして、横には銀髪の男が立っていた。シャルハットは舌打ちをした。


「……仕方ありませんね」


 この対応の速さは妙だ。もとから近くへいたのか。それとも……。

 ともかく、応援が来ている以上、無理に深追いすることはない。今こちらの存在を気取られるべきではない。ここは退く。


 あと、気になることが一つ。

 車を見た時、ドア近くに手裏剣が落ちていた。

 結界が完璧であればの外へ物がでることはない。つまり、結界が壊れていた、もしくは壊された可能性がある。

 左空を閉じ込めた6枚の札のどれかに不備があったのか、札が外されたのか。


「厄介ですね、全く」


 指をパチンと鳴らした。

 この合図で、森中の札はすべて消え失せる。証拠は残さない。


 ◆


「状況を説明してもらえマス?」


 葛城が生物課長である、幽嶋 麗へ連絡を取った。幽嶋は『超現象保持者ホルダー』である。能力は瞬間移動。


「車へ戻る途中に何か気になることがあると言って……。そこから見てないです」


「……車の運転手はどこです?」


「え……。車に戻ったときからみてないですけど……」


「……」


「え……、もしかして」


「偶然とは考えがたいデス。血濡れの手裏剣も鑑みると、何者かに襲われた可能性が高い」


 幽嶋の表情は険しい。


「ここを一刻も早く離れまショウ」


「ま、まだ左空さんが! 危ない状況かもしれないじゃないですか!」


「ええ。燈太クンを今放置し、この付近を能力で見て回ることはできマス。そうすれば、左空クンを見つけることができるかもしれまセン」


「だったら!」


「左空クンも運転手も一人の時狙われているんデス。もし、ここで君を一人にすればほぼ確実に君は行方不明になる」


「……ッ」


「それにデスね。左空クンは私には及ばずとも、機動力は『黒葬《うち》』の中でもトップクラスなんデスよ」


 無力なのが悔しかった。

 燈太にもっと力があれば、幽嶋は燈太を置いて、左空を探しに行くことができる。


「左空クンを信じまショウ」


「……はい」


 その後、幽嶋と共に山を下りた。

 すぐに、『黒葬』は付近の警察を使い、左空、ドライバーの行方を捜索。

 しかし、所持品、血痕、争った形跡など何の手がかりも見つからなかった。

 燈太の拾った謎の紙もポケットから消えていた。

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