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第147話 想定外の乱入者

本当に遅くなってしまって申し訳ありません。


~あらすじ~

タイムリープの末にひらめいた奇策で、玄間を『暗幕』に閉じ込めた燈太。しかし、『黒葬』の最高戦力である玄間という男は、最終防衛装置『暗幕』でさえ閉じ込めることはできず、燈太の前に再び現れるのだった。

 玄間天海。

 黒葬の最強の男は、全てを封じる『暗幕』をも破り、燈太の前へ現れた。


 ――流石に、ここからは巻き返せない……か。


 回帰の選択肢が頭を過る。

 ただ、戻ってどうするのか。少なくとも『暗幕』を再び使うとして、そのあとどうする。また同じ結末ならば。

 諦める訳にはいかない。しかし、『暗幕』までダメとなれば、どうやってこの男を振り切るのか。


「くっ……」


「諦めた方が良い」


 玄間のシルエットがぼやけた。

 殺される。

 直後、燈太の目では捉えきれない「何か」が、真横を駆け抜けた。

 玄間の拳だと思った。死を覚悟し、『時間跳躍(タイムリープ)』に備える。


「――え」


 気づけば、目の前に玄間がいなかった。痛みもない。

 瞬き一つしない間に、開けた場所に出ていた。

 なぜか、既にエントランスに到着している。何が起きたかわからない。



「――間に合ったッ……!」



 その声の主は、自分の真上から。燈太は抱えられていたのだ。

 後方から、凄まじい音が鳴り響き、玄間が後方からその姿を現わす。

 そう、既に燈太は階段を降りていた。


 玄間の拳よりも(はや)く。何よりも迅かった。


 玄間が舌打ちを漏らす。


()……」


 狐崎空が、燈太を抱えていた。

 

「そ、空さんッ!」


 なぜここに。

 そんな疑問が頭を過る。

 誰にも助けを求めることなどできなかった。


「燈太君、大丈夫っスか?!」


 空は、そう燈太に声を掛けるも玄間からは一切目を離さなかった。


「ど、どうして……?」


「どうしてって、そりゃ……」


 玄間の殺気を全く気にする様子なく、空はこう言い放った。


「うちは、正義の味方っすから」


 狐崎空という乱入者により、泥沼を進むようなどん詰まりの状況が、切り開かれたのだ。

 それを燈太は確信した。

 そして、きっと自身の足搔きは無駄になっていなかったのだと、そうも確信していた。



「――『黒葬』が決めたんスもんね……」


 玄間が坂巻燈太を殺害すると言い、オフィスを後にした直後、空はそうぽつりと溢した。

 横をみると紅蓮の顔は、絶望に歪んでいる。

 鑑心は、何を言うではなくいつも通り座っていた。


「はぁ……」


 空はため息を漏らす。

 燈太が危険だということは理解した。確かに時を操る『UE』は危険だろう。


 だが、燈太を殺すのは間違っている。


 燈太は暴走してなどいない。燈太は何も悪くない。危険ではない。

 危険かもしれないという「可能性」だ。

 その可能性を摘み取るためだけに仲間の、一人の命を奪うのはおかしい。

 仮に燈太の能力が更に覚醒して、何か大きなことができるようになったとしたら。その時は全力で守り、燈太がどこかで道を踏み外さないように一緒に戦う。それでいいじゃないか。

 それが綺麗ごとなのはわかっている。でも、それを諦めないからこそ、狐崎空は黒葬(ここ)にいた。対人課に籍を置いた。ずっと戦ってきた。

 空は自分が自分であるために、正義の味方であり続けたいと思った。

 自分の正しいと思うことを、するべくここにいる。

 それを曲げるのならば。


 燈太の殺害をもし、黒葬が強制するならば。


 その黒葬の正義に真っ向から、ぶつかって自分の正義を貫く。結果、何が正しいとされるのかはわからない。将来のことはわからない。だから、ただ今あるべき最善を、正しいと強く信じる選択を取る。そうしなければきっと後悔する。

