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第22話 社長と『導き』

 「幽霊トンネル」は閉鎖され、その後も燈太は現象課で静馬とともに何件か調査を行った。

 噂が立ちすぎている心霊スポットやミステリーサークルなどである。

 とはいっても、「幽霊トンネル」のように初めから『UE』が検出されていた現象はほとんどなく、特に大きな事件も起こらなかった。

 一つ起こったことと言えば、静馬が坂巻呼びから燈太呼びに変わったことくらいだろう。


 同行者がいつも静馬なのは、現象課は現地調査よりも研究がメインであるためだ。静馬は調査の案件がなければ研究を行う。しかし、調査の依頼が来れば、率先して調査に出向くとのことだ。

 他の課員は研究へ情熱を注ぐ人間ばかりで調査へはあまり行きたがらないらしい。

 面倒事を静馬が請け負っているようにみえるが、調査へ行くのは静馬の意思だ。

 曰く、「見て、触れてわかることは多い」とのことだ。


 ちなみに、静馬が研究に専念する日の燈太は「邪魔になる」と追い出され、対人課のオフィスを訪れていた。

 それが今日であり、燈太は対人課オフィスにいた。


「──静馬に何かされたら俺に言えよ。現象課に殴り込んでボコボコにしてやるから」


「……何もされないと思いますけど」


「燈太クン。紅蓮先輩は大義名分を得て静馬先輩を殴りたいだけッスから、気にしなくて良いッスよー」


「ちげぇよ。後輩をだな、石頭白スーツから護ってやろうとしてんだよ」


「なぁんで、そんな仲悪いんスかねぇ」


「あの、糞上からな態度がムカつくんだよ。燈太。お前、静馬からなんて呼ばれてる?」


「『貴様』ですね」


「な?」


「……まぁ実際『貴様』はどうかと思うッスけ──」


『――執行部各員に伝達』


「?!」


 社内にアナウンスが鳴り響いた。

 燈太は唐突かつ、初めての経験に慌てた。


社長・・より、「お導き」を承りました。手の空いている執行部部員は指令本部室まで来るように。繰り返します。執行部各員は――』


 『黒葬』は会社の体をしている。社長という存在がいるのは不思議ではない。燈太はその存在を完全に失念していた。名も顔も知らない。


「『お導き』?」


「あー、燈太は初めてか。まぁ、あっちで説明するわ」


「とりあえず行くッスよ。何スかね、今日のは」


 この日は鑑心、調はオフィスに不在だったため、空、紅蓮と供に指令本部室へ向かう。


 『黒葬』の社長を務める人間の実態も気になるが、『お導き』という言葉の意図も気になる。


 ◆


「揃ったわね」


 指令本部室には葛城、その他オペレーターと思わしき女性が並んでいた。

 その中に燈太よりも歳下であろう少女がいた。オフィスでよく空の口にするカレンだろうか。


「チッ」


 静馬もいた。


「あぁ?」


 紅蓮が静馬を睨み付ける。

 思ったよりも仲が悪い。


「もう! 二人とも! あんたらは何しにきたのよ!!」


 葛城が割って入った。


「けっ」「ふんっ」


「はぁ……。

 ──あっ、生物課は聞こえてる?」


『あっ、はい! 聞こえてますー』


 設置されたモニターから女性の声が聞こえた。理由はわからないが、ここに来れないためテレビ電話を行っているようだ。


「招集した理由はわかっている通り、社長からの『お導き』を伝えるためよ。燈太君もいるし、一応説明するわね」


 葛城は説明を始めた。


 『黒葬』は当時30歳の現社長である星鳥院せいちょういん 闇十郎あんじゅうろうによって設立された。『黒葬』設立は1946年。社長はなんと現在104歳だという。

 その年齢から、普段本部にはいないとのこと。


 社長は『超現象保持者ホルダー』である。

 能力を分かりやすく言えば、未来予知。これを皆『お導き』と呼ぶ。というのも、これは正確な未来の提示ではなく、「こうすると良い未来が待つ」という助言に近い形だからだそうだ。


