第146話 桁外れの「暴力」
少し、投稿遅れました。申し訳ないです。
「晴音」
『既にやっている』
玄間の声に、獅子沢は即答した。
――……かつて『共鳴』の時に出ていた『UE』を利用したのか。
多量『UE』を任意に放出できるという情報はレポートに書かれていなかった。敢えて伏せた? いや、流石にそこまで考えが及んでいるとは考えづらい。そんな気が回るなら、「セーブ時間正午」なんて情報は書かないだろう。
もし、あと1日あれば、『暗幕』へのデータ登録まで済んでいた。燈太の能力は『時間跳躍』であるため、基本的に彼の『UE』は無視して良いと。
しかし、玄間には時間がない。今を逃せば、燈太の『処理』に関する判断は上層部へ移ってしまうからだ。そこを突かれた。
――認めよう、燈太君。君は難敵だ。
「あと、どれほどかかる……?」
玄間は光の壁を睨みつけながら、マイクに向かって問う。
『……最速でも1分だ』
『暗幕』は重要な防衛装置。システムをハッキングされたときでも簡単に解除できない仕組みなのだ。通常はアダになるはずなどない仕組みだが、今回ばかりは玄間達を悩ませる。
『……いや、待て。なんだこれは』
「? どうした」
『解除時間の延長されている……。数分前に誰かが、『暗幕』の自然解除時間の設定を変更したようだ……。坂巻がやったのか?』
「バカな、そんなことできる訳がない」
燈太にそんな芸当はできない。
電話を掛けた様子もない。メールに関しても、怪しい動きは見逃さなかった。もし見かけたなら、駆け付けるなり、その瞬間こちらから電話を掛けるなり動いている。
「晴音、結局何分かかる」
『……5分に延びる』
――誰かが手を貸しているのか……?
「わかった」
玄間はそう言うと息をついた。
◆
燈太は廊下を走る。
――ここからどうする……?!
指令部はきっとマズイ。こういう時は、対人課へ逃げ込みたいところだが、玄間がその対人課の長である。現象課に行っても何か解決するとは思えない。
生物課は、そもそもオフィスが存在しない――山奥の廃遊園地に存在しているからだ。
――いったん、外へ逃げるべきだ……。
そこから、手当たり次第に助けを呼ぶ。人選をミスってしまった場合はリープでやり直す。味方がいるという希望的観測は混じっているが、味方が一人もいないなら『黒葬』から逃げ切るのはあまりに無謀だ。
地上に行く出口は一つ。エレベーターへ向かう。
――バチッ。
突然、何かが放電するような、小さなカミナリが落ちるような、激しい音が廊下に響いた。発生源は後方。
――嘘だろ。
バチッ、バチッ。
「ま、まさか」
音が響く。
燈太の頭には、考え得る最悪のパターンが浮かんでいた。『暗幕』を使った玄間を封じる作戦。
この作戦が水泡に帰す最悪のケース。
「『暗幕』を破る気なのか……っ?!」
そう、玄間が『暗幕』を破ることができるなら、この秘策は通らない。
流石に玄間をもってしても『暗幕』は破れないと高を括った。……いや、高をくくってなどいない。春奈を媒介にした大爆発ですら防ぎ切ったバリアなのだ。
普通に考えて破れるわけがない。普通なら。
――あの人には、『暗幕』すら通じないのか……?!
『暗幕』という黒葬の誇る最強の防御装置。
――それですら、玄間天海という男を止められないのか……?!
青ざめた。しかし、足は止めれない。
激しい音を背に走り続ける。階段を駆け下りる。
あと、2フロア。
汗が噴き出る。肺が苦しい。
追いつかれたら後がない。同じ手は通じない。もう半径1mという燈太のテリトリーに玄間は入ってこないだろう。何らかの投擲物により燈太は殺害される。『暗幕』で玄間を封じることはできない。
全速力で走る。
隠れると言う選択肢もここで取るのは難しい。指令部とある程度連携が取れているなら監視カメラのデータ――
破壊音が鳴り響いた。
あと1フロア。階段を20段弱で、出口のある階へ到達する。
だが、
「――詰みなんだよ。燈太君」
前方の天井が崩れる。
――強敵……なんてもんじゃないぞ……。
燈太は、もはや笑っていた。
そこには、スーツをボロボロにし、無数の傷を負う玄間が立っていた。