 それが狐崎空という人間の「芯」だった。


「――空ァ」


 鑑心が口を開いた。


「行く気だろォ」


「……ダメすか?」


 空は、玄間ほど完璧でもなく、鑑心ほど冷静でなく、紅蓮ほど大人になっていない。だから行く。


「ガン爺……」


 空はここで玄間の考えを理解した。玄間対人課長は、あえて鑑心という黒葬に従順な部下をここに残した。それはつまり、空、もしくは紅蓮を止めさせるために。

 空は、鑑心に身体を向ける。


「……おい、紅蓮。おめェは……どうする」


 鑑心は、空から一度目を離し、紅蓮に問うた。


「俺は……っ」


いきなり問いかけられた紅蓮は、何かを言いかけ、言葉を詰まらせた。


「ガン爺……、うちは本気ッスーー」


「――そうかァ、……紅蓮も行くのかァ」


 鑑心の言葉に空は首をかしげる。何を言っている。

 紅蓮は、空から見る限りここに残る様子だ。

 ――もしも、紅蓮が燈太を助ける選択をするとしても。それはきっと今すぐじゃないだろう。

 しかし、そんな茫然自失の紅蓮に対し、鑑心は愛銃『寡黙な殺し屋(レティセンシア)』を抜き、銃口を向けた。


「身体は一つしかねェからよォ……。俺はァ……紅蓮、おめぇを見張らなくちゃなんねェ」


 鑑心の言葉の意味を理解した。

 空に行けと言っているのだ。


「ガン爺っ!」


「勘違いすんなァ。……俺は、燈太を殺す気だ」


 紅蓮を見つめながら、そう冷たく言い放った。


「それが仕事だからよォ……」


 空の方に顔すら向けない。なのに、ひしひしと伝わるその凄み。


「次はねぇよ。今回が『特別』だ……」


 能力があるから、絶対に負けないと思う。だがそれをひっくり返されてしまうような圧力が鑑心にはあった。

 今回、何を思って鑑心が空を見逃すのかはわからない。だが、これはチャンスだ。行くしかない。と、オフィスを出ようとしたとき。


「――空ァ」


「? 何すか?」


「紅蓮ほどとは言わねぇがよ。……ちったあ、考えろよォ。おめぇじゃ、天海にゃ及ばん」


 チャンスだ。

 そう、チャンスだからこそ、焦ってはならない。

 それを理解した。空は自分がバカだとわかっている。それでも頭を回せ。

 

「サンキューッス!」


「おう」


 空はオフィスを後にした。




 オフィスに残された鑑心と紅蓮。

 鑑心は、紅蓮を見た。

 紅蓮は、燈太を殺すという選択をするだろう。きっと彼にある呪縛にも似た正義感がそうさせるだろう。だが、「迷い」はある。


 ――紅蓮。ホントに燈太を殺すべきだと思ってんならよォ、お前も空と一緒にオフィスを出るべきだろうがァ。


 もし紅蓮まで、オフィスから出れば鑑心はオフィスに留まる意味を失う。紅蓮が今もオフィスにいるということは。


 迷い(それ)にどう立ち向かうか。それは紅蓮が決めることだ。



 空は賭けに出た。


「――カレンちゃん。今からオペレートして欲しいんスけど、良いッスか? ただ、誰にも秘密でお願いしたくて」


『……何よ、いきなり』


 通話に出た、時雨沢は声を抑え気味にそう答えた。


「いや、その、それは……あ、でも信じて欲しいッス! うちは決して悪い事をしようとかじゃないんスよ、えと、でも何をするかってのは、ちょっと言えなくてッスね……」


『……嫌』


 カレンは、呟くように空のお願いをはねのけた。

 ダメ元だ。仕方ない。


「あ、……そうスよね! 変なこと言ってごめんっす、じゃあまた」


『違う……! ……あ、すいません。……あんた、切るんじゃないわよ』


 急に怒鳴られ、耳がキーンとした。謎の謝罪は、本部室のスタッフへ向けてだろうか。カレンのマイクからドアが開く音が聞こえ、恐らく指令本部室から出たのだと伺える。


『ふぅ……』


「あ、カレンちゃん……?」


『良い? あんたは勘違いしてる。そう(・・)じゃなくて、なんかよくわかんないけどね、そうやって隠されるのが嫌なのよ! 私は』


「あ……、いや」


『 あのね、あんたが私を騙して悪い事しようとしてるとか、そんなことはもう……1ミリも1マイクロも1ナノも1ピコも疑ってないの! でも、そうやって隠すのが気に食わないの! 言ったでしょ?! 抱え込むなって! 忘れたの?! 私は! 空に! 言った!』


 気圧される。

 そして、自分はバカだったと思い知った。

 カレンはやっぱり頭が良い。


「……ごめんッス。正直に、話すッス」


「それで良いの。……全く。頼りなさいよ」


 空には、協力者が必要だった。

 急いで燈太を助けに行きたい。だが、それは焦りだ。

 まず、燈太の居場所を空は知らない。探し回れば見つかるだろう。だが、空にはそれができない理由がある。

 玄間天海に絶対見つかってはならないからだ。

 玄間に対し、空が取れるのは「逃走」の一手のみ。

 恐らく鑑心が空と紅蓮を抑えていると玄間は考えている。だがもしも、空をオフィスの外で見つけたなら、玄間は空を叩きのめしてから燈太を『処理』しに行くだろう。空は玄間から逃げることができるが、逃げることは燈太からも離れるに等しい。かといって、交戦するれば勝ち目はない。チャンスは水の泡。

