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第148話 頼れるアイツ

お待たせしました……!

 突然、対人課の狐崎空から電話が掛かってきた。

 そして、彼女は一方的に状況をまくしたて、「あとはよろしくッス!」と気が狂うほど雑な言葉を残し電話を切った。


「……」


 現象課、佐渡静馬。

 彼は情報の海で溺れていた。


「坂巻燈太の能力……、玄間対人課長……、助け舟……、指令部……、時間の『UE』……、たいむりーぷ……」


 うわごとのように呟く。現象課きっての天才は呆けていた。

 手元にあった書きかけの重要書類を無意識にぐしゃぐしゃにしていることに気づき、そのことをきっかけに、ようやく感情が戻った。

 これは怒りだ。

 静馬は、重要書類をゴミ箱に叩きつける。

 何もかもが腹立たしい。


「クソくらえだ!!!!!!」


 オフィスに響き渡る、静馬の怒声。

 現象課オフィスの人間の3割は、突然の大声に肩をびくつかせ、残りはよくある「現象」だと言わんばかりに無反応で作業を続けた。

 静馬の怒りは留まるところ知らない。


 ――全てだ。


 『超現象保持者(ホルダー)』という意味不明な生き物も、『時間跳躍タイムリープ』という規格外の力を持った坂巻燈太とかいうアホも、そんな情報をいきなり投げつけなんらかの方法で助けろとだけ残した狐崎空というイカレ女も。


 そして、坂巻を『処理』することを決めた黒葬指令部についても例外ではない。


「……腹立たしい……」


 静馬は大きく鼻を鳴らし、足を机にガンと乗せる。


 ――坂巻燈太の『処理』など認めてなるものか。


 間違いなく時を操る『UE』は危険。しかし、それを闇に葬ってどうする。

 もし、時を操る『UE』を持つ『超現象保持者(ホルダー)』が新たに現れ、それが燈太とは違い悪意に満ちた人間だったなら。

 今必要なのは排除ではなく追究だ。

 その神秘を突き詰めて、暴くことが重要なのだ。葬るのは『表』からだけで良い。人の手に余るからと言って、完全なる放棄をするのは静馬が許さない。社風に歯向かい身に纏っている真っ白なスーツに誓って許すわけにはいかない。

 手に余るのならば、更に手を広げる。それが研究者だ。


 ――とはいえ、どうすべきか。


 空はざっくりとした情報を開示したものの燈太を助ける方法や、空に手を貸す方法を指し示さなかった。つまり、こちらで考えろということだ。傲慢極まりない。


「……」


 燈太は、玄間に狙われている。燈太の居場所は不明。空の謀反は玄間にバレていない。

 そうなると、静馬が正面切って玄間や燈太へのコンタクトを取りに行くのは悪手。そのアクションが空への疑いへ繋がるからだ。燈太を救い出せるのはフィジカルが必要不可欠になる。それは当然玄間という規格外のモンスターがいるからだ。

 空が助けにくるかもしれないという情報を与えることは避けねばなるまい。


 ――何かできないか。


 状況で考える。空は、燈太と玄間が接触した後に燈太を助けると言っていた。

 もし、燈太と玄間が遭遇する状況を頭に思い浮かべる。


「……ここで詰まないか……?」


 燈太は間違いなく秒で殺害される。


 ――いや……、燈太には武器(タイムリープ)がある。


 策を考える時間や、それを試す命がある。静馬としてはこれ以上ないほど羨ましい。

 燈太はバカではない。その場のトラブルに適応し冷静に対処する力、豊かな発想力がある。もしも、何らかの方法で玄間を退けるとしたら。

 唯一の手は。


「『暗幕』か……!」


 もし何らかの方法で玄間を『暗幕』で閉じ込めたり、そうでなくても自分が『暗幕』に逃げ込むことができれば勝機はある。

 時間さえ稼げば、空という助け船がやってくる。そこから、どうなるかはその時にならねばわからない。

 やれることはやる。

 『暗幕』は現象課の管轄である。静馬は『暗幕』の制御系システムにアクセスし、解除時間を引き延ばした。これによって、『暗幕』が一度発動してしまえば、より時間を稼げるはずだ。

 この小細工なら、燈太を助けるべく動く人間の存在は結びつかない。静馬ができる最大限の支援。


 ――燈太なら、『暗幕』に気づく。



「よしっ!」


 静馬からがメール届き、その内容に目を通し空は小さくガッツポーズをした。


 『やれることはやった。貴様もやれ』


 だそうだ。


 ――連絡して正解だった……!


 きっと味方になってくれると思った。昔、白いスーツについて問いただしたことがある。最初は「貴様もパーカーだろうが、たわけ」と一蹴されたが、何かの任務がきっかけで話してくれた。それを覚えていたから、燈太の『処理』には賛同しないだろうという確信があった。

 でもそれだけではない。


 きっと、紅蓮がいないからだ。


 水と油。紅蓮と静馬は正反対だ。でも根っこは似ている。二人とも信念があって、ここにいる。今、紅蓮が揺れているのも信念故だ。静馬が味方してくれるのも信念ゆえだ。

 紅蓮は恐らく課長側につくだろう。だから、静馬を引き込んだ。紅蓮への対策。別に二人が直接争うことはないと思うが、こうしたら良いと直感的に思った。


 ――……いや。


 二人がそろったら、相手として強大だと無意識のうちに思っていたからかもしれない。


「……さて」


 空が今助けを求められる人間には連絡をした。

 生物課幽嶋課長にも助けを求めるべきだとも思ったが、玄間という課長が関わる以上、同じ「課長」はリスキーと判断した。


「あとは、燈太君に賭けるしかない」


 一度で良い。一度だけ玄間を振り切ってくれ。

 そう願った。

 もしそれが出来たなら、絶対に助ける。

 必ずだ。

回想終わりです。次回から、空が燈太を助けた時間軸に戻ります。


p.s. 147話、空とカレンのやり取りを少しだけ推敲しました。

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