「──といった感じね。まあ、ピンと来てなくても大丈夫。今から具体例を出すわけだから」


「で、めぐ姉。今日のはどんなやつなんスか?」


 空が聞いた後、葛城の表情が曇った。

 嫌な予感がする。


「葛城。はやく言え。俺も暇じゃないんだ」


 静馬が急かす。


「……そうね──」


 葛城は『お導き』を読み上げた。


『星の導きは指し示す。


 一つ。

 最南の地にて、失われた世界が目を覚ます。そこで得るものは今後の組織をより強靭にするであろう。しかし、油断してはならない。凶刃はいともたやすく臓腑を切り裂く。


 二つ。

 黒の組織は白の名を持つ集団と大きな衝突を起こすであろう。ここで白旗を降れば、組織はおろか秩序は崩壊す。

 命運分かつは、新たな『星』である。しかと心得よ。一度歪んだ星座らを直す手段など時を戻す他ないのだから』


「──以上よ」


「……物騒だな」


「え、二つとも不穏じゃないッスか?」


「……」


 もちろん、内容を完全に理解はできているわけではない。しかし、紅蓮の言うとおり前後半どちらも物騒である。

 前半部では油断すれば腹を切られると言っているし、後半では秩序が崩れるという。


「めぐ姉、解説頼むっスよ」


「ええ。まず、一つ目の方。この最南が、日本の最南なのか、それとももっと大きな範囲でなのかがわからない以上あまり大きく動くことはできないわね。

 でも、もしその『失われた世界』が現れたならば……」


「──『黒葬』はそこへ調査へいかねばならない」


 静馬がそう言葉をつないだ。


「そう。静馬の言うの通りね。少し気に留めておいて欲しい。


 問題は二つ目よ……。『黒葬』が何か大きな勢力と衝突すると言っているわ……。もし『白』を名乗る人間が現れたなら、警戒は怠らず、すぐに指令部へ連絡すること。特に対人課ね」


「了解ッス」「おう」


「そして、その衝突で負けることになれば、秩序が乱れると言っている以上、さの相手は強大である可能性が高い」


「対人課としちゃあ、『極夜の魔術団』の動きが怪しいが特に『白』とは言ってねぇしなぁ……」


「何か別の組織なんスかね?」


「もう動いているのか、それとも今後動き始めるのか……。正直判断しかねるわ。私たち指令部も全力で調査はするけれど……」


「おい葛城」


 静馬が不意に口を開いた。


「二つ目の後半部、新たな『星』という部分だが」


 星とは何を示すのだろうか。命運を分かつと言っていた。


「こいつのことじゃないのか?」


 静馬はこちらを指差す。


「えっ」


「燈太が?」「マジッスか?」


 紅蓮を見てから静馬は一度ため息を付いた。


「過去の『お導き』で何度か『星』という言葉で人を表すときあっただろう?」


「ええ。……可能性は十分にあるわ」


 葛城は燈太の方を向き、そう言い切った。


「俺が、命運を分かつ……?」


「あくまでそうかもしれないというだけよ。変にプレッシャーを感じるほどのことではないわ。今から何をしろって事でもないし」


「まぁ、結局あの莫大な『UE』の原因もわかってねぇしな」


 そう。燈太から検出された『UE』の原因は不明だ。


「一応、これで話は終わりよ。今後何か動きがあればまた、召集するわ。解散。

 ──あ、燈太君は残って」


「えっ、はい」


 燈太を残し、紅蓮達は部屋を後にした。


「……さっきの『お導き』の件ですか?」


「あー、それとは別件よ」


「別件?」


「これ」


 葛城は黒いケースを燈太へ渡した。


「何ですか? これ」


「みた方が早いわ。開けてみて」


「?」


 近くのテーブルに置き、ケースを開ける。

 中には。


「あぁ。なるほど……」


 ハンドガンが一丁入っていた。

 燈太が実銃を見てさほど驚かなかったのにはわけがある。


 対人課で研修しているときのこと。

 『黒葬』の仕事にはある程度の危険が伴う。自衛目的の拳銃は所持はすべきだろうと調達に勧められた。

 とはいえ流石にド素人に拳銃は持たせるのは危険すぎる。

 そこで、まず鑑心指導の元、実銃の取り扱いを習い、その後も暇を見つけては、本社にある射撃場で練習をしていた。

 遂に、拳銃を所持する許可が降りたのだろう。


「でも勘違いしちゃダメよ。もし危険な目にあったとしたら、まず逃げること。それが最優先。

 最後の手段として銃よ。良い?」


「はい」


「よろしい。そしてもう一件。

 明日から、生物課で研修してもらうわ」


 現象課に来てからそろそろ1ヶ月になる。


「えーと、生物課ってどこで活動してるんですか?

 部屋がなかったような……」


 受付の近くに、フロアマップがあるのだが、生物課の文字はなかった。

 前々から気にはなっていたのだが、どこへいるのだろう。

 今日の召集もモニター越しであり、ここへ来れていなかった。


「言ってなかったわね、生物課はここじゃなくて、別館で活動、及び研究を行っているわ。明日はとりあえず受付に来てちょうだい。送っていってあげるから」


「わかりました」


「……『お導き』の『星』がもし燈太君なら、君の『UE』の解明が重要になるわ」


 そう、燈太が黒葬で働く一つの理由は『UE』の原因究明である。

 自分と同質の『UE』に出会えば『共鳴』が起こる。そうすれば、自分の『UE』の正体を突き止める鍵になる。

 もし、その答えが『黒葬』の命運を分かつならば、敵対する組織が現れるより早くそれを把握すべきだろう。


「頑張ります」


「無理はしないでね」


「はい!」


 次は生物課。

 燈太は新たな未知へ踏み込んでいく。

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