 ゆえに、空が燈太を助けられるタイミングは二つ。

 

 1,玄間より先に燈太の元へ行き、燈太を連れて逃げる。

 2,玄間と燈太が接触した直後横やりを入れて燈太を連れて逃げること。

 

前者は多分無理だ。ここからこの本社のどこかにいる燈太を見つけて、玄間に気づかれぬよう接近するのは不可能。となると後者。

 

 ――後者も、はっきり言ってかなり無茶なんスけどね……。


 玄間と燈太が接触して、燈太がその後生き残っている前提の話。なかなかに難題だ。しかし、そこに賭けるしかない。

 燈太はタイムリープができるらしい。その無茶を燈太がやり通すことを信じて最善を尽くす。もし、焦って玄間に空が見つかれば、燈太がどんなに頑張っても可能性は生まれない。


 ――最速で、横やりを入れるためには指令部の助けがいる!


 その先にいたのが時雨沢カレンだった。




『――私は力になれないわ』


「そんな!」


 空はカレンに――早口で――おおよその話を伝えた。それをカレンはバッサリ切り捨てた。


『あ、別に味方しないって訳じゃないの。でもね、今もし坂巻の居場所を探せば逆にこっちの動きがバレることになる。対人課長の暗殺任務なんか私は聞いてないから、きっと事情を知ってるのは部長くらいじゃないかしら……。そうなると更に無理。部長に隠し事なんかできっこない。私は動かない方が良い。……もちろん指令部にいて、もし何かわかったら伝えるわ』


「そうッスか……」


 焦るわけにはいかない。

 燈太の居場所を特定する以外の方向性で動いた方が良さそうだ。


『だからね、私が本気で動くのはアンタが坂巻を助けてからよ。その時は、全力でオペレートしてあげる』


 カレンは力を貸してくれると明言した。嬉しかった。

 しかし、空は、心強さを覚えると共に。


「……カレンちゃん」


『何? 怪しまれるから、戻りたいんだけど』


「……正直うちは、反対されると思ってたんスよ。だって、一応黒葬に対して歯向かう形じゃないッスか。その、こういっちゃなんスけど。なんで……手を貸してくれるんスか? 理由を話せといったものの、ここまでの理由だと断ってもおかしくないっていうか……」


 ――というか、だから最初は黙ってたんスけど。


 カレンは知らずに手を貸したという形にすれば、責任は問われないとおもったのだ。もちろん、自分勝手なことに巻き込むことは本当に申し訳ないが。


『……私はわかんないわよ。正直……』


 カレンは、少しの間を置いて話始めた。


『だって、対人課長さんも、部長も動いてるんでしょ? 多分、あの人達が言うなら客観的に、経験則から言ってもそっちが正しいんだと思う。でも、昨日まで一緒に仕事をしていた人を、平和を守るため弱いのに危険な場所に身を置いて戦った人を、なんの躊躇もなく殺せってのは……おかしいと思う。その、もやもやする。……だから私にはわからない』


 カレンの言葉は、いつになく不明瞭だった。


『……私はアンタほど強くないし、その……素直じゃないし、本当に大切な決断をパッと下せない。だから私には、まだ何が正しいのかなんてわからない……』


「……」


『でもね。アンタは信じられるの。……その、無責任に聞こえるかもしれないけど、それでも私はアンタが正しいって言うことは信じられる。……自分で決断できないから人任せにしてるみたいに思うかもしれないけど、そうじゃなくて心から、その……信頼してるの』


 カレンの言葉に空の決意は一層強まった。


「……おかしい事じゃないッス。……うん、大丈夫ッスよカレンちゃん」


『え?』


「うちは自分を曲げないッス。ちゃんとカレンちゃんが信じられるような『信念』を持って戦う。絶対にカレンちゃんに恥も欠かせないし、後悔もさせない」


 カレンはいつも空の背中を押してくれる。空を強くしてくれる。

 だから、空はちゃんとカレンが背中を押せるように胸を張って生きなければならない。


「やっぱりカレンちゃんを選んで良かった」


 端から、話せば良かった。

 余計な気遣いだったのだ。

 

 ――うちも信頼しなきゃいけなかった。


『あー、もう、戻るわねっ! 私は戻る! 怪しまれるから! 怪しまれたらダメだから!』


 カレンは慌てた様子で通信を切った。

 なんだか懐かしい感じがした。

また、更新できるように頑張ります。

これからもお付き合い頂けると幸いです。

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