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第149話 最強と最速

~前回までのあらすじ~

対人課長 玄間からタイムリープと『暗幕』を使うことでなんとか詰みセーブを振り切った燈太。

しかし、『暗幕』をこじ開け再び燈太の前に玄間は立ちふさがる。

絶体絶命のピンチに、静馬やカレンの強力を得て、空が駆け付けるのであった。

「空……」


 玄間は空を睨みつけ、舌打ちを溢した。


「俺は、こう言ったよな。『何もするな』と」


「言ったスね。だからうちは何も言わなかった。うんともすんとも」


「命令に返答は必要ない。すべてがyesだからだ」


「じゃあ、はっきり叩きつけてやるっスよ。その命令には従えない。うちは燈太君を守る。殺させない」


 迸るプレッシャーを、全身から受け止め、空は立ち向かう。

 玄間は右足を引き、体を半身にした。それすなわち――


「――俺に勝てると思うか?」


 黒葬で最も強力な男、玄間天海の臨戦態勢。


「……」


 不可能だ。

 空では玄間に勝てない。誰であっても太刀打ちできないだろう。

 しかし、ただ一点。


 狐崎空にのみ許された、玄間の上を行く特権。

 空はどこの誰よりも、圧倒的に、(はや)い。


「――うちに追いつけるとでも?」


 今回の目的が逃走である以上、空は対人課の最終兵器に並びたてる。

 玄間と空、距離にして5m弱。

 

 爆ぜた。


 玄間の尋常ならざる踏み込みによる加速。空は地面を蹴り、『2速』にギアを入れる。それは時速300km。この狭い空間で活動する最適な速度と考えた。

 空自身、そして抱えた燈太をも加速から守るバリアが自動発生する。それにより、時速300kmの世界が展開され、全ての動きがスローモーションへ見え始めるはずだった。


 ――『2速』でこれッスか……!


 玄間が急速に迫ってくる。現在、『UE』によって空の動体視力は時速300kmにチューニングされている。つまり、この男の動きは時速300kmを超えているということだ。

 位置関係として、後方に出口となるエレベーターがある。しかし、今は(・・)出口へ向かう時ではない。

 右斜め前方へ駆けた。

 空の能力は直線でしか加速し動くことができない。玄間が、今の空と同等の速さならば、動きに制限のかからない玄間が圧倒的に有利である。

 当然、間合いが急激に詰まる。玄間は、手を伸ばし、空を掴みにかかった。時速300kmを超える速度を出し、それの動きに対応できる動体視力を肉体強化の『UE』のみで賄う。正真正銘の化け物である。


 ――『3速』……ッ!


 指先が触れる瞬間、地面を蹴り次は左方向へ、再度直線加速する。速度は時速600km。

 玄間の掴みを振り切った。

 膝を曲げ、体を沈める形で減速しつつ、素早く玄間の方へ身体を向ける。

 玄間と、空の位置関係が入れ替わった形だ。


「……動きとしては悪くない。だが、全速力で俺にぶつかってきた方がよかったんじゃないのか?」


「その手には乗らねぇッスよ。課長をぶっ飛ばす自信はあるッスけど、まず間違いなく燈太君も持ってかれる」


「それはどちらにせよだ。ほら」


 玄間は、顎をしゃくった。気は抜かないが、抱えた燈太に目をやる。


「なっ……」


 燈太は片腕から血を流していた。燈太には指一本たりとも触れさせなかった。


 ――飛び道具……!


 玄間は現在スーツがボロボロになっているため、確証を得ることはできないが、恐らくボタンなどを飛ばしたのだろう。掴みを避けた時、空の注意は、玄間の左手に向いていた。その時の右手が怪しい。

 無論、加速中は空だけでなく燈太に対してもバリアが有効だ。しかし、このバリアはあくまで加速した世界の中で自身を守るものでしかない。減速にともない消失する。使い放題のバリア能力では断じてないのだ。

 察するに燈太の腕に直撃したのは、玄間を避けたあと振り返るまでに背中を向けていた減速中の間隙。針の穴を通すようなタイミングだ。


「燈太君――」


「大丈夫です。空さん。俺は気にしなくて良いです……っ」


 空の頭にはひとつの疑問が湧いた。『時間跳躍(タイムリープ)』してしまえば良いのはないかと。怪我をなかったことにできるからだ。


「燈太君、今の内に時を戻して良いッスよ」


「――リープはまだ使いません」


「え?」


「……ダメです。空さん。……あ、まだ脳には余裕はあります。リープ自体はできますよ。でもダメなんですよ。あの人(・・・)相手じゃ」


 そこで、燈太の言わんとすることを理解する。

 人読み。

 対人課長という怪物が持つ、修羅場の中で培った洞察力。もし、燈太がリープする形で先に起こることを知ってしまえば、玄間はそれを利用する。

 玄間は目が良い。そりゃもう人間をやめてるほどに。空が加速する直前、それを既に把握している燈太はきっと(りき)む。それは玄間にとってかなり有益な情報になってしまう。

 

 ――情報は一つたりとも渡せないってことッスか。


 その性格から考えて、致命傷を負うまで、燈太は回帰をしないだろう。

 空に火が付く。


「空。お前がウロチョロするのは勝手だが、俺は彼を削り殺すまでだ」


「……課長。見え張ってもダメっすよ」


 空はあることに気づいている。


「さっきの飛び道具、そりゃ、あの刹那の中で当てるのは至難ッスよ。腕に当てるのでもすげぇッス。……ただ、致命傷じゃない。至難をいともたやすくやってのけるのが、課長じゃないッスか」


「お前は何が言いたい」

 

 カレンから情報を得ている。燈太がなんらかの方法で、『暗幕』を起動させたのだと。そして、玄間はそれを破ったのだ。

 力づくでねじ伏せた。ボロボロになっているのは服だけではない。


 ――玄間天海は、思ったより消耗している。


「削り切るのはこっちのセリフだ……って言いてぇんスよ」


 玄間は薄く笑った。


「……まぁ、お前の言う通り万全じゃないのは確かだ」


 玄間の内包した破壊力の開放を、空は全身で感じ取る。いつでも加速できるよう、体を低く構えた。


「だが、変わるのは任務遂行時間だ。結果は動かん」


 前方、つまり階段の下方に位置する玄間は、つま先でステップを蹴り上げた。コンクリートが爆ぜて、空の方へと飛来する。


 ――『2速』!


 いったん、バックステップで、距離を取る。破片に問題はない。バリアで防げる。問題は視界。

 砂埃や、大きな石礫で玄間が消えた。


 ――課長は突っ込んでくる?! 飛び込むほうが罠ッスか!? 

 

 この迷い自体が既に、思う壺な気もする。

 どうする。

本当に、大変お待たせしました。

プライベートがようやく一段落したので週1~2ペースで連載を再開いたします。

お待ちくださった読者の方々、本当にありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願い致します。

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